第27話 おかしな正義

「うん?」

「え?どうしたんです?」

「おい、隠れろ」

「え!」

 俺は沙織を連れて部屋の中のクローゼットの陰に隠れた。その時、逢坂の携帯が鳴り、しばらく鳴り響いた後、外で

「撃てええ」

 という叫び声が聞こえ、フルオートの射撃を開始した。

「きゃああ」

「クソ、やはりな」

 俺たちはクローゼットに隠れながら攻撃がやむのを待った。桜が部下を差し向けてきたんだ。逢坂の携帯を鳴らしてみて出なかったのですぐに攻撃を開始したらしい。

 やつらが使っているのはアサルトライフルらしかった。部屋の中では跳弾が飛び交い、逢坂たちの死体や家具に次々と命中した。

「桜の奴、まだ、私がいるのよ。私を切り捨てたわね。」

 沙織は桜への怒りをあらわにして言った。

「ああ、そうだ。桜にとってお前は用なしだってことだ。」

「クソ、桜に復讐してやるわ、あの、私の銃、返していただけません?私はもう、桜の敵ですし」

「そうだな」

 俺は考えたが、沙織の表情を見て桜に本当に憎しみを抱いているのが分かったので沙織にワルサーPPK/Sを返すことにした。

「ほら、返してやる」

「ありがとうございます。」

 沙織は嬉しそうにワルサーPPK/Sを受け取った。

 桜の部下による銃撃は長くは続かず2分ほどで終わった。

 俺はシグザウエルP232で電灯を撃ち抜いていたので部屋の中は真っ暗になっていたが、俺は暗闇でも視界が聞くので部屋の中がどうなっているかはよく分かった。

 俺と沙織は息を殺していたが、少しすると玄関から誰かが入ってくるのが分かった。

「来たな。おい、隣の部屋に行くぞ」

「は、はい」

 俺たちは隣の部屋に移り、俺は上着を沙織に渡した。沙織はパンツ一つの丸裸だったのですぐに上着を羽織った。

 隣の部屋では桜の部下たちが逢坂たちの死体を見て驚愕していた。

 俺たちはやつらが逢坂たちの死体に気を取られているうちにさらに隣の部屋に移り、その部屋の窓から外に出た。

 屋敷の中では桜の部下たちが俺を探しまわっているらしかった。俺と沙織は林の中を逃げ、玄関の方に回るとそこには桜の部下たちが5人ほどいた。

「おい、早稲田、鴨川か中村は見つかったか」

 リーダー格の生徒会長風の男が携帯で中に入った仲間に連絡を取っていた。

「何?窓が開いてる。ということはもう逃げ出した後か」

 リーダー格の男は仲間からの報告で俺が逃げ出した後かと思ったが、仲間のうち、短髪の比較的見た目はいい男がささやいた。

「寺田さん、そうとは限りませんよ。鴨川も中村も頭がキレるみたいですし、もしかすると偽装でまだ、中にいて俺たちが油断した瞬間を狙ってるのかもしれませんよ」

「そうですよ。乾さんたちもやったと思ってたら鴨川から不意を突かれてやられたわけじゃないですか、中で花田さんたちもやられてたみたいですし、油断はできませんよ」

 パグのような顔つきの女が続いた。

「ええ、ここは屋敷ごと燃やしちまうのがいいんじゃないですか?どうせ、ここはもう使えません。やりましょう」

「ええ、そうです。火炎瓶攻撃で行きましょう。ご決断を」

 もう1人の芸人風の男と事務員風の女が言った。

「よし、やろう、早稲田たち、それと吉田戻れ、モトロフカクテル作戦発動だ。鴨川か中村か分らんが、やつを焼き殺すぞ」

 リーダー格の男、名前は寺田が叫んだ。

「よし、泉、俊子、火炎瓶を持ってこい。派手にやるぞ」

「了解」

「はい」

 寺田の指示で見た目が比較的いい男、名前は泉とパグのような女、名前は俊子が近くに停めてあったホンダ・ステップワゴンに向かった。

 泉たちがステップワゴンに向かうと中から女2人と男3人の5人組と裏から背が低い眼鏡をかけた男が出てきた。先頭の顔が長めな女が早稲田で裏から出てきた男が吉田らしい。

 吉田は右手に中国製のアサルトライフル81式を手にしていた。やはり、裏口に待ち伏せていたやつがいたんだ。

 早稲田たちが戻り、泉たちが火炎瓶を持ってくると寺田は

「よし、投げ込め、アタック」

 と叫んで火炎瓶を投げた。

「わかりました。」

 早稲田たちも火炎瓶を投げる。

 火炎瓶は屋敷に投げ込まれ、次々に破裂し、屋敷は炎に包まれた。俺が沙織を捕まえた時に屋敷の近くで放り投げておいた沙織の服やタバコなども火に包まれる。

「ハハハ、見たか」

 寺田は大笑いした。

 寺田たちは勝利を確信し、完全に油断しきっていた。

 しかし、俺は弓のケースに入れてきたヘッケラー&コッホG3を取り出し、寺田たちに銃口を向けていた。

「それはどうかな」

 俺は心の中で笑いながら寺田たちにG3をフルオートで発砲した。64式をフルオートで撃つ練習を何度もしたから問題なくフルオートで撃っても命中させることができた。

「ぐわああ」

 寺田たちは悲鳴を上げながら倒れていった。

 俺は弾倉を撃ち尽くすとすぐに次の弾倉を付け替えて撃ちまくり、短時間で寺田たちを戦闘不能にした。

 やつらのうち、5人が死に5人は重傷を負ってうめいていたが、俺は寺田を除いて弾を撃ち込み、やつらを全滅させた。

 寺田は右足とわき腹を撃たれ、のたうち回っていた。

 俺は寺田に素早く近づいた。

 俺が近づくと寺田は恐怖に顔を引きつらせて言った。

「ひ、ひい、あ、あんたが鴨川か、た、頼む、撃たないでくれ」

 寺田は喚いた。

「鴨川、いや、俺は違う、俺は中村だ。逢坂たちを始末したのは俺だ。さっき、お前らを撃ったのもな。お前らもすぐに後を追わせてやる。」

 俺はS&WM5906を発砲しようとした。

「うわああ、や、やめろ、やめてくれ、何でもするから」

 寺田は発狂しそうになりながら喚いた。

「そうか、じゃあ、何でここにきた。アサルトライフルを撃ち込んできたのはどうしてだ?」

「お、俺たちは今日、桜ちゃんに言われて五泉で仕事をしてきた帰りで逢坂からパーティーをやってるから来いよって言われて寄ったんだ。俺と早稲田と泉と俊子と吉田だけで行くつもりだったけど、どうせならと思って中尾たちも呼んだんだ。それでここまで来たら鷹森の着てた服が切れて散らばってて何かあると思って、逢坂に電話しても全くでなくてそれで鴨川かあんたが攻撃を仕掛けてきたと思ってそれでライフルを撃ち込んだんだ。ちょうど仕事で桜ちゃんに用意してもらってたから」

 寺田は倒れている太った男、名前は中尾を指さしながら何とか話し終えた。

「なるほどな。うん、さっき、五泉で仕事をしてきたとか言ってたが、何だそれは?」

 俺は不審に思って聞いた。

「そ、それは寄付金集めだよ。俺たちの団体の紹介をしたりして寄付を募った。」

 寺田は即答したが、表情が不自然だったのでウソをついているのがすぐに分かった。

「ウソをつくな」

 俺は寺田の足に一発撃ち込んだ。

「ぎゃああ」

寺田は失禁した。

「次はどこに撃ち込んでやろうかな」

 俺は再び引き金を引こうとした。

「や、やめてくれ、そ、そうだ。寄付金なんて可愛いもんじゃない。俺たちがやってたのは殺しだよ。事故に見せかけて殺してきた。五泉市は自然がまだ豊かで生き物の種類も多いから昆虫採集に来る人や魚取りに来る人も多い、それで小川で魚を捕まえてた高校生と昆虫採集に来てた昆虫好きな5人の専門学校生を事故に見せかけて始末した。桜ちゃんはハンターや昆虫マニアや釣りが好きな人や山菜取りの人を毛嫌いしててこういう人たちを世の中から一掃したいって思ってて時々、事故や病気や自殺に見せかけて俺たちが始末してるんだ。新潟だけじゃなくて県外にもよく行ってる。もう30人以上は殺したんじゃないか?作戦は全部桜ちゃんが考えてくれた。桜ちゃんはライフルや拳銃を何丁も持ってるけど、それは桜ちゃんがおかしなやつに狙われた場合に身を守るためだけじゃなくて、こういう人たちを始末するときに使うためもあるんだ。」

 寺田は必死で話した。

「なるほど、桜は裏で何人も殺させてたのか」

 俺は桜が部下に何人も殺させていたと聞いて、やはりと思っていた。浩香から環境保護や動物愛護をやっている人間の中には「環境のため」とか「動物の命を守るため」とか言って暴力行為に及ぶやつが何人もいて実際、殺人事件まで起きたことがあるんだ。桜は浩香を殺そうとしていたし、自分の両親や伯父まで殺していた。だから、ほかにも殺した人間がいるに違いないと思ってたんだ。やはりな。桜がハンターや昆虫マニアの人を殺させていたのは「自然を守りたい」からだろう。しかし、何でそれで自然を守ったことになるんだ。桜といい、暴力行為を働く環境保護や動物愛護論者といい、どうかしてる。浩香の言うとおり、環境保護とか動物愛護を掲げてる人間はろくなものじゃないな

「よし、お前は見逃してやってもいい、うつぶせになれ」

 俺はもちろん、寺田を生かしておくつもりはないが、希望を持たせるような口調で言った。

「あ、ありがとう。助けてくれるんだな。」

 寺田は安堵の表情を浮かべ、うつぶせになった。

 俺は寺田に発砲しようとした。

 だが、その時だった。

 突然、銃声が背後から聞こえた。

「く」

 俺は反射的に身をひるがえし、何とか攻撃をかわした。弾は寺田の頭に当たり、寺田は即死した。

 俺はすぐに林の中に逃げ、銃声がした方にM5906を発砲した。

「ぎゃああ」

 銃声のした方からすさまじい悲鳴が上がった。そして、狼狽と罵声が聞こえてきた。

 俺は林の中を通って停めておいたアリオンの方に向かった。

「待ってください」

 沙織も必死で追ってきた。沙織は完全に俺の部下になったつもりらしく主人についてくる猟犬のようにも見えた。

 俺たちが逃げる間、銃声は聞こえず、車が走り去る音が聞こえた。どうやら、桜の部下たちは俺と戦うのを避けて逃げ出したらしい

 俺たちはアリオンの近くまで来たが、その時、1台のホンダ・フィットが走ってきた。

「来たな」

 俺は桜が応援をよこしたのだとすぐに気づき、すぐにフィットのフロントガラスにM5906から弾丸を撃ち込んだ。

 フロントガラスは割れ、前にいた2人が被弾し、車内で絶叫が上がった。

 フィットはコントロールを失い、近くの木に衝突、撃たれていた前の2人はとっくに息絶えていた。

 後ろには3人が乗っていたが、フィットが衝突すると座席から降りて罵声を上げながら飛び出してきた。

 飛び出してきたのは男2人と女1人で男のうち、1人はサブマシンガン、もう1人はショットガン、女は刀のような長い刃物を持っていた。

 やつらは半分やけくそになっているらしかったが、俺はそのときにはM5906の弾倉を付け替え、やつらに発砲していた。

「うわああ」

 たちまち、サブマシンガンを持った男が頭に被弾し、即死した。その時、沙織もショットガンを持った男にワルサーPPK/Sを発砲、男は心臓に弾を受け、即座に崩れ落ちた。

 沙織はその時、やけに楽しそうな顔をしていた。銃の腕も由歩を除けば桜の部下の中で一番正確だった。

 俺はショットガンを持った男も倒れると刃物を持った女の右腕を撃ち抜き、沙織も左足も撃ち抜いた。

「ぎゃああ」

 女は刃物を落とし、その場に崩れ落ちてのたうち回る。

「アハハ、ざまあみなさい」

 沙織はワルサーPPK/Sに息を吹きかけて得意げに言った。

「ああ、全くだ。待ってろ」

 俺は女に近づいた。

 女は俺を見て発狂しそうになった。

「いやああ、助けてお願いだから」

 女は失禁までしながら命乞いをした。

「それはお前次第だ。お前たちは尾崎桜の部下か?」

 俺は聞いた。

「え、ええ、そうよ。桜ちゃんの部下、寺田さんから電話があって応援に駆け付けたのよ。裕太君たちも来たけど、どこよ?た、確か裕太君はライフルを持ってたはずだけど」

 女はうめいた。

「裕太、あ、吉川のことね。あいつ、戻ってたわけ、だけど、とっくに逃げだしたわよ。中村さんには敵わなかったわ、仲間も何人かいたみたいだけど、尻尾まいて逃げ出したわよ。情けない奴」

 沙織も近づいてきて言った。後で聞いたが、裕太は逢坂と入れ替わりで出かけて行ったあのストーリーテラー風の男だったらしい。

「た、鷹森、あ、あんた、なにやってんのよ。そんな恰好で中村ね。中村と何をしてんのよ。逢坂さんや寺田さんはどうしたのよ」

 女は沙織が来ると驚愕しながら言った。ちなみに沙織はパンツ1枚に俺の上着を羽織った状態だ。そりゃ、驚くな

「ああ、逢坂や寺田は死んだわ、中村さんには全くかなわなかったわよ。私はもう桜の部下じゃないわ、だから、あんたの敵よ。さあ、さっさと死になさい」

 沙織はワルサーPPK/Sを女に向けた。

「クソ、裏切り者、桜ちゃんの言うとおりだわ、あんたはクズよ。絶対、地獄を見るわ、その時になって泣きながら命乞いするあんたが目に浮かぶわ」

 女は開き直って叫んだ。

「ふん、なんとでも言いなさい。命乞いならもうしちゃってるわ、いまさら何よ。」

 沙織は女の顔面に発砲、女は即死した。

「よし、退却だ。パトカーが来る」

「ええ」

 沙織は女が持っていた刃物を拾いながら答えた。

 ちなみに女が持っていたのは白鞘の刀に見えたが、マグロの解体に使う長い包丁、マグロ刀で鞘までついていた。本物の刀とは違うが、無許可で購入できる刀の代わりに使えそうなのでいただくことにした。

 ちなみにショットガンは中国製のノリンコN97でこれは回収する気になれなかったが、サブマシンガンは違った。

「MP40、シュマイザー」

 俺はそれを手に言った。

 このサブマシンガンはドイツが完成させたサブマシンガンで1945年以降も各地で使われていた名銃だ。旧式だが、俺が手に入れた銃はまだ使用に耐えられる状態だった。俺はそれもいただくことにした。

 俺たちはすぐにアリオンに乗り込み、すぐに俺は車を発進させた。俺がその場から離れると、桜の屋敷の方で車が止まる音がした。パトカーが着いたらしい。屋敷の方では警官たちの驚愕の声が聞こえた。しかし、炎上する桜の屋敷と寺田たちの死体に気を取られて俺には気づかなかった。

 俺は「YOU遊ランド」の脇を通って国道に出ると昼間見つけておいた別荘風の家に向かった。俺は空き家から少し離れた空き地にアリオンを停め、指紋や髪の毛などを素早く隠滅すると、ライフルやマグロ刀などを持って空き家に逃げ込んだ。

 その時は夜中の1時を過ぎていたので誰にも見られずに空き家に逃げ込むことができた。

 空き家に入ると、俺は見つけておいた酒、スーパーで売っているブランデーだった。を持ってきてラッパ飲みした。

「私にもください」

 沙織がブランデーを欲しがったので渡してやった。

 沙織はごくごくと飲み、一息つくと床に腰を下ろした。

「ひいい」

 途端に沙織は飛び上がり、臀部を抱えた。俺に叩かれた痛みがまだ残っていたらしい。

「うう、痛い、これじゃ座れません。」

 沙織は臀部を押さえながら恨みがましく言った。

「悪いな。とりあえず、今日は休め、眠れば痛みはある程度取れるはずだ。服はそこのクローゼットの中だ。」

 俺は持っていたペンライトで照らしながらクローゼットを指した。女ものの服もちゃんと入ってる。

「はい、あの、いいですか?」

「うん、なんだ」

「お尻の手当てをお願いします。まだ、痛いんで」

 沙織は上着を脱いで下着を下ろすと臀部を俺に向けた。

「おい、いいのか、俺は男でお前は女だぞ」

「かまいませんよ。中村さん、さあ、お願いします。」

 沙織は臀部を突き出した。

「わかったよ。」

 俺は薬箱の中から湿布と軟膏を取り出すと沙織の腫れあがった臀部に軟膏を塗ってやり、湿布を貼った。

 手当てが済むと沙織はようやく落ち着いたらしくクローゼットにあったパジャマを着るとタオルケットを被ってうつぶせの体勢ですぐに眠ってしまった。

 俺は沙織が眠り込むとタンスにあったラジオをつけて情報を集めることにした。音量は限界まで小さくした。ラジオでもニュースをやっていて俺と逢坂や寺田たちの事件が大々的に報じられていた。そしてもちろん、今までの俺と桜の戦いの事件と関係があるに違いないと推測されていたが、真相とは程遠かった。

 俺は時々、カーテンの隙間から外の様子を伺いながらラジオでニュースを聞いていたが、俺と逢坂たちの事件とは別に西蒲区で射殺された5人の男女が見つかったというニュースが流れ、それも今回の事件と関係があるのではと報じられていて、俺は浩香か淳一たちがやったのだとすぐに分かった。しかし、すぐに連絡を取るのはマズイと思い、ひとまず夜明けを待つことにした。

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