第19話:大人たちの会話。
ここは、飛鳥の父・悠生雅輝が経営する会社、"ユーキコーポレーション"の東京支店ビルの、社長室。雅輝は現在、出張で東京に来ている。
もちろん、仕事のこともあったが、エリカを、悠生家で預かっているので、
そのことを、エリカの父である、青島貿易の社長・青島颯太に会う為と言う事と、
藤坂を颯太に紹介することなどなど、様々な案件で東京へ来ていた。
その、ユーキコーポレーションの社長室では、雅輝が、藤坂と笑いながら話しをしていた。
するとそこへ、部屋のドアをノックする音が聞こえたので、雅輝が、「どうぞ。」と言うと、「社長、ご無沙汰してました。」と言って入って来たのは、悠生家の長男で、東京支店の支店長を務める、浩輝だった。
「やぁ、浩輝。元気そうだね。まぁ、ドアを閉めて入って来なさい。」
「はい、お父様。」
そう言って浩輝は、社長室に入り、ソファに座っている男性の姿に気付く。
「お父様?こちらの方は?」
「あぁ、浩輝にも紹介しようと思ってね。」
「藤坂君、こいつは悠生家の長男で、この東京支店の支店長をしている、
「あ、ど、どうも初めまして、ぼ、僕は、藤坂…あ、えーと、社長?」
「何かな?」
「どっちの名前で名乗れば…?」
「あぁ、芸名も本名も両方名乗っちゃえば?」
「芸名?」と、浩輝。
「あ、そうですね。」
「で、では、改めまして。藤坂佑輔と申します。世間ではそう、呼ばれています。」
「ふ・じ・さ・か・ゆ・う・す・け…???んー、どっかで聞いたことのあるような…。
あー!き、君は確か、良くテレビで見掛ける、あの、藤坂さんかいなっ?!」
「は、はい。本名は、藤坂歩と申します。」
「彼ね、今、彼の恋人さんと一緒にね、大阪の本家で預かってるんだよ。」
「は?」
浩輝は状況が掴めてなかった。
それはそうだ。
父が、いきなり有名な芸能人を自分の会社に連れて来て、「家で預かってる。」とか言い出したものだから。
「お、お父様?」
「なんだい?」
「じゃ、じゃあ、この藤坂さんは今、大阪の自宅で、飛鳥たちと一緒に生活してる、ってことですか?」
「そうだが?何か問題でも?」
「い、いえ、そんなんじゃなく…。ぼ、ぼ、僕!!君の大ファンだったんです!!」
「え?ファン?なんですか?僕、の?」
「は、はい!」
「なぁんだ、普段はクールな支店長を装っていても、お前もまだまだ子供だな。」
「お、お父様っ!!」浩輝の顔が赤くなった。
「実はな、まだまだ驚くことがこれからたくさん出て来るぞ。」
「は?」
「今回上京したのは、お前にも良い業務提携の知らせもあったのと、藤坂君をお前に紹介しておきたい、と思ったことも含めて大阪からやって来た。お前、"青島貿易"と言う会社は知っているな?」
「あ、は、はい、もちろんです。日本人なら知らない人は居ないくらいの大企業ですから。」
「そうかそうか。なら話しは早い。」
「は?」
「今な、そこの、青島貿易のご令嬢である、青島エリカちゃんがな、大阪の家で、飛鳥たちと生活しててな、飛鳥や真琴ちゃんと一緒に鈴ヶ丘に通ってるんだよ。」
「は?」
「まぁ、驚くのも分かるが。」
「どうして家にそんな大企業のご令嬢が、飛鳥なんかと一緒に暮らしてて、友だちなんですか?」
「んー…どうしようか?藤坂君。私から説明した方がいいかな?」
「あ、はい、社長にお任せします。」
「そうか、分かった。」
そう言って雅輝は、藤坂とエリカの2人は恋人同士だと言う事。
そして、真琴と藤坂が同じモデルの仕事仲間で、
偶然大阪で、飛鳥を含め、エリカと4人で出会い、知り合って友達になったこと。
ホテルに泊まっていた時に、エリカが高熱を出したこと、それがきっかけで、
エリカ自身の口から、大阪に引っ越して来たい、と言う事、などなど、
これまでのいきさつを全て、浩輝に話した。
そして、今回上京した中に、青島貿易との業務提携の話しもあり、
ユーキコーポレーションが運営するプロバイダ・"yu-ki net(ユーキ・ネット)"の、
テレビCMなどのイメージキャラクターに、藤坂を起用したい、と言う事や、
青島貿易との大規模契約などなどの話しも盛り込んで、東京へ来た、と言う事を、浩輝に伝えた。
すると、浩輝は、大きくため息を付いた。
「はぁ~…。」
「どうしたね?」
「お父様は、相変わらずですね~…。」
「何がだい?」
「その、自由奔放な社風ですよ。」
「そうかい?」
「僕が、どれだけ頑張って、この東京支店を必死に大きくしようと思ってやってるか、とか知らないでしょ?」
「知らないわけないだろう?ちゃんと、大阪の本社で、お前の実績は見てるよ。」
「そうですか、ならいいんですが。」
「…で、その、青島貿易のご令嬢…、えーと、エリカさん、でしたっけ?その子はいくつなんですか?」
「あぁ、飛鳥より一つ上の高校2年だ。」
「そうですか。じゃあ、飛鳥に姉が出来たようなもんですね。」
「そうなるかな。ねぇ、藤坂君?」
「はい。」
「エリカちゃんの写真、確かスマホにあったよね?」
「あ、は、はい。」
「浩輝に見せてあげたら?」
「あ、そ、そうですね。」
そう言って藤坂は、スーツの内ポケットからスマホを取り出し、初めて飛鳥たちと一緒に撮った、
通天閣での写メを、浩輝に見せた。
「おー、飛鳥と真琴だ。元気そうにやってるみたいで安心しました。」
「浩輝、その2人はどうでもいいんだよ。」
「どうでも、って、お父様。」
「それより、もう一人、女の子が居るだろう?」
「あ、はい。」
「その子がエリカさんだ。」
「おぉー…。飛鳥よりむちゃ可愛いじゃないですか…。」
「長男が末っ子のことをそんな風に言うかい?普通…。」
「や、す、すいません。」
「それでだ。」
「はい。」
「今から、お前と藤坂君も同行してもらって、青島貿易の本社ビルに行く。」
「は?」
「だ・か・ら!!青島クンに会いに行く、と言ってるんだ!!分からんヤツだな、お前も。」
「青島貿易に行くのに、何故、僕と藤坂君が一緒に?」
「行けば分かるから、お前は車を用意しなさい。」
「はいはい分かりましたー。」
そう言って浩輝は一旦社長室から出て行き、東京支店の副支店長に、
社長と一緒に出掛けて来る、と伝え、
自分は東京支店の自社ビルの地下にある駐車場から車を出し、
社長室で待機していた雅輝に電話をした。
「お父様、出掛ける準備が出来ましたが。」
「あぁ、分かったよ。すぐに下りる。」
と言って、電話を切り、藤坂にこう言った。
「じゃあ行こうか、藤坂君。」
「はい。」
そう言ってドアを開け、フロアを歩いていると、副支店長が挨拶をして来た。
「社長、お出掛けですか?」
「あぁ、ちょっと浩輝と出掛けて来るから。」
「かしこまりました。お気を付けて。」
「ありがとう。」
そして、2人は一緒にエレベーターに乗り、10階から1階の玄関に出て、外で待機していた浩輝の運転する車に乗り込んだ。
「で?お父様。」
「何かな?」
「どちらへ行けば?」
「だから、青島貿易の本社ビルだよ。」
「はいはい、本社ビルね。えーと…。」
と言って、浩輝は、カーナビで、青島貿易の本社ビルを検索し、ルートマップを出す。
「じゃあ出発しまーす。」
青島貿易の本社ビルがあるのは、ユーキコーポレーションの東京支店ビルがある表参道から、そんなに遠くないので、車でも数分で着いた。
「おー、見えた見えた。」
と、青島貿易の巨大な本社ビルを見つけ、雅輝は冗談半分に、子供のようにはしゃいだ。
「まったく、このお父様は…。」
「あ、浩輝?」
「今度は何ですか?」
「ちょっとその辺で路駐してくれるかい?」
「あ、はい。」
そう言われると浩輝は青島貿易本社ビルの近くに車を止めた。
その車内。
雅輝は、突然ドコかに電話を掛けた。
「あぁ、もしもし?青島さん?」
「やぁ、これは悠生さん。こんにちは。」
「今、青島さんの本社ビルが見えるトコロまで来てるんだが、今からお邪魔しても構わないかな?」
「今から、ですか?」
「えぇ。」
「ちょっと待ってください?」
そう言うと颯太は秘書に、このあとの予定を聞き、特に何も無いことを伝えられると、再び電話に出た。
「あぁ、すいません。大丈夫です。
今日は会合やらなんやらの予定はこのあと、何もございませんので。」
「それは良かった。」
「では、どうすれば。」
「そうですね、30秒ほどで、そちらの本社ビルの入り口に車を横付けさせてもよろしいでしょうか?」
「ちょ、ちょっと待ってください。私がお迎えにあがりますから。」
「ありがとうございます。」
「では、私が玄関に着いたら電話しますので、そこでお待ちください。」
「分かりました。では、のちほど。」
「では。」
そう言って2人は電話を切った。
その頃青島貿易の社長室では、颯太が秘書に、知り合いの社長が来るから、「自分が玄関まで迎えに行く。」
と言い、社長室から出て行って、急いでエレベーターに乗って、1階の玄関まで走って行った。
すると、ちょうど、受付に居た重役の一人が、颯太の姿に気付き、話しかけて来た。
「あ、社長!どちらか行かれるのでしょうか?」
「あぁ、君か。いや、もうすぐ大切なお客様が来られるんでな、それで急いでるんだよ。」
「そんなこと、社長が出向かなくても…。」
「いや、その方は、わたしの友人でもある方だからね。」
「左様でしたか。」
「ちょっと、急いでるから。」
「かしこまりました。」
そして、颯太は、急ぎ足で玄関の外へ出て、電話を掛けた。
「あ、もしもし?悠生さん?」
「あぁ、青島さん。」
「今、玄関に着きましたので、いつでもどうぞ。」
「分かりました。浩輝、車を出して?」
「はい、お父様。」
「すぐ着きますので。」
雅輝に言われ、浩輝は車を出し、青島貿易の本社ビルの玄関へと車を横付けする。
そして、会社のドアマンがドアを開けると、中から雅輝が出て来た。
「やぁ、青島さん!ご無沙汰しておりました!!突然押しかけて申し訳ない。」
「いえいえ、悠生さんもお元気そうで!!」
「あ、車はどうすれば…。」
「地下に駐車場がありますので、ちょっと待ってください?」
と言うと、颯太はドアマンに指示を出し、車を地下の駐車場に案内するように、と伝えた。
浩輝は、そのドアマンに言われたとおりに地下の駐車場へと車を入れて、適当な場所で車を止め、藤坂と共に歩いて玄関へ戻る。
「お父様、青島社長、お待たせしました。」
「お父様?」
「あぁ、こいつはわたくしの息子でして…。」
「ま、まぁ、玄関で立ち話もなんですから、客室へご案内致しましょう。」
「ありがとうございます。」
そう言われ、雅輝と浩輝、藤坂の3人は、颯太に連れられ、30階ある本社ビルの最上階、30階まで上がって、一つの部屋のドアの前で、颯太がその部屋の鍵を開け、3人を招き入れた。
「ようこそ、青島貿易の本社へ。」
「これは、素晴らしい部屋ですな。」
「皆さまもご自由にくつろいでください。」
「じゃあ、浩輝・藤坂君もお言葉に甘えて座りなさい。」
「はい。」
「はい、お父様。」
「先ほどから気になってたんですがね、悠生さん。」
「なんでしょう?」
「こちらの若い方お2人は?」
「あぁ、これからご紹介しようと思いまして。」
「浩輝、名刺を。」
「あ、はい。お父様。」
そう言うと浩輝は、席を立ち、内ポケットから名刺ケースを出し、颯太に挨拶をする。
「青島社長、初めまして。わたくし、ユーキコーポレーションの東京支店の支店長をしております、
悠生浩輝と申します。その、社長の長男でして…。」
「おぉ、これはご丁寧にわざわざ。では、わたしも。青島貿易社長の青島颯太と申します。どうぞよろしく。」
「こちらこそ若輩者ですが、よろしくお願い致します。」
「で、そちらの若者は?」
「藤坂君?挨拶を。」
「あ、はい。社長。」
「は、初めまして、青島社長。私、藤坂佑輔と申します。名刺が無くて申し訳ありませんが…。」
「ふじさか…。どこかで聞いたような…、あ、あぁ!君かっ!うちのエリカと付き合ってる、って言う芸能人の子は。」
「は、はい。社長。初めまして。」
「いやー、悠生さんから聞いてたより全然好青年じゃないかっ!」
「でしょう?社長。」
と、そこへ、ドアをノックする音が。
「どうぞー。」
「社長、お茶とお菓子などをお持ち致しました。」
「あぁ、テーブルの上にでも置いといてくれるかな?」
「かしこまりました。」
と言い、若い女子社員は、持って来たお茶とお菓子をテーブルの上に置き、ドアの前で一礼し、部屋から出て行った。
「まぁまぁ、お茶菓子でもどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「で…悠生さんとお会いするのは、前回の経済界の定例会議以来ですな。」
「そうですね。」
「その後、お元気でしたか?」
「えぇ、この通り、身体だけは健康なものですから!」
「ははは、相変わらず面白いお方だ。」
「で、今日はどうゆうご用件で?」
「あぁ、そうでした。以前、お宅のエリカさんを我が家で預かる話しをした時に話しをした業務提携の書類が出来上がったものですから。」
「わざわざそれを届けに大阪から?」
「いえ、それだけでは無いのですがね、えっと、この藤坂君が芸能人なのはご存知ですよね?」
「えぇ、前に電話で聞きましたので。」
「彼のお家は、我々のように大企業の社長一家などではなく、普通の家なんです。」
「まぁ、普通はそうでしょうね。」
「で、ですね、ウチには、エリカちゃんより一つ年下の、飛鳥と言う女の子が居ます。」
「ほう。」
「藤坂君?さっきのスマホの写メを社長に。」
「はい。青島社長、これ、大阪の通天閣の前で撮った写真です。」
と藤坂がスマホを颯太に渡した。
「おぉ、エリカのヤツ、元気そうじゃないか。で、こちらの可愛い女の子お二人のどちらかが娘さんで?」
「えぇ。で、もう一人、女の子が写っているでしょう?」
「えぇ。」
「その子もモデルでタレントをしているんです。」
「そうなんですか。」
「えぇ、何でも、藤坂君とは現場で何度か仕事をしてる、とか。そうだったね?」
「はい。」
「それで、ですね。青島さん。」
「なんでしょう?」
「私、考えたんですが、この藤坂君、大阪に来る前までは、エリカさんと同じコンビニでバイトしてたらしく、そこでエリカさんと出会って、付き合うようになり、エリカさんが彼と一緒に大阪へ引っ越したい、と言うので、僕が彼に、彼専用のマンションを、僕の家の近くに用意しました。」
「そんなことに…。」
「それで、なんですが、そこの写真に写っているもう一人の女の子のモデルさんが、うちの飛鳥と幼馴染なんです。」
「ほうほう。」
「で、この藤坂君とも面識がある。」
「うん。」
「で、青島貿易さんの企業力と、我々ユーキコーポレーションの企業力で、小さな芸能事務所を開きませんか?」
「は?芸能…事務所、ですか?」
「えぇ。」
「藤坂君は、これからの生活拠点が大阪になるので、えっと、うちの飛鳥の友だちのモデル…楠木真琴ちゃんと言うのですが、僕が、その子の事務所の社長のことも知ってますので、真琴ちゃんと藤坂君を新しく設立する芸能事務所に移籍させ、
大阪と東京を拠点に2人を大々的に売り出す作戦なんですが、どうでしょうか?」
「えーと、つまり、悠生さんは、私たちの会社が共同で出資して、芸能事務所を作り、その、真琴ちゃんと藤坂君を、今よりもより人気者の芸能人に育て上げたいと、こうおっしゃりたいので?」
「えぇ、まさに!どうです?面白そうでしょう?」
「分かりました。芸能事務所の件はちょっと考えますが、えーと、藤坂君?」
「はい。」
「君、ウチの会社のテレビCMのイメージキャラクターになってもらえないかい?」
「えぇ?!あ、青島貿易さんの?!」
「あぁ。」
「しゃ、社長、どうしましょう?」
「ん?何がだい?」
「僕、どっちの会社のCMに出れば…。」
「そんなの、両方に決まってるじゃないかっ!」
「はぁ~…。」
雅輝の仰天発言に、藤坂は驚きを隠せなかった。
で、藤坂の隣に座ってた浩輝が藤坂に、こう話した。
「藤坂君?分かったかい?これがお父様のやり方や。これから君ももっと苦労するで?」
「な、何てコトを言うんだ、浩輝は。僕は大真面目だよ。」
「あーはいはい、分かってますぅ~。」
「まったく…。で、どうですかな?社長。」
「うん、なかなかに楽しそうな案件じゃないか。乗りましょう、その話しっ!」
「ありがとうございます!」
「あ、お、お父様?」
「なんだね?浩輝。」
「CMに起用するのは藤坂君だけですか?」
「なぁにを言っとるんや君は?もちろん、真琴ちゃんも一緒に出るに決まってるやないか。」
「ま、真琴も?!」
「その方が、男女どちらのファンからも知名度上がるだろう?」
「2人とも、今をときめくトップモデルなんだからさ!」
などと、仕事の話しはなかなか尽きない。
そんな壮大な仕事話が東京で行われているとは露知らず、真琴たちは今日も大阪で普通に学校生活をしていた。
…そして、飛鳥の父・雅輝と藤坂が東京に行ってから2~3日が過ぎた、とある平日。
飛鳥と真琴・エリカや響香たちは、真琴や藤坂の事務所移籍話が持ち上がっていると言うことなど何にも知らず、いつものように、普通に学校へ行っていた。
今日は、藤坂と雅輝が東京へ行ってから数日が経った、とある平日の放課後。
久しぶりに、飛鳥・真琴、エリカと響香の4人が、あべのHOOPのスタバでお茶をしていた。
すると、真琴のスマホの電話が鳴った。
「まこちゃん、電話鳴ってんで?」
「え?あ、うん。」
と言い、真琴はコーヒーカップをテーブルに置き、電話に出た。
「はーい、もしもし?」
すると、返事を返して来たのは何と、飛鳥の父・雅輝からだったので、真琴はビックリした。
「あ、え?お、おじ様?ど、どもです。どうしたんですか?おじ様から電話して来るなんて。」
「あぁ、いやね、君の芸能活動にとっても、大変良い話しが来たから、電話したんだよ。」
「そ、そうですか。」
「あ、ちなみに君の傍に飛鳥やエリカちゃんとかが居たりする?」
「えぇ、居ますよ?響香も。学校終わったので4人でいつものスタバでお茶してるところです。」
「そっか。困ったな。」
「何が、ですか?」
「出来れば、みんなが居ないところに移ることは出来ないだろうか?」
「え?えぇ?出来ますよ?」
と、そこへ、飛鳥が割り込んで来た。
「なぁなぁ、まこちゃん、電話、誰なん?"おじ様"て
「飛鳥、ちょっと黙ってて。」
「今のは飛鳥の声だね?」
「あ、は、はい。すぐ横に居るもので。」
「ちょっと店の外に出てくれないかい?」
「あ、は、はい。分かりました。」
そう言うと真琴は、「ごめん、みんな、ちょっとだけ外出て来るわ。」と言い、席を離れた。
「どうしたんや?まこ。」と、響香。
「さぁ。でも、話しの雰囲気からして話してる人、どうやら私のお父様っぽいような感じがするんよねー…。」
「そうなん?ほな、別に外出んでもえぇやんか。」
「まぁ、私らには話されへん用事なんやろ、多分。」
で、外に出た真琴。
「あ、もしもし?おじ様?みんなから席、離れましたけど。」
「あぁ、すまないね。」
「で、飛鳥たちに聞かれたらまずい話し、とは?」
「あぁ、率直に言おう。」
「は、はい。」
「真琴ちゃん、しばらく学校休んで、東京に来なさい。」
「は?」
「いや、だから、仕事だよ。お仕事のは・な・し。」
「仕事って、芸能の方、ですか?」
「もちろん、そうだよ。」
「で、どうしておじ様が、芸能のお仕事を私に紹介して下さるんですか?」
「それはね、話すと長くなるんだが…。」
と言い、雅輝は、どうして今、自分が東京に居て、突然真琴の携帯に電話して来て、
学校を休んで東京に来い、と言ったか、の説明をした。
その内容は、エリカの父・颯太の会社、青島貿易と、雅輝の会社、
ユーキコーポレーションが合同で出資し、芸能プロダクションを、大阪と東京で立ち上げたと言う話しと、そのプロダクションには、藤坂も所属し、真琴にも、今の事務所から転属してもらい、
そして、藤坂と2人で、ユーキコーポレーションと青島貿易の二社のテレビCMのイメージキャラクターになってもらい、映画の撮影などもする、と言う内容だった。
そして、長い説明があったあと、真琴はしばらく呆然としていた。
そこで、雅輝が、全く反応が無い真琴に、電話越しに声をかけた。
「おーい、真琴ちゃーん!もしも~し!!」
「あ、お、おじ様、すいません。何か、いろいろビックリしちゃって。」
「まぁ、悪かったよ、わたしも突然このような話しを持ちかけて。」
「おじ様、今、東京に居るんですか?」
「あぁ、藤坂君も一緒だ。」
「え?藤坂さん、静岡へ戻ってたんじゃ…。」
「静岡の用事はもう済んだので、その足で東京に来てもらったんだよ。で、今は、エリカちゃんのお父様の会社、青島貿易の本社ビルで、浩輝も交えてみんなで君の話しをしていたところだ。」
「ひ、浩兄も居るんですか?」
「あぁ、居るよ。変わろうか?」
「あ、お、お願いします。」
「浩輝?真琴ちゃんだよ?」
と、浩輝は、雅輝から電話を変わった。
「もしもし?真琴?」
「あ、浩兄っ!久しぶり。」
「久々やな。その後、元気にやってるか?」
「う、うん。やってる。」
「飛鳥は?」
「うん、今も、響香やエリカさんと一緒に4人でお茶してたトコ。」
「そうなんや。そっちは楽しそうやな。」
「で、さっきのおじ様の話し、本当なんですか?」
「あぁ、ホンマや。うちの会社と青島貿易さんとで共同出資して芸能事務所を新たに立ち上げたんだよ。」
「そ、そうなんですか…。でもウチ、今、別の事務所に所属してるで?」
「問題無い。そこは、既にお父様が真琴の事務所の社長に断りを入れて、既に事務所から退籍済みや。」
「は?」
「だ・か・ら!お前はもう、今までの事務所のモデルちゃうねんやっ!って言うてんねん!!」
「えーっ??!!ほ、ほな、私、今、浪人なんですか??」
「何言うとんねん。お前はもう既に新しい事務所に所属してる、専属タレントや。」
「あ、新しい事務所は?大阪に?さっき、おじ様が、しばらく学校休んで東京に、とかなんとか言ってたけど。」
「あぁ、事務所は、大阪と東京、両方に作る準備をしてる。」
「はぁ~…。で、東京にはどんなお仕事で何日くらい行くんですか?」
「そやな、だいたい3ヶ月くらいや。」
「そんなに??!!」
「あぁ、その話しも既に、鈴ヶ丘の学院長先生に、お父様から話し済みや。」
「お、おじ様、展開が早過ぎや…。」
「今更何言うとんねん。うちのお父様のやり方は、お前も昔から知ってるやろ?」
「そ、それはそうやけど…。で、その映画撮影のお仕事は、ウチ一人ですか?」
「いんや?藤坂君と一緒に出てもらう。」
「えー??!!」
「って、さっき、お父様から説明あったやろ?」
「う、うん…。」
「それとな、昨日な、関空から羽田までの飛行機のチケット、真琴の家宛に郵送しといたから。」
「え?あ、ありがとう。」
「あとな、東京来る時な、パスポートも忘れんと持っといでや?」
「パスポート?」
「そや?持ってるやろ?」
「う、うん、一応。」
「CMと映画の撮影な、海外でやることになるかも、やから。」
「わ、分かった。」
「ほな一旦お父様に代わるわ。」
と、浩輝との長い電話のあと、雅輝が電話に出た。
「あ、真琴ちゃん?」
「あ、は、はい。」
「浩輝から話しは聞いたね?」
「はい。」
「じゃあ、航空券が届いたら、そのチケットの飛行機に乗って、東京まで来てくれるね?」
「は、はい。」
「羽田には、浩輝を向かわせるから。関空出る時にでも、浩輝のスマホに電話かLINEでもしなさいね。」
「え?い、いいんですか?」
「その方が君も気楽でいいだろう?」
「え、えぇ、まぁ。」
「よぉし!話しはまとまったね。」
「じゃあ真琴ちゃん!東京で会えるの、楽しみにしてるよー。じゃあねぇ~。」
と、最後は、いつもの雅輝のおちゃらけで電話を切って、プープープー、と言う、
切ったあとの音だけが残り、
真琴は、一体何が何やらわけが分からず、頭の中がこんがらがって、
HOOPの円形の屋根を見上げながら、広場の真ん中で呆然と立ち尽くしていた。
3分ほど立ち尽くしていたところへ、飛鳥たち3人が真琴の元へとやって来た。
「まこちゃーん!」
「え?あ、飛鳥?」
「なぁなぁ、どうしたん?そんなトコで上向いて。」
「え?あ、あぁ、いろいろあり過ぎてな。」
「いろいろ?」
「うん。」
「まこ、何かあったんか?電話、誰やったんや?」
「あー…。」
「ウチらには言えん内容か?」
「言えんことないけど、んー…、どう説明したらええんやろか。」
「相手は誰やねん?」
「あ、飛鳥のおじ様。」
「やっぱり!お父様、なんて?何で私のスマホやなくてまこちゃんのスマホに電話して来たん?」
「う、うん。新しい仕事の話しや。」
「それって、モデルの?」
「うん。」
「何でお父様がそんな話しをまこちゃんに?」
「んー…。」
「何やねん、まこっ!ハッキリ言いぃなっ!」
「私、しばらくの間、学校休んで、そのお仕事で東京行くことになった!」
と言う、突然の真琴の発言に、3人は、声を揃えて、
「は???」
と言って、真琴の顔を見た。
「真琴さん、東京へ行かれるんですか?」と、エリカ。
「は、はい。」
そして真琴は、絶対に他の誰にも話さないよう、この4人だけの中だけの秘密にしておくように、
と、3人に念を押して、雅輝と浩輝に言われたことを全て話した。
「えー?!私のお父様の会社と飛鳥さんトコとで芸能事務所をっ?!」
「は、はい。」
「で、そこに藤坂さんと真琴さんが所属??!!」
「はい。」
「そ、そらそんな大事な話しやったら、スタバの店内では出来んわな。」と響香。
「で、まこちゃん、東京へはいつから行くん?」
「んー、何でも、浩兄が航空券送ってくれたらしいから?それが届いたら、便名と日付見て、
それに合わせて来るように、って言うてたわ。」
「ひ、浩兄とも話したん?」
「うん。」
「私かて最近全然話ししてへんのにっ!」
「そうかー…、真琴もとうとう読者モデル卒業してタレントになるんかー…。何か凄いな?飛鳥?」
「う、うん。まこちゃん!私、応援してるから!」
「わ、私もですわ!!」
「あ、ありがとう、みんな。」
「なぁ、まこちゃん?」
「んー?」
「まさか、鈴ヶ丘は辞めたりせぇへんやんな?」
「えぇ?多分、な。」
「多分、て?」
「さっきの電話では、そこまでは言うてへんかったからな。」
「そか、良かった。」と、飛鳥。
「今、何時かしら?」
と、エリカが自分のスマホの時計を見る。
「ねぇ、皆さん?もう6時回ってますわよ?」
「えぇ?もうそんな時間?」
「はい。」
「ほな、今日はみんなで一緒に帰ろか。真琴とはしばらく一緒に帰られへんかもやからな。」
「もー…。」
そして4人は一緒にHOOP広場からいつもの上町線ホームへと向かって電車に乗って家路に着いた。
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