第22話 女

 淳一たちが車の中で知った銃撃戦ももちろん、俺たちがやったことだ。

 淳一たちが長岡市に向かったその日、俺は田上町を訪れていた。

 理由は桜の手掛かりを探すためだ。俺は由紀子に近づいた時と同じ知的な眼鏡をかけて、自然科学を勉強している大学生を装って加茂市に近い羽生田という場所で新発田市で手に入れてきたトヨタ・アリオンに乗って鳥や昆虫を探しているふりをしながら桜の手掛かりがないか探したが、やはり何も見つからなかった。出会った人にも聞いたが、手掛かりは皆無だったんだ。

 俺は人気のない場所に桜のアジトがあると思い、線路沿いから離れた山の近くを重点的に探したが、特に手掛かりはなかった。ただ、いくつか使われていない空き家を見つけ、そのうち1軒は別荘風で数年前から使われなくなった比較的新しい建物だった。

 俺はその空き家を見て万一の時のに逃げ込み先に使えるかもしれないと思い、裏口から針金で開けて入ると中は比較的きれいでクローゼットの中には衣類もあり、押し入れには毛布やタオルケットも残されていた。まだ食べられる缶詰や酒、缶パンなどもあり、たばこも2箱残っていた。俺は万一の時はここに逃げ込むことに決めた。

 そのあと、俺は道路沿いのラーメン屋で昼食にすることにした。

 俺が店に入ったのは2時近くで人はあまりいなかった。

 俺は五目そばをを頼み、タバコを吸いながら桜のアジトがどこにあるか考えていたんだが、その時、1人の女が店に入ってきたんだ。

 その女は18歳か19歳くらい、薄い青色の地味な服と青のミニスカート姿で顔立ちはいい方だがおもしろくなさそうな顔をしていた。

「何だこいつは」

 俺はふと、気になってその女を見ていたが、女は服のポケットからタバコ、ハイライトを取り出して吸いながら定員に注文を頼み、タバコを何本も吸いながら

「チクショウ、桜のやつ」

 とつぶやいていた。

「桜、まさか」

 俺は女が桜といったのを聞いて、すぐに気づいた。女が言っていた桜というのは人名に違いない。もちろん、別人の可能性もあるが、この女が言っていた桜が尾崎桜かもしれないとその時、直感したんだ。

「なるほどな」

 俺はようやく手掛かりをつかんだと思い、この女を尾行することにした。

 しばらくすると店員が俺と女が注文した料理を運んできた。

 女が頼んだのはパイコーメンというラーメンにパイコーという揚げ物を乗せた料理で女はタバコを吸うのをやめると、面白くなさそうな顔のままパイコーメンを食べ始めた。俺も五目そばを素早く食べ終え、女が食べ終えるのを待ち、女が席を立つ直前に俺も席を立ち、女の前に会計を済ませて店を出た。

 俺がアリオンの中で待つと、すぐに女が出てきて停めてあった黒の日産・デイズに乗り込むと秋葉区の方に向けて走り始めた。

 俺はすぐに女の車を尾行した。

 デイズは羽生田地区にある「YOU遊ランド」という公園の方に入り、「YOU遊ランド」を通り過ぎた護摩堂山の近くの人気のない林の中にデイズは入っていった。

 俺はアリオンを林の近くに停め、デイズが消えた林の中に入ると舗装されていない細い道があり、その道の先に庭木で囲まれた屋敷があった。

「ここか」

 俺はサイレンサー付きのシグザウエルP232を手に気づかれないように近づくと屋敷の端には駐車場があり、女が乗っていたデイズのほか、ホンダ・Nボックスとスズキ・ワゴンR、ダイハツ・ムーブの合計四台の軽自動車が停められていた。

 俺は木の陰から隠れて家を見張ると屋敷の前にはさっきの女が退屈そうな表情で立っていた。

 俺はここが桜のアジトだと直感し、夜になったら攻撃をかけることにした。そこで木の陰に隠れて屋敷を見張ると女以外にも屋敷の中には10人ほどいるらしく、そのうち1人の20代前半くらいのアニメやライトノベルのひ弱系主人公のような男が女が乗っていたデイズに乗り込んで俺が来たのとは逆の道を通って出かけて行き、少しして入れ替わりに白のトヨタ・プリウスに乗った男がやってきた。

 男は20代半ばくらいで金持ちのお坊ちゃま風で見た目はいい方でかなり高そうないい服を着ていた。しかし、表情に自信過剰なところがあり、常に上から目線な感じがした。

 男は女に何か言うと屋敷の中に入っていった。女は愛想を浮かべてお辞儀をしていたので男が桜の率いている組織の中でも地位が上の人物だと直感した。この男なら桜の居場所を知っているかもしれない

 俺はさらに手掛かりをつかむため、木の陰に隠れて近づくと女はタバコを吸いながらこんなことをつぶやいていた。

「まったく、桜の奴、いつまで私をこんなところにかんづめにしておくつもりなのよ。鴨川なんてちっとも怖くないとか言ってたけど、家に閉じこもって一歩も出ないじゃない。怖いなら怖いって言いなさいよね。私にイヤな仕事ばかりやらせて少しは給料を上げなさいよね。」

 女は不愉快そうな顔でつぶやいた。

 女がしゃべっていたことを聞いて、やはり、ここが桜の田上のアジトだと完全に分かった。おそらく、俺と浩香が桜と戦ったとき、桜はここから来たんだろう。ここからならそんなに時間をかけずに謙たちに指定した場所に着く

 それと、もう1つ思ったが、女は桜のことを嫌っているらしく桜に忠誠心はないように見えた。だから、この女を場合によっては利用できるかもしれないと思ったんだ。

 まあ、ともかく、俺は夜になってから攻撃をかけることにし、女に気づかれないようにいったん、退散することにした。

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