第24話 幼馴染
そのとき、浩香が読んでいたのは檜山良昭さんの「大逆転・ドーバー大海戦」という作品で、これは檜山さんが書いていた「大逆転シリーズ」の1作で第2次世界大戦時の旧日本海軍の艦隊が瞬間移動し、その結果、日本はイギリス海軍と戦うことになり、イギリス海軍を倒しながらドイツのイギリス本土上陸作戦、ゼーレーべ作戦を成功させていくストーリーで浩香はアドルフに話したようにドイツがイギリスに侵攻できなかったのはドイツ海軍がイギリスと比較して劣っていたからだといつも思っていて、もし、当時の日本海軍が大西洋に現れてドイツを支援することができていたらといつも思っていて、小説の中で日本海軍が大西洋でイギリス海軍と戦い制海権を奪い取ってドイツがイギリスに上陸し、ついにイギリスを打倒するストーリーは浩香にとって素晴らしい以外の何物でもなかった。
「素晴らしいわ」
浩香は「大逆転・ドーバー大海戦」を食い入るように読んでいたが、その時
「よお、浩香じゃねえか」
という品のない声が聞こえて顔を上げるとそこには軽自動車、ホンダ・Nワゴンに乗った若い男が立っていた。
「勝吾」
浩香はその男を見て言葉を詰まらせた。そう、その男は厚と同じくらい浩香をいじめていた張本勝吾だったんだ。
ちなみに勝吾は中学までは浩香の家の近くに住んでいて保育園のときは浩香に対して好意的に接していてその時は浩香も勝吾に嫌悪感や怒りや憎しみは全くなく、むしろ、勝吾に好印象を抱いていた。
しかし、保育園を卒業するあたりから勝吾は浩香を小バカにして偉そうな態度で接してくるようになり、小学生になると厚と違って毎日ではなかったが、浩香を笑いものにしようとしたり、クラスメートたちと浩香を仲間外れにしたり、くだらないことでチンピラみたいな口調で浩香につかみかかって脅しをかけてきたり、さらには浩香を取り押さえてクラスメートたちと身体をイヤらしく触りまくったりと低レベルな嫌がらせを何度もやるようになり、浩香は最初は「ちょっと、やめてよ」と思うくらいだったが、段々、勝吾に怒りと憎しみを抱くようになり、中学に入学するときには厚と同じくらい憎悪を抱く存在になっていた。
だから、浩香はその時のことを思い出して怒りと憎しみのあまり、言葉が出なくなったんだ。しかし、勝吾はもちろん、そうとは考えておらず、なれなれしくこう続けた。
「おい、どうしたんだ。久しぶりに会えたんだぜ、お前も少しは話せよ。ていうより、こんなところで何してたんだよ?」
浩香は勝吾と話す気になれなかったが、何とか平静をよそって話し出した。
「あ、ああ、ごめんなさい。あなたと久々に会えたから驚いたの、私はクラスメートと遊びに行って、これから帰るところよ。バスを待ってたの」
「ふーん、お、そうだ。俺が送って行ってやる。乗れよ。」
勝吾は得意げに乗ってきたNワゴンを指さした。Nワゴンには誰にも乗っておらず、勝吾が運転してきたのが浩香にはすぐに分かった。しかし、勝吾は5月生まれなのでまだ17歳、運転免許はまだ取れないはず、なのに車を運転してきたということは無免許運転だということだ。浩香はそれに気づいてこう答えた。
「車、この車、あなたのなの?ちょっと、あんた、まだ17歳でしょ、免許は18歳からよ。無免許で運転してきたわけ?万一捕まったら、私まで巻き添えを食うわ、そんなのごめんよ。私はバスで帰るわ」
浩香はすぐに断ったが、勝吾は得意げにこう答えた。
「おいおい、それは違うぞ、確かに普通車の免許は18からだけど、軽の免許は16からとれるんだ。知らないのか?だから、俺は無免許じゃないぜ、安心しろ」
「そうなの」
浩香は初めて知ったような表情で答えたが、勝吾の言っていることはウソだと最初から見抜いていた。
実は勝吾が言っていた軽自動車免許というのは確かに存在していて、取得可能な最少年齢は16歳だった。だから、この免許があれば軽自動車の運転は16歳で可能だったんだ。
しかし、この免許は1968年で廃止されていて今は存在しない。
浩香は大藪さんの作品を読んでいてこの免許の存在を知り、すでに知っていた。勝吾がいつ、軽自動車免許のことを知ったのかわからないが、存在しない免許を取得できるはずはない。だから、勝吾がウソをついているのがすぐに分かったんだ。だから、浩香はこう続けた。
「そうだったの、軽自動車が16歳で乗れるなんて初めて知ったわ、だけど、いいわ、バスで帰るのもいいし、それより、今はどこに住んでるのよ。遊びに行くわ、教えてよ」
浩香は断りながら勝吾が今、住んでいる場所をさりげなく聞いた。勝吾が免許があるといいつつ実は無免許なのはわかりきっていたから、万一、勝吾が交通違反で捕まったら面倒なことになると思ったのと、あとで勝吾の家を襲撃して今までの復讐をしてやろうと浩香は思っていたんだ。しかし、勝吾はこう言いだした。
「おい、何遠慮してんだ。ただで乗せてやるんだから乗れよ」
勝吾は浩香の手をつかんで強引に助手席に押し込んだ。
「きゃあ、やめてよ」
浩香は抵抗したが、勝吾の方が力があるので助手席に押し込まれてしまった。
「ハハ、行くぜ」
勝吾はすぐに運転席に乗り込むとすぐにNワゴンを発進させた。
「たく、何すんのよ」
浩香は心の中で罵りながら後で勝吾をなぶり殺しにしてやると改めて誓った。勝吾は自分勝手なことをやってはいつも浩香を苦しめていた。厚やほかのクラスメートたちもそうだったが、勝吾は特に自分が間違っているという感覚が皆無でむしろ、浩香のために親切にしてやっているといった考えを持っていて、浩香は勝吾の考えにいつも怒りを抱いていた。それに勝吾が厚と組んで自分にケガをさせていたことも分かったのでますます許せなくなっていたんだ。だから、勝吾にいままでの復讐をしてやると誓っていたんだ。
まあ、ともかく、浩香と勝吾は8号線を通って南区の方に向かった。しかし、南区に入って仏壇屋がある大きな十字路に通りかかったとき、勝吾は車を左折させたんだ。
「ちょっと、どこにいくの?こっちは西蒲区よ。私の家は逆方向よ。」
浩香は叫んだ。
「ああ、ちょっと、お前を案内したいと思ってな」
勝吾はニヤリと不気味な笑いを浮かべながら言った。
「案内?どこによ」
浩香は勝吾の笑いを見て嫌悪感を覚えながら聞いた。
「着いてのお楽しみだ。」
勝吾はそういうと腰からあるものを抜いて浩香に突き付けた。
「そ、それは」
「驚いたか、本物の銃だぜ」
そう、勝吾が持っていたのは拳銃だったんだ。勝吾が持っていたのはイギリス製のスターリング・リボルバーだった。
「なるほど、そんなものを持ってるってことは私に何かするつもりなのね」
浩香は勝吾が免許があるといってまで近づいた理由が分かって勝吾に怒りを覚えながら答えた。
「ああ、そうだ。おとなしくしろよ。じゃないと1発だぜ」
勝吾は勝ち誇ったような表情で言った。
勝吾はNワゴンを走らせ、夜の9時までドライブを装って西蒲区を回った後、弥彦村に近い山の中に入っていった。
勝吾が入っていったのは周りに民家も少ない畑だらけの地域で普段からあまり人が来ない場所なようだった。
それでいてその時は暗くなっていたので全く人気はなく、山なかなので何かをやっても誰も気づかない状況だった。
勝吾はNワゴンを林の中の空き地に着けた。そこには赤のホンダ・フィットが止まっていて2人の男と2人の女が勝吾と同様、ニヤケタ顔つきで立っていた。
「降りろ」
勝吾はスターリング・リボルバーを浩香に突き付けながら言った。
「わかったわよ」
浩香は助手席から降りた。浩香は持ってきたバックの底にワルサーPPKを隠してあったのでそれを取り出したかったんだが、勝吾に銃口を突き付けられているので無理だった。だから、何とか反撃する方法を考えていた。
浩香が勝吾に突き立てられて4人組の前にやってくると、4人組はライトを浩香に浴びせて笑いながら勝吾に話しかけた。
「ハハハ、勝吾、よくやった。やはり、お前に頼んで正解だったよ。」
リーダー格の20代半ばくらいの針金のような細長い男が言った。
「ええ、やりました。こいつのことを1番よく知ってるのは俺ですよ。楽勝でした。」
勝吾も得意げに答えた。
「なるほど、こいつら、あんたの仲間なわけね。私をこんなところに連れてきてどうする気なのよ。」
浩香はふてぶてしい口調で聞いた。
「おう、そうだったな。実はよ。俺たちは頼まれたんだ。お前を捕まえてくるようにってな」
リーダー格の男が答える。
「誰よ。それに何のために?」
浩香は恐らくそうだろうと思ったが、わけがわからないといった表情で聞いた。
「私たちに頼んだのは尾崎桜って子よ。実は桜ちゃんは鴨川とかいう男と中村とかいう男に命を狙われててその2人を探してるんだけど、手掛かりが皆無でお手上げ状態だったの、だけど、いい作戦を思いついたの、実は鴨川と中村はあんたにメロメロなの、私からすると何であんたみたいな女に惚れたのか理解不能なんだけど、桜ちゃんの友達の厚って男があんたを人質に取って鴨川と中村をおびき寄せる作戦を思いついてそれであんたを捕まえてくるように言われたわけ」
20代前半くらいのホステス風の女が言った。
「厚?ちょっと、まさか」
浩香はすぐに気づいていった。
「おう、そうだ。高潔厚だよ。俺たちと中学まで一緒だった。俺は実は厚に頼まれたんだ。厚の母ちゃんが殺された事件があっただろ、あれは実は中村とやつの仲間の仕業だったらしいな。厚は何とか逃げて桜って子の部下に拾ってもらって今は桜の家に一緒に隠れてるんだが、中村たちに何とか仕返ししたいって俺の前に突然、現れてな。お前を人質にしてやつらをおびき出す作戦を考えたから、協力してくれっていうからオーケーしたんだ。桜は金持ちで俺に1千万くれるっていうし、将来は桜の団体の幹部にしてくれるっていうじゃねえか、だから、俺もノリノリよ。まあ、おかしなやつに惚れられた自分が悪いとあきらめな」
勝吾はニヤニヤとイヤらしい顔のまま言った。
浩香はそれを聞いて勝吾はもちろん、桜と厚にすさまじい怒りが沸いた。一体、どこまで自分を苦しめるつもりなんだとな。だから、浩香は3人、特に厚を八つ裂きにしてやりたい衝動にかられた。
しかし、勝吾たちはもちろん、そんなことには気づかない。もう1人の小柄だが、肩幅が広く、がっしりした感じの男が話し始めた。
「アハハ、まあ、そういうことだ。それより、小島さん、倫子は理解不能って言ってましたけど、この女、見た目はいい方じゃないすか?まあ、華やかさはありませんし、地味な感じっすけどね。桜ちゃんの前に連れて行く前にやりますか?」
「ええ、それがいいですよ。私も結構、かわいいなって思ったんです。よく見たら、まあ、私が男でも付き合うとは思いませんけどね。だけど、ひどいことをしてやったら面白いと思いますよ。桜ちゃんの前に連れて行く前に思う存分、泣かせてあげましょう」
もう1人のサイドテールの幼い感じの女も言った。
「よし、そうだな。やるか」
「ええ、そうね。津田君、蓮子ちゃん」
リーダー格の男、名前は小島とホステス風の女、名前は倫子が言った。
「い、イヤよ。ひどい目にあうなんて」
浩香はすぐに逃げ出そうとしたが、小島たちも腰から何かを抜いて言った。
「おっと、動くな。動くと撃つぜ」
「うう、あんたたちも持ってたのね。」
浩香は小島たちをにらみながら言った。
小島たちが持っていたのも拳銃だった。小島は中国のノリンコ製、NP42、倫子は韓国製、デーウーDP52、津田はドイツ製、ルガーP08、蓮子は中国製、77式拳銃を持っていた。
浩香は4丁の銃に狙われて動きを封じられたが、それでも、何とか反撃しようと必死で考えていた。
浩香は津田のルガーP08を何とかして奪いたかった。ルガーP08はヒトラーの時代のドイツが完成させた。ワルサーP38と並ぶ名銃でその独特の操作機構はもちろん、いかにもナチスの凶銃といったデザインから今でも人気が高く、第2次世界大戦ではワルサーP38がドイツの正式拳銃となったものの、ルガーP08も広く使われ続けていた。大藪さんも「凶銃ルーガー08」をはじめ、多くの作品で登場させていた。浩香も大藪さんの「ウインチェスターM70」を読んでこの銃を知り、手に入れたいと思っていたんだ。だから、津田がルガーP08を持っていると気づいてこの銃を何とかして奪えないかと思ったんだ。
しかし、小島たちに付け入る隙はなさそうだった。浩香が動けないでいると勝吾が近づいてきた。
「ハハ、驚いたか?俺だけじゃないんだぜ、銃を持ってるのは。よし、久しぶりに」
「きゃ、きゃあ」
勝吾は浩香の足をつかむと浩香をさかさまにした。浩香はその日もミニスカート姿だったのでスカートがめくれて下着が丸見えになった。
「うおお」
「わお」
「いいね」
「いいじゃない」
小島たちはスカートがめくれて下着が丸見えになっている浩香を興奮した表情で見ていた。ちなみに勝吾は小学校の頃から浩香にこんなことを何度も繰り返していた。浩香は小学校の時からズボンやショートパンツは穿かず、いつもミニスカートだったので勝吾は浩香を捕まえてさかさまにしスカートがめくれて必死で隠そうとする浩香を見ていつもイヤらしく見て笑っていたらしい。
「クソ、やめなさい。こんなことをして許されると思ってるの」
浩香は必死で隠そうとしながら抵抗した。
「ハハハ、思ってるに決まってるだろ、それにしてもいい尻してるな相変わらず」
勝吾は嫌がる浩香をイヤらしい目で見ながら偉そうに言った。
「チクショウ、放せ、放しなさい」
「おお、いいぜ」
勝吾はそういうと浩香を突き放すように放した。
「きゃああ」
浩香は地面にうつぶせに倒れた。その時の浩香はスカートが腰まで捲れて臀部を小島たちに突き出した無様な姿で下着が食い込んで浩香の大きくて形のいい臀部がかなり丸見えになっていて小島たちと勝吾は全員、スケベ親父のような顔になっていた。
「うう、チクショウ」
浩香は恥ずかしさと悔しさで涙目になっていた。四つん這いになって何とか立ち上がろうとすると、倫子と津田が近づいてきた。
「アハハ、動くんじゃないわよ。あんた、スカートがめくれてすごく恥ずかしい格好じゃない。すごく無様よ。これから、あんたをもっとひどい目にあわせてあげる。その大きなかわいいお尻を叩きまくってあげるから覚悟しなさい」
「ああ、そうだぜ」
津田がベルトで作ったらしい鞭を取り出しながら言った。
「お、お尻を、や、やめて、そ、そんなひどいこと」
浩香は恐怖を顔に浮かべて哀願した。
「ダメだ。お前のせいで桜ちゃんは毎日、鴨川と中村からおびえる毎日を送ってるんだ。桜ちゃんの苦しみがお前みたいなゴミに分かるかよ。せいぜい苦しめ」
「そうよ。運命だとあきらめなさい」
「ええ、そうよ。さあて、覚悟しなさい」
倫子は浩香の下着に手をかけようとした。だが、そのとき
「おい、待て」
という声が聞こえた。
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