第17話 動機

 浩香と小野沢はその日、三条市を出て長岡市まで行き、そこでデパートを回ったりして過ごした。

 浩香は奥手な少女を演じて控えめに行き先を話したが、もちろん、人が多く訪れて目立たない場所を選んでいた。事前に調べておいたんだ。浩香はカメラの位置も把握していたのでカメラに自分と小野沢が映らないように上手く立ち回った。そんなことを露知らず、小野沢は浩香が見せるうれしそうな表情に満足していた。浩香も完全に自分に夢中になったと勘違いしていたらしい。

 俺は長岡市に遊びに来た青年を装って2人のあとをつけた。俺は眼鏡をかけて変装し、2人のあとをつけて服や時計を目を輝かせてみたり、2人がレストランに入ったときはコーヒーとビーフステーキセットを頼んで食べながら2人の様子を見ていた。

 2人は夜まで長岡にいて夜も遅くなったころ、浩香は小野沢に

「私の家、今日は両親が仕事で誰もいないんです。来てくれませんか」

 と聞いた。

「もちろん、いいよ。」

 小野沢はチャンスと思ったのか即答した。浩香の思った通り、奴はあっさり食いついてきたわけだ。

 小野沢はN・ボックスに乗り込むとすぐに発進させた。浩香は家は三条市だと言って小野沢を案内した。

 俺はホンダ・レジェンドで小野沢を追跡した。小野沢は俺がつけていることに全く気付かない。

 浩香が案内したのは三条市の8号線から離れた民家の少ない場所でそこで見つけた比較的新しい外観の空き家に小野沢を案内した。

 この空き家も夜に俺と浩香でこっそり掃除しておいた。こっちは空き家になってあまり時間が経っていなかったので楽だった。

 小野沢は空き家の前にN・ボックスを停めた。俺は少し離れた場所にレジェンドを停め、2人を足早に追った。浩香は

「ここが私の家です。」

 と笑顔でいい、小野沢は

「いい家だね。」

 と御世辞を言った。

「じゃあ、入りましょう」

 浩香は手招きして歩き出したが、その時、ワザとバランスを崩して転んだ。

「きゃ、きゃあ!」

 浩香は派手に悲鳴を上げて手をついた。ただ、もちろん、これはワザとだ。

「おお」

 小野沢は浩香にくぎ付けになっていた。浩香はその日も短めなミニスカートを穿いていたからスカートがめくれて下着と臀部が丸見えになっていた。

 ちなみに浩香がその日、着けていたのは色はいつも通り、濃い青だが、すごく可愛いデザインの下着を着けていた。理由は小野沢が何人もの女と付き合っているので普段のシンプルな下着では小野沢にとっては物足りないかもしれないと思い、新しく買ったらしい

 浩香は試しに試着して俺と淳一と拓斗と哲磨(彩夏には見せなかった。彩夏に見せるのは抵抗があったらしい)に見せたが、俺はすごく似合ってると思った。

 小野沢が浩香の下着にくぎ付けになっている隙に俺は音もなく小野沢の背後に周った。

 その時、浩香がその時、気付いたふりをして後ろを振り返った。

「いたた、すみません。あれ、どうしました?」

 浩香はその時、やっとスカートがめくれていることに気付いたふりをして慌てて隠した。

「きゃあ、すみません。お見苦しいものを」

 浩香は顔を真っ赤にして必死で隠した。

「あ、いや、僕は考え事をしていて見てなかったです。大丈夫、気にしないで」

 小野沢は上手くごまかしたが、顔がニヤけていてそれがウソなのは一目瞭然だった。しかし、浩香は信じたふりをしてこう続けた。

「そうでしたか、よかったです。じゃあ、中に」

「うん」

 小野沢は家の中に入ろうとしたが、その時、俺は小野沢をブラックジャックで殴って失神させた。

 小野沢はうつ伏せに倒れ、浩香は小野沢を見て邪悪な微笑みを浮かべながら言った。

「ふふ、バカね。私のパンツに気を取られて全く聖夜に気付かなかったわね。」

 浩香は俺にウインクするとスカートをたくし上げて臀部を俺の方に向けた。

 浩香は胸にサイズを合わせていたから、臀部が下着に入りきらなくて尻がかなり丸見えになっていた。かわいらしいデザインの下着と浩香の形のいい尻がすごくマッチしていて、すごく魅力的だった。

「ああ、そうだな。バカな野郎だ。すぐに中に入れよう」

「ええ」

 浩香はスカートを戻すと俺と一緒に小野沢を空き家の中に入れ、小野沢の服をナイフで切り裂いて裸にし、服を割いて手足を縛り、さるぐつわもかませた。

 俺は小野沢の車も調べ、浩香の指紋や髪の毛が残らないように後始末をした。

 そのあと、俺は小野沢の下腹部に買ってきておいたウォッカをかけ、火を着けた。

 火はウォッカに引火し、小野沢は絶叫とともに意識を取り戻した。

「うおおお」

 小野沢は獣のような悲鳴を上げ、のたうち回った。

 しばらくして火が消えると小野沢は顔を上げて俺を見て驚愕の表情になった。

「か、鴨下、な、何でお前がこんなところに」

 小野沢は信じられないという表情になって言った。

「何でって、俺はお前を殺すために彼女に手伝ってもらってお前をここまでおびき出したんだ。楽には死なせてやらないぜ、なぶり殺しにしてやる。」

 俺はナイフを抜くと小野沢の首筋に当てた。

「や、やめてくれ」

「そうか、じゃあ、いくつか答えてもらうぞ、尾崎桜を覚えているか、お前と仲が良かったあの女だ。あいつは中学3年の時、突然、転校していなくなったが、今はどこにいるんだ。答えろ」

 俺はドスの効いた声で言った。

「さ、桜の居場所、し、知らん、俺も桜が転校してどこに行ったか、聞いてない」

 小野沢は言ったが、表情を見てウソをついているのがすぐに分かった。

「ウソをつくな」

 俺はナイフで小野沢の腹に浅く切り込みを入れた。血が噴き出す。

「ひいい」

 小野沢は失神寸前になり、何とか答え始めた。

「ひい、わ、分かった。いうよ。桜とは連絡を取り合ってる。だけど、今、どこにいるかまでは知らない。教えてくれないんだ。本当だ。」

「本当にウソをついてるんじゃないの?」

 浩香がナイフを取り出すと小野沢の焼けただれた部分に刃を当てた。

「正直に言いなさい。さもないとあんたの大事なところを切りとってやるわよ。」

 浩香はナイフを食い込ませた。

「ぎゃああ」

 小野沢は絶叫する。

「さあ、白状しなさい」

「わ、分かった。俺の知っていることは正直に話す。桜の両親は事故で死んで桜はおじさんの家に引き取られた。伯父さんは長岡に住んでいたから桜は長岡で暮らしてたんだ。」

「そう、じゃあ、今も長岡にいるの?」

「いや、今はいない。実はおじさんも桜を引き取ってすぐに病気で亡くなった。急性心不全だったらしい。それで桜はまた、引っ越したんだが、どこに引っ越したかは教えてくれなかった。本当だ。ただ、桜は保育園の頃から田上町に連れて行ってもらってたらしいし、あと、桜は自然保護の団体を作って活動をおこなってるらしくて田上町でもイベントをやったことがあるらしいから、もしかすると、田上町に行けば会えるかもしれない。ただ、最近、桜と連絡が全く取れないから、どうなってるかわからないけど」

 小野沢は何とか言い終えた。

「なるほど、田上か、よくわかった。それから、聞くが、小原正人たちを覚えているよな。奴らは俺に低レベルな嫌がらせを繰り返していたが、どうやら、桜にそそのかされてそんなことをしていたらしいんだ。何で桜は正人たちにそんなことをさせていたんだ。」

 俺は今までずっと気になっていたことを聞いた。桜は何で俺に敵意を抱いたんだ?

「桜が正人たちにお前をいじめさせていた理由は桜がお前に殺されるかもしれないと思っていたからだ。保育園の頃からお前が怖かったらしい。それでいじめっ子だった正人たちに頼んでお前をいじめさせていたらしい。お前が正人たちにかかりっきりになれば自分を殺そうとはしなくなるだろうってな。」

「何!、俺が桜を、どういうことだ。俺は桜に何もしてないぞ、何で俺が桜を殺さないとなんだ。」

 俺は驚いて聞いた。どうしてそんな話になってたんだ。

「そ、それはだな。俺に話してくれたことがある。桜は保育園の時、阿賀野市の瓢湖に遊びに行ってカモや白鳥を見て帰ったんだが、そのあと、高熱が出て死ぬ思いをしたらしい。それで医者でインフルエンザに感染してたことが分かって、カモから病気を移されたんじゃないかってことになってそれ以来、カモが嫌いになったらしい。それでカモを見ると、また、病気を移されて今度こそ死んじゃうんじゃないかって思うようになったんだ。トラウマってやつだよ。それでお前の名前が鴨下で名前にカモが入っているからお前のことがすごく怖くなってお前がいつか、自分を殺そうとするんじゃないかって不安で押しつぶされそうになったらしい。だから、正人たちにお前をいじめさせてできればお前がどこかに転校するかできればそれを苦に自殺してくれればと思っていたんだ。桜はお前が怖いってほかのクラスメートや保育士や小学校の担任とかにも話していたらしいから誰もお前の味方はしなかったんだ。」

 小野沢は話し終えた。

「何だそれは」

 俺は小野沢の話を聞いて桜が俺を苦しめていた理由の異常さに驚いていた。カモが嫌いになってそのせいで俺が自分を殺そうとすると思っていただと、なんだそれは?完全な被害妄想だぞ、それに周りが桜の肩を持っていたのはそんな理由だったのか、他人の言うことを真に受けるなよな。

 俺はますます、桜に怒りと殺意を抱いた。浩香も俺を苦しめていた理由を聞いて唾棄を覚えていた。浩香は怒りを何とか押し殺しながらこう続けた。

「なるほどね。桜が正人たちに聖夜に嫌がらせをさせていたのはそんな理由だったのね。ろくでもないわ、それと聞くけど、桜はどうやら1人の女の子に憎しみを抱いていてその子にひどいことをしようとしてるみたいじゃない。何でその子に敵意を抱いたのか聞いてる?」

 浩香は疑問に思っていたことを聞いた。何で桜は浩香に憎しみを抱いているんだ?

「ああ、そのことか、最後に話した時に話してくれた。その女の名前は確か浩香だったと思う、その女の昔のクラスメートからその女のことを聞いて絶対、許せないとか言ってた。理由はその女が昆虫採集や魚捕りが好きで自然破壊をしてるろくでなしだと思ったからだとか、それにその女、虫や魚やザリガニだけじゃなくて将来は狩猟にも出たいと考えてるみたいで、桜はハンターのことを自然破壊の権化だと思って毛嫌いしてるから絶対、許せないっていってた。それにその女、女には珍しく銃好きなガンオタでしかも軍事好きなミリオタだっていうじゃないか、だから、すげえヤバい女に思えて鴨下と同じで懲らしめてやらないとと思ったらしい。そんな女をのさばらせておいたらたくさんの生き物が殺されかねないし、自分が自然を守ろうとしてるときにもしかしたらその女が襲い掛かってくるかもしれなくて怖いって」

「何よそれ」

 浩香は桜が自分を殺そうとしていた理由をは知って驚愕していた。俺も桜が浩香を殺そうとしていた動機を知って驚いた。昆虫採集や魚捕りが好きな人、それとハンターの人たちが環境破壊のろくでなしだと、何だそれは?言っておくが昆虫採集や狩猟をやっている人たちは悪者じゃないし、環境破壊を行っているわけじゃない。それは環境保護の信望者たちによって作られた幻だ。同じように銃器好きな人と軍事好きな人も危険人物ではないからな。それも銃規制の信望者たちや反戦平和の信者たちが作り出した幻なんだ。そういう人たちも別に悪人じゃない。

 むしろ、危険なのは環境保護や銃規制、反戦平和の連中ではないのかといつも思っている。奴らは自然とか命とか、平和とかやたらキレイなもっともらしいことをいつも口ずさんでいるが、口調がいつも偉そうで高圧的でまるでヤクザのような暴力的な口調で相手を脅すこともあり、俺はこいつらがまともな連中だとは全く思えないんだ。

 話はそれたが、俺はその時、桜が自然を守ることばかり考えておかしな考えを持って、隆司から浩香のことを聞いて敵意を抱いて浩香を殺すことにした。そんな想像が浮かんだんだ。

 俺はしばらく考えていた。するとその時、小野沢が話し始めた。

「な、なあ、鴨下、俺を助けてくれ、正直に話した。桜と正人たちはお前を苦しめていたが、別に俺はお前に悪いことはしてない。悪いのは桜たちだ。だから、桜を殺せばいい、俺は関係ない」

 小野沢は開き直った表情で言い切った。

「なるほどな。確かにお前は俺に何もしてないな。」

 俺は淡々と答えた。

「だろ」

 小野沢は目を輝かせた。

 しかし、俺は小野沢を生かしておく気は全くない。こう続けた。

「ああ、しかし、お前はいじめ肯定論者で俺が低レベルな嫌がらせを受けてても止めるどころか、奴らを称賛してさえいた。いじめ肯定論者は人間のクズなんだ。死ねよ。」

 俺は小野沢の腹にナイフを突き刺した。

「うぎゃああ」

 小野沢は悶絶する。

「もっと苦しめ」

 俺はナイフを力いっぱい突き刺した。

 小野沢は苦しみながら息絶えた。

「ふん、いい気味ね。」

 浩香も小野沢の死体を見ながら言った。

「ああ、全くだ。さっさと退散しよう」

 その時だった。外から誰かが忍び寄ってくる気配を感じたのは

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