第4話 帰省
次の日、俺は8時に目が覚め、浩香はまだ眠っていたので食事の用意をすることにした。
俺は普段、パンとコーヒーだけだが、浩香がいるので大藪さんも大好きだったボロニアソーセージを輪切りにし、ハムを厚く切って焼き、パンにチーズを乗せて焼き、コーヒーを入れて一応、まともな朝食を作った。
食事をテーブルに置くと浩香の布団をはぐって浩香の形のいい尻を軽くたたいて浩香を起こした。
浩香は尻をたたかれると「きゃあ!」とかわいらしい声で悲鳴を上げたが、俺が食事ができたからというとすぐに服をつけてテーブルに着いた。
俺たちは食事をしながらテレビを見た。
テレビは昨日の事件一色だった。俺がエアライフルとコガモの入ったクーラーボックスを置いていったことから鳥を新潟で撃ち殺していたのは隆司たちだったとすでに推測されていてライフリングが一致するか調べられていると報道されていた。それと、隆司たちが拳銃を持っていたことからヤクザや犯罪組織が事件に関わっているのではすでに述べられていた。
「派手に報道されてるわね。これじゃ、しばらく動けないわ、まあ、染井吉野とかいう女も同じだけど」
浩香はコーヒーを飲みながら言った。
「ああ、全くだ。ところで浩香、この女に見覚えはないか?」
俺はアルバムをめくって桜の写真を見せた。
「この女、知らないわ、いったい誰なの?」
「ああ、こいつは尾崎桜っていう。俺の中学までのクラスメートだ。実は染井吉野っていう女の人相や年齢がこの尾崎桜と一致していてさ、もしかして浩香が知らないかと思ってね。」
「そう、聖夜の昔のクラスメートね。尾崎か嫌な名前ね。あのろくでもない記者を思い出すわ」
浩香はコーヒーを飲み干して不愉快そうに言った。
ちなみに何で浩香がそう思ったのかというとあの有名なゾルゲ事件でリヒャルト・ゾルゲと共謀してスパイ活動を行っていたある新聞記者の名前が尾崎で浩香はゾルゲ以上にその記者を毛嫌いしていてこいつとゾルゲさえいなければ日本ももっとましな未来があったかもしれないのにと思っていたかららしい。俺も浩香からその新聞記者の話を聞いてとんだ裏切り者だなと思った。こいつとゾルゲがいなければ戦争はどうなっただろうな。
まあ、ともかく、浩香が知らないと分かったので話はそれまでにしておいて俺はこれから吉野が浩香の命を狙ってくると思っていたので、色々と準備をすることにした。
俺はまず、手に入れておいた中古のパソコンとプリンターを使っていつも使っている偽造免許証とは別の免許証を何枚も作った。俺用だけじゃなくて浩香の分も用意した。年齢は俺は20~22歳、浩香は10代の少女にしか見えないので一八歳にしておいた。写真はハードオフで買った中古の旧式のデジタルカメラで撮り、印刷した。
それと、廃車置き場からナンバープレートを何枚か拝借した。これは車をどこかで手に入れた時、そのままだとすぐに盗難車だとバレてしまう。だから、付け替え用のプレートを手に入れたんだ。
それと、隆司の携帯にあった「ソメイヨシノ」という番号に公衆電話から電話してみたがすでにつながらない状態になっていた。やはり、染井吉野は隆司たちが殺されたことで警戒して番号を解約していたんだ。俺は予想はしていたが、結局、手がかりは皆無となったので残念だった。
俺は借家に戻り、テレビで捜査の状況を見た。俺たちが西区に置いてきたマークXが発見され、置き去りにしてきた隆司たちの携帯や空の財布が見つかったと出ていたが、俺たちにつながる証拠は全く出てこないようだった。
そのあと、着替えや必要なものをバックに詰め、浩香と一緒に南区に行くことにした。
理由は浩香は俺と違って全日制の高校に通っているので自宅に戻って普通に登校しないとおかしいと思われると思ったからだ。しかし、浩香1人ではマズいと思い、俺も浩香の家でしばらくは過ごすことにした。
浩香は俺が自宅まで一緒に来てくれると聞いて嬉しそうだった。
俺たちは世間では高校生なので電車とバスを乗り継いで浩香の家に向かうことにした。
俺はナンバープレートを手に入れてきたときに気づいていたが、隆司たちが俺たちに殺されたことで新潟市内に厳戒態勢が敷かれていて警官が街中にうろついているのが見て取れた。
しかし、俺たちは高校生のカップルにでも見えたのか警官たちは無関心なようだった。まあ、そうだろうな。高校生が拳銃を手に入れて5人も人間を殺すなんてのは日本では考えにくい
俺たちは電車で新津駅まで行き、そこからバスに乗って近くのバス停で降り、浩香の家に着いた。
浩香の家の周りは田んぼと畑ばかりで民家も少なく見るからに田舎といった場所で浩香の家は古い日本家屋だった。
しかし、浩香が手入れを欠かさずしているからか中は古びていたがきれいだった。俺たちは客室でしばらく過ごし、夕方のバスで街中まで行き、国道八号線沿いのレストランで食事をとった。
隆司たちから手に入れた金があるのでしばらくはふんだんに使える。俺はステーキを700グラム注文し、浩香も俺と同じで700グラムを頼んだ。
店員は俺たちが700グラムも注文したことで驚いていたが、俺が欧米はこのぐらい普通だというと納得したのか厨房に俺たちの注文を伝えに言った。
ステーキが来ると俺たちは速いスピードで平らげていった。ポテトも頼んだから時々、それを食べて口直しをし、瞬く間に俺たちは食べきった。
浩香はそれからアイスを頼み、俺はブラックコーヒーを頼んでそれを食べたり、飲んだりしながら話をして楽しく過ごした。
南区は交通の便はよくないので帰りはタクシーを呼んで浩香の家に帰った。
家に帰ると浩香はシャワーを浴びに行った。
浩香がシャワーを浴びているとき、俺は何か手がかりがないかと思い、二階の浩香の寝室に行ってみた。
浩香の寝室はクローゼットとたたまれた布団、それと机に積まれたたくさんの本があった。
机の上にはパソコンが置かれていて気になって見てみると浩香は小説を書いていて、その中には主人公(名前は変えてあったが浩香本人に違いなかった。)がデスノートを手にれて敵と戦う話やバトルロワイアルに参戦してクラスメートたちと死闘を演じる話もあった。
浩香の小説は軽く読んでみたが面白かった。話の中で主人公(正体は浩香)は敵を次々と倒していくが、名前は話によって変えてあるものの似たような名前になっていて設定は中学までのクラスメートとされているのに気づいた。
「待てよ。ということは」
俺は主人公の敵の正体は浩香の中学までのクラスメートだと直感した。だから、浩香の机からアルバムを探し出して見ると、浩香を苦しめていたクラスメートたちがすぐに分かった。浩香の小学校や中学校のクラスメートたちはほとんどが精神が未熟で不真面目さや愚かさがにじみ出ていて見た目の悪い奴が大半を占めていることもあって俺は見た瞬間から嫌悪感を抱いた。隆司の写真もアルバムに乗っていたが見るからにバカな男に見えた。
「ろくでもないな」
俺はアルバムをめくって小学生や中学生の時の浩香の写真も見たが、普通の人は何とも思わないかもしれないが俺はすごくかわいい美少女に見えた。浩香はほかのクラスメートと違って未熟さや愚かさはなく、知的で真面目な感じでこの中では異端の存在に見えた。俺は写真を見ながら浩香はこのクラスにいるべきではなくもっとまともな人たちと生活するべきだったんだなと思った。
「なるほどな。うん、この男は」
アルバムを見ていた俺はある男の写真にくぎ着けになった。その男は福島潟で桜と話していたあの男だったんだ。名前は高潔厚、浩香の小説では主人公を一番苦しめている最も憎むべき存在として描かれていて主人公がデスノートを手に入れる話とバトルロワイアルに参戦する話ではラスボス(いや、主人公が設定上、悪役とされていたので奴は正義のヒーローとされていた。もっとも、やっていることは普通の悪役と全く変わらなかったがな。)として描かれ、主人公とすさまじい戦いを繰り広げるさまが描かれていた。
「高潔厚、コウケツアツか」
俺は厚の名前を見てそのまま読めばコウケツアツと読めることに気づいて苦笑いした。
俺も厚は一目見たときからろくでもない奴だと思っていたし、小説では保育園から主人公を苦しめ続けてヘラヘラと笑っていたクズとして描かれていて、高血圧と同様、たちの悪い病気みたいな男だなと思ったんだ。
「うん、待てよ。」
俺は厚の写真を見ながらあることに気づいた。厚は福島潟で桜と親しげに話していた。ということは厚を尋問して吐かせれば桜がいまどこにいるかが分かるのではと思ったんだ。それに桜と親しいということは染井吉野の正体が桜かどうかも分かるかもしれない。
俺はそう思ってアルバムを手に客室に戻った。ちょうどその時、浩香がシャワーを浴び終えて戻ってきた。
「あがったわよ。」
浩香はタオルと冷えた水のペットボトルを手に入ってきたが、その時の浩香はやはり下着姿だった。
「ああ、あがったのか、ちょっと君の部屋に行かせてもらった。昔のアルバムと君の書いた小説を見させてもらったんだが、いい手が浮かんだんだ。」
「いい手、何なの?」
浩香は水を飲みながら聞いた。
「高潔厚って男は分かるよな。」
「ええ、あいつね。チクショウ、あいつのことを思い出すと虫唾が走るわ、私に飽きもせずにひどいことを」
浩香は厚の名前を聞いて怒りをあらわにしながら言った。やはり、厚が浩香を最も苦しめていたんだな。
「ああ、分かるよ。あの男が人間のクズだってことはな。実は朝、話した尾崎桜って女が昨日、福島潟に来ていてその高潔厚って男が桜と親しげに話してたんだ。だから、厚を締め上げれば桜が今どこにいるか分かると思ってな。」
俺がアルバムの厚の写真を見せながら言うと浩香も思い出したように言った。
「そう、そういえば、福島潟で厚がいてあいつ、女の子と話していたわね。その時は気にならなかったけど、思い出したわ、あの女が尾崎桜ってやつなのね。分かったわ、厚の家は信濃川の土手沿いの道の近くよ。そうと決まれば早速結構ね。隆司たちのほとぼりが冷めたらやりましょう」
「ああ、そうだな。厚にお返しをしてやろう」
俺は即答した。
俺は浩香から厚のことを聞いたが、厚は俺や浩香と違って家族や周りから好かれていて何不自由なく暮らしていたらしい。小学5年の時、父親が病気で死んだらしいが保険金が入り、厚と母親は大金を握ったらしかった。
厚は保育園の頃から浩香に悪口や陰口、からかいやいたずらのような低レベルの嫌がらせを毎日飽きずに中学卒業まで繰り返していたらしい。厚は保育園の頃から粗暴なところがあり、3歳か4歳くらいでチンピラみたいな口調でほかのクラスメートを脅していたこともあり、浩香はその時から厚と関わり合いになりたくないと思っていたのだが、厚がなぜか浩香に絡んでくるようになり、その時から飽きもせず嫌がらせを続け、ほかのクラスメートもこの男に追随する形でいじめに加わるようになったらしく、「厚さえいなければいじめに会うこともなかったのに」と浩香は怒りと悔しさが入り混じった荒々しい口調で答えた。
ちなみに浩香の右手の人差し指を踏んで変形させたのも厚で周りは偶然踏んだだけだと思っていたらしいが、明らかにワザと踏みつけているのが浩香には分かったらしく、ようやく足をどけて浩香が保健室まで行ったときにはニヤニヤとイヤらしい目つきで笑っていたらしかった。
厚の嫌がらせは中学になるとエスカレートし、浩香も我慢ができなくなって激昂して厚と口論になり、殴り合いになったこともあったらしいが、周りがすべて厚の味方で浩香には力がなかったため、勝つことはできず、いつも悔し涙を流す毎日だったらしい。中学を卒業して厚、そして、クラスメートたちと離れることができた時はほっとしたらしいが、もっと早くクラスメートたちと絶縁できていたらと思ったらしかった。
俺は浩香の話を聞いて厚にさらなる怒りを抱くとともに浩香に同情した。そして、厚を必ず抹殺すると誓った。
まあ、ともかく、その日は休むことにし、浩香が布団を二枚持ってきたので客室で布団をかぶって俺たちは寝ることにした。
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