第15話 愚行の報い

 俺が見つけておいた空き家は田上町に近い矢代田という地域の山の中にあり、あたりに民家は少なく夜の11時を過ぎれば全く人気がなくなる場所にあった。

 ちなみにその空き家は1970年代くらいに作られたらしい洋風の建物で何年も使われていなかったらしく中はほこりまみれだったが、俺と浩香は夜中に誰にも気づかれないように入り込んできれいに掃除しておいた。

 まあ、ともかく、彩夏と哲磨は千恵たちをこの空き家に案内した。

 千恵と由紀夫はあることを期待してドキドキしているらしかった。2人はそれにもちろん、気付いていたが、気付かないふりをしていた。

 ちなみに淳一は銀色の三菱・ギャラン、拓斗は黒の日産・フーガで空き家に向かった。彩夏と哲磨はそれぞれ、新潟駅、長岡駅で電車に乗り、矢代田駅で降りてそこから歩いて空き家に向かった。

 由紀夫と千恵はこれから起こることに期待しながら歩いてきた。

 そして、空き家の前で顔を合わせた。

「あれ、あなたたちは誰ですか?」

 千恵が不思議そうに聞いた。

「え、俺は彼女に家に来ないかって言われて、あれ、あなた、お袋から聞きましたけど、井出先生ですか?」

「ええ、そうです。もしかして由紀夫君、何であなたが」

 由紀夫と千恵は顔を見合わせた。

「どういうことかお教えしましょうか?」

 2人が不思議そうな顔をしていると、彩夏は爽やかに言った。

「ええ、どういうこと?」

「どういうわけ?」

「こういうことです。」

 彩夏と哲磨は腰に差していた拳銃を抜いて千恵たちに突き付けた。

「ひ、ひい、そ、それって本物ですか」

 千恵が恐怖で震えながら聞いた。

「ああ、そうだ。本物だ。俺たちはお前らに用があってここに誘い出したんだ。」

 哲磨はそういうと、千恵を殴りつけて失神させた。

「そういうわけ、あんたも少し寝てなさい」

 彩夏も由紀夫を殴りつけて失神させた。その時、淳一と拓斗も合流した。

「よし、成功だな。こいつらを家の中に入れよう」

「ええ」

 淳一たちは用意しておいた革ひもで2人を縛り上げ、さるぐつわもかませると家の中に4人を運び込んだ。

そのあと、2人の服をナイフで切り裂いて裸にすると由紀夫は下腹部、千恵は胸をライターであぶって意識を取り戻させた。

 2人は絶叫し、意識を取り戻した。

「う、うわああ、チクショウ、よくも騙したな。」

 由紀夫は汚い顔をゆがめて罵った。

「ええ、騙したわ、それがどうしたのよ。私たちはあんたたちに恨みがある人に頼まれてあんたたちに近づいたの、誰があんたみたいなクズニートと付き合うのよ。私たちもあんたたちを生かしておけないわ、なぶり殺しにしてあげる。」

「ああ、全くだ。死ねよ。」

「おう、当然だ。」

「うん、うん」

 4人は拳銃の引金に手をかけた。

「ひいい、やめてくれ、何でもする。お願いだ。」

 由紀夫は恐怖に震えながら哀願した。

「そう、じゃあ、あんたのお母さんをここまで呼んでくれない?実は私たちが用があるのはあんたのお母さんなのよね。だけど、お母さんにつけ込むのは難しそうだから、私がまず、あんたに近づいたわけよ。嫌ならいいのよ。今すぐ、あんたを始末してやるわ」

 彩夏はヘッケラー&コッホP2000を由紀夫に向けて発砲しようとした。

「うわああ、やめてくれ、お袋に電話するから助けてくれ」

「そう、じゃあ、すぐに電話しなさい。彼女に紹介したいからすぐに来てっていうのよ。」

「ああ、そうだ。それと、昔のアルバムも持ってきてくれと言え、昔のお前を彼女が見たいと言ったとな」

「わ、分かった。」

 由紀夫は「何でアルバム?」という表情になったが、彩夏が電話を掛けると幸子に電話した。

「お、お袋、俺だ。」

「はーい、由紀夫ちゃん、どう?デートは」

 幸子は楽しそうな声で答えた。

「ああ、完璧だ。彼女も俺のことすげえ、気に入ってくれてさ、それでお袋のことを話したらさ、お袋に会いたいって言ってくれたからお袋に来てほしいんだ。今すぐ来てくれないか」

「ええ、もちろんよ。すぐに行くわ、どこ?」

「ああ、秋葉区の・・・」

 由紀夫は幸子に空き家の場所を話した。

「そう、じゃあ、待っててね。」

 幸子は何の疑いもなく即答した。

「ああ、それと、アルバムを持ってきてくれないか?彼女が見たいって言っててさ」

「はーい」

 幸子は楽しそうに答えると電話を切った。

「よし、よくやった。母親が来たら明るく振舞え、おかしな真似はするな」

 淳一は銃口を由紀夫に突き付けながら言った。

 そして30分ほどすると車が停まる音がして足音が近づいてくるのが分かった。

「よし、準備しろ」

「うん」

 淳一が合図をすると拓斗が玄関のわきに立った。

 するとその時、外で幸子がノックをした。

「由紀夫ちゃん、来たわよ」

「おお、入ってくれ」

 由紀夫は銃口を突き付けられながらできるだけ自然な口調で言った。

 幸子は笑顔でドアを開けて中に入ってきた。

 その瞬間、拓斗は用意しておいた牛乳ビンに砂を詰めて作った打撃用の鈍器、ブラックジャックで幸子を殴って幸子を失神させた。

 幸子はうつ伏せに倒れてそのまま失神した。

「よし、成功だ。」

 淳一はすぐに幸子に駆け寄ると拓斗と一緒に幸子も裸にして縛り上げ、さるぐつわもかませた。幸子は由紀夫が頼んだようにアルバムも持ってきていて哲磨がそれを開いてみると、二人がユニバーサルスタジオジャパンに行ったときの写真もたくさんあって2人、特に由紀夫はすごく楽しそうな顔をしていた。哲磨はそれを見て「ふざけやがって」と床にアルバムを投げつけ、千恵のエルメスのバックを蹴飛ばした。

 その時の哲磨からは怒りや殺意がすごく伝わってきて千恵と由紀夫は恐怖で震えていた。

 哲磨が落ち着くと淳一は幸子の尾てい骨を蹴って意識を取り戻させた。

 幸子は意識を取り戻し、由紀夫たちと同じようにガタガタと震え始めた。

「ひいい、あ、あんたたち誰なの」

 幸子は恐怖で発狂しそうになりながら言った。

「俺たち?ああ、あんたたちに恨みのある人にあんたたちを始末するように頼まれたんだ。あんたを誘い出すのが難しそうだったから、あんたの息子を利用させてもらった。楽には死なせてやらないぜ、なぶり殺しにしてやる。」

 淳一はシグザウエルP226の銃口を幸子に向けた。

「いやあ、やめて、私が何をしたのよ。」

「何をした?忘れたのか、お前はある男に頼まれてある少女にケガをさせた。USJの年間パス欲しさにな。それにお前もそのバック欲しさにそいつに協力して彼女にひどいケガをさせた。教師のくせにそんなことが許されると思っているのか?」

 哲磨は殺気に満ちた目付きと口調で言った。

 幸子と千恵はしばらく「何のこと?」という顔をしていたが、しばらくして思い出したのか慌てて話し出した。

「も、もしかして、あの時の事?ま、待って悪かったわ、許してだけど、それは由紀夫ちゃんのために仕方なくやったことなのよ。」

「そ、そうよ。早出先生はあくまで由紀夫君のためにやったの、それに私たちを責めるのは間違いよ。私たちは頼まれただけよ。本当に悪いのは・・・」

「厚でしょ、高潔厚」

「そ、そうよ。厚よ。厚が悪いのよ。厚がクラスメートの浩香って女の子が痛がって泣いてる姿が見たいっていうから浩香にケガをさせる手助けをしてほしいって言ってきたのよ。私、高校のときからそのバックが欲しかったし、ケガをしたところで浩香が死ぬことはないと思ったからまあ、いっかって思って協力したのよ。浩香はプールでかさぶたがはがれて血だらけで痛がって泣きじゃくってたし、私が卒業式の練習の時、ワザとでたらめな誘導をして厚が混乱に乗じて浩香を転倒させたときは右手を押さえて床でのたうち回ってたわ、すごく痛がってたから骨折したかと思ったわ、ねん挫で済んだらしいけど、だけど、浩香は別に死にかけたわけでもないでしょ?誰に頼まれたのか知らないけど、そんなことで私たちを責めないでよ。悪いのは厚よ。厚を殺してよ。」

 千恵は開き直った表情で言った。

「なるほどね。確かに一番悪いのは厚だ。しかし、お前らはそいつに無理やりやらされてたわけじゃないよな。年間パスやバック欲しさにそいつに加担したわけだ。お前らも共犯だぜ、許されると思っているのか」

 淳一はシグザウエルP226を向けたままにらみつける様に言った。

「ひ、わ、悪かったわ、だけど、許してちょうだい。何でもするから」

 幸子は必死の表情で言った。

「そう、じゃあさ、尾崎桜って女は知らない?俺たちは厚を探してるんだけど、おそらく、その桜って女のところにいると思うんだよね。桜がどこにいるか知ってる?」

「尾崎桜」

 幸子は何かに気付いたらしく、話し出した。

「尾崎桜?、そういえば厚はほかの学校の女の子と仲良くしてるって話してたことがあったけど、その桜って子なのね。どこにいるかは知らないわ、だけど、あなたたちに話しておきたいことがあるわ」

「話しておきたいこと?なんだよ。」

 淳一は聞いた。

「私と井出先生は厚に頼まれたけど、実はその桜が黒幕なのよ。浩香にケガをさせる作戦は実は桜が考えたのよ。厚が桜にムカつく女がいるからその女を懲らしめるいい手はないかって聞いたら桜が考えてくれたって言ってたの、だから、桜がそんなことを厚に教えなければ私たちは浩香に何もしてないのよ。あなたたちが本当に殺すべきなのは厚と桜よ。私たちは使われていただけよ。」

「そうよ。それと気になることを厚が言ってたわ」

「気になること?何よ」

「厚は小学5年のとき、お父さんが死んで保険金が入ってお金持ちになったの、私のバックや早出先生の年間パスもそのお金で買ってくれたんだけど、それを話してくれた時、あいつが教えてくれたおかげだよって言ってたの」

「何だそれは?」

「知らないわ、厚もあ、何でもないですって話しててバックを手に入れたうれしさでいっぱいだったから何も気にならなかったの、だけど、今、思いだすと不自然だった気がして」

「なるほどな」

 淳一は彩夏たちと目を合わせた。彩夏たちも同じことを考えているようだった。幸子の話で厚が浩香にケガをさせる作戦は実は桜が考えたものだと分かった。そして、厚の母親は夫を事故死に見せかけて殺して保険金を手に入れた。厚が保険金が入った理由をあいつのおかげといったのは実はこの偽装殺人の方法を考えたのも桜で母親は桜が考えた作戦を実行したのでは?という想像が浮かんだんだ。

 淳一たちは桜がますます危険な女に思えて絶対に始末する必要があると改めて思った。だから、桜の情報を手に入れようと思い、こう続けた。

「そうか、よくわかった。桜について何か知っていることはないのか?」

「そ、そうね。厚の話だと桜は生き物や自然が好きで将来は自然を守る仕事に就きたいとか言ってたらしいわ、桜が好きな動物はウサギやリスみたいなかわいい感じの動物が好きで鳥も大好きだって言ってたわ、だけど、タカとカモは嫌いだって言ってたみたい。タカはウサギやほかの鳥を襲って食べる悪い鳥だから嫌ってたらしいわ」

「ふーん、そう」

 拓斗は「やっぱり」と思った。浩香が考えた通り、桜がタカを嫌っていたのはほかの鳥やウサギを捕食するからだったんだ。

「なるほどね。カモはどうしてなの?」

 彩夏は気になって聞いた。

「さ、さあ、カモは何でなのか詳しくは知らないわ、だけど、厚にはカモのせいで昔、死にかけてその時以来、カモがすごく怖くて大嫌いになったとか」

「何?カモのせいで死にかけた?どういうことだ?」

 淳一は不思議に思って聞いた。

「さあ、桜は保育園の時、瓢湖に行ったらしいんだけど、そこでカモや白鳥に餌をやって帰ってそのあと、高熱が出て死にそうになったらしかったわ、それで高熱の原因がカモだってことになってカモが怖くて嫌いになったそうよ。」

「何だそれは」

 淳一たちは桜がカモが嫌いになった理由を聞いて首をかしげていた。カモのせいで高熱が出て死にそうになった?どういうことだ?

 4人はしばらく考え込んでいたが、何があったのかは分からなかった。その時、幸子たちが話し出した。

「ね、ねえ、私たちが知っていることはこれだけよ。正直に話したわ、お願い助けて」

「そ、そうよ。何度も話した通り、私たちは厚に頼まれただけよ。それに作戦を考えたのは桜よ。本当に悪いのはこの2人よ。」

「そうだ。俺たちが悪いんじゃねえ、悪いのはそいつらだ。」

 3人は半分開き直った表情で言った。

「ああ、そうだな。しかし、俺たちはお前らを生かしておくつもりはない。死ねよ。」

「うん」

 淳一と拓斗は用意しておいたクッションをシグザウエルP226とグロック17の銃口に被せ、幸子に向けて発砲した。こうすると銃声を小さくする効果があるんだ。

「うぎゃああ」

 幸子は悶絶し、苦しみながら絶命した。

「うわああ、やめてくれ」

「いやああ」

 由紀夫と千恵は幸子の死体を見て失禁した。

「あんたたちも死ぬのよ。」

「ああ」

 彩夏と哲磨はフィレナイフと和式のハンティングナイフを抜くと由紀夫と千恵の腹に突き刺した。

「うがああ」

「ぎゃああ」

 2人は激痛のあまり悶絶した。

「もっと苦しみなさい。クズニート」

「当然だ。」

 2人は何か所も腹にナイフを突き刺し、2人に地獄の苦しみを与え、最後はのどを突き刺して息の根を止めた。

「ふん、いいざまね」

「ああ、全くだ。こんなもののために」

 哲磨は千恵の死体に蹴りを入れると千恵のバックをナイフでずたずたに切り裂きバラバラにした。そのあと、幸子のアルバムから写真を抜き取ってすべて破って火を着けた。写真はすべて灰になった。

「よし、退散だ。」

 淳一が後始末を終えて退却しようと言った時だった。

 外から誰かが近づいてくる気配がしたんだ。

「おい、外に誰かいるみたいだぞ」

 哲磨がブローニングハイパワーを抜きながら囁いた。

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