第2話 再会

 カフェに着くと俺と浩香はコーヒーを一杯頼んで話をすることにした。

 俺はブラックのまま、浩香は砂糖とミルクをたくさん入れて飲んだ。浩香は幼いころから糖尿病になるとかで甘いものをまったく食べさせてもらえなくてその反動から大の甘党になってしまったらしかった。

 俺は浩香も両親から冷たくされていたのだと聞き、彼女に同情の念を覚えた。俺は彼女の話を熱心に聞いた。

 浩香は俺と同じで南区、かつての白根市に生まれたらしい。俺は街中に生まれたが、浩香は信濃川に近いさびれた地域に生まれたらしくまわりは田んぼと畑ばかりで特に何もない地域だったらしい

 浩香の両親は浩香が高校1年の時、父親が飲酒運転で事故を起こして死んだらしかった。しかし、両親はいつも浩香に冷たく当たっていたから浩香は両親の死を悲しむことはできなかったらしい

 浩香がその日、福島潟に来たのは浩香が昔から生き物や自然が好きで鳥にも興味があり、福島潟にはカモやタカを初めとする様々な鳥が生息しているのでその日はカモとタカを見に来たらしかった。

 浩香が好きな鳥はカモやガン、タカやワシ、ニワトリを初めとするキジ科の鳥、ダチョウやエミューのような走鳥類で浩香はカモやガンはオスの鮮やかな色合いや餌を探すときの行動が見てて飽きないし、タカやワシは肉食で力強いところがすごく気に入っていると話してくれた。

 浩香がカモやタカが好きな理由は俺と同じだったので俺はうれしかった。キジの仲間や走鳥類が好きな理由を聞くと浩香は保育園の頃から恐竜にはまっていて恐竜は爬虫類ではあるが実は鳥に近く、鳥は恐竜から進化した生き物でコンプソグナトスやコエルルスのような小型の肉食恐竜(浩香の話だとコエルロサウルス類というらしい。ちなみにあのティラノサウルスも同じ仲間らしくコエルロサウルスの仲間が巨大化したらしい)から進化したらしく、キジ科の鳥には小型の肉食恐竜とどこか似たところがあり、小型の肉食恐竜がどうだったのか想像できるので好きになったらしい

 同時に走鳥類もオルミトミムスやオビラプトルのようなダチョウのような体形の恐竜に似ているので、彼らの姿が想像できるので好きになったらしい。

 浩香は恐竜の話を楽しそうにしていて、俺が最初に見た時とは全く違う印象だったが自然な感じがしてこれが彼女の本当の姿なのだと俺は確信した。

 しかし、何でさっきは暗く無表情だったんだ?

 俺がそう思いながらコーヒーを飲み干すと、浩香が何かに気づいて聞いてきた。

「あ、鴨下さんは左利きなんですね。」

「ええ、そうですけど」

 俺はカップを手に言った。

「はい、実は私、保育園の頃から右手にケガをして右手が使えなくなることが多くて左利きなら鉛筆や箸を持つのに苦労しないのにと思って利き手を左手にしようと努力してたことがあったんです。努力のかいあって左手でもいろんなことが無理なくできるようになりましたけど、ペンと箸だけは使いこなせなかったですね。あ、すみません。バカなことを言っちゃって」

「あ、いえ、いいですよ。右手をケガすることが多かったんですか?大変でしたね。」

「ええ、ひどいケガをしたことがよくありました。手のひらをすりむいて砂が傷口に入って一時はどうなるかと思ったことがありましたし、卒業式の練習で転んで右手首をねんざしたことがありました。あと、転んでひじをケガしたことがあって、しかもようやくかさぶたが張ったと思ったら学校の先生に水泳の授業の時、かさぶたをはがされてまた痛い思いをしてしかも傷跡まで残っちゃったんです。これが傷跡です。」

 浩香は溜息をつくと右腕をまくって右ひじを見せてくれた。

 浩香の右ひじには火傷の跡のような傷跡がはっきりと残っていた。浩香が男だったら何とも思わなかったかもしれないが、浩香は女だ。自分の身体に傷が残るのはつらいだろうな。

 浩香は傷跡を見て辛そうな表情になっていた。やはり、傷跡が残ったのは辛かったんだな。しかし、俺はそんなことは気にしない。彼女に同情しながらこう続けた。

「そうですか、女の子なのにかわいそうですね。すみません。嫌なことを聞いちゃって、話を変えましょう。片田さんは普段は何を?」

「ええ、そうですね。すみません。私は普段は勉強をしてるか本を読んでるかですね。特に友達もいないんで」

 浩香は服の袖を戻しながら言った。

「友達がいないんですか?」

「ええ、いません。保育園の頃から私、クラスメートたちから嫌がらせを受けてました。お金を取られたり、暴力を受けたりはしませんでしたけど、毎日、いたずらやからかいのような嫌がらせをされたり、いつも仲間外れにされて悪口や暴言を浴びせられて毎日が辛かったです。それに着替えのときや歩いているときに身体を触られたり、スカートを突然、めくられたりすることもあってその時は恥ずかしくてたまらなかったです。あと、ワザと指を踏まれて指の形が変形しちゃったこともありましたよ。」

 浩香は溜息をつくと俺に右手の人差し指を見せてくれた。

 浩香の人差し指は何かで押しつぶしたように扁平になっていて左手の人差し指とは形が違っていた。そのときの後遺症か

「そんなこともあったんですか、ひどいですね。誰か助けてくれる人はいなかったんですか?」

「いえ、そんな人はいませんでしたよ。クラスメートたちは何故か人から好かれていて、私に何をしてもかばってもらえたんです。先生たちはクラスメートに大甘で何をやっても笑って済ませてました。私の両親も私にはやたら冷たいのによその子にはやたら甘くて私の肩を持ったことはありません。私には力もなかったから必死で耐えるしかなくて、中学を卒業するまでいじめはなくなりませんでした。まあ、高校になってからはクラスメートの顔ぶれが変わったんでいじめはなくなりましたけど」

「そうですか、今はいじめはなくなったんですね。」

 俺は明るく言ったが、浩香は暗い表情のままこう答えた。

「ええ、確かになくなりました。だけど、保育園から中学までいつもいじめを受けていたせいか人と全然、話してこなかったんで人とどう付き合っていいか分からなくなったんです。それにいつも嫌がらせをされてたんでまた、からかいや嫌がらせをされるんじゃないかって思うことがよく合ってそんなことはもうないはずなんですけど、ほかの人に話しかけたり、何かやろうとすると怖くてできなくなっちゃうことがよくあるんです。そのせいで学校でもいまも1人きりで図書館や図書室や空いている教室で勉強をしてるか本を読んでるかしかないんです。」

 浩香は苦しそうな表情で話し終えた。

 そうか、やっといじめがなくなったのにその時の後遺症でいまもそんな生活を送っているのか、俺は力があったからクラスメートたちをねじ伏せてやることもできたが、彼女はそんなこともできなかったから必死で耐えるしかなくてつらかっただろうな

 俺は浩香の話を聞いて俺と同じように苦しい人生を歩んできたのだと思って彼女に憐れみを覚え、同時に親近感を抱いた。だから、俺はこう続けた。

「そうですか、あの、片田さん」

「は、はい、何でしょう」

「僕とこれからお付き合いしていただけませんか?」

 俺がそういうと、浩香は信じられないという表情になって言った。

「わ、私とですか?い、いいんですか?私はこの通り、地味でさえない女ですよ。付き合っても楽しくないかもしれませんよ。」

 浩香は自虐的に答えたが、関係ないこう続けた。

「いえ、そんなことはありませんよ。片田さんは僕から見るとすごくかわいらしくて魅力的です。だから、付き合ってください」

 俺は笑顔で答えた。

 浩香はまだ信じられないといった表情だったが、何とか話し始めた。

「そ、そうなんですか、私のことそんなに、私も鴨下さんのことは美形で素敵な方だと思ってました。私でよかったらよろしくお願いします。」

 浩香は頭を下げた。

 そうか、浩香も俺のことを気に入ってくれてたのか、浩香が言うように俺は客観的に見れば整った顔立ちで見た目はいいほうだと思う。もっとも、容姿のことでほめられたことは一度もなかったがな。ありがとう

 俺は心の中でお礼を言いながら答えた。

「そうですか、ありがとうございます。じゃあ、これからはラフに行きましょう。浩香よろしく」

 俺は笑顔で答えた。

「ええ、そうですね。よろしく、聖夜」

 浩香も笑顔で答えた。

 それから、俺たちはまた、雑談をした。浩香は友達はいないが、親しげに接してくれるクラスメートが4、5人いるので彼らと付き合いながら友達の作り方などを学んでいきたいと話してくれた。

俺は銃器好きでオーストラリアで本物を撃ったことがあると話すと、意外なことに浩香も銃器好きらしく俺の話に乗ってきた。

 俺は女で銃器好きな人は浩香が初めてだったのでうれしくなって銃器について話した。浩香は熱心に聞いていた。

 浩香も保育園の頃から好きだったらしく、日本で拳銃を購入する方法がないか調べたことがあったらしいが、俺と同様、100パーセント不可能ではないものの事実上、購入は不可能といっていいくらいの規制がかけられていると分かって驚愕したらしかった。浩香は日本の銃規制を諸外国と同じくらいに緩和するべきだといつも思っていて、今の法律はGHQが作った日本の占領政策がもとになっているのだから、こんなものを日本の文化などと言って誇りにするのは愚の骨頂だと言っていた。そして、日本がもし、勝つか負けでも史実よりマシな負け方だったなら日本の銃刀法はいまのような狂気に満ちたものではなく、諸外国、特にドイツと似た利用と規制のバランスをとったものになっていたはずでそれならいまも日本で拳銃の購入は可能だったのにと残念がっていた。

 浩香は小学生の頃から歴史の本もよく読んでいてそのせいか第二次世界大戦のこともよく知っていて、昔の日本(それとドイツ)は運がなかっただけで実は戦争に勝てたと話してくれた。

 俺は日本(それとドイツ)が戦争に勝てていたと聞いて初めは信じられなかった。

 ドイツはともかく、日本がアメリカやイギリスに?それは無理だろとな。

 しかし、浩香の話を聞いているうちに日本(それとドイツ)が第二次世界大戦で勝利することは不可能ではないと思ったんだ。

 まあ、みんなは信じないかもしれないけどな。しかし、これは浩香と俺が勝手に考えた空想ではないんだ。本当だからな。

 それと浩香は狩猟に興味と関心があり、将来は散弾銃(日本で購入可能なのは事実上、散弾銃だけなんだ。浩香は本当はライフルを購入して狩猟を始めたいらしかった。)を購入して狩猟免許も取り、猟に出たいと話してくれた。俺も銃器雑誌を読んで狩猟に興味を持っていたので20歳になって堂々と散弾銃を購入できるようになったら射撃だけではなく、猟にも出たいと思っていたので浩香にその時は一緒に行こうと言った。

浩香はそれを聞いて嬉しそうだった。

 まあ、ともかく、俺と浩香はそんな雑談をして軽く軽食を取るとデートということで新潟市中央区に行くことにした。

 俺と浩香がビュー福島潟を出た時、福島潟でイベントを行っている団体が軽食の屋台を出しているのが見え、団体のメンバーや参加客が焼きそばや串焼きのような食べ物を買って楽しそうに食べているのが見えた。

 俺たちはその場から立ち去ろうとしたが、団体のメンバーたちを見ていた時、どうやらリーダー格らしい若い女を見て俺は「はっ」となった。

「桜」

 そう、その女は中学3年の時、忽然と姿を消した尾崎桜だった。

 桜は薄いピンク色のかわいらしいいい服を着ていてどうやら、かなりいい生活を送っていることがすぐに分かった。

 桜は学校で見た時と同様、周りから慕われているらしかった。この団体は桜がリーダーらしい。

「そういえば、桜は自然にかかわる仕事に就きたいと言ってたな。」

 俺は桜が昔、言っていたことを思い出した。自然を守りたいと思って環境保護団体を立ち上げたのか、今の桜には金があるみたいだな。しかし、桜は何で金持ちになれたんだ?父親や母親はどこにいて何をしてるんだ?

 俺はその時、様々な疑問が浮かんだが、その時は特に気にも留めなかった。するとその時、桜に1人の男が近寄ってくるのが見えた。

 その男は俺や浩香と同い年くらいで見た目は昔、スポーツ選手だった芸能人みたいな風貌で見た目はいいほうで普通の人は好印象を持ったと思う

 しかし、その男をよく見てその男には保育園児や小学校低学年のいわゆるバカガキやワルガキがそのまま成長したような印象で愚かさやイヤらしさが顔からにじみ出ていて、俺は見た瞬間からその男に生理的嫌悪感を覚えた。

「イヤな野郎だぜ」

 俺は品のない顔で桜と話し始めた男を見ながらそう思っていた。桜は楽しそうにその男と話していて仲がいいのはすぐに分かった。どういう仲なんだ?

 俺がそう思った時だった。

「あいつ」

 という殺気に満ちた声が聞こえて、浩香の方を見ると浩香は殺気に満ちたものすごい凶暴そうな顔つきになっていて男をにらみつけていた。

 俺はその時の浩香の表情を見て最初に感じたようにやはり、彼女は心に深い闇を抱えていたのだと直感した。この凶暴な表情から見て男と浩香の間で何か大きなことがあったに違いない。

「待てよ。ということはあいつが」

 俺は桜と話しているその男が浩香を苦しめていた昔のクラスメートだと直感した。

 浩香には友達がいない。それなのに浩香の知り合いということはクラスメートだったか、近所に住んでいたかのどちらかしかない。近所なら学校も同じだったはず、ということは奴が浩香を苦しめていたクラスメートに違いない。浩香に何をしたんだ。

 奴が浩香を苦しめていたクラスメートだと気づいて俺はそいつに憎悪を抱き、すぐに駆け付けてボコボコにしてやりたくなった。しかし、周りには人がたくさんいるし、ここで警察沙汰になるのはマズいと思って何とかこらえた。それに浩香をその日は楽しませてやりたかった。だから、奴をボコるのはまたの機会にして浩香と一緒にすぐに離れることにした。

「浩香、大丈夫か」

 俺は今、気づいたふりをしていった。

「あ、ええ、大丈夫よ。ちょっと、嫌なことを思い出しちゃったの、ごめんなさい。行きましょう」

 浩香は無理やり笑顔を作りながら言った。

 俺はそれに気づいていたが、気づかないふりをしながら言った。

「ああ、そうだな。」

 俺と浩香は中央区に向かうことにした。

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