第6話 作戦準備

 それから、4週間が経過した。

 俺たちと桜たちが戦った事件は大々的に取り上げられ、ライフリングが隆司たちの死体に残っていたライフリングと一致したことから犯人は同一人物だと分かってマスコミは様々な憶測を取り上げて劇場型の報道を行ったが、どれも真相とは程遠かった。

 そして1週間もするとマスコミで事件のことが取り上げられることはほとんどなくなり、誰も話題にしなくなり始めていた。

 俺は浩香と作戦を練りながら厚の家を偵察したが、厚と母親は中学のとき住んでいた場所にはおらず、俺は眼鏡で変装して厚の中学の時の友達を装って近隣の住民に厚たちがどこに行ったのか聞き出そうとしたが、全くの無駄骨だった。厚と母親は厚が高校に進学して間もなく引っ越したらしいが、行き先を教えていなかったんだ。

 俺はあきらめ、桜の中学までの友達、みんなは分かると思うが俺を特に苦しめていた5人組の小原正人、船橋郁恵、内田一善、黒岩芽以、大平誠二だ。正人たちを仕留める作戦を進めることにした。

 ちなみに中学を卒業した後、正人と芽以は加茂市の私立高校に入学していた。

 正人は普通科、芽以は看護科に入り、クラスメートたちには正人は「私立の方が勉強がよくできるから」、芽以は「看護婦になってたくさんの人を救いたい」と入学の理由を話していたが、俺は2人が入学した本当の理由を知っていた。

 正人が私立高校を受けたのは加茂市の私立高校には併願という入試方法があり、この高校は成績さえ満たしていれば誰でもこれに応募でき、書類選考だけで合否が決まるという試験方式をとっている。正人は併願に応募でき書類選考だけで合否が決まるから私立高校に行くことにした。ただ、それだけの話だ。

 それに正人の叔母は小さな園芸会社を秋葉区、かつては新津市と呼ばれていた場所に持っていてかなり金を持っていて保育園の頃から正人を溺愛していて金をいつも渡していたから私立に行っても金に不自由することがなかったという理由もある。実際、正人は高校に入学すると駅に近いからという理由で秋葉区の叔母の家に移っていた。叔母は正人には大甘でいつもこずかいを渡していたから正人は毎日のように遊びぼうけていた。

 一方、芽以が私立高校の看護科に入学した理由は看護婦になれば男にモテまくるに違いないというろくでもない理由で芽以は中学の時から何人もの男と付き合っていてもっといい男を捕まえたいといつも思っていた。だから、男が好きそうな職業として看護師だと思い、看護科に入学して看護師になろうとしたというわけだ。

 ちなみに芽以と正人は小学校からの付き合っているらしく、高校に入ってから正人は芽以に金を渡したりしていた。

 芽以は正人からもらった金で見るからにもてなさそうな少年たちをたくさん誘って豪遊しまくっていた。芽以はどちらかといえば見た目はいい方(といっても中の上くらいで俺は別にかわいいとかキレイだなんて思ったことはない)で少年たちはいつもドキドキしているらしかった。しかし、これも芽以の戦略の一つで将来、自分の忠実な僕にするために彼らを誘っていたんだ。彼らは女と付き合える機会は少ないから芽以のように見た目が比較的よくて積極的な女に誘われたらその女に夢中になってしまうだろうな。

 それと、正人たち以外に俺たちは厚の行方を探るため、浩香の昔のクラスメートたちを襲撃する作戦も立てた。

 俺たちがターゲットにすることにしたのは小竹由紀子というカッパみたいな見るからに頭の悪そうな女でこの女は中学の時、厚と仲良くしていて浩香にセクハラまがいの嫌がらせを毎日のようにしてきたらしい。

 この女は浩香の胸が小さめなことと尻が大きいことをやたら問題視してからかいまくっていた。浩香が着替えているとき、浩香の下着のことをバカにして身体を触りまくるような男がやったら確実に強制わいせつになるようなことも平気でやっていた。浩香はその時のことを許すことができなかったし、由紀子は頭が破滅的に悪く罠にかけやすいと思ったのと厚と中学の時、仲が良かったので厚がどこに行ったのか知っているかもしれないと思ったからだ。

 俺たちは正人や由紀子を見張りながら作戦を考えた。そんな中、俺は浩香の通う農業高校に転校することにした。

 俺が浩香の高校に転校することにしたのは桜が部下に登下校中の浩香を襲わせるかもしれないと考え、浩香を桜の部下の攻撃から守るためと部下が襲ってきた場合に部下を捕らえ、部下から桜の情報を聞き出すため、浩香と一緒にいた方がいいと思ったからだ。

 俺は桜と戦って1週間が過ぎた時、農業高校に行って転入の手続きを取った。

理由は浩香からこの高校のことを聞いて好感を抱いて俺もこの高校で勉強したいと思ったからにした。

 俺の転入手続きはスムーズに進み、俺は農業高校の生徒になった。

 俺は浩香と同じクラスに入り、俺が自己紹介すると浩香以外のクラスメートたちは一様に感嘆の声をあげていた。俺は頭を下げ、その日からクラスの一員となった。

 農業高校の勉強は俺にとって少しも難しくなかった。また、農業高校では普通科と違って農業実習があり、俺は畑に出て農作業をしたり、俺のことを気に入ってくれたらしい2人の男子生徒と野菜を売りに行ったりしたが、この授業はなかなか楽しかった。

 そんなことをしながら俺たちは作戦を練り、その日の午後、農業高校の空き教室で買ってきたコカコーラゼロを飲みながら明日の金曜日に作戦を決行することを決めた。

「よし、明日、結構だ。きっと成功するよ。」

 俺はコーラを飲みながら言った。

「ええ、そうね。私たちに嫌がらせをしていたことを正人や由紀子に後悔させてやりましょう」

 浩香もコーラを飲み干しながら言った。

「ああ」

 俺たちが作戦を話し終えて一息ついていたそのときだった。

「おお、浩香に鴨下君、こんなところで何してんの?」

「2人して仲がいいわね。」

「うん、そうだね」

「ああ」

 という声がして4人が俺たちのいる教室に入ってきた。

「ああ、淳一たちね。どうしたのよ?」

 浩香は4人に向かって答えた。

 その4人は俺たちのクラスメートの高村淳一と佐藤彩夏、水原拓斗、そして加藤哲磨だった。

 ちなみに4人がどういう人間かというと

 淳一は見た目は爽やかな好青年だが、常に遊んでいる遊び人にしか見えない男(しかし、正人と違って少しも愚かさやイヤらしさはなかった。)

 彩夏は見た目は清楚な性格のいい美少女といった感じだが、やはり常に遊んでいる遊び人にしか見えない女(しかし、やはり芽以と違って愚かさやイヤらしさはもちろんない)

 拓斗は見た目は大人びた彫りの深いハンサムだが、小学生がそのまま成長した感じの幼い印象の男(しかし、隆司や謙と違って愚かさやイヤらしさは少しもなかった。)

 哲磨はシャープな顔立ちですごく整っているが、目つきが鋭く凶悪そうで悪人にしか見えない男だった。(しかし、哲磨は見た目は凶悪そうだが、内面はそんなことはなく、意外といいやつではと俺は思った。)

 ちなみに淳一たちは浩香と仲良くしているクラスメートたちで浩香と一緒にいることが多くて図書館で浩香から勉強を教えてもらったりしているらしい。

 まあ、ともかく、浩香が答えると淳一たちはこう答えた。

「ああ、俺たちは今日、カラオケにでも行こうと思ってね。浩香も誘おうと思ったんだ。」

「ええ、そうよ。浩香、この前、音楽の時間に誰も歌わなかったベートーベンの難しい曲を歌ってたでしょ。だから、歌うのが好きなのかなって思ったの一緒に行きましょう」

「うん、それがいいよ。鴨下君も一緒に行こう」

「ああ、あのところで鴨下君と浩香はどんな関係で」

 哲磨が最後に無表情だが、どこか心配そうな口調で聞いた。

「ああ、聖夜と私は・・・」

 浩香は話しづらそうだったので俺が答えた。

「僕と浩香は実は付き合ってまして恋人同士なんです。僕がこの高校に転校しようと思ったのはこの学校のことを浩香から聞いていい学校だなって思ったからでして、僕が自然観察のイベントにたまたま出かけた時に浩香と会って意気投合して付き合うことになったんです。」

 俺がそう答えると淳一たちは一様に「おお」といった表情(ただ、哲磨だけは呆然としているようにも見えた。)になって言った。

「おお、そうだったんだ。浩香もやるな」

「ええ、浩香は私たちしか気づいてないみたいだけど、すごくかわいいからいい男をものにできると思ってたのよ。」

「うん、そうだね。」

「ああ、そうなのか」

 4人が言い終えると浩香もようやく話し始めた。

「ええ、そうよ。聖夜とはイベントでたまたまあって意気投合して付き合うことになったの、私と趣味も同じだから気が合っていいわね。」

「おお、そうなんだ。じゃあ、鴨下君も俺たちと行こう。楽しくやろう」

 淳一は笑顔で言った。

「ええ、そうですね。あ、僕のことは聖夜でいいんで、もっとラフに行きましょう」

「うん、そうね。じゃあ、行きましょう。浩香、聖夜」

「ああ、彩夏」

 俺は笑顔で答えた。

 というわけで俺たちは加茂駅から少し離れたカラオケボックスに行くことにした。

 彩夏が浩香に歌ってほしいと言い、淳一と拓斗も追随したので浩香は何曲も歌を歌った。

 浩香の歌はかわいらしい声ですごく上手く改めて素晴らしいと思った。

 淳一たちも俺と同じだったらしく浩香の歌を熱心に聞いていて、浩香に歌ってほしい曲を言っては浩香に歌ってもらった。

 浩香は楽しそうに歌を歌ってくれた。やはり、彼女は歌うのが好きなんだな。

 淳一たちは明日は学校はサボって中央区に遊びに行くつもりらしく、俺と浩香もどうかと誘ってきたが、俺たちは明日、作戦を決行するつもりだったから学校を休んだりしたら後で調べられたときにマズいと思い、断った。

 淳一たちは「真面目だね。」と感心していたが、少し残念そうにも見えた。

 まあ、ともかく、その日はそこで4人と別れ、俺たちは浩香の家に戻って明日の準備をして眠りについた。

 謙と伸太が襲ってきてから、桜がまた部下を差し向けてくるのではと心配していたんだが、そんなことはなかった。おそらく、桜は鴨川、つまり、俺を始末してから浩香を殺す気でいるんだろう

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