第11話:ある日の日曜日。

エリカと藤坂たちが悠生家に来て最初の朝。今日は日曜日。

ここは飛鳥の部屋。現在の時間は午前7時過ぎ。


ジリリリリリ!と、うるさく目覚まし時計の音が鳴る。

その音で飛鳥が目を覚ました。


「ふわぁ~…も、もう朝かぁ~…。まこちゃん、まだ寝てるんや。よっこらせっと。」


そう独り言を言って、飛鳥は真琴が起きないようにそっとベッドから出て、そっとドアを開け、お手洗いへと行き、部屋に戻る途中、廊下でエリカと出会った。


「あ、エリカさん、おはよう!」

「飛鳥ちゃん、おはよう。」

「どう?昨日は良く眠れましたか?」

「えぇ、おかげさまで。」

「藤坂さんと抱き合って?」

「ななな、え、えぇ、まぁ、だって、ダブルベッド一つだけでしたから…。」

「そっか、いいなぁ。恋人同士って。」

「そっかな。」

「そうですよ。藤坂さん、芸能人だし、ハンサムだし、お金持ちだし、何より、エリカさんのこと、すんごく大切にしてるじゃないですか。」

「ま、まぁ、それは否定しないけど…。そう言えば今朝はえらく早いんですね。まだ7時ですよ?」

「あぁ、うん、今日は部活ですから。」

「って、あら?真琴さんは?」

「まだ爆睡中です。」

「起こさなくていいの?」

「あぁ、部屋に帰ったら起こしますよ。…あ。」

「んー?なに?」

「エリカさんも、まこちゃんの寝顔姿、見ます?」

「あぁ~、人気読者モデルさんの寝顔なんて滅多に見れませんからね。」

「じゃあ私の部屋にどうぞ。そーっと、ね。」


そう言うと飛鳥は、真琴に気付かれないよう、そーっとドアを開け、エリカを連れて部屋に入って行って、小声でエリカと会話していた。


「わぁ、可愛い寝顔…。さすが、モデルさんね。」

「でしょ?」

「ん~…むにゃむにゃ…な、なんやねんっ!」

「うおぉっ?!」

「な、なんですの?い、今の。」

「多分、夢見て、誰かに突っ込み入れてたんやと思いますが、その相手は多分、私…かと。はぁ。」

「あはは、夢でも突っ込み入るだなんて、さすが、大阪の人ですね。」

「そうですか?じゃあそろそろ私、まこちゃん起こしますから。」


飛鳥は真琴の身体を揺さぶって、起こしにかかった。


「ねぇ、まこちゃん、まこちゃん、ってば!もう起きなきゃやで?!7時回ってんでっ!」

「ん、ん~…ママぁ、もちっと寝かせてぇなぁ~…。」

「だ、誰がママやねんっ!はよ起きぃっ!!」

「は、はいっ!!」


と飛鳥の大声にビックリした真琴がビクっとして、ガバっと起きた。


「ふわ、ふわぁ~…。あ、れ、?ここ、どこ?ママ?」

「まだ寝ぼけてんかいな?!ママちゃう、私やわ・た・しっ!」

「って、えぇっ?!あ、飛鳥?…と、エリカ、さん?」

「そや?」

「おはよ、真琴さん。」

「ってことはここは飛鳥の部屋…。」

「何寝ボケてんねん。昨日の夜からエリカさんたち、家に来てるやろ?」

「あぁ~!!せやった!!」

「あは、あははははは。」

「どうしたんです?エリカさん。」

「い、いや~、真琴さんほどの売れっ子読者モデルさんでも、プライベートでは普通の女の子なんだなぁ、って。」

「えぇ?!そ、それって、どうゆう?」

「だってさっきまこちゃん、寝言で、"ママぁ~…"って言うてたで?」

「は?って、えぇ~~~~~!!!!!」

「まこちゃん、普段一人の時は、おば様のこと、"ママ"って呼んでんかいな。

私とか響香ちゃんとかがる時は、"お母さま"やのに。」

「そ、それは~…。く、くぅ~!飛鳥に弱み握られた~…。当分言われ続けられるわ…。はぁ。」

「言うかいっ!」

「ってか、エリカさんも聞いたんですか?」

「えぇ、しっかりと。」

「はぁ…。やらかしてもうた…。飛鳥のベッドがあまりに気持ち良かったから、つい…。」

「え?って言う事は昨日は2人で寝てたんですの?」

「え?あ、はい。」

「へぇ。」

「それがどうかしましたか?」

「いえ、今度、私も飛鳥さんと寝たいな、って。」

「いいですよ?」

「って、あんた!、もう7時半回ってんで?はよ準備せなっ!!」

「あ、そ、そうか!って、そう言えばさっき、エリカお姉ちゃんと廊下で会ったけど、

どっか行くんじゃなかったんやないですか?」

「え?あ、あぁ、お手洗いに行こうとしてたんだった。」

「場所、覚えてます?2階にもありますけど…。」

「分かるわ、ありがとう。」

「じゃあまたあとで。」

「はーい。」


そう言ってエリカは部屋から出て行って、飛鳥と真琴は制服に着替えて、

髪をセットし、学校に行く準備をした。

そして、制服姿で食卓へ行き、翠の作った朝食を食べて、玄関で靴を履いていると、

エリカがやって来た。


「今から?」

「はい、行って来ます。」

「行ってらっしゃい。私も今日はこの家の近所を藤坂さんと散策してみるわ。迷子にならない程度に。」

「はい、それがいいと思います。」

「じゃあ部活、頑張ってね。」

「ありがとう、行って来まーす!」

「行って来ます!」

「行ってらっしゃーい!」

そして2人はいつもの電停まで早歩きで歩いて行って、到着した電車に乗って、天王寺まで向かった。

駅に着くと、いつもの地下街を通り、いつものルートで学校に向かう。

その途中、

「おはよう、悠生さん・楠木さん!」と言う声がしたので、振り向くとそこには、鈴原が居た。


「あ、おはよう、鈴原さん。」

「おはよー。」

「今日って練習午前中だけよね?」

「うん。」

「そう言えば、こないだのプレゼンした時の楽譜集は?悠生さん?」

「あぁ、うん、早速昨日ネットで注文したよ。」

「そか。ねぇ、今日部活終わったらさ、1年の何人かで、ジャンカラでも行かへん?」

「カラオケかぁ~…どうしよ、まこちゃん?」

「ウチは別にかめへんけど。」

「こないだミナミで行った時は結局何も歌えんかったしなー。久々に行くか。」

「ホンマ?わーい。」

「なな、鈴原さんって、どんな歌、歌うん?」

「私?私は、AKBとかハロプロとか主にアイドル系が多いかな…。」

「悠生さんは?」

「私?わたしは…。」

「あぁ、この子な、こないだのプレゼンで流してたあのバンドの大ファンやねん。」

「そうなんや。」

「そやから、ウチとカラオケ行くとな、いっつも中国語オンパレードやねん。」

「なによ~、そんなん。カラオケで何歌おうがその人の自由やんかっ!」

「ま、そやけどな。」

「中国語かぁ。私、中国語の歌なんて聴いたこと無いから逆に聴いてみたいわ、悠生さんの歌。」

「ま、まぁ、鈴原さんとか他の人もええんやったらええで?」

「うわー、楽しみ~。」


そう言ってる間に3人は学校へ着いて、昇降口から直接音楽準備室へと向かって、「おはようございま~す。」と言って、ドアを開けた。

すると、2年女子の先輩が一人、自分の楽器の準備をしながら挨拶をして来た。


「あ、あなたたち、おはよー。」

「あ、先輩!おはようございます!早いですねー。」

「なぁなぁ、聞いて聞いて?」

「はい、なんでしょう?先輩。」

「昨日の夜な?家族と晩ご飯食べに、阿倍野へ出る途中な、通学に使ってるちん電でな?モデルの藤坂佑輔さん見てんっ!」

「げ。」と、飛鳥は、聞こえない程度な小さい声で一言、そして、真琴に目配せした。

「なぁなぁ、真琴さんもモデルやろ?藤坂さんとは仕事はしたことないん?」

「え、えと、ウチは…。」

「まこちゃん、鈴原さん、私らも準備せなっ!」と、飛鳥が無理矢理割って入った。

「ちょちょっと、悠生さん!まだ話し、終わってへんで?」

「ってか先輩、そんな有名人が大阪の下町の路面電車なんかに乗ってるわけないやないですか。」

「そ、そやかて…。あれは確かに、藤坂さんやったような…。でも、ちっちゃい見慣れない制服着た女の子連れてたしな…。」

「そ、そこまで覚えてたんかいっ!まずい、これはまずい…。」と、飛鳥は心の中で独り言を言った。

「さ、さぁ、準備準備~…。」

「ちょっと悠生さん?あなた、何か知ってるわね?」

「えぇ?な、何を、ですか?」飛鳥はわざと惚ける。


そこへ、続々と部員たちがドアを開けて入って来た。


「おはよー。」

「おはようございまーす。」


そう言って、14~5人の女子部員が一気に狭い準備室へ入って来たので、室内は女性の香りで充満していた。

と、そこに、他の生徒より少し遅れて、ガラガラ、とドアが開き、男子生徒の声で、「おはようございます。」と、千春が入って来た。


「あ、おはよう。鷹梨。」

「おはようございます、先輩方、皆さん。ふあ…。」

「なんや、寝不足か?」

「えぇ、ちょっと。」

「さてはエロDVDでも見て夜遅までオナってたんやろ?」

「せ、先輩、ぼ、僕はそんなことは…。」

「ん~…?なんや~?顔赤らめて…。憂いヤツよのぉ~…。」と、一人の3年女子の先輩が、

千春に近付き、うつむいてる千春の下顎を持って、顔を上にあげ、自分の目線に合わせ、


「なぁなぁ、どうなんや?実際。やったんやろ?え?男はそうゆう生きモンやからなぁ~。」

「え、えと、は、はい、少し、だ、け、やり、まし、た。」


と、晴喜が言うと、準備室内に居た女子生徒たちが一斉に、キャーっと叫んで、

室内は急にガヤガヤとし始めた。


「鷹梨君もやっぱ男の子やねぇ。」

「鷹梨よぉ~?」

「は、はい。」

「そんな廊下に突っ立ってないでさ、はよ中入りぃや。」


と、その3年女子が、無理矢理鷹梨の手を引き、中へ連れ込み、ドアを閉め、鍵を掛けた。


「ななな、何するんです!先輩っ!鍵なんかかけて!」

「ん~?なぁんも?どうせ今からみんなジャージに着替えて、楽器練習の前の運動せなアカンねやさかいな?鍵閉めんのは当然やろ?」

「で、でも、まだ来られてない先輩方や他の部員たちも居ますし…。」

「まだ時間ちゃうからそんなすぐには来ぇへんて。」


このように、無理矢理に鷹梨にちょっかいを出してるのは、吹奏楽部3年女子部員で、ユーフォニウム担当の、岳川詠美たけかわえみだった。ちなみに吹奏楽部の副部長でもある。


「私たちは先に音楽室に行ってるからな。お前も早く準備して来るように。」

「は、はい。」

「よし、お前ら、行くぞ。」

「はぁ~い。」


そう言って女子部員たちは、副部長に連れられ、音楽室へと入って行った。

そこで、飛鳥が、手を上げた。


「あ、た、岳川先輩!」

「何だ?悠生?」

「わ、私、準備室に忘れ物しちゃって…。」

「しょうがないヤツだな…。さっさと取って来いっ!」

「はい。」


そう言うと飛鳥は一人、準備室へと戻り、ドアを軽くノックした。

すると千春が、「は、はい。」と、返事をした。


「失礼します。」


「あ、ゆ、悠生さん。ど、どうしたの?」

「いえ、ほんのちょっとだけ千春先輩と2人になりたくて…。」

「えぇ?!」

「しっ!」

「ん?なに?」

「あのね?」

「うん。」

「来週の日曜、空いてます?」

「来週?」

「あ、う、うん、空いてる、よ?」

「良かったら、こないだのデートのやり直し、してもらえませんか?」

「え?えーっ?!」

「しー、おっきな声出さんといてください。」

「え、ええのん?」

「はい!」

「わぁ、う、嬉しいよ!本が出ることより、すんごく嬉しい。」

「ホンマですか?ありがとうございます!」

「連絡とか、どうしよう。」

「あ、それはまた今度、LINEでメールしますので。」

「分かったよ。」

「ありがとうございます。じゃあ、また。」

「う、うん、あとで、ね。」

「はーい。」


そう言って、飛鳥は音楽室へ戻って行った。

それから5分ほどして、千春も音楽室へやって来た。


「今日は部長は休む、って行ってたから、今日の指揮は副部長の私が執る。」

「はーい。」

「では、毬茂が来るまで、校舎内マラソン、5周だ。」

「は、はぁい…。」


そう言われるがままに、飛鳥と真琴・鈴原や千春を含む、全員の部員たちは、音楽室を出て、校舎内廊下マラソンへと出て行こうとした時、ガラガラ、と、音楽室のドアが開いて、男性が入って来た。


「おぃーっす!現役の諸君、おはよう!」

「あ、碧樹先輩っ!おはようございまーす!」

「春の連休の行き先が決まったんでな、連絡しに来た。」

「わーい、恒例の旅行やっ!」と、2年生と3年生部員は喜んだ。

「お、今日は千春、来てるな。久しぶりやないか。」

「お、おはようございます。」

「おっす!」


「んでやな、行き先やけどな。」


「…、京都や。」

「え?きょ、京都ですか?先輩。」

「せや。」

「めちゃ近いやないですか。」

「まぁー、な。」

「でも、京都言うても広いですよ?」

「最初は白浜でも、と思たんやけどな。まだ海は入れる時期ちゃうからな。夏は白浜な。」

「わーい、夏は海やっ!」

「で、京都のドコ行くんですか?」

「嵐山にでも行こうかな、と思てんねんけど。」

「嵐山ですかー。いいですねー。」

「何泊ですか?」

「2泊くらいや。」

「わー、楽しみっ!」


と、そこへ、岳川が割って入って来た。


「先輩すんませんけど今からコイツら、校内マラソンに出るんで、話しは部活終わってからでもいいですか?」

「ん?あ、あぁ、すまんな、岳川。」

「い、いえ。ほな、お前ら、校舎内を走って来いっ!」

「は、はーい。」


そう言われ、岳川と碧樹の2人を残し、部員全員がマラソンに出掛けた。


その頃、音楽室では、岳川が、千春が書いてるラノベが本になることを伝えていた。


「な、なんやて?あいつ、小説なんか書いとったんかいな?」

「え、えぇ。それで、編集さんとのやり取りとかが忙しかったらしく、で、ここんトコ、学校や部活、休んでたみたいです。」

「そやったんかー…。あいつ、そんな才能持ってたんかいな。すげーな。」

「えぇ。」


そんな話しをしている時、音楽室のドアが、ガラガラと開いて、「おはよう、みんな。」と、毬茂が入って来た。


「ってあら?誰も、居ないの?」

「あぁ、せんせー、おはようございます。」

「あら、岳川さん。おはよう。みんなは?」

「えと、校内マラソンに行ってます。」

「あぁ、そうだったのね。あら、碧樹君、いらっしゃい。」

「おはようございます、先生。」

「今日はなぁに?」

「あぁ、春の連休の旅行先が決まったんで、それを伝えに来ました。」

「あら、いいじゃない。で、今回はドコに行くの?」

「京都の嵐山だそうです。」

「嵐山か、いいわねぇ。」

「せんせーも来ます?」

「私も?いいのかしら?」

「や、だって、先生おらんかったら酒飲めるの、俺と晃平だけですから。」

「まぁ、そうね。」

「じゃあ、私も行こうかしら。旅行先で、誰か素敵な殿方と出会いたいわぁ。」

「先生、それは、儚い願い、とゆーもんでっせ?」

「な、なんですってぇー?!」

「まぁまぁ、先輩も先生も落ち着いて。」


…しばらくして、部員たちが、校内マラソンから戻って来た。


「はぁはぁ。」

「つ、疲れた~…。」

「も、もうアカン…。」

「このマラソン、いつまで経ってもアカンわ…。」


などと口々に疲れた、と言い出していたが、飛鳥はケロっとしていた。

それに気付いた鈴原が、飛鳥に話しかけた。


「な、なぁ、悠生さん?」

「んー?」

「あんた、これ、しんどないの?」

「えー?こんなん平気やで。」

「だって私の中学の時の吹奏楽部なんか、もっと走ってたもん。」

「そ、そうなんや。その割には楠木さん、えらいぜぇぜぇ言ってんで?」

「あぁ、あの子はたくましないからな。」


「よぉっしみんな、席着けぇっ!」

「は、はぁ~い。」

「各々、しばらく個人練習するように。」


「あ、悠生さん?」

「は、はい、せんせー、なんでしょう?」

「コンクール用の楽譜集は買えたの?」

「はい、買えました。明日には家に届くそうです。見本用のDVDも付いてるそうです。」

「そう。じゃあ届いたら学校に持って来てね。」

「はーい。」


それから1時間あまり、個人練習が続いた。

その間も碧樹は、音楽室の窓辺に座って、「いぃ~天気の日曜やなぁ~…。」と、空を眺めていた。


「はーい、じゃあこの辺で10分休憩します。このあと、全体練習で定演で演奏する曲の練習しますからねー。」

「はーい。」

「はぁ~。やっと休憩や。」


そう言ってそれぞれ、ドリンクを飲んだり、トイレに行ったりしてくつろいでいた。

時間は今、午前11時。


=====その頃、悠生家では。


「藤坂さん?」

「なんだい?エリカ。」

「今日はどうするの?」

「そうだね、昨日、飛鳥ちゃんが教えてくれた、住吉大社にでも行ってみようか。」

「わぁい。」

「どうやって行くのか、翠さんに聞いてみてから行こうね。それと、停留所からココまでの地図も書いてもらおう。」


そう言って藤坂は、翠の元へ行き、住吉大社まで行きたいんだが、と伝えると、

翠は快く行き方と地図を書いて、藤坂にそのメモを渡し、近所には“住吉公園”と言う大きな公園もある、と伝えると、藤坂は、

「ありがとう。」とお礼を言い、一旦エリカの待つ部屋戻る。


「翠さん、行き方のメモくれたよ。」

「ホント?」

「じゃあ、準備したら行こうか。」

「はぁい。」

「スマホとポーチは持った?」

「うん。」

「じゃあ行こうか。」

「うん。」


そう言って藤坂たちは部屋を出て、玄関に向かうと、1階で翠が何やら包みを持って待っており、2人に話しかけて来た。


「歩さま。これ、少ないですが、お二人分のお弁当でございます。」

「わぁ、ありがとうございます!」

「今の季節、住吉公園は、花がとてもきれいに咲いてますので、ぜひ公園でお弁当食べられたら、と思いまして。」

「はい、ありがとうございます。」

「帰り、もし道が分からなくなったら、遠慮なく私の携帯に連絡くださいませ。お迎えにあがりますので。」

「分かりました。」

「それじゃあ、行って来ます。」

「行ってらっしゃいませ。」


翠に見送られ、2人は笑顔で家を出て行って、停留所までの細い住宅街の道を歩いて行って、ホームに着いた電車に乗って、住吉大社まで出掛け、「住吉鳥居前」駅で電車を降りる。

すると目の前に、すぐに、「住吉大社」と書かれた境内がとても広くて大きな神社が佇んでいた。


「うわー、すごーい。素敵~!」

「うん、これは赴きのある場所だね。」


そう言って2人は時間をかけてゆっくりと境内の隅々を見て歩き回って、

太鼓橋をバックに写真が撮れる場所で、偶然通りかかった神社の関係者に2人一緒に写真を撮ってもらい、境内でおみくじを引いたり、絵馬を描いたりして、神社の散策を楽しんだあと、翠に教えてもらっていた住吉公園へと足を運ぶと、そこは、花と緑や自然で溢れた、とてもキレイな公園だった。


「エリカ?噴水池があるよ?」

「ホントだ。ねぇ、ここでお昼ご飯しない?」

「そうだね。そうしようか。」


2人は、噴水池の階段に座り、翠の作ってくれたお弁当を広げ、住吉公園でお昼を食べていた。


=====ところ変わって鈴ヶ丘学院の吹奏楽部では。


ちょうど全体練習が終わり、部員たちが雑談していた。


「碧樹せんぱーい。」

「おぅ、なんや?」

「連休の旅行、何日から何日まで行くんですか?」

「そやな、どうしよか。5・6・7の週末はどうや?ちょうど連休も終わりに近いし。せんせはどうです?」

「私?えぇえぇ、私はいつでもノープランよっ!えーん。」

「そ、そないなこと聞いてませんがな。で、行けますのん?」

「い、行けますともさっ!」


「あぁ、それやったらウチは行けます。」

「私もー。」

「ウチもー。」

「千春?」

「あ、は、はい!」

「お前はどうするんや?なんやて?さっきちらっと聞いたけどお前、本出すんやて?」

「え、えぇ、まぁ。」

「ほな、連休は忙しいか…。お前絡まれへんかったらおもろないんやけどな。」

「クラの2人は?結局どうなった?」

「あ、す、すいません、私の家は、ちょっと忙しくて、今回は無理っぽいんです、すいません。」

「わ、私の家も…。」


と、飛鳥と真琴。


「そか、それやったらまぁえぇわ。まだこれからいくらでも一緒に行けるさかいな。」

「すいません。」

「えぇってえぇって、気にせんでえぇ。」


話しがまとまったところで毬茂が、パンパンと手を叩いた。


「はーい、みんな。お疲れ様。今日の練習は午前中だけなので、これで終わりです。」

「お疲れ様でしたー!!」

「はーい、じゃあ、解散!!」


「飛鳥、行こ。」

「あ、う、うん、待って、まこちゃん。」


と、真琴が、飛鳥の手を引いて、音楽室から出て行ったあとの音楽室では、2年部員の数人らが、

2人のことを話していた。


「なぁなぁ、あの子ら、いつも一緒やんな?」

「そういやそうやな?」

「あの子ら、レズかいな。」

「さぁな。どやろ。」


その頃、音楽準備室で楽器を片付けていた2人。

真琴が、飛鳥に話しかけていた。


「なぁ、飛鳥?」

「んー?」

「練習始まる前な?」

「うん。」

「一人で準備室戻ったやん?」

「あー…、う、うん。」

「あれ、ホンマに忘れもんか?」

「そ、そや?」

「千春先輩やろ?」

「え?」

「あ、う、うん。」

「やっぱりな。」

「デートの約束でもこじつけたんかい?」

「えぇっ?!な、なんで分かったん?!」

「そやからいつも言うてるやろ?あんたのことくらいお見通しや、って。」

「そっかぁ…。さすがやな。」

「うん、その通りや。」

「すごいやんか!あんたにしてはむちゃ進歩やな!」

「帰り道にでも、詳しい話し、聞かせてもらおか。」

「うん。」

「で、あんたはもう帰る準備は出来たんか?」

「あ、け、ケース直したらもう行ける。」

「ほないこか。」

「うん。」


そう言って2人は、音楽準備室を出ようとした。その時、鈴原と出くわした。


「あ、2人とも。練習終わったらジャンカラ行く言うたやん。」

「あぁ、ごめんな。今日、ちょっと急用出来てん。」

「そんなーん!」

「ほんまゴメン。」

「そ、そうゆうわけやから鈴原さん、また今度、な?」

「う、うん。ほなまた。」

「さいなら。」

「さいならー。」

「じゃあねー。」


何とか鈴原を振り切った2人は階段を下り、昇降口へ向かって、駅までの道をゆっくり歩いて帰った。


「なぁ、HOOPのスタバ、久々に寄ってけへんか?」

「HOOPの?」

「うん。」

「どんなデートしたらえぇか、ウチがあんたに伝授したる。」

「まこちゃんが?」

「うん。」

「ありがとう。」

「ほな、HOOPまでいこか。」

「うん。」


そう言って2人はあべのHOOP1階にあるスタバへ入った。


「ここに来ると思い出すな。」

「何が?」

「ここで藤坂さんらと再会したやんか。」

「あぁ、そやったな。なんか遠い過去のように思えるわ。」

「ウチもや。それが今やあの2人はあんたの家に住んでんやもんな。」

「うん。」

「分からんもんやな。」

「せやなー。」


2人はそれぞれにドリンクを注文し、空いてる席に着いて、話し込んだ。


「で、まこちゃんは私に何を伝授してくれんの?」

「そやなー…。まず第一に。先輩の身体のことは忘れること。」

「は?」

「"は?"ちゃうがな。あんた、前の初デートの時、それ聞いといて、自分から帰って行ったの忘れたんかいな。」

「あぁー…。」

「あぁー…ちゃうがな。」

「そこ、一番大事や。」

「でもな?」

「なんや?」

「も、もしやで?先輩から、"エッチせぇへん?"って言われたらどうしたらええのん?こわぁてよぉ返事せんわ。」

「まぁせやなー。そればっかりはあんたにはキツ過ぎやからなー。」

「まぁ、それは、流れに任せっ!」

「そ、そんな無責任な。」

「そうゆう時は誰でもそうやけど自然に来んねん。男女関係無く、な。」

「そ、そうなんや。」

「あとな、デートの行き先やけどな。」

「う、うん。」

「この前は映画観たやろ?」

「うん。」

「せやから今度こそラウンドワンでも行っといで。」

「別に無理にボーリングせんでもええから、カラオケとかスポッチャとかで思いきり遊んで来たらええ。」

「うん、分かった、そうする。」

「それか、遠出やな。」

「遠出?」

「今の季節やったら、どこ行ってもキレイやから、神戸行ったりするのもいいんちゃうか?南京町行って2人で豚まんほおばったり、モザイクで海眺めながらいろいろ喋ったりするのもえぇんちゃうか?梅田から阪急乗ったらすぐやしな。」

「そっか。ほな、神戸にしよっかな。」

「お、そうするか。」

「うん。神戸やったら前に直兄と行って、あちこち知ってるから。」

「そか。」

「うん、って、あ。」

「ん?どうしたん?」

「先輩にメールせな。」

「そやな。」


そう言って飛鳥はスマホを取り出し、千春に、神戸に行きたい、とメールをし、


「来週の日曜日、朝9時に、阪急梅田駅の3階コンコースのコンビニ前で待ち合わせしましょう。」


と送った。


するとしばらくして、千春から返事が来た。


「神戸か、楽しそうだね。悠生さんから誘ってもらえて嬉しいよ。ほな来週ね。」


と言う内容だった。


そのメールを見た飛鳥は、「わーい、やったぁ。」と、嬉しそうにしていた。


「良かったな、飛鳥。」

「うん。」

「ちゃんと頑張るんやで?」

「ありがとう。」

「なぁなぁ。」

「なんや?」

「神戸行くんやったら、一応ガイドブック買っといた方がえぇかな?」

「そうやなー。本持ってった方が、いろんなお店も分かるしな。」

「そやなー。」

「ほな、近鉄百貨店の本屋寄ってから帰ろか。」

「うん。」


そう言って2人はガイドブックを買うべく、HOOPをあとにして、近鉄百貨店へと向かった。


その頃、エリカと藤坂は、住吉公園で談笑していた。


「ねぇ、藤坂さん?」

「なんだい?エリカ。」

「今頃飛鳥ちゃんたち、どうしてるかな。」

「そうだね、部活の練習で大変なんじゃない?」

「そっかぁ。早く、飛鳥ちゃんたちと同じ制服、着たいなぁ。」

「着れるさ。」

「そうね。」

「ね、今日は、暗くならないうちに帰ろう?」

「停留所から道に迷ったら大変だよ。」

「そうだね、じゃあ帰ろうか。」

「うん。」

「えっと、天王寺駅前行きに乗ればいいんだっけな。」


藤坂は心の中でそう呟いて、浜寺公園方面からやって来た電車の行き先LEDの表示を確認し、エリカと2人で電車に乗った


その頃飛鳥たちも、近鉄でガイドブックを買い終え、上町線ホームへと向かい、ホームに止まっていた電車に乗った。


二組の乗った電車は、ちょうど、姫松駅で停車し、電車が行ったあと、

停留所のホームで偶然出会った2人に、飛鳥と真琴、そして、エリカと藤坂の4人は、お互いに指をさして、


「あーっ!」


と、叫んだ。…のは、主に、飛鳥とエリカだったが。


「やぁ、飛鳥ちゃんたち。今、部活の帰り?」

「あ、はい。そうゆう藤坂さんたちは?」

「今日はエリカと、住吉大社と住吉公園に行って来たんだよ。翠さんに行き方を教えてもらってね。」

「そうだったんですか。エリカさん、楽しかった?」

「はい!もちろん。」

「あ、飛鳥!今日はウチ、家に帰るわ。」

「あ、う、うん。いろいろありがとね。」

「いいえー。」

「ほなまた明日、ガッコでな。」

「うん、そやねー。ほななー。」

「ほなー。」


そう言って真琴は、飛鳥の家とは反対方向へと歩いて行き、

飛鳥たちも、家の方向を目指していろいろ話しながら歩いて帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る