第8話:楠木真琴ファンクラブ、設立。
先日のエリカの高熱騒ぎと、突然の藤坂からのカミングアウトから2日ほど過ぎた平日の朝。
飛鳥は、いつも通りの時間に起きて、
学校へ行く準備をして、家から停留所に向かって歩いていた。
すると後ろから、馴染みの声がした。
「あーっすか!」
振り向くとそこには笑顔の響香の姿があった。
「あ、響香ちゃん、おはー。」
「おはよー。」
「珍しいなー、あんたと登校時間にバッタリ会うやなんて。」
「ほんまやなー。」
「真琴は?あれから元気?」
「うん、元気やで?多分、停留所行ったら会うと思うわ。」
「そっか、楽しみやな。」
そんな話しをして2人はゆっくり停留所方面へと歩いていた。
そして、停留所に着くと、既に電車を待っていた真琴の姿があり、
歩いて来た2人の姿に気付き、元気良く声を掛けた。
「あ、飛鳥っ!響香っ!おはー!」
「おはよう!真琴。」
「まこちゃん、おはー!。」
「朝に響香と会うなんて珍しいな?」
「そやろ?さっき電停まで来る途中に飛鳥とバッタリ会ってん。」
「そやったんや。」
「あ、電車来たで?」
電車が停留所に着き、ドアが開くと、3人は車内へと乗り込んで行った。
例によって、通勤・通学ラッシュで込んでいる狭い車内の中で、3人は吊革を持って立ち話をしていた。
「なな、飛鳥っ!あれから先輩とはどうなったん?」
「んー?いんや?何もないで?ってか先輩、部活休んでるみたいやしな。」
「そやねんやー。」
「うん。まぁ、私が原因やからかも知らんけどな。」
「そんなことないって。あの根性無し男はー…。」
「そんなん言うたりなやっ!この子な、こないだ、根性決めたんやからっ!」
「は?」
「先輩が卒業するまでに、あの人のこと、必ずゲットする、って言ってたで?」
「え?マジ?!すごーいやん!飛鳥っ!よう決意したなっ!」
「いやー、まぁ。」
そんな話しをしているところへ車内アナウンス。
「次は、阿倍野、阿倍野。」
「あ、ウチ、ココで降りるから。
「あぁ、うん。」
「響香ちゃん、学校頑張ってな!」
「うん、2人もなっ!ほなまたー!」
そう言って響香は元気良く手を振って電車から降りて行って、他の乗客たちを降ろした電車は、終点の天王寺駅前へと走り出し、2分ほどで到着し、飛鳥たちも他の乗客たちに混じって、電車から降り、改札を抜け、階段を下りて、2人で会話しながら、いつもの地下街を歩いていた。
そこで飛鳥が、ハルカスのエレベーターホールの方を振り向いて立ち止まった。
「どしたん?飛鳥?」
「や、あれからエリカさん、どうなったかなー?って。」
「あぁー、心配やな。」
「なぁ、まこちゃんのトコに、藤坂さんからは連絡無いん?」
「うん、今のところな。まぁ多分今日辺り、いつものように突然電話でも来るんちゃうか?」
「そやな。」
そんな話しをしながらエスカレーターで地上に上がり、JRのコンコースを歩く。
「それにしても、先日の藤坂さんからのカミングアウトには驚いたで、しかし。」
「そやなー、私もや。」
「でも、それよりもっと驚いたんはエリカさんや。」
「あぁー、まさかあの、青島貿易のご令嬢やったなんてな。」
「うん。それもそうやけど、あんな大企業のご令嬢でしかもチビッ子、
んでもって医者も驚くほどのロリ体型、貧乳、背ぇ小っちゃい、アニヲタ。どんなけキャラ盛ってんねんっ!って、そこにビックリやったわ。それでいてウチらより一つ上やで?」
「うん。まぁなー。」
と、エリカの話題で盛り上がりながら天王寺の街を歩いていると、後ろから2人に声を掛けて来る女の子が居た。
「あ、楠木さーん、おはようございまーす。」
振り返るとそこには柚梨川が笑顔で立っていた。
「あ、柚梨川さん、おはー。」
「おはようございます。あ、悠生さんも、おはよう!」
「おはー。」
「そうそう、私昨日、家でこんなん書いて来たんです。」
と、柚梨川が鞄を開けて、がガサゴソと何かを探す。
「じゃーん!見てください!」
「ん?」と、真琴と飛鳥はじーっとそのポスターを見る。
「えー?!ちょ、な、な、何?こ、これっ!う、ウチの私設ファンクラブやて?!」
「はい。もちろん、会員証も、とりあえず100枚ほど作って来ましたよ?」
「ほら。」
と、柚梨川が笑顔で、真琴の写真の入った会員証を見せる。
「そ、そそそ、それはアカン、や、やめて、恥ずかし過ぎる。」
そんな話しをしながら3人は学校へ向かって歩いていく。
「えー?でもぉ、いずれ全校生徒にバレるんですから、こうゆうのは早いうちから…。で、真琴さん本人の承認が得られたらウチ、せんせに事情話して、部員集めて部活にしようかと。ウチ、帰宅部やし。」
「ぶ、部活に??!」
「はいっ!」
「ちょ、そ、それは…。」
「柚梨川さん、本格的やな。」
「あ、飛鳥さんは真琴さんの親友、ってことで、特別にこちらを。」
と、飛鳥に差し出された会員証を見ると。
「んー?」
「何々?何て書いてあるん?」
「えと、会員No.、00001番、やて。わーい、嬉しいなぁ!まこちゃんファンクラブの1番やっ!」
「って、何喜んでんねんっ!あんたわっ!」
「えぇやん別に。ウチも柚梨川さんの言うこと、正しいと思うわ。」
「でしょ?でしょ?」
「はぁ…。まぁ、確かに事務所の公式ファンクラブもあるしなー。」
「そうでしょー?もちろんウチ、そちらにも入ってますよ?ホラ。」
と、柚梨川が公式ファンクラブの会員証を見せる。
すると真琴が、
「あー、はいはい、分かりましたっ!私公認の私設ファンクラブの設置とクラブ活動、認めますぅー!」
「ほ、ホンマですかっ?!あ、ありがとうございますっ!!ほな今日の放課後、早速せんせに部活設立申請の手続き、取らせてもらいますねっ!!」
「分かったよ。」
そんな話しをしていると、いつの間にか学校の昇降口に着いていたので、
3人はそれぞれ自分の靴箱に行き、上履きに履き替え、校内を歩いて、
「ほなお2人、またのちほど。」
「ほなー!」
「またねー。」
そう言って飛鳥と真琴は1-Aの教室へ入って行った。
そして2人は席に着き、先ほどの話しをしていた。
「なぁなぁ、まこちゃんファンクラブ、どうなるんやろか?」
「わ、分からんわ、そんなこと。あの子次第やんか。」
「まぁ、そうやけどなー。」
そこへ、ホームルームが始まるチャイムが鳴り、毬茂が教室へ入って来た。
「はーいみんな席着いてー。ホームルーム始めるわよー。」
「はーい。」
ホームルームのあと、午前の授業が終わり、結梨がすかさず2人の元へやって来た。
「な、なぁ!今日はウチとご飯、食べへん?」
と、そこへ、柚梨川と鈴原の2人が迎えに来た。
「くっすのっきさーん。来たでー。」
「あぁ、うん、今行く。」
「えー?!またこの子らと行くん?」
「そや?アカン?」
「アカンこと無いけど、ま、まぁいいわ。うちも部活で新しいダチも出来たし。」
「ゴメンな、季子ちゃん。」
「うん、まぁ、またな。」
「あ、ゴメンね、2人とも。」
「ううん。」
「ささ、行こ行こ。」
「なな、今日も芝生広場でご飯食べへん?」
「えぇでー。」
などと話しながら、4人は廊下を歩いていく。
と、そこで、鈴原が真琴に話しかけてきた。
「楠木さん、ウチ今朝、この子からこんなんもろてん。」
「何?」
と、鈴原が真琴に笑顔で会員証を見せる。
「じゃーん。」
「あ、そ、それ!」
「うん、会員証。00002番やて。」
「一番は誰なんやろか?」
「あ、はーい、私だったりしまーす!」
と、飛鳥が茶目っ気に会員証を見せる。
「ほら。」
「ほ、ホンマや。えぇなー。でもしゃあないか。2人は親友やしな。」
「ほな、柚梨川さんは何番なん?」
「ウチ?ウチはほら。」
と3人は会員証を見る。
「00000番??!」
「そや?1番は、飛鳥さんに渡そって、最初から決めてたから。」
「そうなんやー。」
そんな会話をしながら学食へ行き、それぞれメニューをキッチンのおばちゃんに渡し、お昼ご飯をパックに詰めてもらい、芝生広場へと向かって、空いてる場所を見つけ、適当に座る。
「なぁなぁ、真琴ちゃん?」
「なに?鈴原さん。」
「今日は部活、来れるやんな?」
「うん、行くつもりやで?」
「良かったー。」
「あ。」
「どしたん?飛鳥。」
「まこちゃん、ちょっとこっち来て?」
「な、なんなん?」
「どうしたん?2人とも。」
「ゴメンな、ちょっと席離れるわ。すぐ戻って来るから。」
「え?あ、う、うん。」
そう言って2人は鈴原たちから離れて行った。
飛鳥たちが向かった先には、なんと千春がクラスメイトと食事をしている姿があった。
そして飛鳥は、真琴を連れ、その場へ行き、千春の前に立った。
「ち、千春先輩っ!!」
「は、はい?!って、なんや、悠生さんやん。久しぶり、元気?」
「は、はい。あ、って、ってか、“久しぶり、元気?”、やないですよ!」
「何が?」
「何で最近部活出て来てくれへんのですか?」
「あぁー…。」
「よぉ、千春、この子、後輩か?」
「え?あ、う、うん。」
「ちょっとこっち来てくれますか?」
と言って飛鳥は思い切って千春の手を引いて、千春のクラスメイトと真琴たちが居る場所から少し離れて2人きりになった。
「先輩、この間のデートの時にあんなこと聞いて、ホンマすいません!」
「あの晩、私、カラオケの時一緒に居た私の幼馴染の響香ちゃんに説教されました。」
「そ、そうなん?」
「はい。」
「だから、先輩に謝ろうと思って。この前はホンマにすいませんでした!」
「い、いいよ。そんなに謝らんでも。べ、別に、部活休んでたんは、悠生さんのことだけちゃうから。」
「え?」
「んー…。どうしよっかな?これはまだ、誰にも言ってないんやけどね?内緒にしてくれる?」
「え?あ、は、はい。」
「僕、今な、ネットの小説投稿サイトでな、ライトノベル書いてんねん。」
「そ、そうだったんですか。」
「うん。でな、その物語がな、コンテストに通過してな、賞取ってもうてん。」
「えー?!ま、マジですか?!」
「うん。」
「す、凄いやないですかっ!!ほな先輩、将来はラノベ作家さんに?」
「ま、まだ分からんけどな。でも、それが僕の夢やねん。」
「す、すごーい…。」
「んでな、編集さんから連絡が来てな、今度、書籍化しますので、って内容やってん。」
「マジっすか…。すっごいですねー…。あ、お、おめでとうございますっ!」
「ありがとう。そんないろんなことがあったから、学校や部活休んでてん。」
「そやったんですかー…。あ、きょ、今日は?今日は部活、来れます?」
「うん、編集さんとのやり取りが一段落したから、行く予定だよ。」
「あ、そ、そうや。」
「ん?」
「こないだ、例の碧樹先輩、
「あぁ、先輩、来たんや。」
「で、今度の連休に旅行の行こか!って、1年誘ってました。」
「やっぱりな。」
「先輩が言ってた通りでした。」
「そやろ?」
「で、君と楠木さんは行くの?」
「ウチらは…連休の家の予定がまだ分からないので保留中です。」
「そっか。」
「でも、先輩行くんやったら行きたいなー、って。」
「まぁ、僕が行かへんかったらあの先輩絡む相手おらんからな。」
「あはは。」
と、そこへ、飛鳥のスマホに電話の着信音が鳴った。
「あ、先輩、ちょっと待って下さいね?」
「あ、う、うん。」
「もしもし?」
「あ、飛鳥さん?私、エリカです。」
「あ、エリカさん!声、元気そうですね、どうです?あれから。」
「うん、お2人とお医者様のおかげで、やっと昨日、治ったよ。ホント、ありがとうね。それと、ご心配おかけして、ごめんなさい。」
「いえいえ、元気になられたのなら良かったです。」
「ありがとう。」
「今は、学校?」
「はい、お昼休み中です。」
「今日は部活は?」
「一応、行く予定ですが…。」
「そっか。じゃあ、会えないか…。」
「何かあったんですか?」
「ううん、こないだの話しね。」
「こないだの?」
「お2人と同じ学校に行きたい、って言う話し。」
「あぁ。」
「明日、土曜日だし、お父様に電話しようかと思って。」
「それがいいですよ。」
「その時にね、お2人に傍に居てもらいたいんです。」
「え?あ、はい、いいですよ?エリカさんが望むなら。」
「今日は、真琴さんは?」
「居ますよー。今はちょっと離れてますが。」
「真琴さんにも伝えておいてもらえますか?」
「はい、分かりました。」
「じゃあ、明日ね。」
「はーい。」
そう言って2人は電話を切った。
「ふぅ…。」
「大丈夫?悠生さん?」
「え?あ、は、はい、大丈夫です。」
「電話、誰から?」
「えと…。こないだ、カラオケの時に来た、藤坂さんの、妹さんからです。」
「あぁ、そうだったんだ。」
「ほな、今日は部活でお会い出来ますね?」
「うん。」
「ほな、みんなのトコ戻ろか。」
「そうですね。」
そう言って飛鳥たちはクラスメイトの元へ戻って行った。
その頃、飛鳥を待ってた真琴は、千春のクラスメイトのとある男子から話しかけられていた。
「あれ?」
「どうしたんや?」
「なぁ君?」
「は、はい?な、なんでしょう?」
「君、良く見たら、モデルの楠木真琴さんやないか?」
「え?あ、え、えーと…。」
「え?マジ?この子、あの、楠木真琴なん?」
「多分な、違う?」
「えと、あ、は、ハイ、そ、そうです。」
「おぉー、ホンマやったんや!凄いっ!噂では聞いとったけど、ホンマにウチのガッコにおったんやっ!」
「なんやお前、この子のファンなんか?」
「まぁな。やー、でも、本で見るより全然可愛いやんかっ!」
「あ、ありがとうございます。」
「まぁまぁ、そんなに言うたりなや、この子、困ってるやんか。」
「そ、そやな、でも、会えて嬉しかったわ、よろしくね、楠木さん!」
「よ、よろしくお願いします。」
そこへ、千春たちが戻って来た。
「まこちゃん、お待たせ。」
「あ、飛鳥、お帰り。」
「ん?どしたん?みんな。」
「なぁ、千春っ!」
「何?」
「この子、モデルの楠木さんやんか。」
「そや?」
「なんやお前、知ってたんかい。」
「そうや?だって同じ吹奏楽部の後輩やもんな。」
「そうなんや、えぇなー。」
「あ、じゃ、じゃあ私たちはこれで。」
「あ、悠生さん、ありがとうな。また部活でな。」
「はーい。」
「では、失礼します。」
そう言って2人は千春たちの元を離れ、鈴原たちのトコロへ戻って来た。
「ドコ行ってたんです?」
「あぁ、ちょっと用事があって。」
「へぇー。」
「ささ、おべんと食べよ食べよ。」
「あ、そや、まこちゃん?」
「なに?」
「さっき、エリカさんから電話あってな、熱下がって元気になった、って言ってたで?」
「ほ、ほんま?良かった~…。」
「でな、明日、2人で部屋に来てほしい、とも言ってたわ。」
「なんかあるんかな?」
「こないだの話し、お父様にしたいから、傍に居て欲しい、って言ってたで?」
「そうゆうことやったら喜んで行くわっ!」
「なぁなぁ、その、"エリカさん"って人が、こないだ2人が早引きして助けに行った人のこと?」
「そう。」
「友だちなん?」
「うん、大事な大事なお友だちやで?」
「そうなんや。」
そして4人は食事を食べ終わり、談笑していると、お昼休みが終わる予鈴が鳴ったので、みんなで芝生広場をあとにして、それぞれの教室へ向かった。
午後の授業も終わり、2人は結李に、「バイバイ、またなー」、と言って教室を出て、隣のB組へ行き、鈴原を迎えに行った。
「すっずはっらさーん。部活いこっ!」
「あ、楠木さん、ちょっと待ってなー。」
「ええよー。」
と、そこへ、柚梨川が飛鳥たちの元へやって来た。
「真琴さんっ!」
「はい。」
「ほなウチ、今朝言ってた、真琴さんファンクラブの部活開設申請手続きの為に職員室寄ってから、今日は帰りますっ!」
「あ、う、うん。ほなねー。」
「はーい。」
そう言って柚梨川はウキウキ気分で教室を出て行った。
「あ、おまたせー。」
「いえいえ。ほな部室行こかー。」
「はーい。」
そして3人は吹奏楽部部室へと向かって、音楽準備室に到着したら、ドアを開け、
「おはようございます!」
と、元気に挨拶をした。すると、数人の上級生と同級生たちが、
「おはよう!」
と、挨拶を返してくれた。
その中の数人の上級生から、飛鳥たちが囲まれた。
「なぁなぁ、楠木さん!」
「は、はい、な、なんでしょう?先輩!」
「今日、ウチら廊下でこんな張り紙見たんやけど…。」と、スマホで撮った写真を真琴に見せた。
「あ、ファンクラブの…。」
「あなた、あの、モデルの楠木真琴さんやったん?」
「えぇ、まぁ、一応…。」
「うわー、凄い凄いっ!ウチの部にそんな子がおったやなんてっ!」
「あなた、同年代の女子からの支持率、かなり高いから人気もかなりあるやろ?」
「は、はい。ま、まぁ…。」
「そんな凄い子やのに驕らへんトコがまたええよなー。」
「なぁ悠生さん?」
「は、はい?」
「あなたたち、いつも一緒に居るけど、あなたと楠木さんの関係は?」
「あ、え、えと、まこちゃんとは、中学からの親友なんです。」
「へぇー、すごーい。」
いろんな先輩たちにいろいろ質問された真琴が、
「ちょ、ちょっと先輩、私たちにも楽器の準備とか、させてください…。」
「あ、あぁ、うん、ごめんね?」
「あ、そうだ。先輩!」
「なぁに?悠生さん?」
「今日、鷹梨先輩は
「うん、もう既に来てて、さっきホルン持って音楽室行ったで?」
「あ、そ、そうですか。ありがとうございます。」
「なぁに、あなた、鷹梨君に興味でもあるん?」
「い、いえ、別にそんなんじゃ…。最近全然来られてなかったので、どうしたんだろう?って思ってただけで。」
「まぁ、それはウチらも同じやんなー?」
「あ、あんた、鷹梨君と同じクラスやん?」
「そや?」
「あの子、学校には
「いんや?ここんとこずっと休んでたわ。せんせが言うには、体調悪くて休んでます、言うてたわ。」
「そうなんや?」
「まぁでも今日来たら元気そうやったから安心したけどな。」
「まぁ、そら、同じクラスメイトからしたらそうやわな。」
「ささ、みんな、練習始まるから、お喋りはその辺で終わりやで?」
「あ、はーい、部長。」
そう言って、準備室に居た全員は、音楽室へと入って行って、飛鳥が、千春の方を振り向き、軽く目配せすると、ホルンを吹きながら千春も笑顔で目配せしてくれた。
そこに、音楽室のドアがガラガラと開き、顧問の毬茂が入って来た。
「はーい、みんな、静かにー。ミーティング始めるわよー。」
「はーい。」
毬茂はそう言ってミーティングを始め、全員揃っている部員たちの前で、夏の全国高校生吹奏楽コンクールに出る為の説明をした。
すると室内から歓声が巻き起こった。
「せんせー!」
「何かしら?」
「曲はどうするんですか?」
「そうね、平凡過ぎるのはすぐに落選して、大阪予選も勝ち抜けないかもだから、他の学校の度肝を抜くような楽曲で挑みましょうか。」
「あ、それ賛成ですっ!」
「先生?」
「なぁに?悠生さん。」
「コンクールに出す楽曲のテーマって、必ずしもクラシックが元曲じゃなきゃダメですか?」
「そんなことないわよ?今までも、他の学校は、J-POPやロックが元の楽曲を吹奏楽アレンジして演奏してたトコもありましたから。」
「あ、ほ、ほんなら私、すんごいやりたいグループが居るんですっ!」
「なにかしら?」
「先輩方にも聴いてもらえたら多分凄く理解してもらえるんじゃないかと…。」
「あ、飛鳥、それってもしかして…。」
「うん、そう。せんせー?」
「何?」
「えっと、部屋暗くしてもらっていいですか?」
「えぇ、じゃあ暗幕閉めるわね。」
と言い、毬茂は、部屋の暗幕を閉め、とりあえず暗いと周りが見えないので電気を付けた。
「悠生さんには何か秘訣があるのね?」
「はい。」
「えと、スマホ出していいですか?」
「いいわよ?」
「よいしょっと。」
そして飛鳥は、スマホをポケットから取り出し、YouTubeの画面を開き、
いつも聴いているアジアのロックバンドのナンバーを演奏している吹奏楽団の画面を開き、スマホとプロジェクターを接続し、その画面を開き、音楽を鳴らす前に、全員にこのバンドのことを軽く説明し、音楽を流し始めた。
流し始めて約15分~20分。
動画の再生が終わった。
そして毬茂が電気を付けた。
「ど、どうでしたか?せ、先輩方。」
「ウチ、さっきの演奏の中で聴いたことある曲あったわー。」
「私も!」
「ほ、ホンマですか?」
「ええ。」
「で、聴いた感じ、どないでした?せんせは?」
「私は良い感じだと思ったわ。いいんじゃないかしら。そしたら、どうするか、今から多数決を取りましょう。」
「えぇ、い、今からですか?」
「そうよ。」
「ど、ドキドキします~。」
そして毬茂がパンパン!と手を叩き、
「はーい、みんな静かにー。では今から、多数決を取りまーす。さっき悠生さんが提案してくれたバンドの吹奏楽アレンジが良いと思った人、手を上げてくださーい。」
すると、今、音楽室に居る部員、1年~3年までの35人中、8割ほどの生徒が手を上げた。
もちろんその中に千春も手を上げていた。
その姿に飛鳥は、とても驚いていた。
「はーい、じゃあ決まりね。今年のコンクールはこのバンドの楽曲を練習するわよー。」
「はーい。」と、全員が返事をした。
そして、壇上の毬茂の横に居た飛鳥が真琴の横の席に戻って来た。
「あんた、良かったやんか、採用されて。」
「うん、まさかのビックリやわ。でも嬉しいわ。」
「で、悠生さん?」
「え?あ、は、はい!」
「この人たちの楽譜集はドコで買えるのかしら?この人たちって、海外のアーティストでしょう?」
「あぁ、ネットの大手通販サイトで買えるので私、全パートの楽譜が入った本、買っておきますので。」
「そう。ネットだったら領収書は無理ね。買ってもらえたら、その代金は部費で落として支払うから、お願いね。」
「はーい。」
「はいはい、じゃあ、コンクール用の楽曲は悠生さんにお任せするとして、
みんな?とりあえず定演用の楽曲、少しずつでも練習していくわよ?」
「はーい。」
そう言って練習は3時間にも及んだ。
そして、ようやく部活も終わり、時間も6時を回っていた。
「はい、じゃあ今日の練習はここまで。あなたたちも遅くならないうちに帰りなさいね。」
「はーい。」
そう言って、みんなが席を立とうとすると、突然晴喜が大声を上げた。
「あ、あの!!!み、みんな、ちょ、ちょっと聞いてくれ、る、か、な?!!!」
「ん?どした?鷹梨?珍しくそんな大声上げて。」
「じ、実は…。」
と、昼休みに飛鳥に話した、自分が書いてるラノベが書籍化されることを発表した。
すると、室内からはどよめきが起こり、ざわめきが始まった。
「えー?!あんた、ラノベ書いてたん?」
「う、うん。」
「そ、それが本になるん?」
「うん。」
「僕、将来ラノベ作家目指してて。」
「そっか、あんた、アニヲタやもんな。ほならその作品がもしヒットして、アニメ化しませんか?
って連絡とか来たらどうするん?」
「え?そ、そらもう大歓迎や!」
「凄いなー、ウチ、あんたのこと少し見直したわ。あんたにそんな才能があったやんて。」
と、主に千春と会話していたのは、練習が始まる前、準備室で、飛鳥から千春のことを聞かれた、
千春と同じクラスの女の子だった。
「あ、で、でもこれはまだここだけの話しだけにしておいてください。」
「えー?なんで?」
「僕もこれから忙しくなるし、編集さんと打ち合わせしたりとかで、東京とかも行かなアカンかもやし、校内で騒ぐのは実際本が世に出てから、にしてもらえませんか?」
と、千春が言うと、室内が再びシーンとなり、一転、大拍手が巻き起こった。
「よっ!鷹梨せんせー!」
「そ、そんな、先生やなんて。」
「頑張りやっ!ここに居る全員、鷹梨クンを応援してるんやから!」
「あ、ありがとう、どうも。」
「じゃ、じゃあ、他に連絡はありませんね?ほな今日はこれで解散です。」
「はーい。お疲れ様でしたー。」
毬茂が教室から出て行ったあと、千春は周りから質問攻めにあっていた。
「なぁなぁ、あんた、どこでラノベ書いてるん?」
「え?も、もちろんネットやけど。」
「へぇー。」
「私、その作品読んでみたいわー。」
「せやな、ウチもウチも。」
その騒ぎの中、飛鳥が真琴に話しかけた。
「まこちゃん、帰ろ。」
「え、あ、う、うん。」
「あ、先輩方、ほな私たちは今日はこれで失礼します。」
「あ、うん、お疲れ。」
「お疲れ様でしたー。」
そう言って2人は音楽室から出て行った。
そして、準備室で楽器を片付けて、鞄を持った2人は準備室を出て、廊下を歩いて昇降口に向かう間、飛鳥が真琴に話しかけていた。
「なぁ、まこちゃん?」
「なに?」
「私、何かおもろないわ。」
「何が?」
「千春先輩のこと。」
「なんで?」
「だってな?今までさー、先輩のこと、これっぽっちも見向きもせぇへんかった人らがやで?
"僕、今度、本出すことになりました。"って言った途端な、
みんなが寄ってたかって先輩を囲むんやもん。あんなんヒドいわ。」
「そうかな?あれが普通の反応やと思うけどな。」
「まこちゃんはモデルで既に成功してるからそう思えんねん。」
「だって私は、私は別に何にも無いもん。」
「飛鳥、どうしたんや!今朝と昼休みの勢いはっ!」
「だ、だって…。」
「あんた、千春先輩のこと、必ずゲットするんやろ?」
「う、うん。」
「ほんなら、これくらいの障害なんかで負けてたらアカン。」
「あんな先輩らのことなんか、かんけーねぇ!って思えるくらいにならなアカン!」
「う、うん。分かった。ゴメン。」
「い、いや、謝らんでええよ。」
「うん。」
そう話している間に2人は昇降口に着き、靴を履き替え、学校をあとにして、家路に着いた。
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