第20話 探索
それから、1カ月間がまた経過した。
季節は夏になり、浩香は空いている時間は俺たちを誘って昆虫採集に出かけたり、魚を捕りに出かけたりしながら、作戦を練っていた。
俺たちと桜の部下たちの事件は最初の1週間は大々的に報道されたが、8日目からは報道も下火となり、その時には全くと言っていいほど報道されなくなっていた。
ライフリングが一致したことで俺たちのこれまでの事件と関係があることが分かってニュースやワイドショーで大々的に取り上げられ様々な憶測が述べられたが、どれも事実と異なっていた。
捜査の過程で千恵と幸子が勤めていた小学校で千恵と幸子が生徒とよくトラブルを起こしていたことと、小野沢が何人もの女子中学生や女子高校生と付き合っていたことが分かり、千恵が担当していた生徒の中には千恵にくだらないことで暴力を受けたり暴言を吐かれて不登校になった生徒もいて、小野沢が何人もの少女と付き合っていて中には転校したり中退した少女がいたことが分かり、このことが事件に関係しているとも言われたが、もちろん、証拠はなく捜査は息詰まっていた。
俺はテレビや新聞で情報を仕入れながら検問が解除されてほとぼりが冷め始めた時、空き家に隠したライフルとショットガンをとってきた。俺は淳一たちが手に入れてきたライフルも含めて分解して点検してみたが、ライフリングは摩耗していないし、機関部も傷んでおらず、問題なく使用に耐えられる状態だと分かった。俺は浩香と一緒に清掃と整備を行って浩香の家の押し入れに銃を隠した。そして、完全にほとぼりが冷めた時から田上町で桜のアジトを探すことにした。
俺たちは俺と浩香が手に入れてきた車に乗って田上町を周り、手掛かりを探したが、田上町はあまり広いわけでもないのに手掛かりは特につかめなかった。
ただ、俺たちが田上町にある湯田上温泉に訪れた時、俺が客として訪れていた田上町に住んでいる男性に田上で自然保護のイベントが行われたか聞くと
「ああ、確か護摩堂山で去年、アジサイと小鳥を見るイベントをやってたな。確か、それを主催してたのは高校生の女の子だったよ。明るいかわいい子ちゃんといった感じでいい子そうだったな。」
と教えてくれた。
俺はその人の話を聞いてそのイベントをやっていたのが桜だとすぐに気づいた。やはり、桜は田上町に来ていたのか、どこにアジトがあるんだ。
俺は桜の手掛かりを見つけるために田上をもっとくまなく探そうと思った。俺はその人に
「そうですか、ありがとうございます。」
とお礼を言った。
ちなみにその日、俺たちは後で調べられたときに不審がられないように温泉にも入ったが、浩香は入りたくないようだった。しかし、彩夏が強引に連れ込んで2人が温泉から出てくると浩香は顔を真っ赤に染めて「だから、嫌だったのに」と言っているように見えて、彩夏はあふれるような笑顔になっていた。俺は中で何があったのかすぐに気づいた。浩香が嫌がっていたのはそういうことだったんだ。何があったかは想像してみてくれ
まあ、ともかく、手掛かりがつかめないまま時間は過ぎ、7月下旬の夏休みも近くなったある日、淳一たちは長岡市を訪れていた。
理由は桜の両親が死んだ後、桜が長岡市の伯父の家で過ごしていたことが分かり、伯父も死んでいるが、伯父の住んでいた家や知り合いを当たれば何か手掛かりがつかめるかもしれないと思ったからだ。
それと、俺たちが手に入れたライフルとショットガンに合う弾薬を手に入れる目的もあった。拳銃弾と違ってライフル弾と散弾は日本の銃砲店で取り扱っている。
淳一たちは長岡市に遊びに来た高校生グループを装って長岡駅から離れた喫茶店に入り、コーヒーを頼んだ後、マスターに淳一はピラフ、彩夏はオムライス、拓斗はカレー、哲磨はミートソースパスタを頼んで食べながら淳一はマスターに
「いやあ、いい店ですね。あ、ところで聞きたいことがあるんですけど、尾崎桜って子を知りませんか、俺たちの小学生の頃のクラスメートで転校して今は長岡にいるって話を聞いたんで一度会いたいと思ってるんです。彼女がどこにいるか知りませんか、明るいかわいい子ちゃんといった感じの子なんですけど」
と聞いた。
「尾崎桜ちゃんか、明るくてかわいい子ね。あ、そういえば、去年の3月頃、伯父さんと一緒にうちに来たよ。彼女はそのとき、ナポリタンを頼んでたかな。俺も気になってどこに住んでるか聞いた。確かね。」
マスターは桜の伯父の家の場所を淳一たちに教えた。
「そうですか、さっそく行ってみますよ。」
淳一は笑顔でお礼を言った。
4人は支払いを済ませると裏道に停めておいたホンダ・インスパイアに乗って桜の伯父の家に向かった。
4人は誰にも見られないように家に近づいた。
桜の伯父の家は植木に囲まれた洋風の家でなかなか風情がある家だった。
4人は庭に入って木の陰から様子をうかがったが、どうやら空き家らしく人の気配は全くなかった。
「よし、誰もいないらしい、行くぞ」
淳一の合図で裏口から四人は侵入した。カギはかかっていなかった。
家の中には使われなくなったタンスや食器棚が残されていた。リビングには写真楯もあり、そこには桜の伯父らしい50歳くらいの病弱そうな男と中学3年か高校1年くらいの桜が映っていた。やはり、ここが桜の伯父の家だったんだ。
淳一たちは桜の手掛かりがないか探したが、リビングやキッチン、伯父の寝室だったらしい部屋には何もなかった。しかし、桜の部屋だったらしい2階の部屋には手掛かりが残されていた。
桜の部屋には勉強机とクローゼット、何冊かの推理小説が残されていた。
推理小説ははやみねかおるさんの「夢水清志郎事件ノート」シリーズと赤川次郎さんの「三毛猫ホームズ」シリーズと「三姉妹探偵団」シリーズでどうやら小学生の頃に買ったものだったらしく、何度も繰り返し読んだ形跡があった。桜は推理小説に小学生の頃からはまっていたらしい
「なるほど、ミステリー好きね。ということは」
彩夏が気づいて淳一たちの顔を見た。淳一たちも同じことを考えていたらしい。
「ああ、桜のやつ、ミステリー小説を読んでて浩香にケガをさせたり、厚の親父を事故に見せかけて殺す方法を思いついたんじゃないか?」
「うん、そうだよ」
「ああ、その通りだ。」
哲磨が机から桜が書いていたらしい日記帳を取り出しながら言った。
日記帳は桜が小学5年から中学3年まで書いていたものらしく4冊あった。淳一たちは日記を読んでみた。すると、大半はその日あった出来事が書いてあるだけだったが、桜が正人たちに頼んで俺に品のない低レベルな嫌がらせをさせていたことが赤裸々に描かれていて、俺を嘲る文章が所々でみられ、小野沢をはじめとする教師たちが自分を盲信していることが笑えるとか、正人たちは都合のいい駒だとか、俺が早く自殺するか精神病になって病院に監禁されればいいのにという願望も書いてあった。
「何だこれ」
「最悪」
「ひどいよ」
「ふざけやがって」
淳一たちは桜の書いた下品な文章を読みながら怒りでこめかみをけいれんさせた。読み進めると、厚に頼まれて厚のクラスメートの少女を痛めつける方法を考えて厚に教え、作戦が見事成功してその少女がケガでのたうち回ってすごく笑えるシーンだったということが書かれたページや厚が楽しそうに彼女にいたずらをしたり、からかいをしたことを話し、その話が面白かったというページもあった。厚のいう少女は浩香に違いない。
やはり、浩香にケガをさせる作戦は桜が考えたものだったんだ。
「クソ、桜め、愉快そうに書きやがって」
淳一たちは桜への怒りを深めながら、この日記を残しておくと後で調べられたあとでまずいことになるかもしれないと思ったので日記は持ち帰ることにした。そして、ほかにも何か調べられてまずいものがないか探すとクローゼットの中に1冊のノートがあり、題名は「私が考えた完全犯罪計画」というものだった。
「おい、これって」
「ええ、そうよ」
「読んでみよ」
「ああ」
4人はそのノートを開いた。すると、そこには桜がミステリー小説を読んでいて思いついたらしい完全犯罪の方法が書かれていて、階段から落として転落死に見せかける作戦が最初のページに書かれていてこの作戦を厚に教え、母親が夫の殺害に利用したのだと4人は直感した。
ほかのページにも様々な方法が書いてあったが、その中で麻薬の一種であるLSDが入った酒を飲ませて飲酒運転に見せかけて事故死させる方法と山登りの最中に殺害し、死体を埋めて山で遭難して動物に食べられたように見せかける方法、病気でいつも薬を服用している人の薬を偽物とすり替えて病死に見せかけて殺す方法を読んで淳一たちは違和感を覚えた。
俺は淳一たちに桜の両親が事故で死に伯父は病死し、俺の両親は山で遭難して行方不明になったことを話していた。だから、淳一たちはこう思った。
「おい、これって」
「ええ、もしかして」
「うん、もしかすると」
「ああ」
4人にはある想像が浮かんだ。だとしたら
しかし、もちろん、何の証拠もないのでその時はそこで終わり、淳一たちはそのノートも持って帰ることにした。
桜の伯父の家を出た淳一たちは長岡で遊びながら目的の銃砲店の位置を確かめ、夜になると銃砲店に侵入し、弾をいただくことにした。
この銃砲店は俺にベレッタをくれたドイツ人が訪れたのとは別な店で小さくて古く品ぞろえもあまりよくないようだったが、日本の豊和工業製、ホーワ・ゴールデンベアーやイタリア製のベレッタM1201、ドイツ製のヘッケラー&コッホSL7カービン、今は所持許可の対象にならないらしいが、アメリカ製のスタームルガーミニ30といった少し旧式だが、今でも十分高性能なロングガンが何丁も並べられていた。
淳一たちは針金でカギを開ける練習をしていたので、裏口からカギを開けて侵入し、弾薬をしまってある金庫を開き、そこから弾をいただくことにした。
俺たちの銃に使用する308ウインチェスター弾や3006スプリングフィールド弾、3030ウインチェスター弾や30カービン弾は日本でもよくつかわれている弾薬なので金庫にたくさん入っていた。12ゲージスラッグ弾ももちろんあり、淳一たちは練習用も兼ねてありったけ、持ってきたナップザックに詰め込んだ。そのあと、金庫の中に500万が入った封筒を入れ、店長あてのメッセージも入れておいた。もちろん、淳一たちは練習して普段と筆跡を変えて手紙を書いた。内容は「弾が必要なのでいただきます。代金はここです。」というもので金は桜や正人からいただいた金から用意した。もちろん、指紋が付かないように手袋をして封筒に入れた。金を代金として残したのは銃砲店が弾が盗まれたと通報しないようにするためだ。実際、後になっても銃砲店から弾が盗まれたというニュースは報道されなかった。店長が500万が入った封筒を見て弾の代金としてありがたく頂戴し、何事もなかったことにしたんだろう
まあ、ともかく、淳一たちは弾を手に入れると誰にも気づかれないように裏道に停めておいたインスパイアに向かったが、その時、ふと見ると1組の男女がひそひそと話しているのが見えた。
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