第28話 合流
5時近くになり、明るくなると俺は手に入れてきた銃の点検をすることにした。
俺はG3とM5906を分解して空き家に残っていたクレ556を使って清掃した。
どちらも新品に近かったのでそんなに手間はかからず点検は終わり、シグザウエルP232と沙織のワルサーPPK/Sも分解して清掃すると、最後にシュマイザーを点検した。
シュマイザーは1945年以前に作られたもので製造から70年以上が経過しているので使用に耐える状態ではないかもしれないと思った。
しかし、分解してみるとあまり使われていなかったらしくライフリングは摩耗しておらず、機関部も大丈夫だった。シュマイザーは堅牢な銃で1945年以降も世界中で使われていた。さすがドイツ製だな。
俺はシュマイザーを念入りに点検するともう朝の6時になっていた。ラジオのニュースでは俺と逢坂たちのことが相変わらず取り上げられていて俺と沙織に倒されたフィットの奴らの名前はそれぞれ、佐竹俊介、森本友希、古川正夫、増木紀夫、櫛江田千賀子で全員、フリーターでアルバイトをしながらその日暮らしをしていたらしい。
ほかにライフルを持った男の死体が見つかり、名前は吉川裕太と分かり、逢坂と入れ替わりに出ていったあの男だと分かった。俺に発砲してきたのは裕太だったんだ。どうやら、俺の反撃でやられたらしい。
浩香とアドルフが勝吾たちと戦ったニュースも報じられ、勝吾たちの死体が見つかったのは浩香とアドルフが浩香の家に着いた後だったらしく昆虫採集に来ていたらしい高校生が偶然見つけ、通報したらしかった。事件につながる証拠は全くと言っていいほどなく、捜査は暗礁に乗り上げそうだと報じられていた。
俺がニュースを聞いていた時、沙織が起きてきた。
時刻は7時だったので食事にすることにした。
空き家は2年前に手放されたものらしくまだ食べられるもの、缶詰が何缶もあり、そのうち、パイナップルとモモの缶詰とパンの缶詰を取り出していただくことにした。
沙織はモモの缶詰をうまそうに食べた。
俺もパイナップルの缶詰のシロップをすすった。浩香もそうだったが、俺も甘いものはほとんど口にしていなかったので強い甘みが舌に広がった。
俺と沙織はパンのかんづめに入っていたパンも食べたが、カンパンと違って柔らかく、非常食としてはカンパンよりずっといい気がした。
食事の後、俺たちは空き家にあったタバコ、マイルドセブンとハイライトだった。俺はマイルドセブン、沙織はハイライトを選んだ。沙織がいつも吸っているのはハイライトらしい。を吸いながら話をした。
沙織の話だと桜に雇われたのは去年のことで沙織は両親が離婚して母親に引き取られたが、母親がどこかの男と失踪し、親戚に引き取られそこでは粗末な扱いを受けて中学卒業と同時に逃げ出したらしく、アルバイトをしていたが、非常に安月給だったので途方に暮れていると桜が声をかけてきて桜の部下として働くことになったらしい。
桜は最初は普通だったが、すぐに沙織に偉そうな態度で接してくるようになり、何とか生活できる程度の安月給で粗末に扱うようになったらしかった。
沙織は桜の命令ですでに4人を殺したらしく人数で言えば桜の部下の中で一番多い人数らしかった。
沙織は安月給でも金が貯まるまでの我慢と思って働いてきたが、仕事は汚れ仕事ばかりでいつもイヤになっていたし、金もたまらないので逃げ出したかった。しかし、すでに沙織は四人もの人間を殺していてそのことを桜に知られているので逃げ出すことはできずどうすることもできないらしかった。ただ、何とか生活はできるのと銃が撃てる、沙織も女には珍しく銃好きで桜とほかの部下たちが全く練習していないなか、よく、射撃練習をして腕を磨いていたらしかった。ことで何とか桜の部下として働いていた。桜が自分を部下として使い続けているのは部下の中で銃の腕が一番高いからかもしれないと話してくれた。由歩には劣るらしいが
俺は沙織の話を聞いて沙織も相当、苦労してきたんだな。と思い同情した。それと同時に桜を倒す作戦が浮かんだので沙織に話すとすぐに賛成した。沙織も完全に桜の敵になったということだ。
俺たちは昼に残っていた缶詰、ビーフシチューの缶詰2つとコンビーフ、それとクジラの大和煮の缶詰で食事し、電車に乗って戻ることにした。
俺はビーフシチューを押し入れにあったアウトドア用のコンロを使って暖め、沙織にはコンビーフ、俺はクジラの缶詰を開け、いただくことにした。ちなみに浩香が話してくれたが、日本海海戦で有名な三大提督の1人、日本の東郷平八郎(ちなみに浩香は東郷平八郎こそ、世界最強の軍人だと熱心に語っていた。その最大の理由は日本が持っていた駆逐艦「雪風」と同様、信じられないくらいの幸運に恵まれていたからで誰も彼には勝てないだろうと浩香は思っていた。それと余談だが、日本の政治家で今までで最強だったのは小泉純一郎総理に違いないとも言っていた。理由は東郷平八郎と同じ理由だ。まあ、どうしてかは調べてみてくれ)はイギリスでビーフシチューを食べてすごくうまいと思い、海軍の食事にも加えようとしたらしく、ビーフシチューは結局作れなかったが、その代わりにある料理が誕生したらしくそれが肉じゃがだったらしい。肉じゃがは海軍の食事にも献立として取り入れられた。それが一般にも広まったんだ。彼がいなかったら肉じゃがは誕生していなかったわけだな。
まあ、ともかく、ビーフシチューが暖まると俺たちはいただくことにした。
俺はシチューを三分の一ほど食べた後、クジラの缶詰を食べ始めた。
クジラはいまとなってはほとんど見かけなくなったが、大藪さんが初期のころ書いていた作品に出てきたように昔は普通に食べられていた食材で俺はどんな味なのか気になっていた。
俺がそのことを話すと浩香は「私が食べさせてあげる」と言ってクジラの肉を通信販売で手に入れて色々な料理を作ってくれた。
浩香が作ってくれたのはステーキと昔は給食にも出た竜田あげ、カツ、はりはり鍋に刺身で刺身は浩香は生の肉や魚が苦手なので食べられないが、俺のために用意してくれたらしかった。
俺は浩香にお礼を言い、ステーキから食べ始めたが、噛めば噛むほどうまみが出てきて素晴らしい味わいだった。俺はクジラの竜田揚げを食べた昔の小学生が臭くて食えないと言っていたのを知って、うまくないかもしれないと思ったんだが、そんなことはなく非常にうまかった。
ちなみに刺身は絶品だった。赤身とトロや和牛のような霜降りの肉があったんだが、トロや和牛のような肉が非常に美味だった。浩香の話だとこれは尾の身という部位でクジラの中でもナガスクジラ科のクジラにしか存在しない部位でクジラの肉の中では一番うまい部分らしい。ちなみにクジラの中で一番うまいのはナガスクジラというシロナガスクジラの次に大型のクジラらしいが、ナガスクジラの肉は手に入れるのが困難なのでイワシクジラという3番目に大きなクジラの肉を使ったらしい
俺は料理を食べ終えた後、何でクジラが食べられなくなったのか聞いた。俺は獲り過ぎでクジラが激減したからだと思ったのだが、浩香はそうではないと答えてくれた。
確かに1960年代までクジラの大量捕獲が続き、クジラの個体数は激減したのだが、それでもすべてのクジラが激減したというわけではなく、個体数が豊富なクジラもいてクジラを利用することは問題なくできたらしかった。(ちなみに数が豊富だったのはミンククジラという小型のクジラとハーマン・メルビルの「白鯨」で有名なマッコウクジラでほかにニタリクジラというイワシクジラに似たクジラも数は十分、ナガスクジラも大西洋では減っていなかったらしい。捕鯨を継続できるだけのクジラは残っていたんだ。)
しかし、1970年代からクジラを捕まえる漁業、すなわち捕鯨に反対する運動が激しくなり、国際捕鯨委員会通称IWCが反捕鯨国で占められるようになり、最終的には反捕鯨国の多数派工作により、捕鯨の一時停止、モラトリアムが可決され、日本はノルウェー、アイスランド、ペルー、そして意外なことにソ連とともに異議申し立てを行って抵抗したが、最後はアメリカの外圧により、異議申し立てを撤回して捕鯨を停止(調査捕鯨という名目で完全には停止しなかったが)し、今のようにクジラが全然食べられない状況が現出したらしかった。
浩香は反捕鯨という思想を一種のカルトだと断罪し、反捕鯨を叫ぶやつらを毛嫌いしていた。
やつらは口では偉そうなことを言っているが、やつらの言うことにはウソが多く、それでいてIWCの会議の際に日本の代表団に赤い水をかけたり、ノルウェーの捕鯨船の破壊や南極海での日本の調査船への体当たり(この時には重油が漏れて海に流れ出た)、さらにはカリブ海の小国に脅しをかけるなど、まるでマフィアかテロリストのような暴力的な振る舞いをするやつまでいて、浩香にはこいつらがまともな思考回路の持ち主だとは少しも思えなかった。これをきっかけに環境保護というものに嫌悪感を抱くようになったらしい
俺も浩香から聞いて自分でも調べたが、反捕鯨を叫ぶやつらは俺や浩香を苦しめていたやつらと同様のイヤらしさがあり、言っていることもウソが多く俺も大嫌いになった。
俺も環境保護を叫ぶやつらが嫌いだったが、反捕鯨の奴らの醜悪さはその中でも抜きんでていて殺意が沸くほどだった。それと、モラトリアムがIWCで決議されるまでのアメリカをはじめとする反捕鯨国の行動を見るとかつての連合国の行動と重なって見えて俺はますます許せなくなった。それと思ったんだが、反捕鯨の奴らと銃規制の奴らを見比べてみて一見すると全く別の事柄を扱っているようだが、言動に共通点があるように見え、俺にはこの2つの勢力の思考回路が極めて酷似しているように思えたんだ。ちなみに浩香もそうで銃規制を叫ぶやつらも反捕鯨を叫ぶやつらと同様、一種のカルトに犯されていると話してくれた。まあ、俺たちの考えに賛同する人間はいないかもしれないがな
話はそれたが、俺はクジラの缶詰を次々と口に入れていった。
沙織もクジラの肉がどんな味か気になったようで「ひと口ください」と言ってきた。
「ああ」
俺は沙織の口にひと口入れてやった。沙織は「うん、普通においしいですね。」と
うなづいていた。
食事の後、沙織はクローゼットの中にあった薄い青色の下着と同じく薄い青色のシンプルなデザインの服を取り出してきてそれに着替えた。沙織は俺の前で堂々と着替えたので「おい、男の目の前でよせよ」
と俺は言ったが、沙織は全く気にしないようだった。
まあ、ともかく、俺はそのあと、空き家の中を片付け、証拠が残らないようにし、空き家に残っていたスポーツバックと旅行カバンに分解したヘッケラー&コッホG3やシュマイザー、マグロ刀を隠して入れ、夕方頃、誰もいないことを確認しながら空き家を出た。もちろん、カギをかけ、誰かが入ったことがわからないようにした。
俺たちは羽生田駅で電車に乗り、新津まで向かった。俺と沙織はカップルを装って電車に乗った。
田上町を通る時には国道で検問が行われているのが見え、警官が忙しく動き回って情報収集をしているのが見えた。俺がラジオで聞いた限りだとまだ、何も見つかっておらず、俺が乗り捨てたアリオンのことも報じられていなかった。
俺は誰にも気づかれないように外を見て様子をうかがいながら新津駅に向かった。
新津に降りると俺たちは七時のバスで南区に向かった。
俺は浩香の家には直接行かず、まず、南区の街中に向かい、リオンドールの前で降り、そこから浩香に電話をかけた。
俺が電話すると浩香がすぐに出た。
「絹子、俺だ。」
浩香が答える前に俺は浩香がいつも使っている偽名を使って話しかけた。
浩香はすぐに察したらしくこう答えた。
「ああ、輝也、どこに行ってたのよ?」
浩香も俺の偽名を交えて聞いた。
「ああ、ちょっとな。今、南区のリオンドールの前にいるんだが、迎えに来てくれないか?」
「リオンドールね。わかったわ、あ、あなたの友達と一緒だから彼と行くわね。」
「うん?友達」
「上越市の人、外人のこの前話してた。偶然、会ったのよ」
浩香の話から、近くにアドルフがいると気づいた俺は一瞬、驚いたが、すぐにこう答えた。
「おお、そうか、カールがいるのか、分かった。すぐに来てくれよ」
「ええ、いいわ、待っててね。」
浩香も察したらしくすぐに答えた。
「中村さん、今のもしかして彼女ですか?」
俺が電話を切ると沙織が聞いてきた。
「ああ、俺の彼女だ。俺の友達と偶然、会ったらしい。彼と来る。彼女は俺の最高のパートナーだ。」
俺は答えた。
「わお、やっぱり、彼女だったんですね。中村さん、すごくカッコいいですからね。」
沙織は笑顔で答えた。
浩香とアドルフが来る間、俺たちはリオンドールに入って買い物をしながら待つことにした。
浩香の家からリオンドールまでは10分ちょっとで着くが、俺の近くに誰かがいると浩香が気づいて万一に備えて場所の特定をさせないように40分以上たってから2人は来た。
浩香とアドルフが来ると俺たちは駐車場に行き、アドルフのBMWに乗り込んだ。
「お疲れさま、迎えにきたわ」
浩香は助手席から笑顔で言った。
「ああ、ありがとう。カールもな」
俺はアドルフに言った。
「ああ、絹子には偶然会った。とりあえず、どこかで話そう」
アドルフも俺に合わせていった。
「ああ」
アドルフはBMWを発進させ、中央区に向かった。俺が借りておいた借家に向かうことにした。
「あ、輝也、その人は誰なの?」
浩香は沙織を見て聞いた。
「ああ、彼女は鷹森沙織だ。桜の部下だった。俺に協力するって言ってくれた。これからは俺たちの仲間というわけだ。」
「はい、私、鷹森沙織です。よろしくお願いしますね。この人が中村さんの彼女ですか、すごくかわいいですね。」
沙織は浩香を見ながら言った。
「ありがとう、ところで輝也、ニュースで知ってると思うけど、勝吾を締め上げて桜の居場所をつかんだわ、あいつは阿賀野市にいるわ」
「ああ、そうだ。浩香って女の子の命を狙ってるらしい桜って女と彼女を苦しめていた厚って男は阿賀野市に隠れてる。俺も探すのを手伝う」
2人は言った。
「そうか、絹子たちも情報を仕入れたのか、だが、安心しろ、正確な位置は俺が部下から聞き出した。桜たちは五頭山の中にいる。」
俺は答えた。
「五頭山ね。そんなところにいたなんて意外だわ、さっそくほとぼりが冷めたら作戦開始よ」
浩香は即答した。
「ああ、そうだな。ところで俺は桜を倒すための作戦を考えた。聞いてくれ」
「うん、どういう作戦なの?」
浩香が目を輝かせながら聞いた。
「ああ、それはだな。」
俺は浩香たちに作戦を話した。
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