第20話:2人のすれ違い。そして、真琴・旅立ちの時…。

飛鳥の父・雅輝から衝撃の電話があってから2日ほど過ぎたとある平日の鈴ヶ丘にて。

現在、終わりのホームルームが行われていた。

そして、ここは1-A。飛鳥と真琴たちのクラス。

担任の毬茂が壇上に立っていた。

ざわざわと騒がしいクラス内を静かにしようと、パンパンっ!と、手を叩く。


「はーい、皆さん静かにしてくださーい!今から、終わりのホームルームをはじめまーす!」


毬茂がそう言うと、生徒たちは一斉に静かに席に着いた。


「えー今日は、皆さんにとってもとても大切なお話しがあります。楠木さん、前に来てくれるかしら?」

「は、はい。」


と、毬茂から言われ、真琴は毬茂の隣にやって来た。

クラスメイトたちの前に来た真琴は、少し元気が無さそうだった。


「えっと、とても急な話しではあるのですが、楠木さんは、明日からテレビのCMや映画の撮影に入る為、1学期の間、この学校を休むことになりました。」


と毬茂が言うと、生徒たちはみな、声を揃えて、「えーっ?!」と、驚きを隠せなかった。

そして、教室内は更にざわついた。


「はいはーい、しーずーかーにー!楠木さん?みんなに挨拶お願いね。」

「は、はい。」


そう言われ、真琴は、すぅ~…、と、息をして、その息を吐いたあと、こう切り出した。


「み、皆さん。急にこんなことになってしまい、本当にすいません。皆さんもご存知のように、私は、読者モデルのお仕事をしていましたが、先日、今の事務所から新しい事務所へ移籍したのですが、そこの社長…、えーと、悠生さんのお父様が代表なんですが、悠生さんのお父様の指示で、読者モデルはそろそろ卒業して、テレビの仕事、やってみないか?と言われ、私も承諾しました。

それで、明日からのお仕事が、移籍して最初のお仕事になる予定です。

CMの撮影と、映画の撮影、平行して行われるようなので、1学期の間はずっと休むことになります。ので、次に皆さんにお会い出来るのは、2学期、と言う事になります。ホント、すいません。」


と、真琴の長い説明のあと、教室内にはどよめきが起きた。


「真琴さん、読者モデル卒業しちゃうの?」

「ってか、悠生さんのお父さんが事務所の社長、って、それ、どうゆうこと?」


などなど、教室内が更にざわついた。


と、そこで、ある女子生徒が手を挙げた。


「あっ!せんせー?」

「何ですか?」

「楠木さんが1学期の間、学校を休むんやったら、春の文化祭の出し物、どうなるんですか?」

「あぁー、あの男女逆転ロミジュリね?」

「はい。」

「まぁ、それはそれで、文化祭までにみんなで考えましょう。」


「皆さん、いろいろご迷惑おかけしてすいません。」と、真琴。


「や、楠木さんのことを言ってるんじゃないので、大丈夫です。逆に私、楠木さんが出る映画、楽しみにしてますから。」


「私もー。」

「あ、俺も!!」


「がんばれー!楠木さーん!!」


と、クラス中から応援の言葉と楠木コール、そして拍手喝采が起こった。


「み、皆さん、あ、ありがとうございます。文化祭のことでご迷惑かけたのに、こんなに盛大に送り出して頂けるだなんて、

私、幸せ者です。皆さんのご期待に添えるよう、1学期の間、お仕事に頑張って来ます。」


そう言うと、教室内には再び大拍手が起こった。


そして、ホームルームが終わり、毬茂が教室から出て行ったあと、真琴はしばらくの間、クラスメイトに囲まれていた。

その様子を見て、真琴の様子をその隣で見ていた飛鳥が気を使って、真琴には何も言わず、すっと教室から出て行った。


その様子を見た真琴が、心の中で、「あ、飛鳥…、ゴメンね。」とそっと言っていた。


「ねね、楠木さん?」

「はい?」

「さっき話ししてた、あなたの移籍先の芸能事務所って、悠生さんのお父さんが社長をしているの?」

「え?う、うん。」

「悠生さんの家って、芸能事務所をしてたの?」

「えー…と。その、飛鳥の家は…、そのー…。」


真琴は、どこまで話していいのか分からなくて困っていた。

そして、何を思ったか自分の席でみんなから質問攻めに合っていた真琴は突然席を立って、


「ゴメンねっ!みんなっ!私、急ぐからっ!!」


と言って、鞄を持ち、走って教室から出て行き、飛鳥を追いかけた、が、

校舎内には飛鳥の姿はもう無く、真琴は、自分のスマホから、飛鳥に連絡した。


トゥルルルルル…。


出ない。何度コールしても、飛鳥は電話に出ない。


LINEでメールもした。

が、既読スルーになって、返事も来ない。

「も~う、飛鳥ったらどうした、ってのよ~…。」


真琴が昇降口でイライラしていると、そこへ、エリカがやって来た。


「あら?真琴さん。どうしたの?飛鳥ちゃんは一緒じゃないの?」

「それが…。」


と、真琴は教室内での出来事をエリカに説明した。


「なぁんだ、そんなことだったの。」

「そんなこと、って。」

「さっき、私のLINEに、飛鳥ちゃんからメール、あったわよ?」

「へ?エリカさんのLINEに?」

「はい。」

「な、なんて?」

「んー…、真琴さんが、クラスメイトたちに囲まれてて、私が出る幕が無いから、一人で帰ります。」

「って。ほら。」


と言い、エリカは、飛鳥に自分のスマホを見せた。


「ほ、ほんまや。何考えとんのや、あの子は。」

「真琴さん、1学期の間、学校休むんでしょ?」

「え、えぇ。」

「だから、そのことで飛鳥ちゃんも不安になってるんじゃないでしょうか?」

「全く、あの子は…。これからしばらく会えなくなる、ってのに…。」

「まぁ、そんなこと言わないで、今日は私と帰りましょ?」

「そう言えばエリカさんと2人で帰るの、って初めてですよね?」

「そう言えばそうですね。」

「ねぇ、真琴さん?」

「はい?」

「天王寺周辺にはアニメ関係のお店って無いのかしら?」

「んー…、アニメ関連…。」

「どう?」

「あ!ありましたよ!確か駅前交差点の上の歩道橋から行ける場所にありましたよ?」

「ホント?じゃあ、行き方、教えてもらえます?」

「いいですよ。」

そう言って2人は靴を履き替え、学校を出て、天王寺駅方面へと向かって歩いて行き、メイトへと向かった。


そして2人は、阿倍野の歩道橋の上に着き、メイトの入ってるビルへ向かい、

エレベーターで3階へ向かった。


ドアが開くと、そこは、1フロア全体がアニメショップで、夕方とあって、

主に阿倍野や天王寺周辺の学校に通う女子高生たちで溢れ返っていた。


「うわー、すごーい!凄いねっ!真琴さん!」

「そ、そう?」

「私、アニメとか全く分からないので、この辺の画材コーナーで画の道具とか見てますので、エリカさん、ゆっくり買い物楽しんでください。」

「あ、ありがとう。」


そう言われるとエリカは、水を得た魚のように、すいすい~っと、フロアの奥へ消えていき、その間真琴は、もう一度飛鳥にLINEで連絡をしてみた。


すると、3コールほどで飛鳥が出た。


「あ、もしもし?飛鳥?」

「あぁ、まこちゃん。」

「って、"あぁ"、ちゃうわっ!あんた今、ドコおんねん!」

「ドコ、て、家に決まってるやんか。」

「何そんなに怒ってんよ。」

「怒ってない。」

「さっきやてぷいっと教室から出て行くしやな。LINEも既読スルーするしやな。」

「そんなん、私の自由やんか。」

「自由、って。」

「それより、まこちゃんはドコにおんのよ?スマホの後ろ、えらいBGMかかっとるけど。」

「ん?…あぁ、天王寺のメイトや。あんたも名前くらいは知ってるやろ?」

「あぁ、あそこか。アニメの店やろ?」

「そや?」

「何でまこちゃんがそんな店におるんよ?」

「ウチ?」

「うん。」

「ウチは、エリカさんに聞かれたから一緒に帰る途中にメイトの場所教えたって、それで付いて来てるだけや。」

「そうなんや。で、エリカさんは?」

「あぁ、今、フロアのどっかで商品探し回って買い物楽しんでると思うわ。」

「そっか。」


と、そこへ、買い物を終えたエリカが、真琴の元へ戻って来た。


「あ、真琴さん、お待たせ!」


「今の声、エリカさん?」

「ん?あぁ、うん。今、戻って来たわ。ほな、一回切るわ。」

「うん、ほなね。」

「ほいよ。」


と言い、2人は電話を切った。


「どうでした?エリカさん。いい買い物出来ました?」

「えぇ、お蔭様で。」

「このあとどうします?」

「このあと?」

「私、しばらく大阪から離れるし、今日はもう、とことんエリカさんと遊ぼうかな?って。」

「そうなの?それより、さっきの電話は?飛鳥ちゃんだったんでしょ?」

「え?あー…、えぇ、うん。」

「飛鳥ちゃん、なんて?」

「その、なんか、ムカムカしてた感じでした。」

「そうなんだ。いいの?今のままで東京行っちゃって。」

「だって…。」

「2人、親友なんでしょ?」

「そう、ですが…。」

「だったらちゃんとお話ししなさい。先輩として言わせてもらいます。」

「う…、は、はい…。」

「真琴さんとは、これからも帰って来たら、いっぱい遊べるから。」

「そう、です、ね。」

「今日は、飛鳥ちゃんと一緒に居てあげて?」

「はい。」

「じゃあ、帰ろ?」

「はい。」

「そうゆうエリカさんは?」

「なに?」

「買い物。いいの、あったんですか?」

「えぇ、しばらくアニメ関係の買い物してなかったからストレス溜まっててこんなに買っちゃった。」

「あはは、ストレスって。で、なんぼくらい使ったんですか?」

「んー…、分かんない。持ってないアニメのDVD-BOXとか声優さんのライブDVDとかいろいろ買ったから、多分5~6万くらいは使ったかな?」

「は?アニメのDVD-BOXって、そんなに高いんですか?」

「高いよー。だから、静岡に居た時は、コンビニでバイトしてたんだから。」

「そうだったんですね。」

「で、今日は持ち合わせあったんですか?」


「えと…。無かったから、思わずカード、使っちゃった。」


と、エリカは、無邪気に一言ぼそっと言った。


「さすが、青島貿易のご令嬢さまですね。」

「そんなの関係無いわ。ってか、会社で思い出した!!」

「は?」

「5万以上の買い物しちゃったから、お父様に怒られるかもっ!!あぁ~…。」

「あはは。まぁ、それは怒られた時に怒られるとして、ま、帰りましょうよ。」

「そ、そうね。」


そう言って2人は再びエレベーターに乗り、2階まで下りて、歩道橋から直接、上町線のホームへ向かい、ホームに止まっていた電車に乗り、姫松まで戻った。


そして、エリカが真琴にこう言った。


「真琴さん?」

「はい?」

「少し、寄ってかない?いえ。」

「え?で、でも。」

「でも、じゃないよ!」

「飛鳥ちゃんに会ってあげて?」

「わ、分かりました。」


そう言われ、真琴はエリカと一緒に家に戻って、エリカが大きな門を開け、

中庭を通り、玄関のドアの鍵を開け、「ただ今戻りました。」と言うと、

奥から翠がやって来て、「お帰りなさいませ。」と言い、エリカと真琴は軽く翠と会話をし、2階の飛鳥の部屋のドアをノックした。


「飛鳥ちゃん?私。エリカです。」

「あ、どうぞー。」


と、ドアを開けると、飛鳥は部屋着でくつろいで、いつものようにパソコンでメイデイの音楽を聴いていた。


「なんや、まこちゃんも来たんかいな。」

「なんや、って、なんやねんっ!そんな言い方無いやろっ?!」

「そう?」

「"そう?"って、あんた…。」

「で、何しに来たん?」

「何しに、って、あんた…。」


と言うと、真琴はズカズカと部屋に入って行き、飛鳥の部屋着の胸ぐらを掴んで、反対側の手のひらを大きく開き、腕を振り上げた。


「ちょ、な、なに、すんねん?」


すると次の瞬間、真琴は、飛鳥の頬に思い切り、パァンっ!と、ビンタをした。


「いったぁ~~い!!!なっ!!!なにすんねん!!いきなりぶったりとか、ありえへんやろ??!!」


「アンタの方こそワケ分からんわ!!」


「ちょ、ちょっと、真琴さん?!」


「エリカさんはちょっと黙っててください。これ、2人の問題なんで。」


「は、はい。」


「あんたなぁ、ウチ、明日の早朝からもう既に大阪に居(お)らんねんで?」

「そんな日にやで?親友がさっさと一人で帰るか?普通。」

「そやかて、まこちゃん、クラスのみんなに囲まれたやんか。私が入る隙間なんか無かったやんか。それにな、2学期になったらどうせ戻って来るんやろ?また会えるやん。」

「なんなん?その、"どうせ"って。」

「どうせは、どうせ、や。」

「響香より私の方が付き合い短いからそんな風に言うんか?」

「は?何で今、響香ちゃんの名前がココで出て来んねん。」

「だって、あんたとあの子は小1の頃からの付き合いやからな。」

「そらそうやけど、別に私、そんな軽くまこちゃんのこと思ってへんで?」

「ホンマ?」

「ホンマや。当たり前やろ?親友なんやから。」

「ほな、何で今日に限ってあんな行動取ったんや。」

「分からん。」

「分からん、て、あんた…。ってか、ちょ、あんた、いきなり何泣き出してんのよっ!!」


と、その騒ぎを聞きつけて、直輝が、飛鳥の部屋にやって来た。


「なんやなんや?騒がしいっ!って、真琴かいな。来てたんか。一体どうしたんや?!」

「あ、お兄様、今はちょっと…。」

「なんや?エリカ。2人、ケンカでもしてんか?」

「ま、まぁ、そんな感じですわ。」


と言う、直輝の声にも気付かず、2人は言い合いを続けていた。


飛鳥の目には、自然と大粒の涙が溢れ、ボタボタこぼれていた。


「だってな、だってな!!まこちゃん、明日の早朝から秋までもうガッコに居(お)らんねんでっ?!

わたし…私…、その間、一人で、どうやって学校でやってたらええのんよ?!不安で不安でしゃーないねん!!

今までのモデルのお仕事みたいに、1日2日居(お)らんのとは訳が違うんやからっ!!私、まこちゃんと離れたくないんよっ!!」


と、飛鳥はワンワン泣きじゃくりながら、真琴の胸に泣きついた。


「ちょ、あ、あんた…。」


真琴は、泣きじゃくる飛鳥の抱きかかえ、しばらく髪の毛を撫でていた。


それから5分ほどし、ようやく飛鳥が泣き止んだ。


「気ぃ済んだか?」

「う、うん。」

「ゴメン。」

「や、えぇよ。ウチも悪かった。手ぇ出して。」

「ううん、出されて当然や。」


と、そこに、直輝が割って入って来た。


「2人とも、そのケンカ、そこまでっ!!」


「な、直兄?」

「い、いつからそこに?」

「飛鳥が大泣きしてた頃からや。」

「ケンカの原因はなんや?」

「なんや?って、直兄はおじ様から聞いてへんの?」

「親父から?何を?」

「ウチのお仕事の件。」

「あぁ、映画の撮影やろ?」

「そう。」

「知ってるで、もちろん。浩兄から電話あったしな。」

「飛鳥、そのことで今日怒って一人で帰ったんです。」

「は?お前ら、もうJKやろ?相変わらずJCの頃みたなケンカしとんかいな。」

「してない。高校あがってから初めてや。」


「飛鳥もな、えぇ加減真琴離れせぇ。」

「は?」

「お前ももう子供ちゃうんや。こないだのデートで初めての彼氏かて出来たんやろ?お前はお前でガッコあるしやな、真琴は真琴で、芸能の仕事頑張っとんのや。いっつもお前の傍におれるわけちゃうんや。」

「そんなん直兄に言われんでも分かってる。」


「ごめんな、飛鳥。ぶったりして。」

「もうえぇ。もう怒ってへんから。」

「そうか?」

「うん。」

「ごめんな、飛鳥。」

「いや、私もごめん。」


そう言って2人は抱き合って、お互いの友情を確認し合った。


「なぁ、まこちゃん?」

「んー?」

「明日、何時の飛行機なん?」

「何で?」

「なぁ、直兄?」

「なんや?」

「明日な、暇?」

「お前なー…僕も一応大学生やねんぞ?」

「分かってるわ。」

「まぁ、暇っちゃ暇やけどな。」

「ほなな、明日、まこちゃんの出発に合わせてな、車出してぇな。」

「は?」

「そやから!エリカさんも、私も!みんなでまこちゃんを関空まで車で送って行く、って言ってんのっ!!」

「って言うかお前ら、ガッコどないすんねん。」

「一日くらい休んだかて単位に影響なんかあらへんもん。」


すると直輝くは、「はぁ~…。」と深くため息を付き、こう言った。


「全く、お前のその自由奔放さは、親父譲りやな。」

「な!な、何を言い出すんよ、いきなり。」


「あははははは!!た、確かに直兄の言うとおりやな。おじ様もいきなり芸能プロダクション立ち上げたりして、

私の知らんトコで勝手に移籍させられとったし、いきなり映画のお話しして来たしな。あんたのその性格、おじ様にそっくりや。」


「もー…、まこちゃんまで。」


「えぇよ、分かった。車、出すわ。」


「で、まこ。」

「はい?」

「明日、関空何時の飛行機なんや?」

「ん?えーと、確か、6時40分の羽田行きやったな。」

「航空会社は?って、まぁ、親父のことやから格安会社なんかは使わんやろ?」

「うん、JAL。」

「そっか、分かった。6時40分言うことは、6時前に関空に着けばええんやな?車駐車せなアカンしな。」

「そこまでしてもろてええのん?」

「えぇって、それくらい。」

「ありがとう。」

「ほんなら、僕のスポーツカーやと全員乗られへんし、親父の車借りよか。」

「え、えぇのん?そんなにいろいろしてもろて。」

「かまへんかまへん。」

「そうゆうことやから、飛鳥とエリカ。」


「はい。」2人は揃って返事した。


「2人とも、明日は真琴の出発時間に間に合うよう、遅くとも5時半には起きるように。」


「はーい。」

「ほな、飛鳥とエリカさん。」

「んー?」

「なんでしょう?」

「今日は私、これでお家帰るから。」

「あぁ、うん。」

「まだ準備とか全然出来てへんから。」

「真琴?」

「何?直兄。」

「明日の朝な、準備出来たら飛鳥のLINEに連絡しぃ。」

「え?」

「せやから、お前の家まで迎えに行くから。」

「分かった。」


そして真琴は鞄を持って、一言。


「ほなみんな、今日はいろいろありがとう、ごめんな。ウチ、家帰るわ。」

「うん、まこちゃん、お仕事、頑張ってな。」

「ありがとう、飛鳥。エリカさんも、今日はありがとうございます。直兄も。」

「おう。」

「いぃえ。」

「ほなウチ、今日はこれで。あ、見送りはいいから。」

「うん。気を付けて。」


そう言って真琴は悠生家から出て自分の家に帰って行った。


今日は、飛鳥と真琴が高校にあがってから、初めてケンカをした日でもあった。


…そして、一夜明けて、今日は、真琴が東京へ出発する日。

時間は、早朝4時半。


ここは、悠生家の2階の廊下。

エリカと直輝が、ばったり会った。


「おう、エリカ、おはよう。早いな。ってか、もう制服着とるんか。」

「えぇ、お兄様。だって今日は真琴ちゃんの出発日ですもの。で、飛鳥ちゃんは?」

「あぁ、あいつのことやから今はまだ夢の奥深くやろと思てな、今から叩き起こしに行くトコや。」

「じゃあ私も一緒に。」

「うん、お願い。」


そして、まだスヤスヤと眠っている飛鳥のドアを、直輝は、ドンドンと叩いた。


「おーい、飛鳥ぁ~?!」


すると、ベッドの中でもぞもぞ動いている飛鳥が、寝ぼけ眼で、「なんや~?」と言っている間に、

直輝は、ドアを開け、部屋の中へズカズカと入って来た。


「飛鳥!一体いつまで寝てるんや?!」

「なんやねん、直兄…。ってか、今、何時ぃ~?」

「何時?てお前、もう4時半や、よ・じ・はんっ!!早よ起きぃっ!!」

「んー…、4時半、って、まだ早朝やないか…。」

「お前なー…、今日は真琴の出発日やろがっ!早よ起きて制服着替えぇ!!」


「あーー!!そやった!!忘れてたっ!!」


「忘れてたんかいっ!!」


と、2人は兄妹でボケツッコミをした。

その光景を見ていたエリカは、お腹を抱えて笑い出した。


「あははははははは。」




「ん?どうした?エリカ?」

「や、さ、さすが、大阪の兄妹のボケツッコミは自然的で凄いなー、って思って。」

「そうか?こんなん日常茶飯事や。って、飛鳥っ!早よ制服着替えぇっ!」

「わーかった、って!」


直輝とエリカが待つ部屋で、飛鳥は恥ずかしいそぶりもしないで、普通にパジャマを脱ぎ、ブラとショーツだけになり、その上から制服のブラウスを着て、紺色のジャケットを着た。

そして、鏡に向かってドライヤーを使い、髪の毛を梳かし、準備が出来た。


「ほい、お2人さん、お待たせ!」

「お待たせ!ちゃうわ。よ行くでっ!」

「わかった!って。」


と、直輝たちが、飛鳥の部屋を出ようとした時、飛鳥のスマホのLINEの着信音が鳴る。

「ほーい、もしもーし。」

「あ、飛鳥?ウチ。」

「あぁ、まこちゃん、おはー。」

「おはよう。今ドコ?」

「あぁ、今から私ら家出るトコやし、10分くらいでまこちゃんの家着くと思うから、それくらいの時間帯に、家の前で待っててくれる?」

「分かった。ほな、あとでな。」

「はーい。」


そう言って2人は電話を切った。


その頃、楠木家では、真琴が母親と荷物の最終チェックをしていた。


「まこ?忘れ物は無いわね?」

「うん、大丈夫やで、ママ。」

「寂しくなったらいつでもLINEで連絡して来ていいんやからね?」

「うん、分かった、って。」

「向こう着いたら、飛鳥ちゃんのお父さんの言うこと、ちゃんと聞くのよ?」

「わぁかってる、って!」


と、その時、外から車のクラクションの音がした。


「あ、直兄来たみたい。」


と言い、真琴が家の玄関を開けると、門の前には、普段は雅輝が乗っているセダンの車が横付けされ、

直輝は車の窓を開け、「おーい、まこー。」と、呼んでいた。


「あ、直兄、ゴメーン。今行くー!」

「じゃあ、お母さま、行って参ります。」

「うん、気を付けて。」


「まこ、荷物はこのキャリーケース一つでえぇんか?」

「あ、うん。」

「ほなこれ、後ろのトランクに入れるから、お前、先に車内に入れ。」

「う、うん。」


そう言うと直輝は、真琴のキャリーケースをトランクに載せて、自分も運転席に戻った。するとそこへ、真琴の母が、直輝に話しかけて来た。


「直輝さん?」

「あ、はい。おば様。」

「真琴のこと、関空までよろしくお願い致しますね。」

「分かりました。では、行って参ります。」

「おば様、行って来ます!」と、後部座席から飛鳥が車の窓を開けて手を振った。

「みんな、気を付けてね。」


そう言うと直輝は、助手席に座っているエリカと、後部座席の飛鳥・真琴たちに向かって、こう言った。


「ほな車出すでー?えぇかー?」

「はーい。」と、3人。


真琴と合流した、直輝の運転する車は、関空へ向かう為、帝塚山の住宅地の細い路地を出て、

南港通りへと入り、国道を西へ向かい、坂を下りきった途中の交差点で左折し、

国道26号線へと入り、道路を南下し、途中から阪神高速へと入り、

海沿いの高速を南下する。

まだ時間も早朝で早い為、道も空いていて、車は順調に関空へと向かう。

その車内…。


「なぁなぁ、まこちゃん?」

「んー?なんや?飛鳥?」

「映画の撮影って、国内だけでやるん?」

「よう分からん。浩兄、パスポートも持って来い、言うてたからなぁ。」

「そうなんや。ほな、海外も行くんやろか。」

「分からんわ。どんな映画になるのかも、ウチ、聞いてへんもん。」

「そっかぁ。」


などと言う会話をしている間にも車は、りんくうタウンの関空橋ゲートまで着き、

車にはETCが備え付けられているので、自動ゲートを通り、車は一路、関空島内へと進む。


「まこ?」

「んー?なんや?直兄。」

「飛行機、JALやんな?」

「そや?」

「ほな、なるべく第1ターミナルに近いトコに車止めるし、車横付けしたら、飛鳥とエリカ、お前らだけで真琴見送って来い。」

「えぇ?直兄はぇへんの?」と、飛鳥。

「駐車場止めると料金高いやろがっ!!」

「そ、そやけど…。」

「とりあえずお前らだけで見送ってやれ。僕は車で待機しとるから。」

「分かった。」


そう言うやり取りがある間にも、車は関空の国内線出発ゲートの入り口付近に停車し、直輝は、飛鳥たち3人を車から降ろして、ひとまず自分も車から降り、

トランクに入れてあったキャリーケースを出した。


「よっこらせっと。」

「あ、ありがと、直兄。」

「いいって。それより、映画の撮影、頑張って来いよ?」

「うん、分かった。しばらく直兄に会えんの、寂しいわ。」

「僕もや。まぁ、親父の指示やからしゃーないわ。」

「うん。頑張って来る。」

「じゃあ僕は車で待機してるから、お前ら、真琴を見送って来てやれ。」

「はーい。」


そう言って直輝は車の中に、飛鳥とエリカは関空の国内線出発ゲートへと向かう。

その途中…。


「なぁなぁ、まこちゃん。」

「なんや?」

「撮影中でも、いつでもえぇから時間あったらLINEとかしてや?」

「え?あ、うん。分かってるって。」

「真琴さん、確かJALでしたよね?」

「あ、はい。」

「こっちの方向、ANAなんですけど…。」

「え?」

「ほら?ANAのマークが…。」

「あー!!間違えた…。」

「あははは、まこちゃんでもうっかりミスはあるんやな。」

「JAL、反対方向やんかー!もう~…。今朝、3時起きやったから寝ぼけてんかな?」

「そうちゃうか?」

「う、うっさい!」


そう言って3人は早足でJALのカウンターへと向かった。

時刻は現在、朝6時5分。

飛行機の出発時刻は6時40分。

少し急がないといけない時間である。


「す、すいませーん…、はぁ、はぁ。」

「ご搭乗のお客様でしょうか?」と、グランドスタッフの女性が、カウンター越しに尋ねる。

「あ、は、はい。楠木、真琴で、す。」

「搭乗券はお持ちですか?」


「あ、ちょ、ちょっと待ってく…、あー!!」


と叫ぶと同時に、真琴のポーチから、財布やらいろいろボロボロと地面に落ちた。


「ちょ、まこちゃん、何しとんねん。」


飛鳥とエリカが駆け寄って来て、地面に散らばった真琴の持ち物を片付けるのに手伝う。


「ご、ゴメン、2人とも。なんかパニクってもうた。」

「まったく…。」


「す、すいません、これ、航空券です。」

「はい、かしこまりました。楠木真琴様、ですね?」

「はい。」

「お荷物は、そちらのキャリーケース1つで大丈夫ですか?」

「はい。」

「では、お預かりします。」 

「搭乗される飛行機は6時40分発でございます。まもなくご搭乗が始まりますので、セキュリティゲートで検査を受けたあと、北出発ゲートへ向かい、20番の搭乗口でお待ちくださいませ。」

「あ、は、はい。ありがとうございます。」

「お荷物、確かにお預かりました。良いフライトを。」


そう言われ、真琴と飛鳥、エリカの3人は、カウンターから離れ、急ぎ足でセキュリティチェックのゲート前まで行く。


2人とは、ここでお別れだ。


「ほな、まこちゃん。元気で、頑張って来てな。」

「うん、ありがとう。」

「私も学校、まこちゃんおらんでも頑張るから。」

「うん。分かった。」

「真琴さん?」

「はい。」

「これを。」

「これは?」

「真琴さんの映画撮影の話しが分かったあと、飛鳥ちゃんと2人で住吉大社まで行って、お守り買って来たんです。」

「あ、ありがとう。」

「頑張ってや!まこちゃん!!」

「うん。」


と、そこに、フロア内に搭乗案内アナウンスが流れる。

「ご搭乗のお客様にご案内致します。まもなく、20番ゲートにて、JAL220便、東京・羽田空港行きの搭乗手続きを開始致します。どなたさまも…。」


と、広い空港内にアナウンスが流れた。


「あ、ウチ、そろそろ行かなアカン。」

「そやな。…まこちゃん!」

「あ、飛鳥?」

「元気で…。」

「何言うてんねん、今生の別れやあるまいに。」

「そやかて…。」


「2人とも?真琴さん、乗り遅れますわよ?」


「あ、そうや…。」


「じゃあ2人とも!頑張って来るわっ!見送り、ありがとうなっ!!」


そう言って真琴は、笑顔で大きく手を振って、セキュリティーゲートへと消えて行った。


…。


真琴がゲートの向こうへ消えてしばらくして。。。


飛鳥の目には、涙が。


「ぐすっ。」

「飛鳥ちゃん?」

「んー?」

「はい、ハンカチ。」

「あ、ありがとう。」

「やっぱり、いつも居る人が居なくなると寂しいわね。」

「はい。」

「さ、お兄様が待ってますわ?車まで戻りましょう。」

「うん。ぐすっ。」

「私が連絡しようか?」

「や、だいじょぶです、私がします。」


そう言って飛鳥は自分のスマホを制服のポケットから取り出し、LINEで直輝に連絡した。


「あ、もしもし?直兄?」

「おう。」

「さっき、まこちゃん無事にセキュリティーゲートまで見送ったで?ぐす…。」

「なんやお前、泣いとんのか?」

「そんなんちゃう!!」

「まぁえぇ。さっきの近くに車止めて待ってるし、早よ戻って来い。学校まで送ってやるから。」

「分かった。ぐす。」


そんな会話をし、2人は通話を切った。

そして、飛鳥とエリカの2人は、直輝の待つ車の元へと向かった。

5分ほど歩いて、

直輝の車まで戻った飛鳥とエリカは、後部座席のドアを開け、順番に車内へ入って座る。


「まこ、ちゃんと乗れたみたいか?」

「うん、そうみたい。見送ったから。」

「そうか。」

「ほな2人を学校まで送るから。」

「お願いします、お兄様。」

「おう。」




そう言うと直輝は車をゆっくりと動かせ、関空の出発ゲートを離れ、来る時に渡った関空橋を再び通り、阪神高速を大阪市内へと戻る為に、高速道路を走る、が、今は午前7時過ぎ。

今日は平日。

大阪市内へ通勤で使う車の渋滞に引っかかった。


「あちゃー…アカン、渋滞や。」

「えー?」

「えー?ってな、お前、今は平日の午前やで?当然やろ?」

「ほな、私ら、遅刻か?」

「そうなるわな。」

「まりもんに連絡するわ。」

「まりもん?」

「あぁ、私の担任や。」


そう言うと飛鳥は、LINE通話で、毬茂を呼び出した。


「あ、もしもし?せんせー?おはようございます、私。飛鳥です。」

「あら飛鳥ちゃん、おはよう。どうしたの?」

「えと、今日、まこちゃんの出発日で、兄の運転する車で、エリカさんも一緒に、さっき関空まで見送って来たんですが、今、阪神高速で、えーと、直兄?今ここどの辺り?」

「え?あぁ、二色浜辺りや。」

「えと、まだ二色浜辺りなんですが、朝ラッシュの渋滞に巻き込まれまして、遅刻しちゃいそうなんです。」

「あぁ、そうゆうこと。分かったわ。尾之上先生にも青島さんのこと、伝えておくから、気を付けて来てね。」

「あ、ハイ。分かりました。じゃあ、学校で。」

「はーい。」


そして飛鳥はLINEを切って、エリカにも、毬茂から尾之上に伝えておく、と言っていたことを伝えた。


「なぁ、直兄?」

「んー?」

「今日、学校サボったらアカンか?」

「は?何言うとんじゃ!JKは真面目に勉強せぇ!!」

「あぁーはいはい、分かりましたよー!!」

「エリカ?」

「はい?」

「お前はどうしたい?」

「何が、です?」

「ガッコ、サボりたいか?」

「んー…、私は学校サボったこと無いので…。」

「そうやんな、それが普通の反応や。飛鳥、お前は何言うとんねん。」

「わーかったー!ってば!!早よ学校連れてって!!」

「早よ、言うてもこの渋滞や。ひょっとしたら2時限くらいになるかも、やで?」

「えぇよえぇよ。重役登校や。」

「お前ってやつわー…。」


そんな、兄妹のやり取りが車内で繰り広げられている間にも車はようやく、大和川を超え、大阪市内へと戻り、

ゆっくりではあるが、前に進んで、先ほどのやり取りから20分ほどで、天王寺の出口へと着き、

車は高速道路を降り、一般道を走り、鈴ヶ丘へと向かう。

高速を降りてから約10分ほどで、車は学校の正門前に止まった。


「ほら2人とも、学校着いたで。」

「ありがとう。」

「ありがとうございます。」

「勉強、頑張って来いよ?」

「はーい、あ。」

「なんや?」

「直兄もこのあと大学行くんやんな?」

「当たり前やろ。」

「勉強、頑張りや!」

「お前に言われんでも分かっとる!」

「ほなー。」

「じゃあ。」

「おう、じゃあな!」

そう言って、直輝は、車をゆっくりと動かし、2人の前から離れて行く。


「さ、エリカさん、私たちもクラスへ向かいましょう。」

「そうね。」


と言って2人も校内へ入り、昇降口へ行き、お互いの靴箱で上履きに履き替え、

手を振ってそれぞれのクラスへと向かった。

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