第三話 甲賀の蛇・下
それは、三年ばかり前の記憶である。
「またサボりか?
「ん? ああ、
「丸兄さん、筆頭が
「あの人の
「蛇」の稽古を受けずに、
この二人以外にも、「
一人は、
もう一人は、
「そういえば、坊兄さんも最近来ないね」
「坊は我らと違って二十一家の生まれだからな。少々、しがらみがある」
「ところで、なんの用だ?」
落ちた葉っぱ目掛け飛刀を飛ばす三郎丸。しかし飛刀は葉の中心をずれ、貫けなかった。
三郎彦が続いて飛刀を投げた。三郎丸より
三郎丸は、
「やっぱり次の筆頭は彦兄さんだな。技の冴えが違う」
「それを決める時が来た」
しゅるり、とまるで蛇のように飛刀が三郎彦の手に戻る。三郎丸は目を丸くして、二人を見た。
「明日の夜、戌亥の移り変わり。この森でだよ」
「技を競い、最も「蛇」を会得していた者が三郎になる」
「無駄なことするなあ……彦兄さんでいいだろうってのに」
頭をかいた三郎丸は
三郎彦は、あらゆる
そんな三郎丸の心を
「いいか丸、俺が優れているのは、お前より三年早く生まれていたからだ。――同い年であったなら、お前がもっと稽古を積んだなら俺すら越えるだろうさ」
「これまた
「僕は諦めてないけどね! やるからには全力で挑むよ!」
「助は気合充分だなあ。んじゃあ、
そしてその次の日。――三郎彦と三郎助は、三郎坊によって
「シェェエエイ!」
「ぐうっ!!」
あの
「クハハハハ、やはり
それは、
そして、
「
「ぐぁっ……!」
その
「やはり、
「うるせえ! なにが
だがその蛇の頭は、またも鎌によって
「状況を見ている? なにをたわけたことを言っている? 筆頭が次代と呼んだお前がこの
「この俺の
「ぐう……」
分かっている。蛇の腕が足りぬことぐらい。ただそれでも、彦と助が死に、遺された自分と坊。その中で筆頭は丸を選んだ。
なぜ
言われるまでもない。それを一番知っているのは、他ならぬ三郎丸自身なのだ。
「ここで死ね、丸。貴様を殺し、俺が
三郎坊が、印地を飛ばす。その
その石は三郎丸の
「ちくしょう……!」
こんなところで、
頭が潰れるまで、あと三尺――だった、その時
ビュゥウン!
「なに!?」
目の前を、なにかが
「
なにが起きたのか、
「
「
一刀斎、その人であった――。
「なぜだ、なぜ
「
「あの
「ああ、すこぶる
そう
「
落ち着きを取り戻したのか、三郎坊は
「ようやく、お前の蛇を見せてくれるのか。だいぶ隠したな」
「────なに?」
三郎坊は初めて、
「なにをとぼけたことを、今までさんざん見てきただろうに」
その言葉に、今度は一刀斎が首をかしげた。
「とぼけているのはどっちだ。お前のそれのいったいなにが蛇だという?」
腰の甕割を
「蛇が
「三郎丸の技の方が、よほど蛇だったぞ」
「──!」
「貴様ァアアアアアア!!」
「蛇の真似事ですらない」。そう
だが一刀斎は、ただ三郎坊だけに視線をやって
「
「だから、
そして、
「貴様のそれは、
「ッ!」
刀を振り上げ
だがしかし一刀斎のその
「
「ガァアアッ!!」
「……すげえ」
これが、武芸者か。脚が動かなくてよかった。お陰で、腰を抜かしたことに気がつかない。
三郎坊へと斬り掛かるその背中は、大きく
一刀斎のその技に、目を
「無事か、三郎丸」
振り向いた一刀斎は、そんな三郎丸の心を
「ああ無事だ。…………って
ついでに腰も抜かした。
「ちょいと
「むう……それは
「
「なに、本当か?」
さっきの
──あとは西に向かうつもりで東に行ったのが、一刀斎の
「そういうことなら、感謝する。よく送ってくれた」
「いや、感謝するのは、俺のほうだよ」
だが当の本人はなんの
そんな様子を見て、つくづく愉快な奴だとケラケラ笑う三郎丸。
「ほら、行きな。
「そうか。なら──さらばだ、三郎丸。いずれ会う
「ああ、その時は俺は三郎丸じゃなく、甲賀三郎になってるがな!」
ゆるい坂を、ゆっくりと下りていく一刀斎。
その背を
鎌の柄はスッパリと切られ、斬られた胴体からは
「!?」
――飛刀が、飛んできた。
「三郎坊、お前……」
むくり、と身体が
「おれが、おれこそが、甲賀、三郎」
剥いた目は
奴は
──
「っ、なんだ!?」
「大丈夫だよ。
その誰かが、気配を
だがしかし、それゆえに、
代わりに三郎坊を見てみれば、
「この香は
妻を
ああそうだ、淡い色の
「
「……忍は、もうやめたんじゃあなかったのか」
「ああ、やめたよ。今は
一刀斎の
「さて、そろそろ痛みも引いたかな。……ご
その言葉と同時に、
なんということだ。今さっき忍はもうやめたと言っていたのに、
あれを
だがしかし、全て吐ききった心に残ったのは、溢れんばかりの、
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