第3話 辿り着いた本丸は

「アイテムもゲットしたし、本丸に特攻するぞ!」

「構いませんが、ちゃんと考えてます?」

「勿論。まず、この指を受付に持って行ってだな……」

「はい」

「話がわかる人を連れてこいと叫ぶ」

「叫ぶの!? なんで!?」

「ドラマとかだと大体こんな感じだろ」

「ドラマ参考にすんな! だめですよ、絵面が完全に猟奇的なそれじゃないですか」

「そう?」

「来るのは話がわかる人じゃなくて警察でしょうね」

「あ、まずい。依頼主来るじゃん」

「来ますよ。やめましょう」

「じゃあどうする?」

「僕に聞きます?」


 曽根崎さんが、期待を込めた眼差しでこちらを見つめている。やめろ。積極的に僕の意見聞こうとするな。頼りにするな僕を。

 だけど、このままだと曽根崎さんが連行されそうだしなあ。片手で髪をかきあげ少し考えた後、提案する。


「……僕が、受付の人と話しましょう」

「お、ラッキー」

「ラッキー言うな! 警察呼ばれたらすぐ曽根崎さんを売りますからね!」

「絶対君も道連れにする」

「やめてください!」

 

 しかし、僕が行くと決まったものの、今の時刻は午後5時。果たして、今から行って話を取り次いでくれるものだろうか。

 曽根崎さんに問うと、ケロリとした顔で返してきた。


「通すに決まってるだろ。訳のわからん物体が、弄ぶように狙ってきてるんだぞ」


 それもそうか。じゃあいいか。

 こうして、僕たちは謎の小指が狙う場所へと向かったのであった。





「着いたぞ。ここだ」

「ここって……」


 曽根崎さんが指し示す建物を見上げる。まるで箱のような見た目の、何の変哲もない建造物だ。しかし、僕が驚いたのはそこではない。


「幸山バイオ研究所じゃないですか」


 文系の僕ですら知っている、地元では有名な企業だ。農作物の遺伝子組み換えなどを主な研究対象とし、就職先として希望する大学生も多い。

 だけど、なぜ小指モグラはここを狙っているのだろう。

 腕組みをする僕に、曽根崎さんは中に入るよう促す。


「頼んだぞ、景清君」

「はいはい」


 ポケットに入れたハンカチに包んだ小指の存在を確認し、自動ドアを潜り抜ける。清潔で、いっそ殺風景なロビーだ。僕は曽根崎さんを連れて、ポツンと設置された受付に向かう。

 受付に人はいない。代わりに、インターホンが置いてあった。呼び出しボタンを押し、しばらく待つ。


「……どちら様でしょうか」


 生身だが、機械的な女性の声がした。僕は、意を決して用件を告げる。


「……このたび、幸山社長からのご依頼を受けました曽根崎と申します。経過報告に上がりました」

「事前のアポイントメントはおありですか」

「いえ、事態は急を要しましておりまして」

「そうですか。では、確認してまいります」

「ああ、その前に、お伝えいただきたいことがあります」

「なんですか」


 恐らく、これを伝えると伝えないとでは、対応は180度違うだろう。向こうに心当たりが無ければ、通報ものだけど。


「……新しい小指を手に入れました、と」


 さあ、どうなる。


「承知しました」


 特に相手側に動揺もなく、通話が切れる。……これで良かっただろうか。僕はフーッとため息をつき、曽根崎さんを振り返った。

 が、曽根崎さんは人差し指を口に当ててこちらを睨んでいる。なんで? なんか悪かった?

 怪訝な顔をしていると、曽根崎さんはトコトコやってきて、突然僕の頭を撫でた。


「な、何するんですか!」

「あれ、違ったか。上手に取次ができたから褒めたかったんだが……」

「子どもじゃないんですから!」

「……防犯カメラで見られてる。せっかく上手くできたんだ、抜かるなよ」


 僕にしか聞こえないよう、耳元で囁かれる。ああ、なるほど。その為の人差し指だったのか。

 っていうか、それに気づけるほど用心深いのに、この人なんで受付で叫ぼうとしてたんだ。やっぱわかんねぇな。


「……来てくれますかね」

「危機管理ができている人間なら来るよ」

「できてない人だったら?」

「どうなるかな。小指側の思惑がまだわからんから、なんとも言えん」


 そこまで話した時だった。受付の後ろにあるドアが、薄く開いた。


「どうぞお入りください」


 先ほどの機械的な声の女性である。曽根崎さんを振り返ると、小さく頷き、中に入るよう目で促してきた。いや、アンタが先行けよ。なんで僕だ。弾除けか。

 しかし、ここで揉めていても不審がられるだけである。後で覚えとけと心の中で毒づきながら、奥へと足を踏み入れることにしたのだった。

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