第五話 発才者

 柳生やぎゅうさとかぜつめたい。だが、秋の日差ひざしはよくりつけ、さむいとおもうことはなかった。

 散策さんさくに出てみれば、農民のうみんたちは秋野菜あきやさい収穫しゅうかくし、子どもたちはくらべやいしげをして遊んでいる。子ども達の中には、青年せいねんじって走り方や投げ方をおしえている者もいた。

 なんとものどかな雰囲気ふんいきだ。ここをおさめる新左衛門しんざえもんうつわがありありとつたわる。

「良い場所だな」

「はぁ……そうだな……」

 相槌あいづちじりに、となりを歩く女に溜息ためいきいた。月白である。

 朝食ちょうしょくのあと、さとようと柳生やぎゅうていを出てみれば、そのまま彼女かのじょが着いてきたのだ。

伯父おじうえかおわせにくくてね。伯父上はわたしよりも医術いじゅつ達者たっしゃ伊達だて医聖いせいなどと呼ばれていない。一緒いっしょにいれば夜のことをさとられかねない」

 夜のこと。それはつまり、おのれむつみあったことだろう。ふっと脳裡のうり月白つきしろ艶姿あですがたよみがえるが、左腰ひだりこしにじんわりとねつかんじてハッとわれかえる。なんだか今日は甕割かめわり機嫌きげんわるい。

 それとも自分が甕割にを感じているのか。

「ま、朝食の段階だんかいで気付いている可能性もあるんだが。それはそれで詰問きつもんされるのが面倒めんどうくさいから逃げた次第しだいだ」

「……おれと一緒に行動する方が、余計よけいあやしまれると思うが?」

わけ未来さきのわたしにまかせるさ」

 あっけらかんとはなつ月白。奔放ほんぽうとしているが、医者いしゃとしての能力のうりょくわるくない、と思う。なにせ、見て、触れただけで己の来歴らいれきをある程度ていどまるはだかにしたのだから。

 あとは肝心の医術うでだが。

天下一てんかいち医者いしゃになる、と言っていたが」

実力じつりょく不安ふあんか?」

 そのながかたちのいい目でもって、こちらをながに見る月白。自覚じかくがあるのかないのか、仕草しぐさにいちいちいろく。

「まだまだ修行しゅぎょうちゅうだからね。今のままで満足まんぞくはしていないさ」

 まだまだと言いつつも、その様子にあせりはない。自分が天下一の医者となる、確信かくしんめいたものをいだいているのか。あるいは、その道程みちのりの長さを知っている故のおだやかさか。

「……まあ、伯父上からはそんなものを目指めざすな、と言われているんだがね」

「そうなのか?」

「ああ。天下一の医者など、そんなものは世にはいらないとさ。だがわたしはなりたいんだ。あらゆるやまいいやなおせる医者にね」

 その言葉は、まさしく赤心せきしんから出た言葉であった。純真じゅんしん無垢むくに笑う姿は、じゅう前後ぜんご幼子おさなごにも思える。

 なれるだろう、と言われるおのれと違い、なるな目指すなと言われてなお目指すそのこころ意気いきには、感服かんぷくせざるをえない。

「ところで、一刀斎はなぜ天下一てんかいち剣豪けんごうを目指すんだ?」

「なぜ、か」

 剣を知りたい。その思いで伊東いとうの地をって三年。日々ひび天下一を目指すとは思っていても、なぜかを考えたことはなかったと思う。

 なれると言われていたから目指した、というのが本音ほんねであるが、今や、己の夢であることには間違いない。

 腰の甕割に、あつさを感じる。……答えはひとつか。と、一刀斎はふっと笑う。

「──たのしいからだな、剣を振るのが」

「ほう?」

 その答えに、月白は首をかしげて一刀斎の顔を覗き込む。興味きょうみ津々しんしんといった風で、目は爛々らんらんかがやいていた。

上手うまく振るえると気持きもちがいい。剣を振らない日は、気が乗らん。子どもの頃は、木を切るのになたを振っていたからな」

「家は木こりだったのか?」

「父は流人るにん、母は流人るにん家系かけいだった」

 しまった。と一刀斎は足を止める。

 素直すなおすぎるのも考えものだ。いや、この女傑じょけつ無闇むやみこわがったり、さげすんだりような気質きしつはしていないが、それでも女に、この天気てんきのなか散歩さんぽしている時にする話ではない。

 だが月白は、その穏やかな笑顔をくずすこともせず。

「大切なのは、君が何をなしたかと親が君に何を残したかだ。流人の子だというだけで、うとまれるいわれはないだろう?」

 心が、わずかばかりに軽くなった。融けた鉄のように重々しかった己の血が、ぬるくなる。

「まあ、罪はおかしたがな。七人しちにん切った」

「気にはやって失敗しっぱいするのは誰しもあることだよ。たしかに少々過激だが、それほどまでにその巫女みこしたっていたということだろう。わたしはいとしいと思うぞ。その行動を」

「またお前は……」

 なぜこの月白と言う女はなんでもかんでも受け入れるのか。これは間違いなく魔性ましょうの女だと一刀斎は確信する。甕割かめわり警戒けいかいしている理由が分かった。

 あまり月白に入れ込むと身がほろびかねない。煩悩ぼんのうを斬るというのなら、彼女におぼれるなということだろう。

「そこの若いご夫婦ふうふ、すまない」

 さてどうやって月白をはなそうものかと思案しあんしていた時、二人の目の前に男が現れた。

 見るからにたびものという風体ふうていの、一刀斎とあたまなら大男おおおとこ。だが、一刀斎とくらべても肩幅かたはばが広く、大ぶりな手を見るに羽織はおりかくれる腕もふとい。年はまだ若そうだ。

 ──だが強い。一刀斎は確信かくしんする。しかしこの気配は武芸者ぶげいしゃのものではない。いつか見た、将軍しょうぐん帰京ききょう行進こうしんの中に、複数ふくすうあったものに似ている。

 つまりこの男は、どこかの武将。

「この柳生の郷の者だろうか?」

「まずおれ達は夫婦めおとではないが…………おれは柳生やぎゅう新左衛門しんざえもん殿どのの客だ」

 客。その言葉に、男は目をひらいた。

「つまり我々われわれと同じく者だろうか? どこのくにものだ?」

「うん……? おれの生まれは伊豆いずだが?」

「わたしはきょうの生まれだが伯父上……曲直瀬まなせ道三に勝手についてきただけですよ」

 おとこのなにか見当けんとうがあるような訊いに、一刀斎たちは首をかしげながら答える。

 すると男は「そうか……」とどこか気の抜けたようで、だがすぐに真顔まがおもどる。

「実は、自分は柳生殿に呼ばれた者で……。柳生殿の屋敷は、あそこで間違いないか?」

 男がしたのは、村よりだかおかにある、まさしく柳生新左衛門の屋敷である。

「ああ、そうだ」

「分かりもうした。感謝かんしゃする」

 男はかさに指を掛け軽く礼をすると、そのまま屋敷へと向かっていった。

 しかし昨日きのう今日きょうで、あたらしい客がこう続くものだろうか。

「……もしかしたら、おれ達はまねかねざる客だったのか?」

「わたしは間違いなくそうだろうな」

 この柳生の郷を挟む山のように、ゆたかな胸をって言う月白に「自慢じまんげに言うことか」と溜息を吐く一刀斎。

 と、そこに。

「うわぁああああああん!」

 秋空あきぞらひびかす、かんだかい声。

 二人が同時にそちらを向くと、なにやら木のふもとで子どもが泣いていて、他の子どもたちもまわりで腰を抜かしている。

「なにか起きたのか?」と、一刀斎がくちばしるより早く、月白がけ出していた。

「どうかしたのかな? ぼうやたち?」

「こいつ、転んだんだよ!」

「痛い! 痛いいい!」

「痛いか、痛いと分かる内は大丈夫だいじょうぶだぞぼうや」

 月白は笑顔のままで、打掛うちかけもどきの羽織はおりを脱ぐやいなや、おびから組紐くみひもり出すとさっとながかみわえた。あざやかな手際てぎわである。

 そのままかがんで、子どもたちの目線たかさに合わせる。

「転んだだけでこうは泣かないと思うけれど、どうかしたのか?」

「この根っこに引っかかって……」

「もたついてた!」

「足がからんだりしていたかな?」

「あたし変にまがんのがみえた!」

 きわめく少年にではなく、まわりの子どもたちにたずねる月白。訊ねる調子は決して高圧こうあつ的で鬼気ききせまるようなものではなく、柔和にゅうわで落ち着き払ったものであり、子どもたちもそれに影響を受けてか、冷静に答えられている。

 その白い指で、少年の小さい足をやさしくさわる。

 少年が、小さくうめいた。

「なるほど、体勢たいせいを立て直そうとしてひねってしまったかな。いたいな。よし泣け、涙のついでに不安も一緒に出してしまえ」

 月白は優しく少年のあたまでる。そして、どういう手品てじなか羽織のうちから手拭てぬぐいを出し、他の子どもに手渡す。

「近くに、川はあるかな? これを冷やしてきてくれ」

「う、うんわかった!」

 すぐ側を子どもが駆けていったところで、一刀斎はハッとして、子ども達のところへ向かう。

「冷やすのか?」

「最初はな。だが、落ち着いたら暖めるのが良い。血がとどこおるとなおりが悪くなるからな」

「持ってきたよ!」

 あっという間に、手拭いを冷やしにいった子どもが戻ってくる。月白は「ありがとう」とその子の頭を撫でると、再び羽織に手を伸ばした。

 羽織を見てみれば、内側にはいくつかの布袋ぬのぶくろい着いていた。なるほど、さっきの手拭いはここから出したのかと得心とくしんした。

 月白は迷わずその布袋の一つから軟膏なんこうらしきものを取り出すと、サッとってから患部かんぶに手拭いを当て、たすきを切って巻き止める。

 深呼吸を二度するよりも早い。

「これでよし、と。大丈夫か?」

 気づけば、先程まで大泣きしていた少年はもう泣き止んでいる。未だに鼻水はなみずなみだは流しているが、だいぶ心は落ち着いたようだ。

「家はどこかな。後で、くすりを持ってきてやろう」

「あ、この村には薬あるから大丈夫だよ!」

「ほう、そうなのか。さすが柳生の郷だ。薬草やくそう宝庫ほうこなだけはある」

 ニッコリと微笑みながら、元気に横槍よこやりをいれた少女の頭を撫でる。少女は頬を赤くして、目をそむけてしまった。

 ……女子どもさえ魅了するのか、この女は。

 とはいえ、子どもが泣いてからの行動こうどう処置しょちの早さ、異常いじょう感知かんちりょくはかなりのものに思える。さいばしる、とはこのようなことを言うのだろう。

「すごいな、月白は」

「なに、この程度は初歩だよ。とはいえ、めてくれてありがとう」

 月白は立ち上がると、髪をむすんでいたひもほどいて、タスキをかけ直して羽織を着る。こういう一つ一つの所作しょさにさえ、冴えと色気いろけがあった。

「じゃあな、ぼうやたち」

 月白は、一刀斎さえおいてそのままけ去っていく。

 思わずそのまま背中せなかを見送っていると、子どもの一人ががひざ小突こづいてきた。

「お兄ちゃんのおねえさん、すごいね」

「あれはおれのじゃないぞ、坊主ぼうず


「いやあ! 今朝けさのわたしはカッコよかった! カッコよかったな! 特に去りぎわ!」

「カッコつけてやったんだなあれは……」

 その日の夜。月白は一刀斎の借りる部屋へやの前でまたもや酒を飲んでいた。

 それで確信かくしんする。月白は酒をこのむがよわいし、自分はかないがつよい。

「それにしても、どういったあつまりなのだろうな、あれは」

 夕方ゆうがた、新左衛門の屋敷やしきに戻っているとたび草鞋わらじがいくつも並んでいた。

 炊事場すいじばのぞいてみれば、もも女中じょちゅうたちが大量たいりょう料理りょうり用意よういしていて、まさにてんやわんやと言った様子ようす。途中からは新左衛門も混じって、料理を作っていた。

 そしてその夕食、客間に行ってみれば二の間へ続くふすまが取り払われて、目一杯めいっぱいの客が座っていた。

 そして、そのかお触ぶれは。

そうや、武将ぶしょう目立めだったが」

「なんだかむずかしいことをかんがえているなあ一刀斎。飲め! 飲んで気分を軽くするのが良いぞ!」

 くちをへにゃへにゃに曲げながらからんでくる月白を退けながら、ふむ、と考え込む。

 どうやら昨日言っていた来客らいきゃくというのは、曲直瀬道三だけではないらしい。そういえば、新左衛門は松永家の顔役と言っていた。それとなにか関係があるのだろうか。

 夕食が終わったとき、なにやら空気がピンと張った気配がしたのでそそくさと退散たいさんしたのだが。

「一刀斎……そばに女がいる時に他のことを考えるのはダメだぞー?」

「酔っ払いは女として見れん」

 あえなくそでにされ、「一刀斎のばーか」と子ども染みたことを言い放ち、一刀斎の部屋に上がり込んでふて寝する月白。今朝のたのもしい月白はどこへいってしまったのやら。あきやまからりてきた、人をかす化生けしょうたぐいだったのか。

 昨日の今日だと言うのに、まるでりていない。

「今日はさそいには乗らんぞ」

「男が吐精とせいするのは日をおいた方が健康けんこうに良いんだ。だから今日はやらない。それとも期待していたか?」

 無言むごん。だがそれは肯定こうていでもある。なんとも己がなさけない。新左衛門にこころきたえるよう言われたが、違う意味でも心を鍛える重要じゅうようせい認識にんしきする。

 はあ、と溜め息を吐くと同時に、背中に心地ここちおもさがのしかり、腰に細い腕を回された。

「お前、それでも僧籍そうせきめいか?」

「伯父上は僧籍にいるがわたしは違うからな」

 肩に乗せられたあごから、さけくさくもこそばゆい息が吐かれ、撫でられた耳が熱くなる。

「人にあまえすぎだと思うぞ。月白」

「……甘えられることは、少なかったからね」

「なに?」

 背中せなかかるくなり、月白が隣に座り込む。その顔はいつも通りのほほみを湛えているが、どこかさびしげで。

「今朝は君の生い立ちを聞いたから、次はわたしの番だ。いいかな?」

「構わない」

「君なら快諾かいだくしてくれると思っていたよ。……わたしはね、おさなくして両親りょうしん共々ともどもくしたんだ」

 その言葉に、意外いがいさはなかった。昨日の道三の口ぶりから、彼が月白をそだてていたらしいことは予想がつく。

「わたしにはあとはあにがいてね。それがわたしに似ないで素直すなおな奴でな、伯父上の弟子として、うでみがいているんだ。……わたしは、その医術いじゅつおしえてもらえなかった」

ぬすて、といっていたな」

 一刀斎の相槌あいづちに、あしほうりながら「ああ」と一言。月影つきかげが、彼女の細く形の良いふくらはぎを青白くらしている。

「わたしはそれがどうにもくやしくてね。自由じゆうにしていて良いと言われたが、ならば医学いがく勉強べんきょうをする! と、そのわざをひたすらよこで見ていた。こっそり、医学いがくしょぬすんでんだりもしたな。弟子でしの中には面白おもしろ半分はんぶん知識ちしきつたえてくれる者もいたよ。まあ、うそを教えてくる奴もいたが、質問に質問を重ねてこまらせてやった」

 笑いながら語る月白だが、今だその顔には、一抹いちまつさびしさが残っている。

「伯父上も、わたし達と同じぐらいの頃に両親を亡くしていてね。僧籍に入ったのもそういう理由でなんだが、相当そうとう苦労くろうしたんだろう。兄もわたしも、その手でしっかり育ててくれた。このおうぎも、伯父上が護身用にとくれたものなんだ。こう見えても一応いちおう尊敬そんけいはしているんだぞ、伯父上のことは」

 それは、何となく感じていた。道三に対してはぐらかすようにヘソ曲がりなことを言ったり、屁理屈へりくつをこねたりするところはあるが、それでもその言葉ことばには、敬愛けいあいじょうふくまれている。

 道三がどこか月白にあまいのも、それが分かっているからだろう。

「……わたしがね、一刀斎。わたしが天下一の医者になりたいのは、もう伯父上や、わたしや兄のような者を、生みたくないからなんだよ。……子どもには、親が必要ひつようだ」

 その感覚は、一刀斎には分かりにくい。自分が親に教わったことは、たった二つ。

 薪割りに見せかけた、振り下ろしの仕方と、あとは。

「……人が死ぬのは、やるべきことが全部終わった時だ」

「え?」

「死んだ親父おやじの言葉だ。なぜか頭に残っている」

 一刀斎は、ただその言葉を額面がくめんどおりに受け取っていた。だがしかし、今はその言葉の真意しんいが見えてきた。

「親父は、疲れていたんだろうな。やまいいくさあだち、あやまってころす。そんなことが横行おうこうするこの世の中だ。父は、剣客らしかった。きっと、多くの命を終わらせてきた。死につづけて、だから、疲れ果て、──諦めたんだろう」

 諦めたから、剣を手放したのかも知れない。自分は所詮しょせん、死を振りまくことしか出来ない人間だと。剣を修めることが出来ない人間だと。

 疲れ果てたから、あの島に流れたのかもしれない。誰も己を知らず、殺しに来たりしない場所に。

 誰も殺さなくて、む場所に。

「月白、お前はすごいと思う。お前は諦めていない。病にあらがおうとしている。横行する死の一端いったんになう、剣客の俺が言うことではないかもしれないが」

 一拍おいて、月を見上げながら。

「お前は、天下一の医者になれる女だ。──立派りっぱな」

 立派な奴だ。言いきろうとした瞬間に、月白が体全体を預けてきた。胸に頭を押し付けて、一刀斎の小袖を、強く掴み。

 月白程度の重みでは、倒れることなどない。一刀斎は驚きながらも、しっかりと受け止める。

「──月白? どうした」

「…………ああ、いや、うん、どうしたのかな。自分でもわからないや。……来てよかったなあ。伯父上へのいやがらせのつもりだったのに。……ふふふ」

 胸の中で発された声は、くぐもっていて、どこか震えている。だがそれは、今まで月白が纏っていたうるんだ切なさはなくなっていて。

 いとおしい。胸の中で発されたせいか。言葉が耳を介さずに、直接一刀斎の心を揺らした。

 抱き締めたい。心の底から、そう思った。──だがその時。

「あー……お取り込み中のところ、ちょっと、申し訳ねえんだけどよお……」

 唐突とうとつに現れた闖入ちんにゅうしゃに、月白と一刀斎はばっと離れる。

 みられた。まちがいなく、みられた。

 二人ふたりをバッサリいたのは、あのなつくもごとき男。その身のうちいかずちめた新当しんとう流の達人たつじん。この柳生の食客しょっかくであり、ここまで一刀斎をつれてきた雲林院うじい松軒しょうけんその人だ。

 いきなり出てきて心臓しんぞうわるいのは、まさに雷そのものである。

「……ど、どうした、松軒。なにやら大事な話をしていたんじゃなかったか」

「おうさあ、それでなあ、一刀斎。お前に用があんだよなあ」

 いまいちばつが悪そうな松軒のその言葉に、一刀斎と月白は首をかしげる。

「──織田尾張守と、直接話したお前が要る」

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