そうして私は転生する

ちかえ

そうして私は転生する

 今日、私は処刑される。

 王族でありながらその王家の決定に逆らったその罪で。


 罪状は国家反逆罪。当たり前の事だろう。


 一貴族の娘なら両親が庇ってくれたりするのだろうが、私の場合は裁いているのが両親なのだからどうしようもない。兄弟は王位継承者が一人減ると大喜びしているのだろう。この国の王家というのはそういう家だ。


 そっと壁にかかった時計を見る。この牢屋にはご丁寧に時計とカレンダーがかかっているのだ。処刑まであと何日、何時間、と考えさせ、追いつめるためだろう。嫌な役目だ。時計に意思があれば、さぞかし嫌がる事だろう。


「あと、三分なのね」


 そっとひとりごちる。


 処刑が始まる時間を考えれば、看守が迎えに来るまであと三分くらいだ。


 私も腐っても王族。みすみすやる気はないが、いい気分はしない。


 とりあえず三分もあるので、いい事でも考える事にする。あと三分であの世に行くのに、いい事もないだろう。そう考え、そっと苦笑する。


 私が死んだら、私と仲良くしていた民達は怒るだろう。反乱でも起きるだろうか。革命でも起きればいいのに、と思う。そうすれば私も浮かばれる。

 ただ、彼らが無事ですむとは思えない。私の願いはただの余迷いごとだ。自分でもそんな事はよくわかっている。


 ああ、あと二分。私の最期が刻一刻と迫ってきている。


 昔は私も王家の出身として受けられる贅沢を当たり前だと思っていた。それは民の犠牲と果てしない侵略戦争によって受けられた事だと知るまでは私は幸せだった。

 知ってからはいろいろと努力をした。貴族の末端からゆっくりと味方を増やし、父王に意見を言える者に忠告してもらったりするよう働きかけたりしてみた。その中の一人が過激に走り、王を暗殺しようとしたという。

 でも、結果は押しつぶされただけ。彼らは殺され、首謀者である私はこうして処刑に処せられようとしている。

 私が声をかけた仲間は私の前で無惨に殺された。全員私の前で殺された。見せしめのために。いや、私をいたぶるために。


 あと一分。あと一分で私は死ぬ。


 人が死ぬと、転生というのをするという。魂は消えず、別の新しい体に入って新しい人生を生きるとか。

 それはなんて素敵な事だろう。もし、本当に転生というのをするのだったら楽しい人生を送りたいと思う。


「時間ですよ、王女殿下。いいや、もうあなたは王族ではありませんでしたね」


 時間よりはやく看守が入ってきた。予想通り騎士を連れてきている。舐めきっているのか下っ端っぽい弱そうな男だ。


「お支度は出来ましたか?」

「ええ。万事滞りなく。ありがとうございます」


 大人しく頭を下げる。看守はおかしくてたまらないようににやにやと笑っている。


 私は小さく、くすりと笑った。私の判断した三分は守ってあげましょう。


 あと六秒ある。これだけあれば十分だ。


 私は気合いを振り絞って看守の後ろの騎士に飛びかかった。


 女に反抗されるとは思わなかったのだろう。騎士は怯む。その隙に剣を奪った。本当に弱かった。情けない。


 三。

「な、何をする気だ!」

 看守が叫んでいるが、どうでもいい。


 二。

 私はさっと剣を自分に当てた。


 一!

「命乞いの……」

 最後まで聞こえないうちに私は剣を自分の胸元に突き立てた。回復させないよう魔力を使って意識を体から遠ざける。


 私の人生は終わった。



 そうして私は転生する。



 おぎゃあ、おぎゃあ、と声がする。何の声だろう。ゆっくりと意識を浮上させた。

 それは私の声だったようだ。


「あらあら、元気ねえ」


 よしよしと頭を撫でられる感触がする。その直後に頬にキスをされた。それが愛情から来るものだってすぐに分かった。


 私は本当に転生したようだ。それは自分の身体についている小さな手や足からも分かる。珍しくてグーパーグーパーとしてみる。


 それを見て近くにいた私の両親らしき男女は嬉しそうに微笑んだ。


 私はこれから本当にこの家庭で生きていくのだろうか。


 新しい母に文句はない。穏やかそうで優しくていい女性だ。

 新しい父にも文句はない。先ほどから母や私を気遣ってくれるのは優しい証拠だから。


 問題があるとすれば自分だった。私は前世でたくさんの人を死なせた。国を救うという大義名分でたくさんの命を犠牲にしたのだ。


 『私』はいらない。この幸福な家庭に『私の記憶』はいらないのだ。


「ふ、ふえ……」


 分かったら涙が出てきた。母親が『おお、よしよし』とあやしてくれる。そうして思い切り抱っこしてくれた。


 私はこの愛情を拒めない。嬉しいのだ。


 せめて三分だけこの愛情を一身に受けよう。それから『私』についての記憶を消すのだ。私の体には魔力があるようだから魔術を使えば自分の記憶くらい消せる。

 そう思ったら嬉しくなってきた。まだ三分は愛情を受けられるから。


「お前の腕が心地良いんだな。ほら、さっきまで泣いていたのにこんなに笑っている」


 父親が幸せそうにそんな事を言ってくる。


 あと二分。


 お父さんが私を取り上げ、お母さんの隣に寝かせてくれる。そうして何やら音のするものを振ってくる。これはおもちゃの一種だろうか。

 これは面白い。私はそれに条件反射で手を伸ばす。


 そんな事をしているうちに一分を切ってしまった。


 この温かい家庭ともお別れなのだ。

 寝たふりをして記憶を消そう。


「どこ行くの?」


 突然母親がこちらを勢いよく向いた。私はびくっとしてしまう。


「お前、いきなりどうしたんだ」


 父親もわけが分からないようで戸惑っている。


「分かんないの。この子がどっかに行っちゃうような気がして……」

「はぁ?」


 父親はわけが分からないようだ。私は心臓がばくばくしている。赤ちゃんなのに何でこんな緊張感にさらされなくてはいけないのだろう。


「ダメだからね。ずっとママとパパの側にいなさい! どっか行っちゃうなんてダメ!」


 そう言って抱きしめてくる。私はどうしたらいいのか分からなかった。ただ、ママは私をそのまま受け入れてくれている。それだけはよく分かった。


 ママの腕の中はとても温かい。もうしばらくだけここにいたい。


 私が測っていた三分はもうとうに過ぎてしまっていた。

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そうして私は転生する ちかえ @ChikaeK

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