第21話 環狂と愛誤
「おい、何だあいつら」
「え」
「うん、何?」
「何だ」
4人は物陰に隠れてその二人を見た。
2人は男の方が20代半ばくらい、女の方が20歳くらいで男は小太りで学歴は高そうだが、全くの無能でそれでいてやたら態度が高くて偉そうな見るからにムカつく感じの男で女はやはり小太りで眼鏡をかけたヒステリックそうで意地悪そうな女で俺がその場その場にいたらすぐに嫌悪感を抱いたであろうそんな2人組だった。
「ねえ、あいつら、怪しくない?」
拓斗がすぐに気づいて聞いた。
「ああ、これはもしかすると」
「ええ、そうよ。」
「ああ」
4人は2人が桜の部下だと直感し、2人の会話に聞き耳を立てるとこんな会話が聞こえてきた。
「クソ、今日も手掛かりはなしか、鴨川とかいう野郎、どこにいるんだ。」
「ええ、そうよ。中村とかいう男の手掛かりもなしよ。こいつらのせいで毎日、大変なのよ。桜ちゃんは毎日、家に閉じこもってるし、もう散々よ。」
その2人の会話を聞いて2人が桜の部下だと完全に分かった。
「ああ、全くだ。とりあえず、今日のところは退散しようぜ、桜ちゃんが買っておいた別荘で一息つこう」
「そうね。」
2人はそういうと近くに停まっていた白のトヨタ・アクアに乗りこんだ。それを見た淳一たちはこの2人をつけていけば手掛かりが得られるに違いないと思い、インスパイアに乗り込むと2人を追った。
2人が乗った車は国道352号線を通り、スキー場やゴルフ場がある山間の地域に入った。
2人はアクアを山の中に走らせ、人気のない林の中にある別荘風の家に入っていった。
この家は新しく最近建てられたものらしく、周りには様々な灌木が植えられていて植物園のような感じだった。
2人組はアクアから降りて中に入っていった。淳一たちはインスパイアを林の中に停め、拳銃を手に木影に隠れて家に向かって忍び寄っていった。
さっきの2人組以外にも中に誰かがいるのではと哲磨が言ったので4人は窓から中をうかがうとそこはリビングで中ではさっきの2人だけでなく、2人の男と1人の女がいて5人は酒を飲みながら笑い転げていた。
「よし、やつらは油断してるみたいだ。裏から行くぞ」
淳一の指示で4人は裏に回り、裏口から侵入した。
裏口はキッチンだった。4人は無造作に置いてあったタオルやふきんを手に取ると冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターで湿らせた。これを被せて撃てば銃声を抑えられる。
4人は静かにリビングまで行き、濡れタオルやふきんを拳銃にかぶせると一気に部屋に突入した。
淳一たちが入ってきたとき、5人は酒を飲みながら猥談をしていたが、淳一たちが入ってきたのに気づいて呆然となった。淳一たちは部屋に入るとすぐに発砲した。
「うわあああ」
5人は不意を突かれ、なすすべもなく、倒れていった。そのうち3人は首や心臓を撃たれ、倒れた時には死んでいたが、淳一たちが最初に見た小太りの偉そうな男と眼鏡のヒステリックそうな女はそれぞれ、腹と右足、下腹部と左腕を撃たれ、絶叫を上げながらのたうち回っていた。
「うわあ、助けてくれ」
「いやあ、誰かあ」
淳一たちは床でのたうち回っている2人に近づいた。
「動くな。おとなしくしろ、お前らが尾崎桜とかいう女の部下だっていうのはとっくに分かってるんだ。死にたくなければ正直に答えろ、桜は今、どこに隠れてる」
淳一はシグザウエルP226を手にドスの効いた口調で言った。
2人は恐怖に震えながら何とか話し始めた。
「さ、桜ちゃんの居場所、あ、あんたたち、鴨川か中村ってやつの仲間か」
「そ、そういえば、桜ちゃんの友達の厚ってやつが中村には仲間がいたって話してたけど、あ、あんたたちだったの、や、やめて、わ、私たちは桜ちゃんの居場所は教えられてないわ、桜ちゃんは親衛隊にしか居場所を教えてないの、私たちはただ、電話やメールで指示をもらって動くだけよ」
「本当にウソをついてるんでしょう?」
「ああ、そうだろう」
2人が震えながら話し終えると彩夏と哲磨はフィレナイフとスキナーナイフを取り出して2人の服をズタズタに切り裂き、彩夏は男の下腹部、哲磨は女の胸にナイフの刃を当てた。
「ひいいい」
「やめてええ」
「ダメよ」
「やめないぜ」
2人はナイフを食い込ませた。
「ぎゃああ」
「いやああ」
2人は絶叫する。
「おとなしく答えた方が身のためだよ」
拓斗が笑顔で言うと、2人は何とか話し出した。
「わ、分かった。どこにいるか正確なことはわからない。だけど、手掛かりになることは言える。俺はこの前、久々に桜ちゃんに会っていま、どこにいるか聞いた。だけど、正確な場所は教えてくれなかった。ただ、都会から離れた山の中とは教えてくれた。どこかは知らないけど」
「そ、そうよ。山の中の人気のない場所なはずよ。桜ちゃんは自然が好きで保育園の頃から自然に囲まれた場所に住みたいって思ってたみたいだから多分、そういう場所にいると思うわ、桜ちゃんは田上町に別荘を持ってるけど、桜ちゃんが田上に別荘を持ってるのは保育園の時から田上によく連れて行ってもらってそこで山に入って小鳥や花を観察して楽しんでたかららしいわ、それで田上に別荘を買ったのよ。ここも桜ちゃんが長岡でバードウオッチングをしていて気に入ったから新しく手に入れたって言ってたわ、た、確か、浩香って女をうまく鳥殺しの犯人に仕立て上げた後は長岡でイベントをやる予定でここで準備をするはずだったって言ってたわ」
「なるほどな。ウソはついてないみたいだな。わかったよ。だが、俺には理解できないことがある。桜は自然が好きで自然保護の団体まで作ったのに何でカモやタカを部下に殺させてしかもそれを誰かのせいにするなんてまわりくどいことをしたんだ?鳥を殺すことは環境保護じゃないだろ?何がしたかったんだ?」
淳一は聞いた。
「あ、ああ、俺も気になって聞いたことがある。桜ちゃんがタカとカモを撃ち殺させてたのはタカはほかの鳥を襲って食っちまう悪い鳥だからでカモは桜ちゃんが昔、カモに病気を移されて死にかけたとかで怖くて殺させてたらしい。だけど、それだけじゃないんだ。タカとカモを殺させてたのは狩猟をやってるやつらに悪いイメージを植え付ける目的があったらしい。桜ちゃんは狩猟をやっている奴らが大嫌いで狩猟をこの世からなくしたいとか思っててそれで狩猟に悪いイメージを植え付けられたらと思って作戦を考えたらしい。タカとカモを始末できて狩猟つぶしもできて一石二鳥だと思ったとか、それと、浩香って女を鳥殺しの犯人に仕立て上げたあと、長岡でやる予定だったイベントだけど、狩猟に反対するイベントだったんだ。浩香って女を悪者にして狩猟はいけないとかハンターは異常者だとかアピールするつもりだったらしい」
男は苦痛にうめきながら答えた。
「な、なんだそれ」
淳一たちは言葉を失った。桜がタカとカモを殺させていた目的の異常さに驚愕したんだ。淳一たちが言葉を失っていると女も話し出した。
「そ、そうよ。桜ちゃんが狩猟に反対するイベントのために事件をでっち上げたのよ。桜ちゃんは今までイベントを何回も開いてたけど、これは自然を守る活動だけじゃなくて参加者や支援者から寄付金を集める目的もあって開いてたのよ。桜ちゃんの話だとイベントをやると寄付金をくれる人がたくさんいて中には会社の社長とかお金持ちもいるから寄付金が数百万から数千万円も入るからすごいって言ってたわ、寄付金の場合は別に税金を払う必要もないし、お金がたまるばかりだから笑いが止まらないとか、だから、何度も派手なイベントが開けるし、私たちにいい給料を払っててくれるのよ。桜ちゃんは保険金で相当なお金を手に入れたけど、それから、環境保護団体を立ち上げていろんな人から寄付金をもらうようになってますます大金持ちになったみたい。イベントは派手に過激にやった方がいいからってそういう事件をでっち上げることにしたのよ。」
女は必死の表情で話し切った。
「なるほど、金を集めるための狂言か」
淳一たちは桜がやっていることの本質を知って桜への怒りをさらに深めていた。
桜がやっているのは環境保護じゃなくて人の善意を利用した質の悪い詐欺だったんだ。ちなみにこれは別に桜だけがやっていることじゃない。世界には様々な環境保護団体や動物愛護団体が存在し、こいつらを慈善団体だと思って寄付や資金援助をする人は少なくないが、実はこういった団体にはどす黒い疑惑が多数存在し、環境保護に使うという名目で金を集めておきながら実はそんな活動には全く使わず、ただ単に組織の規模を拡大したり、別のイベントを開くために使ったという事実が指摘されていて、しかも、やつらが問題だと言っていたことも実は環境保護とは全く関係のないことだったということが後で証明されたことは珍しくないんだ。
例えば、割りばしが熱帯雨林を破壊するとかレジ袋を作るのに石油が大量に消費されているから環境によくないと思っている人は今も多いと思う、俺も浩香から聞くまではそう思ってたんだが、浩香の話だと割りばしは木材を加工するときに出た木の切れ端を再利用して作られているし、レジ袋もガソリンや灯油を分離したあとのいままでは燃やすしかなかったあまりものの石油から作られているので熱帯雨林の破壊や石油の大量消費とは無関係でむしろ、環境にいいという話だ。
浩香はそのとき、こうも話してくれたんだが、割りばしやレジ袋が環境に悪いとか言っていたやつは深く考えずに見た目や印象でそんなことを思いついた愚か者か、それともそんなことを言うことで自分が正しいことをしていると周りから思われたいナルシストか、そのことを利用して金儲けをしたり、自分の地位を高めたいと考えているワルかのいずれかでいずれにしてもまともな考えの持ち主ではないということだ。俺は浩香から始めてきたときは信じられなかったが、自分で調べてみて浩香の言うことが正しいと思うようになって買い物の時は普通にレジ袋をもらうし、割りばしがついたら迷わずそれを使おうと思った。
話はそれたが、淳一たちも浩香からそういうことを何度も聞いていたので桜もそういうろくでなしだったのだとすぐに確信した。
浩香はそういう人間が大嫌いで淳一たちも嫌悪感を抱いていたので桜にさらなる怒りを抱いたんだ。
淳一たちがしばらく沈黙していると男がこう話しだした。
「な、なあ、俺たちが知っていることは全部話した。頼む。助けてくれ、俺たちは桜ちゃんに使われてるだけだ。俺たちなんかを相手にしたって意味がない」
「そ、そうよ。私たちは正直に話したわ、助けてちょうだい。桜ちゃんには何も言わないから」
2人は哀願したが、もちろん、淳一たちは2人を生かしておくつもりはない、こう答えた。
「いや、それはできないね。お前らが生きてるといろいろと都合が悪い。だから、死ねよ。」
「うん、そうそう」
淳一と拓斗は引き金を引こうとした。
「うわああ、や、やめてくれ、いいことを教えるから」
「いいこと?何よ」
彩夏がナイフを手に興味津々に聞いた。
「そこの押し入れの中に金庫がある。そこに桜ちゃんのへそくりが入ってるんだ。確か柏崎の会社の社長からもらったとかで二千万ある。それをやるから助けてくれ」
「なるほど、金があるのか、ありがたくいただくぜ、だが、それとお前らを生かしておくのは別な問題だ。」
「ええ、そうよ。死になさい」
「そうだ。」
彩夏と哲磨は2人の腹にナイフを突き刺した。
「うごおおお」
2人は絶叫し、悶絶する。彩夏と哲磨はそれから、何度もナイフを突き刺し、最後は首にナイフを刺して息の根を止めた。
「バイバイ」
「あばよ」
彩夏は笑顔で哲磨は無表情のまま手を振った。
「よし、これか」
淳一はタンスの中を探り、そこにあった金庫を見つけて開いた。
中には男が言っていたように二千万の札束が入っていた。そのほかに2丁のアサルトライフル、中国製の95式と韓国製のK1、4丁の拳銃、ロシア製の本物のマカロフと中国製のノリンコT54、韓国製デーウーDP52、北朝鮮製の68式が入っていた。
淳一たちは別荘の寝室にあったカバンに現金を詰め、アサルトライフルと拳銃をすべて分解して使用不能にし、中にいたやつら、名前は免許証から小太りな男が倉山倫太郎、ヒステリックそうな女が香山かりん、あと3人が風間太一、飯野富夫、池田明乃だと分かった。の財布や免許証を回収し、携帯やタンスを探って後で見られたらマズイものがないか調べた後、インスパイアに乗って長岡市を後にした。
淳一たちが長岡を後にしたのは夜の12時過ぎで4人は8号線を通って浩香の家に向かったが、彩夏がスマートフォンをいじっているとネットニュースで臨時ニュースが出いていた。
「ねえ、これって」
「うん、何だよ。」
淳一が運転しながらそのニュースを見て、後ろの拓斗と哲磨も覗き込んだ。
「ああ、もしかして」
「ああ、きっとそうだ」
そこには田上町と西蒲区で銃撃戦がまたあり、多数の死者が出ているというニュースが出ていた。
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