第17話:飛鳥と千春の初デート。

昨夜からマリオットホテルに泊まっていた飛鳥と直輝の2人は、翌朝8時に目が覚めた。

先に目を覚ましたのは直輝だった。


「ふ・ふぁわ~。良く寝たなぁ~…。って、今、何時や?」


と、直輝は、自分のスマホの時計を見る。


「って、えぇ?!」


スマホの時計を見て驚いて、気持ち良さそうに眠っている飛鳥を揺さぶり起こしにかかる。


「飛鳥っ!飛鳥っ!ってやっ!」と言い、直輝は、飛鳥の身体を大きく揺さぶった。

「ん~…?もちっと寝かせてぇなぁ~…。」

「何言うとんねんっ!早よ起きぃっ!」

「ん~…?」


と言って、飛鳥がむくっと起きて来た。そして、「ふわぁ~…。」と、大きなあくびをした。


「なにのんきにあくびしとんねん。」

「時計見てみぃ。」

「時計ぃ~?」

「って?えぇ~?!は、8時回ってんやんかっ!!」

「そや?」

「お前、9時に阪急梅田で待ち合わせなんやろ?」

「僕が車で梅田まで送って行くから、早よ用意せぇ。」

「う、うん。」


そう言って飛鳥は昨日、直輝に買ってもらった服を着て、急いで身支度をし、

バスルームの鏡の前で、髪を綺麗にセットし、少し大人しめのメイクもして、出掛ける準備をした。


「出来たか?」

「うん。」

「忘れ物は無いか?」

「無い。」

「ほなチェックアウトしよか。」

「うん。」


そして2人は部屋を出てフロントに向かい、チェックアウトして、

昨日から車を止めていたコインパーキングに向かい、

飛鳥を乗せて、パーキングを出て、上町筋を北上した。


その車内…。

飛鳥のスマホが鳴った。


「はーい、もしもーし。」

「あ、悠生さん?」

「あ、先輩っ!」

「おはよう。」

「おはようございます。」

「今、ドコ?」

「い、今ですか?えーと…。直兄、ここ、ドコ?」

「んー?今はまだ谷九辺りや。」

「あ、先輩?」

「なにー?」

「今、谷九辺りだそうです。」

「だそうです、って、何?それ。」

「あぁ、昨日あのあと、直兄と一緒にホテル泊まって、その足で今、阪急向かってますので。」

「そうやったんや。」

「で、今朝、私が寝坊しちゃって。ってか先輩今、ドコですか?」

「僕?」

「はい。」

「僕はもう待ち合わせ場所に居るよ?」

「えーっ?!す、すいません!なるべく早く行きますので!な、直兄っ!急いでっ!」

「急いで、ってもなぁ、お前。今日は日曜やねんぞ?んで、この渋滞や。あと2~30分はかかるわ。」

「そんな~。」

「今の声、お兄さん?」

「はい。」

「じゃあ僕、悠生さんが来るまで、指定の場所で待ってるから、安全運転で慌てず来てね。」

「あ、ありがとうございます~。」

「じゃああとで。」

「はーい。」


そう言って2人は電話を切った。


「先輩、なんやて?」

「え?あ、うん、安全運転で慌てず来てね、やて。」

「そっか。優しいトコあるやんか。そいつ。」

「あるやんか、って、先輩な、むちゃ優しいんやから。」

「そっか。」

「うん。」


そして直輝の運転する車は、渋滞の谷町筋を抜け、ようやくJR大阪駅前付近に着こうとしていた。

そこで、飛鳥が直輝に、こう言った。


「直兄、その辺の止められそうなトコで止めて。私、すぐ降りるから。」

「分かった。」


そう言うと直輝は、なるだけ阪急梅田駅近くの車が止められそうな所を見つけて停車した。

そして、飛鳥にこう言った。


「飛鳥っ!頑張って来るんやでっ!」

「うん、直兄、ありがとうなっ!」


そして飛鳥は車のドアを閉めて、紀伊国屋書店の前を通り、エスカレーターで、

阪急電鉄の梅田駅・3階コンコースへと、急ぎ足で上って、待ち合わせのコンビニ前に向かった。

するとそこには既に千春の姿があり、それを見つけた飛鳥は、バッと物陰に隠れ、


「落ち着け、私。落ち着け~。」と、自己暗示をかけて、ゆっくり歩いて、千春の前に出た。


「先輩っ!」

「あ、悠生さん。」

「ごめんなさい、道が込んでて遅くなって。」

「いやいや、全然いいよ。で、どうしよっか?」

「そうですね。とりあえず、三宮までの切符、買いましょう。」

「そうやね。」

そう言って2人は自動券売機まで行き、神戸三宮駅までの片道切符・320円を買って、改札機をくぐり、1号線から9号線まである、広々としたヨーロピアンスタイルの行き止まり式ホームの中で、東側から、京都線系列・宝塚線系列・神戸線系列の、

大きなLEDの電光発車案内板を見て、次の特急の発車時間と出発ホームを確認し、

9号線へと向かい、電車の到着を待った。


そして、ホームで電車の到着を待っている間、千春が飛鳥にこう話しを切り出した。


「ゆ、悠生さん?」

「は、はい。」


初めて2人だけのデートで、2人ともとても緊張していた。


「そ、その服、とても似合ってるよ、可愛い。」

「あ、ありがとうございます。これ、今日のデート用に、昨日、直兄に、近鉄百貨店っでうてもろたんです。」

「そ、そうだったんだ。」

「はい。」

「だから阿倍野に居たんだ。」

「はい。」


と、そこへ構内アナウンス。


「まもなく、9号線に、神戸三宮行き特急が到着致します。どなたさまも…。」


と言うアナウンスが流れると、オシャレなマルーンカラーの電車が入って来た。


「先輩、電車、来ましたよ。」

「うん。」


9号線に入った電車は、反対側の降車側ホームのドアを開け、三宮側から乗って来た乗客を一旦降ろしたあと、少しの間、折り返し作業をして、車掌が、「お待たせ致しました。」と言い、飛鳥たちが待つ乗車側ホームのドアが開き、

一斉に車内へと人たちが乗り込んでいき、飛鳥と晴喜の2人も、空いてる席に座った。


「ねぇ、先輩?」

「んー?」

「私、こんなんうて来たんです。」

「なに?」

「じゃーん。」

「んー?あぁ、神戸のガイドブックやんか。」

「そうですよー。」

「今日は、行きたいトコ、たくさんありますから。」

「そっか、そんなに楽しみにしててくれたんやね。」

「あったりまえやないですか。」


と、そこへ、車内に発車のアナウンスが流れ、ドアが閉まり、電車はゆっくりと阪急梅田駅を出発していき、神戸三宮駅を目指す。


その車内。


「悠生さん?」

「はい?」

「今日、神戸で行きたいトコって、ある?」

「んー…。いろいろ考えたんですけどね。」

「うんうん。」

「とりあえず、南京町へ行って豚まん食べたいです。」

「あははは、帝塚山のお嬢様でも豚まんは好きなんだね。」

「何言うてるんですか。ドコに住んでようがどんな家柄だろうが関係ないですやん!そんなん。うちの家でかて、551の豚まんかて、たまにですが食べますよ。アイスキャンデーとかも。」

「あははは、そうなんやね。まぁ、551は関西人の定番やからね。」

「もう…。」

「うん、いいよ。で、そのあとは?」

「んー、ポートタワー登りたいなぁ、って。で、モザイク行って、海を眺めるの。」

「いいね、うん。いい感じだよ。」

「で、海をボーっと見ながら、2人でいろんな話しをするんです。」

「うん、そうしよう。」

「ホンマですか?」

「あぁ、うん、いいよ。」

「わーい。」


そして、2人を乗せた電車は、途中、西宮北口など数駅に止まり、約30分ほどで神戸三宮駅に到着し、電車から降りた二人は…。


「先輩!」

「なに?」

「来ましたよっ!神戸っ!」

「そうだねー。来たねー。」

「今、何時かな?」


と、千春がホームの時計を見ると、午前11時前だった。


「もう11時前かぁ…。」

「どうしたんですか?」

「んー?お昼ご飯時やなぁ…、って。」

「そっか、そんな時間なんや。」

「どうする?いきなり南京町行く?」

「行きたいっ!」

「じゃあそうしようか。」

「先輩、行き方分かるんですか?」

「え?分かんないよ。神戸なんて初めて来たから。」

「ほな、タクシーで行きましょう。」

「た、タクシー?ぼ、僕、そんなにお金、持ってないよ?」

「だーいじょうぶです。じゃーん。」

「そ、それって、クレジットカード、ってやつ?」

「そうでーす。って、盗られたら困るから早く直そ。」


と言って飛鳥は、自分のクレジットカードを、そそくさと財布のカードケースに直した。

そして、改札を出た2人は、タクシー乗り場へと行き、南京町まで乗せてもらうよう、飛鳥が運転手にお願いすると、運転手は快く、「かしこまりました。」と言い、ゆっくりと車を走らせ、南京町へと向かった。


その車内。


「お客さんたち、高校生?」

「え?あ、はい、そうですが。」

「デートで神戸に?」

「はい。」

「いいですねぇ、青春してまんなー。」

「そ、そんなこと…。」


そしてタクシーは、10分ほど神戸の町を走り、南京町の入り口へと着き、運転手が一言。


「ここが南京町の入り口ですよー。」

「あ、ありがとうございます。」

「お支払いは?」

「あ、これでお願いします。」

「カードね?えーと、これは、君のカード?」

「もちろんです。」

一応、身分証か学生証、見せてもらえる?」

「あ、は、はい。どうぞ。」


と、飛鳥は運転手に学生証を見せた。


「はい、確かに君のカードだね。ありがとう。」

「じゃあこれでお願いします。」

「はいはい。じゃ、これ、領収証ね。」

「はい。」

「まいどー。」

「ありがとうございます。」


そして、タクシーを降りた2人は、ゆっくりと南京町の散策に出た。

で、人だかりが出来ている豚まん屋さんの方へと歩いていく。


「先輩っ!あの店のが有名らしいんです!」

「分かったよ。」

「早く行きましょう!」

と、飛鳥は知らない間に千春の手を取り、一緒に歩いていた。

そして、行列に並ぶこと15分。店員から呼ばれる。


「次の方ー。」


「あ、はーい。すいません、豚まん2つ、ください。」

「はいよー。」


と言われ、お金を支払い、店から少し離れたところにあった座れる場所を見つけ、腰掛けて、2人で豚まんをほおばった。


「先輩、美味しいですねっ!」

「そうやねー。僕も初めてだよ。」

「そうですか、良かったです。」

「ってかさ、悠生さん?」

「はい?」

「さっき、南京町入ってから、豚まん屋さん行く時、とっさに僕の手を引いてたけど…。」


「あ。」


と、自分の取った行動に対して、瞬間湯沸かし器のように、一瞬で飛鳥の顔が真っ赤になった。

そして…。


「も、もう!先輩ったら!し、知らないっ!」


と言い、プイっと、晴喜とは反対の方を向いて、顔を真っ赤にして、照れていた。


「悠生さん?」


…と、千春が尋ねても返事が無い。


「悠生さん、ってば!!」

「は、はいっ!!」

「あ、あのさ。」

「な、なんでしょう?」

「せっかくさ、さっき、君が手を繋いでくれたから、今日はさ、天王寺じゃないんだし、誰にも見られることも無いと思うから、今日のデート中、手、繋いで歩かない?」

「え?え?い、いいんですか?」

「僕も初めてだから、こんなこと言ったの初めてで緊張してるし、上手く繋げるかどうかわかんないけどさ、でも、やってみようよ。」

「は、はい。」


そう言うと千春は飛鳥の手をそっと繋いで、次の予定を飛鳥に聞いた。


「女の子の手って、こんなに小さくて温かくて柔らかいんだね。知らなかったよ。」

「私もです。男の人の手は、兄や父のくらいしか触ったこと無いので。」

「ね、次はどこへ行こうか?モザイク?」

「んー…、そうですね。もうちょっと南京町の中、うろうろしてもいいですか?」

「うん、いいよ。」


2人は、手を繋ぎながら、お互い照れながらも、時に目を合わせては、2人で笑顔で会話をしたりしながら、南京町の中を散策していた。


と、そこで、ふと、小さいショップの店頭に置かれていた商品に、飛鳥の目が行き、

晴喜の手を引き、その店に走って行く。


そして、「あーっ!」と、叫んだ。


「ど、どしたの?悠生さん?」

「こ、こ、これ、これは…。」と、その商品を手にし、わなわなわな、と、飛鳥の手が震えていた。


と、飛鳥が手にしたのは、飛鳥が大好きな、台湾のロックバンド・「五月天メイデイ」の、関連グッズだった。


「悠生さん、これは?」

「え?あ、え、えーと、吹奏楽コンクールのミーティングの時に私が提案した音楽、覚えてます?」

「あぁ、うん、覚えてるよ?」

「これ、あの人たちのグッズなんです…。私、これ、持って無くて…。」

「そうだったんだ。なんぼするん?

んー…と?えー?1000円?安っ!わ、私、こ、これ、か、買って来ますっ!」

「あ、待って!」

「え?」

そう言うと千春は、飛鳥が両手に抱えている五月天グッズを無理に自分の手に取り、店内へと入って行った。

その行動に、飛鳥の頭は、「???」になっていた。

そこへ、千春が戻って来た。


「はい、悠生さん、これ。」

「は?え?は?」

「だ・か・ら、これっ!僕からの初プレっ!」

「って、えーっ?!!い、いいんですか?!」

「いいって、これくらい。」

「悠生さんが喜んでくれるなら僕はそれだけで嬉しいから。」

「あ、ありがとうございます、先輩っ!」

「じゃあ、次、回ろうか。」

「はーい。」


そう言うと飛鳥は、千春からプレゼントされた五月天グッズが包まれた包み紙を天に向けて仰ぎながら、五月天の大好きなナンバーを鼻歌で歌いながら歩いていた。


そして、1時間ほど南京町をうろうろしたあと、来た時とは反対側の出口の前で、飛鳥が千春に一言。


「さて、先輩?」

「なんだい?」

「このあと、どうします?」

「どうって?」

「海側へ行くか、山側へ行くか。」

「え?モザイクへ行くんじゃなかったの?」

「まぁー…。」

「僕は、君と一緒に海が見たいな。」

「ホンマですか?」

「もちろん!」

「ほな、モザイク行きましょっ!」

「りょーかい。で、どうするの?またタクシー拾う?」

「んー…行き方分かんないですし、そうですねー。」


そう言って飛鳥は、通りかかったタクシーに向かって手を挙げ、2人で乗り込んで、

モザイクまで行ってもらうように、運転手にお願いした。


南京町で豚まんを食べ、町の出口でタクシーをつかまえた2人は、その車に乗り、

ハーバーランドにある商業施設、「umie(ウミエ)」を目指し、

渋滞も無かったので、約5~6分で着いた。

そして、タクシーを降りた2人…、

特に飛鳥は、普段見ることの無い海の風景に、心を躍らせてはしゃいでいた。


「うわー!先輩っ!海ですよっ!海っ!」

「そうやな~…。」

「て、先輩?」

「んー?」

「先輩、あんまり楽しくないですか?」

「なんでさ。」

「だって。」

「だって?なんですか?」


千春は、何だか急に乗り気じゃなくなったようだったので、飛鳥が無理矢理に千春の手を引っ張って、ポートタワーが見渡せる岸壁まで行って、海に向かって大きく息を吸った。


「すぅ~…。」


そして、何を言い出すかと言うと…。


「わたし、悠生飛鳥っ!今から歌いますっ!!」


「は?」


千春は訳が分からなかった。


そして飛鳥は、いきなりアカペラで、こんな歌を歌い出した。


♪「恋愛ing(アイ・エヌ・ジー)」♪


あなたと付き合って恋をして、具合が悪くなっても大丈夫。

あなたと付き合ってたくさん歩き回って、偏平足になっても大丈夫。

いろんな出会いや勇気をくれたあなたに私、めっちゃ感謝してるのよ。

あなたが私に改めて、いろんなことを教えてくれた、L・O・V・E!


恋愛ing Happy ing

私いま、心はまるでジェット機に乗っているみたいに幸せなのよ。

恋愛ing Happy ing

黄昏も 夜明けも変わっていって、朝が来ない夜は無いんだよ。

あなたと一緒に居ると、ヤバいくらいドキドキしちゃうのよ。


あなたは空気。 でも、空気よりいい香りがするの。

あなたは光。 でも、深夜にだって照らしてくれるの。

水は海や川なんかで船を浮かべたりも出来るし、

お粥を作って空腹のお腹を満たすことも出来るよね?

あなたは私の心のビタミンなのよ! L・O・V・E!


恋愛ing happy ing

私いま、心はまるでジェット機に乗っているみたいに幸せなのよ。

恋愛ing Happy ing

黄昏も 夜明けも変わっていって、朝が来ない夜は無いんだよ。

あなたと一緒に居ると、ヤバいくらいドキドキしちゃうのよ。


いつかどこかの未来であなたの永遠の気持ちを、私はずっと待っているの。

私はいつもずっと、いつまでも、今、この瞬間を忘れないからね。


L・O・V・E!L・O・V・E!L・O・V・E!


恋愛ing Happy ing

私いま、心はまるでジェット機に乗っているみたいに幸せなのよ。

恋愛ing Happy ing

黄昏も 夜明けも変わっていって、朝が来ない夜は無いんだよ。

あなたと一緒に居ると、ヤバいくらいドキドキしちゃうのよ。

あなたと一緒に居る、全ての瞬間が、私にとっての、「恋愛ing」。


~~~~~


そして、歌い終わると、飛鳥の歌を聴いていた千春の他に、通りかかって、飛鳥の歌を聴いていたカップルや家族連れなど数組が、大きな拍手をしてくれたので、飛鳥は、後ろに居る千春の方を振り向くと、

またも恥ずかしさで、一気に顔が、瞬間湯沸かし器のように、真っ赤になった。


そこで千春は、飛鳥に近付いて、こう言った。


「あ、飛鳥ちゃん?」

「は、はい。」

「ありがとう、すっごくいい歌だった。」

「ホンマですか?ってか、初めて名前で呼んでくれました。」

「い、今の歌って?」

「あ、は、はい。今日の為に作って来ました。先輩の為に。」

「ぼ、僕の為に?」

「作った、っても、私が大好きな台湾のバンド・メイデイの歌の日本語訳詞を、私流に訳して、私が今日の為に歌えるように勝手に作り直して歌ったんですけどね…。」


すると突然、千春は泣き出した。


「ちょちょっと!先輩っ??!!な、何泣いてんですか??!!」

「い、いや、ごめん、あまりに嬉しくて、意表を付かれたサプライズに驚いたんだよ。」


「先輩?」

「な、なに?」

「ちょっとこっち来て下さい。」


と、飛鳥がまたも自分から晴喜の手を引いて、歩いて行った先には、大きくて真っ赤な観覧車があった。


「これ。観覧車!」

「う、うん。」

「乗りましょう。」

「うん、いいよ。」


そして2人は、観覧車の切符を買って、行列に並ぶこと役10分。

ようやく2人の順番が来て、手を繋いで一緒にゴンドラに乗り込んだ。


2人を乗せた観覧車は、ゆっくりとした速度で回っていき、徐々に上へ上へと登っていく。

ゴンドラの中でも2人は手を繋いでいて、遠くに淡路島が見えると、飛鳥が千春に向かって、


「先輩っ!あれ!淡路島やないですかっ?!」

「あぁ~、そうやね!今日はいい天気やからむっちゃ綺麗に見えるね。」

「やっぱ神戸来て良かったですね~♪」

「そうやねー。ってか、さっきの歌はホンマ、すっごく嬉しかったよ。」

「ホンマですか?ありがとうございます。」


そして、観覧車が頂上に差し掛かろうとした頃、ゴンドラの中で、千春が勇気を振り絞って、

飛鳥にこう言った。


「あ、飛鳥ちゃん?」

「はい。」

「目、閉じてくれる?」

「は、はい、分かりました。」


飛鳥は、千春に言われるがままに目を閉じた。


「こう、でいい、ですか?」

「う、うん。」


千春は、飛鳥の片方の手のひらをそっと握り、そして、もう片方の手は、飛鳥の身体の背中に手を回し、自分の身体の方へとそっと抱き寄せ、千春は、自分自身の持てる、精一杯の勇気を振り絞って、自身としても初めてのキスを、飛鳥の小さくて可愛い唇に口付けをした。


キスの途中、千春は、キスをしながら心の中で、こんなことを思っていた。

女の子の唇や身体って、こんなに柔らかくて温かいんだな…と。


「ん…ん…。」


そして、約5分ほど続いたキスは、千春の方から唇を離し、飛鳥にこう言った。


「も、もう目、開けていいよ。」

「ふぁ…。」


「ど、どうやった?」

「どう、って、私、キスなんて今のが初めてだったから、とっても幸せでした。」

「イヤじゃなかった?」

「何でですか?イヤどころかすごく気持ち良かったです。」

「そっか、良かった。」

「先輩とならまたしたいです。」


「あ、そうや。ゴンドラが下に着くまでに、これ、先輩に渡したいんです。」


と言い、飛鳥は自分のバッグから何やら包みを出した。


「それは?」

「えと、先輩へのプレゼントです。」

「プレゼント?」

「開けても、いい?」

「い、いいですけど、ゴンドラ、もうすぐ終わりです。」

「ありゃ。」


そして、終わりに近付いた、2人を乗せたゴンドラは、地上に戻って来て、

係員がドアを開け、2人をゴンドラから降ろし、飛鳥たちは手を繋いで、階段を下り、歩いて、再び岸壁の、海が見えるベンチに行き、腰掛けた。


そこで、千春が。


「さっきのプレゼント、開けてもいいかな?」

「あ、は、はい。」


そして千春は、飛鳥からのプレゼントの包み紙を、ゆっくり丁寧に開けていく。

すると中から透明のプラスチックの箱が出て来た。

箱のふたを開けると、上には可愛い封筒が入っていた。

千春が飛鳥に、

「この封筒、開けてもいい?」と聞くと、飛鳥は、「恥ずかしいから家に帰ってから読んで下さい。」と言った。

そして、封筒を取ると、そこには更に小さなボール箱が二つ。

「これは開けてもいいかな?」と千春が聞くと、飛鳥は、「はい。」と答えた。

すると中からは、可愛らしいペアのマグカップが入っていて、

「永遠に愛しています。飛鳥&千春。2018年・春。」と、書かれていた。


「うわー…。飛鳥ちゃん!」

「は、はい。」

「むっちゃ嬉しい、ありがとう、大切にするよ。」

「ありがとうございます。」


そして2人はベンチに座って談笑している時、千春はふと、スマホの時計を見た。


「飛鳥ちゃん?」

「はい?」

「もう、4時だけど…。」

「えぇ、もうそんな時間なんですか?」

「うん。」

「飛鳥ちゃんのお家、時間に厳しいんだよね?」

「はい。」

「今から天王寺まで戻ったらだいたい6時前後になるよ?」

「じゃあそろそろ帰いましょうか。」

「そうだね。」


そう言って2人はモザイクを後にし、再び阪急電鉄の神戸三宮駅へと戻って来た。


「先輩?」

「なに?」

「また、私とデート、してくれますか?」

「もちろん、喜んで!」

「わぁい。」


そして、ホームに入って来た梅田行きの特急電車に乗り、2人で大阪に戻った。


飛鳥にとっても、千春にとっても、短くて長いような、

初めての、ドキドキデートは、ひとまずこれで無事に終わった。

阪急梅田駅に着いた2人は、朝に待ち合わせていた3階コンコースで、手を握り、

電子掲示板の壁にもたれ、軽く抱き合いながら少し話をしていた。


「先輩?」

「ん?」

「今日はいろいろありがとうございました。」

「それは、こちらもだよ。」

「先輩のキス、気持ち良かったです。」

「僕もだよ。」

「先輩、明日は学校、来ますよね?」

「もちろん。ねぇ、飛鳥ちゃん?」

「はい?」

「さっきの飛鳥ちゃんの歌と、プレゼント。」

「は、はい。」

「あれって、つまり、告白だった、んだよね?」

「はい。」

「そっか、ありがとう、嬉しいよ。」

「じゃ、じゃあ…。」

「うん、僕、飛鳥ちゃんと付き合いたい。」

「ほ、ホンマですか?わーい!!」

「ちょ、こんな人混みで大声出さないで。」

「す、すいません。」

「もっと夜遅くまで一緒に居れたらいいのにね。」

「出来ますよ。」

「え?」

「高校卒業して、大人になったら。」

「そ、そうだね。」

「先輩は、大学、行くんでしょ?」

「うん、そのつもりだよ。」

「執筆の方は?」

「そっちも続けるよ、もちろん。僕の夢、だからね。」

「そっか。私、応援してます。いつも先輩のこと、心から支えてます。」

「ありがとう。」

「ねぇ、先輩?」

「なに?」

「私も、先輩と同じ大学目指していいですか?」

「え?あ、う、うん。嬉しいよ。」

「大学行っても、吹奏楽、続けますよね?」

「もちろん。」

「良かった。私もずっと、クラリネット、続けますから。」

「ありがとう。」

「いえ、私の方こそ。」


そして最後に千春は、飛鳥の身体を、そっと優しく抱き締め、飛鳥からそっと離れた。


「じゃあ先輩、私、ここから帰りますね。」

「え、あ、う、うん。」

「今日は楽しかったです。ありがとうございました。」

「僕もだよ。」

「じゃあまた明日学校で。」

「うん、また明日。」

「さよなら。」

「さよなら。」


そう言って2人は手を振って別れ、飛鳥は3階コンコースからエスカレーターを降り、地下鉄御堂筋線に乗り、天王寺まで向かい、いつもの上町線に乗り、帰宅し、デートは終わった。


…千春との初デートを無事に終えた飛鳥は、ウキウキ気分で家に戻った。

その途中、混雑したいつもの上町線の車内にて。


「あーっすか!」


と、呼びかけられ、その声の方を見ると、響香が笑顔で手を振って、飛鳥に近付いて来た。


「あ、響香ちゃん。やほ。」

「やほー。」


「んー?」と、響香は、飛鳥のにやけた顔を、下の方から覗き込む。


「何かえぇことあったやろ?」

「え?え?わ、分かる?」

「あ、そうか、今日は先輩とデートの日やったんやなっ!」

「う、うん。」

「で、どうやったんや?」


と、響香が飛鳥に聞くと、飛鳥は、満面の笑みで、響香に向かって、ピースサインを出した。


「お?とゆうことは、上手く行ったんやな?」

「うん!」

「そか、おめでとう。」

「ありがとう。」


と、話しをしている間にも車内アナウンスが流れた。


「次は、姫松・姫松。」


「あ、飛鳥、降りなアカンで。」

「そやった。」


飛鳥は慌てて降車ボタンを押して、電車が停留所に止まり、ドアが開くと、

運転席側の前のドアから、

運転手に定期券を見せて、響香と一緒に、他の乗客と共に降りて行った。


「んで?」

「何が?」

「先輩とのデートや。どうやったんや?」

「き、き…。」

「き?」

「キスしてもうたっ!!」

「は?」

「そやから、キスやき・すっ!!」

「なんやねん、分かるように順番に説明しぃや。興奮するんは分かるけどな。」

「ほな響香ちゃん、家寄ってくれる?」

「えぇんか?」

「何で?いつも突然来るくせに。」

「そやったな。ほな、お邪魔させてもらうわ。」


そう言って飛鳥と響香の2人は、停留所から住宅街に向かう狭い路地道を歩いて行った。

その途中、響香が、飛鳥にこう言った。


「なぁ、まこも呼んでええか?」

「まこちゃん?」

「うん。」

「もちろん、えぇで?」

「ほなウチ、まこに電話するわ。」


そう言って響香は真琴のLINEに通話した。


「あ、もしもし?まこ?うち。響香。」

「なんやあんたか。どうしたんや?こんな時間に。珍しいやんか。」

「なぁ、まこ、今から飛鳥の家来られへんか?」

「何で?」

「ってかまこ、今ドコや?」

「ドコて、家の自分の部屋やけど?」

「ほなおいでぇな。」

「なんや?飛鳥もそばに居るんか?」

「横に居るわ。変わろか?」

「飛鳥?まこ。」

「もしもーし!」

「あ、飛鳥?」

「うん。」

「なんや、えらいテンション高いな?何かあったんか?」

「うふふふ…。」

「なんやねんその笑い。キモいで?あんた。」

「えぇやんかー。」

「あ、そうか!今日は先輩とのデートやったんやな。」

「そや?」

「で、どうやったんや?」

「あは、あははははは。」

「な、ど、どしたん?ついに壊れたか?」

「はは、は、

や、今から響香ちゃん、家にんねんけど、まこちゃんも呼ぼ、て、響香ちゃんが言うてな?」

「それで、響香のスマホからLINEして来たんか。」

「そ、そうゆうことや。」

「ほな先に2人であんたの家行っといて。すぐ行くから。」

「分かった。響香ちゃんに代わらんでえぇ?」

「いらんいらん。」

「ほな、あとでな。」

「うん、あとでな。」


そう言って、飛鳥と真琴は電話を切って、飛鳥は、響香のスマホを彼女に返した。


「まこ、なんて?」

「うん、すぐ来るて言うてたわ。」

「そか。なぁ?」

「んー?」

「エリカさんもるやろ?」

「多分な。」

「ほな、女子4人でワイワイお喋りしよやないか。」

「あ、えぇなぁ、それ。」


そんなこんなで2人は飛鳥の家に着き、門を開けて、家のドアを開けると、玄関先の廊下でえちょうど、翠と会った。


「あ、お嬢様・響香様。お帰りなさいませ。」

「ただいまー。」

「あ、翠さん、お邪魔します。」

「どうぞ。」

「あ、そや、翠さん。もうすぐまこちゃんも来るから。」

「かしこまりました。」

「エリカさんは?」

「お部屋におられます。」

「そう、ありがとう。」

「あ、お嬢様、ご夕食はどうされますか?」

「んー、今日はいいよ。ありがとう。」

「かしこまりました。」


そう言って2人は翠と別れ、2階へと上がって行き、エリカの部屋のドアをノックした。


「はぁい。どうぞー。」


そう言われて飛鳥がドアを開けると、部屋にはエリカ一人だった。


「あ、飛鳥ちゃん。昨日はどうしてたの?」

「え?あー…、昨日は直兄とちょっと…。」

「どもー、エリカさん!」

「あ、響香さんも一緒なのね。」

「うん、もうすぐまこちゃんも来るよ。って、あれ?藤坂さんは?」

「あぁ、藤坂さん、今、静岡に帰ってるの。」

「え?いつから?」

「昨日よ?」

「なんでですか?」

「アパートの荷物を整理して、大阪に送るのと、バイト辞めることや、いろいろ、生活のことがあるから。」

「そっか、そうですよね。藤坂さん、芸能人、っても一般人ですからね。」

「うん、そうなの。で?飛鳥ちゃんは?昨日から居なかったけど。」

「あ、そうそう!その話しもあって、エリカさんに声、掛けに来たんです。」

「そうなんだ、ありがとう。」

「で、エリカさん、今から私の部屋に来てくれませんか?」

「えぇ、いわよ?」


そして、3人でエリカの部屋から廊下を歩いていると1階から、翠の声がした。


「お嬢様、真琴様がおいでになられましたが。」

「あ、入れてあげて?」

「かしこまりました。」


翠が玄関のドアを開けると、真琴が入って来た。


「おじゃましーす。」


「あ、まこちゃん、いらっしゃーい。」と、飛鳥は階段の上から手招きをする。


「どしたん?3人揃って。」


「えぇからあんたもはよあがって来ぃ。」と、響香。


そして真琴は、用意されたいつもの自分用のスリッパを履くと、急ぎ足で階段をのぼっていった。


「お嬢様、お紅茶などはどうされますか?」

「あー、う、うん、今は要らないよ。」

「かしこまりました。」


真琴も揃ったところで4人は、飛鳥に部屋に入った。


そして、部屋の中央に置かれている少し大きめの丸いテーブルに、各々に座りこむ。

で、真琴が話しを切り出した。


「んで?どうやったんや?」

「んー?」

「"んー?"ちゃうわっ!今日の先輩とのデートやっ!」

「ふっふふ~ん♪」

「なんやねん、その笑いは。」


「え?先輩とのデート、って、もしかして、鷹梨君?」

「そうですよ、エリカさん。」

「そっか、どうだった?飛鳥ちゃん?」


「みなさんっ!」


「な、なんや?いきなり。」と、響香。


「まず、これを見てくだされっ!」


と言い、飛鳥は、自分のPCデスクの上からプリントアウトされた、A4用紙をテーブルの上に置いた。そして3人は、「んー…?」と、見つめた。


「なになに?"恋愛ing"?」と、真琴。

「なんなん?これは。」と、響香。


「うふ、これは今日、神戸で先輩の前でアカペラで歌った告白の歌やっ!」


と、飛鳥が言うと、3人はそれぞれ顔を見合わせて、そしてそれぞれ、飛鳥の方を向き、


「は???」と、口を揃えてきょとんとした。

「そ・や・か・ら!、この歌は、私が大好きなメイデイの歌でっ!」

「それは知ってる。タイトル、いつも聞くからな。でもな、この歌詞、日本語やんか?」

「そや?そやから私が、先輩に告白した時に歌って、って、言ってるやんか!」


すると3人は、もう一度、


「は???」


と言った。


「あー、もう!分からん人らやなー。私なっ!千春先輩に告ったんや!って!!」


「は?あんたが?」

「鷹梨君に?」

「告白したん?」


3人とも未だに状況がつかめてないみたいだった。

そして、約2~3分の沈黙があったあと、

3人は口を揃えて、お互いを見つめ合って、飛鳥の顔の方を向き、声を揃えて、


「えーーーーーっ??!!」


と、改めて驚いた。


「あ、あんた、先輩に告ったんかいな?」と、真琴。

「そや?」

「で、この歌、あんたが歌った、ってか?」

「そやで?」

「ど、どこで?」

「どこ、って、神戸に決まってるやんか。」

「ちゃうねん、そんなん聞いてへん。神戸のどこで、って聞いてんねん。」

「あぁ、ハーバーランドの岸壁で海に向かって大声でうとた。」


飛鳥の大胆発言に3人はまた、


「はぁ???」


となった。


「あんたが?歌を歌った?海で?」と、真琴。

「ないないっ!ありえへんわ。」と、響香。


「もー、なんなん?それ。ホンマやで。」


「ほ、ほな、先輩、どんな反応したん?」


「先輩か?」

「うん。」

「それがな?泣いてん。」


「は?」


「そやから、泣いた!」


「な、泣いたんかいな、あの先輩は。」


「そんな言い方せんでもえぇやんか。先輩、突然のことに驚いて泣いたんやから。」

「そ、そら誰でも驚くわな、いきなり目の前で告白の歌なんか歌われたら。」


「それで、飛鳥ちゃんたちはそのあとどうしたの?」

「えとですね…。観覧車に乗りました。」


「観覧車???」


「あぁー、あるな、あそこ。赤いヤツやろ?」

「そうそう、それ。それに乗ってん。」

「ほうほう。」と、響香。

「で、乗ってどうしたんや?」と、真琴。

「うふふふ…。」

「気持ち悪いやっちゃなー。」

「はよ言ぃや。」

「そやからな、観覧車の中でな、先輩とな、き、き、き…。」


「なんやねんっ!はっきりいぃな!!」


「私、先輩とキスしたっ!!」


と、飛鳥は3人の前で大声で告白した。


すると、3人は口を揃えて、


「えーー??!!」


と叫んだ。


「飛鳥ちゃん、鷹梨君とキスしたの?」

「しました。」


「ほ、ほんまにしたんか?」

「したで?響香ちゃん。」


「うそーん?」

「まこちゃん、ヒドいわ、ほんまや!って!!」


「ひ、ひはあははは、よ、ようやく飛鳥も大人の階段を一つ登った、ってことでええんやな?」と、お腹を抱えて大笑いをする響香。

「何がそんなにおもろいんよ?響香ちゃん。」

「そ、そらな、小1の頃からあんたのこと知ってるウチからしたらな、あんたも成長したんやな、ってな。」

「ひどいわ、響香ちゃんまで。」

「で、どうやった?初めてのキスの味は?」

「どう、って?」

「イチゴの味でもしたか?」と、響香。

「もー…。」

「あっははははははは。イチゴて、響香。」と、真琴。

「するわけないやんかっ!」


「舌は絡めたんか?」

「し、舌?」

「そや?」

「そ、そんなやらしいことするわけ無いやんか。」

「やらしくなんかないけどな。ま、まぁ、お互い初キス同士やったら唇重ねるのが精一杯か。」

「エリカさんは?」

「え?私?」

「藤坂さんと、濃厚なキス、するんでしょ?」

「え、えぇ、一応…。」

「キャー!やっぱ学年一つ上やったらおっとなー!!」

「何で私の話しになりますの?!今の話題は飛鳥ちゃんでしょ?!」

「そ、そうでした。」

「で、でや、飛鳥?」

「なにー?まこちゃん。」

「あんたと先輩、どうなったんや?」

「付き合うことになったで?」


「えっ??!!」と、またも3人は口を揃えて驚いた。


「ま、マジ?」

「本当?」

「ホンマに?」


「ほんまや!」


「はー…。とうとうあんたにも彼氏が出来たか…。」

「うん。」

「なぁ、響香?エリカさん?」

「んー?どしたん?」

「なにか?」


「あんな、ちょいこっち来て?」


と言い、真琴たち3人は、広い飛鳥の部屋の中で、飛鳥から離れた場所で、円を組み、何やらごにょごにょ話していた。


「もー!あんたら何してんのよー!!」


「あんたはそこにおりっ!!」と、真琴。


…。


「んでや、2人とも。」

「んー?」

「はい。」

「今度、改めて、あの子にサプライズ的なお祝いするの、ってどうやろか?」

「あ、それ、いいですわね!」

「えぇなぁ。人生初彼氏出来た記念やもんな。」


と、飛鳥に聞こえないほどの小声でごにょごにょ話しをする3人。


「で、具体的に何しますの?」と、エリカ。

「それはこれから考えます。」

「まぁ、今日始まったばっかやからな。」と、響香。

「飛鳥には気付かれんように、3人だけでLINEで連絡取り合おな。」

「分かりましたわ。」

「おっけー。」

「とりあえずあの子のトコ、戻りましょか。」


と言い、3人は飛鳥の元に戻った。


「もーぅ…、なに私だけのけもんにして。」

「ごめんごめん。」

「あんたの今後のこと考えとってん。」

「そうよ、飛鳥ちゃん。」

「今後のこと?」

「そう。」

「ま、楽しみに待っとき。」

「なぁ、もう9時回ってるで?」

「ホンマや。明日ガッコやんか。」

「そうでしたわねー。」

「ほな今夜はこれで解散しよか。」

「はーい。」

「そやな。」

「ほな、ウチと真琴は家帰るから。」

「え?あ、うん。」

「あ、見送りはえぇ。ここでえぇから。」

「うん。」

「ほな、エリカさんも、お休みなさい。」

「お休みー。」

「飛鳥、また明日な。」

「うん、2人とも気ぃ付けてな。」

「ほいほい。」


そう言って響香と真琴の2人は、玄関で翠の見送りを受け、飛鳥の家を出て行き、

門の前で、手を振って別れた。


その頃、飛鳥の部屋では、飛鳥とエリカが話しをしていた。


「飛鳥ちゃん、おめでとう。」

「ありがとうございます、エリカさん。」

「ね、今夜は私、飛鳥ちゃんと一緒に寝てもいいかな?」

「え?ここで?」

「はい。」

「い、いいですけど?」

「わぁい。」

「とりあえず私、パジャマに着替えます。」

「あ、う、うん。」


そう言って飛鳥はいつものパジャマに着替えた。

そして2人は一緒に飛鳥のベッドに潜り込み、抱き合って眠りに付いた。


飛鳥にとって、とても大事で、長い長い一日が終わった。

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