第7話:飛鳥の決意と、エリカと藤坂の真実。
次の日の朝。飛鳥は、学校を休もうとした。
「はぁ。最近色々あり過ぎで疲れたわ~。今日はガッコサボろっかな…。」
そう心の中で呟き、とりあえず制服に着替え、学生鞄は持ち、一応朝、いつもの時間には家を出た。
そこで、いつもの姫松駅停留所で、真琴と出会った。
それはそうだ。いつもの時間に家を出たのだから、会うにに決まっている。
「あ、飛鳥っ!おはー!」
「あ、まこちゃん。」
「なんなん?元気無いやんか?どうしたん?」
「はぁ~…なにが~?」
「何が、って、あんた、体調でも悪いんちゃうか?熱でもあるんか?」
「そんなんちゃうちゃう。」
「ほななんなん?」
「最近いろいろ立て続けにいろんなことが起こり過ぎててな、ちょっと疲れてん。」
「そうやな、あんた巻き込んでんのは主にウチやもんな。ゴメンな。」
「いや、まこちゃんが悪いわけちゃうから。」
「そーなん?」
「うん。」
「あ、電車来たで?」
「うん。」
そう言って2人は天王寺駅前行きの電車に乗り、朝のラッシュアワーの狭い路面電車の車内で、吊革を持って立ち話をしていた。
「あんな?」
「なに?」
「今日な、部活行ったらな、鈴原さんにな、ちゃんと謝ろ思てんねん。」
「うん、それがいいわ、そうしぃそうしぃ。」
「あんたも部活、来るやろ?」
「私?」
「何?
「何かな、最近な、あの吹奏楽部、ちょっと苦手やねん。」
「どの辺が?」
「昨日みたいなことがあったりとかな、OBの先輩とかちょいちょい顔出して来てはいろいろ言って来たりとかな。」
「まぁー、そうやわなー。」
「思ってたのと、って言うか、中学ん時の吹奏楽部と雰囲気全然違うからちょっと戸惑ってんねん。」
「そうなんや。で、辞めるん?」
「それで悩んでんねん。」
「そうやったんや。」
「でもな、私は辞めへんで。」
「お?どしたん?」
「だって、千春先輩のこと、諦めたくないもん。絶対ゲットするんやから!」
「おぉー。飛鳥が燃えてるっ!」
そして電車は天王寺駅前に到着し、2人は階段を降りていつもの地下街を抜け、
JR天王寺駅側のエスカレーターを上がり、JR天王寺駅の中央改札口コンコースに出た。
今は平日で朝の通勤・通学ラッシュの真っ最中なので、コンコースは人で溢れていた。
そこへ、後ろから2人に声を掛けて来た女の子が居た。
「お、おはようー!悠生さん・楠木さん。」
振り返るとそこには昨日真琴と言い合いをした鈴原が居た。
「あ、鈴原さん、おはよう。」
「お、おはよう。」
「珍しいね、駅で会うなんて。」
「そ、そうね。えと、あ、あのね。き、昨日は、、、」
「すぅ~…。」真琴が息をした。
「鈴原さんっ!」
「は、はいっ!」
「昨日はあんな口叩いてゴメンなさいっ!」
「そ、そんな、謝らんといて。けしかけたんは私の方なんやから。」
「ううん、ウチら2人もあなたたちと接しなさ過ぎたわ、ホンマ、ゴメンな。」
「飛鳥もな、旅行楽しみにしてるんやって。」
「え、悠生さんたち、行ってくれるん?」
「そりゃ行くよー!だって部員やもん。みんなと仲良くなれるきっかけやもーん!」
「ゆ・悠生さーん!うわーん。」
「ちょ・ちょっと!鈴原さん?!」
「昨日ね、私あれからずっと考え込んで悩んでたの。」
「え?」
「明日会ったらちゃんと謝らななー、って。」
「そうやったんや。」
「そやから昨日のことはゴメンなさい!」
「もうええって、ウチらもゴメンなさい!」
「ほらっ!ちゃちゃっと歩かんとガッコ遅れるでっ!」と、飛鳥。
「あ、ま、待ってぇな!」
そう言って3人は早走りで学校へと向かって、昇降口に着いた3人は
「ふぅ、間に合った…。」
「なぁ、鈴原さん!」
「はい!」
「鈴原さん、何組?」
「え?あ、う、ウチは1-Bやけど…。」
「え?となりやん!ウチら、1-Aやで?!」
「ほんまっ?!」
「うん。」
「ほな、1限終わったら休みの時に遊びに行くわっ!」
「う、うん、ありがとー。」
「ほな、あとでなー!」
「はーい。」
そう言って3人はそれぞれの教室へと入って行った。
そして、A組に入って、
隣合わせの席に着いた飛鳥と真琴が、「ふぅ~…。」とため息を付いて、一息入れたトコへ、
季子が話しかけて来た。
「おはー。」
「おはー、季子ちゃん。」
「2人とも最近付き合い悪いやんかー、なんでなん?」
「え?あ、ご、ゴメン。そんなつもりは無いんやけどな。」
「そ、そや、ウチらもいろいろ忙しくてな。」
「そうなんや。まー、部活も住んでる地区も違うしな。」
「う、うん、ご、ごめんな。」
「えぇってえぇって。まぁまた落ち着いたらいろいろ遊ぼーやっ!」
「あ、ありがとー。」
そんなこんなで、ホームルームも終わり、1時限目も終わった10分休憩。
飛鳥と真琴の2人は、隣のB組の鈴原のクラスに行った。
「すっずはっらさーん!」
「あ、2人ともっ!来てくれたん?!」
「当たり前やんっ!」
「あーっ!!!!」
「え?!」
「な、なんなん?!どうしたん?!」
「ホラホラっ!な、な、!楠木真琴さんやんっ!」
「えっ?!」
鈴原のとあるクラスメイトの女子が大声で真琴の名前を呼ぶと、教室に居た男女全員が一斉に飛鳥たち3人の方を振り向いた。
そして、真琴の名前を叫んだ女の子が駆けて来た。
「初めましてっ!わ・私、B組の
「は、はいっ!」
「私、真琴さんの大ファンでっ!ホントにこのガッコに居たんですねっ!噂では聞いてましたがっ!お会い出来て光栄です!」
「大ファン?!ね、ねぇ、楠木さん、あなた、芸能人かタレントか何かなの?」と、鈴原が聞く。」
「え、えと…。」
「あ、鈴原さん、ファッション誌とか読まない人?」
「え?ふつーに読むけど…?」
「ほな、この顔。よぉっく見てみぃ?!なんか思い出せへん?!」
「んー…。」と、目を細め、ジッと真琴の顔を見つめる鈴原に真琴が、
「ちょ、す、すず・はら、さんっ?」
「え?う、うそ?ウソやろ?!まさか、まさか、あの楠木真琴っ?!」
「ちょっ、コラーっ!鈴原さんっ!真琴さんの名前を呼び捨てなんかしたらアカンっ!」
「ってか今まで普通に一緒に吹奏楽部だったし、他の子も先輩も全然突っ込んでくれないから私、
全然気付かなかったじゃない!あなた、あの、モデルの楠木真琴だったの?!」
「ちょ、ってか、う、うん。」
「うそー?!本に出てる時と全然違うやんかー?!」
「そらそうやわ、本ではメイクしてるし、髪型とかも変えてるし。」
「柚梨川さんが言ってくれへんかったら全然気付かんかったわ!」
「ちょ、さ、サインしてっ!な、お、お願いっ!ウチもファンやねんっ!」
と、そこへ、2時限目が始まるチャイムが鳴った。
「あ、教室戻らな。」
「あ、ちょ、ちょっと楠木さんっ!」
「また、昼休みになっ!」
「そや、お2人、ウチらと一緒に学食でお昼食べましょ。」
「え?いいの?」
「私もいいんですか?」
「ええってええって、その代わりあんまり大騒ぎせんといてな?」
「わ、分かりました。」
「じゃ、じゃあまたお昼休みに!」
「ほななー。」
そう言って飛鳥と真琴の2人は自分たちの教室へ戻って行った。
そして、午前の授業がようやく終わり、お昼休みのチャイムが鳴る。
「ん、んー!」と、飛鳥が背伸びした。
「どしたん?飛鳥?」
「まぁ、いろいろあった1時限目の休憩時間やったなー、って。」
「そやな。」
「うち、まこちゃんの親友で改めて良かった、っておもてんねん。」
「ほんまに?」
「あったり前やんか!あ、もちろん響香ちゃんもやで?」
「そっか、ありがとーな。」
「うん。」
「くっすのっきさーん、迎えに来ました!」
「あぁ、お2人、いらっしゃい。さ、学食行こっか。」
「はーい。」
「あ、ちょ、ふ、2人ともっ!」
「あ、季子ちゃん。」
「なんなーん?」
「うちは?混ざったらアカン?」
「そんなんちゃうけど、今日はゴメンっ!」
そう言うと4人はA組を出て学食へと向かった。
「真琴さんって、大阪の人だったんですねー。」
「そうやよ?」
「あ、そちらの方はクラスメイトの方ですか?」と、柚梨川が飛鳥に聞く。
「初めまして、私は、まこちゃんと中学からの親友の、悠生飛鳥です。よろしくね、由梨川さん。」
「あ、ご、ご丁寧にありがとうございます。よろしくです。」
「同じ学校出身って言う事は、家も近くなの?」
「そうだよ?」
「楠木さんたち、どこから通ってんの?」
「ウチら?ウチらは帝塚山からやで?」
真琴の発言に4人で廊下を歩きながら柚梨川がまた大声を上げる。
「えー?!」
「ちょ、柚梨川さん、声おっきぃて。」
「あ、す・すいません。」
「むちゃ高級住宅地やないですか。悠生さんもなの?」
「そうですよ?」
「この子の家は帝塚山でも有名な名家なんだから!」
「マジっすか…。はぁ…、居るトコにはゴロゴロ居るものね、お嬢様って。」
「そうやねー…。」と、鈴原と柚梨川の2人は驚き続けていた。
「鈴原さんたちは何地区に住んでるの?」
「私は、近鉄住民です。」と、鈴原。
「近鉄言うたら、この辺やったら南大阪線?あ、でも昨日御堂筋線のホームに居たしな、違うか。」
「私は奈良線の方です。」
「え?!ほ、ほな、もしかして、生駒とか学園前とかあの辺とか?」
「い、一応。」
「ちょ!ウチらより高級住宅地やんっ!」
「そ、そんなことないです、
「そうなん?」
「はい。」
「なんで敬語になるん?同級生やん。で、柚梨川さんは、ドコなん?」
「私は南海沿線住民ですが、高野線じゃなく、本線住民です。」
「そうなんやー。」
「お家が帝塚山、ってことは、お2人、高野線で通ってるんですか?」
「いいえ、上町線やで?」
「だって高野線やったら新今宮でJRに乗り換えなアカンし、遠回りやん。」
「そっかー、そうですよねー。」
そして、学食に着いた4人は、券売機の行列に並ぶ。
「飛鳥?」
「なにー?まこちゃん?」
「あんた、今日は何食べるん?」
「そやなー。今日はガッツリとカツカレーでも食べよっかなー?」
「おぉー、いいなぁ、さすが、今日の飛鳥は気合入ってるわ。」
「でもな、当人様が来ぇへんかったらいくら気合入れても話しにならんわ。」
「ま、そらそうやわなー。」
「何々?どしたんですか?」
「あ、いや、こっちの話し。」
「そ、そっか。ひょっとして昨日言ってた、"悠生さんの"難しい問題"のこと?」
「まぁ、そんなトコかな?
それよりな、今日は天気もええし、食事、パック詰めしてもらって中庭の芝生の周りで食べへん?」
「あ、そ、そうですね。」
「そやからその敬語やめぇって。」
「い、いや、ぁ、楠木さんがあの憧れの楠木さんやったなんてウチ、知らなくて恥ずかしくて、なんか・なんか…。」
「もうえぇて。」
そう言って4人はそれぞれにメニューの食券を持ってオープンキッチンへ行き、「芝生で食べるので。」と、伝えて、
それぞれのメニューをパックに詰めてもらい、中庭の芝生広場まで来て、ハンカチを敷き、草の上に座り、談笑していた。
「あぁ!憧れの人とお昼が出来るやなんて、夢のようですわー。」
「わ、私も。」
「あぁー!色紙用意しておけば良かった!」
「そやなー。」
「それはまぁ、これから3年間、同じ仲間なんやから、いつでも書けるやんっ!」
「そうやけどー。…あ。」
「ん?」
「な、なぁ、写メ一緒に撮ってもらっていいですか?」
「うん、えぇよー。」
と、柚梨川がスマホを持って、真琴とツーショット写メを撮り終わり、鈴原も撮ってもらったあと、真琴のスマホの着信音が鳴る。
「あ、まこちゃん、LINE鳴ってんで?。」
「ん、んんー…。」
ご飯を食べかけていたので、パックを持って塞がってる左手が使えないので、お箸をパックの上に置き、無理矢理左側のジャケットのポケットに手を入れようとするが、届かないので、
「は(あ)、はふは(飛鳥)、ひょ(ちょ)、ひょっへ?(取って?)」
「はいはい。」
「はひがほー。(ありがとー。)」そう言って飛鳥からスマホを受け取って、お昼ご飯を口に入れたままで、
「ほひほーひ?」(もしもーし?)」と、電話に出ると何と、藤坂からの電話で驚いて、口の中に残っていたご飯を一気にゴクンと飲みこした。
「あ、こ、こんにちは、藤坂さん。」
「やぁ、ひょっとして今、何か食べてた?」
「あ、はい。今、お昼休みなので、学校の友だちとお昼ご飯中でした。」
「そっか、邪魔して悪かったね。」
「で、どうかしました?珍しいですね、藤坂さんから電話してくれるなんて。」
「あぁー…。昨日は恥ずかしいトコロを見せちゃってゴメンね?」
「いえ、大人はどなたでも酔っ払うモノだ、って親から聞いてますし。で、何かありました?」
「ねね、"ふじさかさん"って?」
「それは言えないかな。」
「えー?!」
「何でですか?ひょっとして、モデルの藤坂佑輔さんとか?まっさかー?!」
「なーいしょ。」
「なんだか周りがにぎやかだね。」
「えぇ、女の子4人でお昼してるので。」
「で、どうしました?」
「あぁ、本題だよ。大変なんだっ!昨日、僕が寝てた間に、エリカ、君たちとドコか出掛けてたらしいじゃん?」
「あぁ、はい。書き置きしてましたよね?」
「それは見たよ。で、その後が大変だったんだから、ってか、今もっ!」
「エリカさん、どうかしたんですか?」
「昨日帰って来た時は元気だったんだけど、夜遅くになって急に風引いて、高熱にうなされて、今も熱が下がらなくて、ホテルマン呼んで解熱剤とかはもらったんだけど、それでも下がらなくて困ってるんだよ!ねぇ、楠木さんは学校、ホテルから近いんだよね?」
「えぇ、一応。」
「この辺に良い内科の病院、知らないかい?」
「あぁー…。ちょっと待ってくださいね、飛鳥にも言いますから。」
「あ、う、うん。」
「飛鳥、大変だよ、エリカさん、昨日の夜から急に高熱が出て今も治らないんだって!」
「えーっ?!ちょ、電話変わって?!」
「う、うん。」
「あ、もしもし?藤坂さん?飛鳥です。昨日はどうも。」
「や、やぁ。事情は聞いた?」
「はい、まこちゃんから聞きました。エリカさん、どんな具合ですか?」
「熱が下がらなくて、さっきホテルマンにドクター呼んでもらったんだけど、外来患者の受診で忙しいらしくて、なかなか上がって来れない、って言ってて…。」
「あー…それって、ハルカスのクリニックフロアの内科の先生ですね、多分。」
「え?このビルの中にそんな場所があるの?」
「ありますよ。ほぼ全ての科目の病院が揃ってましたよ?確か。」
「じゃ、じゃあ、どうしたらいい?」
「んー…、困りましたねぇ。私たち、放課後まで学校あるし…、でも、エリカさんのことも心配だし…。どうする?まこちゃん?」
「今日は午後の授業、早引きしちゃうかっ?!」
「えー?部活、
「う、うん、ゴメンね。今、地方から大阪に遊びに来てる友だちの妹さんが高熱で大変で、それで、そのお兄さんが凄く困ってて。」
「その人って、ひょっとして昨日、御堂筋線のホームであなたたちと一緒に居た、背がちっちゃくて大人しそうだった人?」
「うん。」
「じゃ、じゃあ、そんな大切な人が病気なんだったら早引きしなよ!」
「うん、そうするよ、あ、もしもし、藤坂さん?」
「な、なに?」
「私、今から飛鳥と2人でそちらまで行きますので、またフロントで待っててくれませんか?」
「一度教室戻って鞄取ってから学校出て向かうので、20分くらい待ってて下さい。」
「わ、分かったよ。」
「じゃあ一旦LINE、切りますね。」
「う、うん。落ち着いてくださいね、藤坂さん。
お兄さんがそんなんじゃ、エリカさんも落ち着かないから。」
「わ、分かったよ。」
「じゃあ、あとで。ハルカスの地下に着いたら連絡するので待ってて下さい。」
「うん。じゃあ、あとで。」
そう言って、藤坂と真琴はLINEを切った。
「ゴメンね?2人とも。今日は早引きするからこれで。」
「う、うん。部活は?」
「うーん、分かんないから、もし帰って来なかったら、せんせーに言うといてくれる?」
「分かったよ。気ぃ付けて。」
「ありがとう。」
「ほなねー。」
そして、飛鳥と真琴の2人は、食べかけのお昼ご飯を、校庭のゴミ箱に捨て、
ダッシュで教室へ戻り、それぞれの席に戻って、教科書類などを鞄の中に詰め、
急いで教室を出て、昇降口へ行き、走って学校を飛び出して、天王寺の街を、ハルカスに向けて走り出す。
「いそがなっ!まこちゃん!エリカさんがっ!」
「う、うん!ちょ、ま、待ってぇな、飛鳥っ!はぁはぁ。」
そして、学校から猛ダッシュしてJR天王寺駅まで戻り、エスカレーターで一気に地下街へ降り、
ハルカスのエレベーターフロアに着いたので、真琴が藤坂に連絡をする。
「あ、もしもし?藤坂さん?」
「や、やぁ、今ドコ?」
「今、ハルカスの地下まで着きましたので、すぐに上に上がるので、フロントまで降りて来てくれませんか?」
「分かった、行くよ。」
短いやり取りをして電話を切った2人はそれぞれ、上にあがり、下に降り、ちょうどフロント前で落ち合った。
「や、やぁ、ゴメンね、学校だったのに、呼び出して。」
「そんなこといいですから、早く、部屋へっ!」
「あぁ、うん。」
「早く、早く降りて来てー。」と、飛鳥がセカセカする。
そこへ、一機のエレベーターが降りて来て乗客が出て行ったあと、3人は急いでエレベーターに乗り、藤坂がフロアのボタンを押すと、エレベーターは高速で上がって行って、2人が泊まってるフロアに着くと、ドアが開き、藤坂がダッシュで部屋の前まで戻り、ルームキーでドアを開け、2人を部屋に招き入れた。
「こ、こっちだよ。エリカはベッド!」
「分かりましたっ!」
と、キングサイズのダブルベッドで、しんどそうに顔を赤くしながら、
はぁはぁ言い、眠っているエリカの元に2人は走って行った。
そして、飛鳥が、エリカの額の上の水タオルを取って、額に手を当てると、
「あちちちっ!ものすんごい熱っ!!」
「エリカさん、大丈夫?エリカさんっ!」
「ちょ、飛鳥!エリカさん、寝てるんだから、無理させたらアカンっ!」
「あ、そっか、ゴメン。」
「藤坂さん!お医者様は?!」
「それが、午前診が終わるのが長引いてるらしくて、早くてもココに来られるのが3時くらいなんだって。」
「そ、そんなー。」
「お、おにいちゃん、あついよ、しんどいよ…はぁはぁ。」
「え、エリカっ!エリカっ!」
「ちょ、藤坂さん、落ち着いて!」
「うなされてるだけですから。」
「私、とりあえずこの濡れタオル、交換して来ます!」
「あ、うん。」
と、そこへ、部屋のインターフォンが鳴ったので、藤坂がドアを開けると、そこには、ホテルのコンシェルジュと一緒に白衣を着て黒いバッグを持った男性の医者が立っていた。
「やぁ、遅くなってゴメンね。」
「せ、先生っ!妹が、妹が!」
「まぁまぁ、落ち着きなさい。」
コンシェルジュはお辞儀をしてドアを閉め、フロントへ戻って行った。
「この子かい?」
「は、はい。」
「ちょっとタオルを取るよ?」
「はい。」
そう言って医者は、タオルを取り、自分の手のひらをエリカの額にのせた。
「あちちっ!ちょ、君っ!凄い高熱じゃないかっ!何で今まで放(ほう)ってたんやっ?!」
「す、すいません…。こんなの、初めてなもので、焦ってしまい…。」
「ちょっとパジャマのボタンを外して、身体の様子を診察させてもらうよ?」
「はい。」
そう言うと医者は、エリカの可愛いパジャマのホックを上からゆっくり外して行き、
バッグから聴診器を出し、胸や腹部辺りを入念に診察していく。
「この子、まさか心臓病とか重病は持ってないよね?」
「は、はい。」
「んー…。」
「せんせー、どうなんです?エリカさん。」
「君たちは静かに。」
「す、すいません。」
この間にもエリカは激しい息遣いで、苦しそうに、はぁ・はぁ、と、息をを荒くしている。
「お兄さん?」
「は、はい。」
「この子は今、いくつ?」
「あ、こ、高2です。」
「こ、高校生だったの??!」
「はい、一応。」
「背があまりに小さいし、胸の膨らみ具合とかから、中学生かと思ったよ。」
「だ、誰が、じぇ、JCだ、コラーっ?!…はぁ、はぁ、はぁ…。」
「おぉっと?!」
「あ、先生、こいつ、背丈や胸が小さいこととか中学生に見られたりすることを言われるのが凄くコンプレックスらしくて…。そうゆうワードには凄く敏感に反応するんです…。」
「そ、そうなの?今の、聞こえてたの?」
「そう、みたいです。」
「エリカさんのおっぱい、可愛い。」
「こら飛鳥っ!」
「ご、ゴメン、つい。」
「君たちは確か、旅行中なんだよね?出身は?」
「し、静岡県です。」
「静岡か…。こんな状態じゃすぐに帰れないよ。」
「はい。」
「とりあえず、ホテルマンからもらってるはずの解熱剤のよりもっと良く効く解熱剤を1シート置いて行くから、
妹さんの状態が安定したら、いつでもフロントから連絡してもらえるかな?」
「わ、分かりました。」
そう言って医者は、エリカの薄い胸をポンと軽く撫で、
「大丈夫、さっきみたいに声が届くんだったら、大丈夫だよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「君たち?」
「はい。」
「この子の友だちかい?」
「はい。」
「とりあえず、お兄さんだけだったら不安なので、この子の状態が良くなるまで傍に付いててあげてくれるかな?」
「分かりました。」
「先生、ありがとうございます。」
「うん、じゃあ私はこの後午後診もあるから一旦病院まで戻るからね。」
「解熱剤は、一回で2錠だからね。」
「はい、分かりました。」
その合間にも飛鳥は、エリカのパジャマのホックを一つずつ閉めていき、苦しくならないように、一番上のホックだけは開けておいた。
「先生、ありがとうございました。」
藤坂は医者をドアまで見送っていく。
「藤坂さん?」
「何?」
「エリカさん、昨日、私たちに言ってくれましたよ、大阪に旅行に来た理由。」
「え?そ、それで、エリカは何だって?」
「学校でちょっといろいろあって、それで学校休んでて、そしたらお兄ちゃんが大阪にでも遊びに行こう、って誘ってくれた、
って、すっごく嬉しそうに話してくれました。その時撮った写メです。」
「あ、グリコか…。」
「はい。」
「エリカさん、ココはまだ行ってないから、って言ってて。」
「そうだった…。僕も、行き方が良く分からなくてね。でも君たちが連れてってくれたんだったら良かったよ。この写真のエリカ、すっごく楽しそうだよ。」
「はい。」
「私、エリカさんや藤坂さんとお知り合いになれて、お友だちになれて良かったです。」
「学校で何があったかは知りませんが、出来れば早く学校に戻ってもらいたいですが、でも、それはエリカさんが頑張らないと、なので…。」
「藤坂さん?」
「はい?」
「あの、これは一つの提案なんですがね。」
「うん。」
「藤坂さん、私よりテレビたくさん出てますし、CD出したり、芸能活動広いじゃないですか?」
「ま、まぁ。」
「ご両親の了解が取れるなら、お2人で大阪に引っ越して来られては?」
「え、えぇっ?!」
「その方が、私たちもいつも近くにエリカさんを感じられますし、もし、ウチの学校に入ってもらえたら、私たちと同じ吹奏楽部にも入れますし…。」
「そ、それは、かなり、む、難しい問題だよ…。僕だけなら自由だけど、エリカも一緒となると…。うーん、困ったな…。」
「ま、まぁ、それはこの子の状態が良くなって、一度地元に戻って、家やエリカの学校といろいろ相談してからじゃないと。」
「ま、まぁ、そうですけどね。」
「お、おにい・ちゃ、ん…?い、いる、の?」
「あ、え、エリカ、気が付いた?うん、ココに居るよ?」
「はぁ、はぁ…。」
「い、いまのおはなし…。」
「今の話し?」
「わたし、おおさかにひっこしたい。わたしも、…、いつ、も、あすかちゃんたちといっしょに、い、いたい…。」
「エリカさん、無理しちゃダメ!安静にっ!」
「う、うん、ご、ごめんね…。ふたりに、め、いわ、く、か、けちゃ、って…。はぁ、はぁ…。」
「そんなこと気にしなくていいですからっ!」
「お、おにい・ちゃ、ん…?」
「なんだい?」
「も、もう、ふたりに、ほ、ほんとのこ、と、はな、して…?」
「え?い、いいの?」
「う、ん…。わた、し、は、ふたりと、ほんとに、ちゃんとした、おともだち、に、なり、たい、か、ら…。はぁ、はぁ。」
「分かったよ。」
そして、藤坂は少し大きく深呼吸をして、深く、「はぁ~…。」と、息を吐いた。
そして、突然床に手を置き、平謝りのポーズを取った。
「2人ともっ!今まで嘘付いてて、ご、ごめんなさいっ!」
「は?」
「え?う、嘘?」
「じ、実は僕ら、兄妹じゃないんだっ!!」
「は?えーっ?!」
「えーっ?!そ、それって、どうゆう…?」
「エリカと僕たちは、実は、同じバイト先で知り合った、恋人同士だったんだ。」
「はぁ~っ??!!」
「ほ、ホンマなんですか?それっ?!」
「あぁ、ホントだ。確か、エリカの制服のポケットに学生証があったはず…。」
そう言って藤坂は壁にきれいに整えてハンガーに吊るしてあるエリカの制服のジャケットの胸ポケットから学生証を取り出し、2人に見せた。
それを見た2人は、目を丸くして驚いた。
「く、くり、いき、る?…んんー??」
「藤坂さん?これ、なんて読むんですか?」
「あぁ、"
「あわきの…?あわきの…あわきの・・・??んー…、どっかで聞いたことが…。」
少しの間を置いて真琴が突然大きな声で、
「あーっ!」
と叫んだ。
「ど、どうしたんだい?」
「思い出したっ!この学校、全国の高校でも有名な吹奏楽でめちゃ強い学校やんかー!!」
「え?、そ、そうなん?まこちゃん?」
「うん。まりもんが話してたやん。」
「そうやったっけー?」
「"まりもんって"?」
「あー、ウチらのガッコの吹奏楽部の顧問兼担任です。」
「そ、そうなんだ?」
「はい。」
「で、学校も重要だけど、一番重要な名前のトコロ見て?」
「苗字が違うだろ?」
「えーと?青島エリカ?…って、はっ?!青島??!!藤坂、じゃないんですか?!」
「う、うん。楠木さんは、モデル活動や芸能活動、本名でやってるんだよね?」
「はい、いちおー。」
「僕の本名は、藤坂歩。」
「あ、歩?じゃあ佑輔は、芸名やったんですか?」
「うん、ほら、これが僕の学生証。」
「ほ、ホンマや…。」
「でさ、"青島貿易"って聞いた事無い?」
「青島貿易?って、それって、テレビでもCMしてる、日本有数の大企業じゃないですかっ!」
「そう。」
「ま、まさか…。」
「その、まさか、だよ。エリカはね、その、青島貿易のご令嬢で、一人娘さんなんだよ。」
「僕も最初は彼女の家庭のことなんて知らなかったし、彼女もアニヲタだから、ファッション誌とか普段読まなくて、僕がモデルや芸能活動やってるだなんて、知らなくて、普通に接してくれてたからね。」
「そ、そうだったんですか。」
「それで、僕らの地元、静岡県の掛川市の繁華街で、2人でデートしてる時に、エリカのクラスメイトに激写されてね、翌日学校行った時、エリカがクラスメイトたちから問い詰められて、それで僕がモデル、って知ったらしくて。
そこからなんだよ、周り中からやいやい言われて学校休んでるから、そんな辛そうなエリカを見たくなかった僕が、エリカの調子が戻るまでだったら何泊でもいいから、
大阪旅行をしたらどうかな?って提案して、今、ココに居て、先日下のスタバで君と偶然再会した、ってわけ。」
「そう、だったんですね…。ホントのこと、正直に話してくれて、ありがとうございます、藤坂さん。お2人、とてもお似合いですよ。」
「ホント?」
「はい。」
「今まで君たちを騙してて、ホント、ゴメン!」
「いえいえ、別に騙されてた、とか、そんなん思てませんし。」
「お2人がカップルだったなら、ますます応援したくなりました!」
「そうか、だからこんなおっきいダブルベッドで寝てたんやっ?!」
「あんたは何そんなこと今頃言ってんねんっ!」と、真琴が飛鳥に突っ込んだ。
「おおうっ!な、いきなりナニ首チョップすんねん!」
「あははは、初めて生で見たよ。芸能人とか芸人のじゃない、本当の本場のボケ突っ込み。」
「あす、か、さん?」
「あ、は、はい!エリカさん!何?大丈夫?」
「ほんとうのこと、いえ、なくて、ごめん、ね。きのう、ひ、っかけ、ばしで、いおうと、した、んだ、け、ど、なか、なか、いえ、なく、て…。」
「大丈夫、大丈夫だから!無理しちゃ、だめ!」
「は、はい…。」
「ふ、ふじさか、さん?」
「なんだい?」
「わた、し、じょう、たいが、よく、なったら、とうきょうの、おとうさまに、じじょう、せつめいして、ふたりのがっこうに、てんにゅう、させてもらい、たい…。」
「えぇ?!だ、大丈夫なの?そんなこと…。せっかく初等部から粟生野で頑張って来て、あと少しで卒業なのに…。」
「いい、の。わたし、おおさかに、きた、い。」
「まぁ、君のお父様のお許しさえ出たら、天下の青島貿易のことだから、事はすんなり動いて、すぐにコッチに来れるんだろうけどね。
でもね、エリカ。今はゆっくりでもいいから病気を治すことが先決だよ?」
「は、はい、わ、かり、まし、た…。」
「もう分かったから、エリカさんは安静にしてて。」
「は、はい。あ、お、おおさかにも、うちのかいしゃの、してんがあるから、そこの、してんちょう、に、このこと、はなせば…。」
「分かった、分かったからエリカ!いいかげん安静にしないと僕は怒るよ?」
「ご、ごめん、なさ、い。」
「飛鳥ちゃん?」
「はい?」
「悪いけど、エリカに少し水、飲ませてあげてくれるかな?」
「はい。エリカさん、少し、冷たいお水、飲みましょう。」
「ありが、とう。」
「それと、解熱剤と安定剤も。」
「はい。エリカさん、はい、お口開けてー。」
「飛鳥、そっとやるんやで?」
「分かってるよー。」
「ふぅー…。」
そして、エリカの鼓動も少しやんわりして、すー、すー、と、眠りに付いた。
飛鳥は、ベッドの掛け布団を、そっとかけ直して、3人でソファに座って、これからのことを相談した。
「いや、ビックリしただろ?」
「はぁ、まぁ、いろいろと。」
「まぁ、上には上が居るもんだなー、とか。」
「は?」
「や、飛鳥の実家も、お父様が会社やってるんですよ。」
「へぇー。」
「ちょ、まこちゃん!」
「"ユーキコーポレーション"って、IT関連の企業の名前、聞いた事あります?」
「ユーキ…。あぁ、聞いた事あるよ!かなり大手のプロバイダを運営してる会社の名前だよね、それって?」
「はい。それがこの子、悠生飛鳥の実家の会社の名前で、飛鳥はそこの、3人兄妹の末っ子で、エリカさんトコほどじゃないですが、そこの家のご令嬢です。」
「ちょ、まこちゃん!」
「ええやん、ホンマのことなんやから。」
「そやけど…。」
「そうだったんだ。」
「楠木さん家は?ご両親は何か会社を?」
「ウチも、一応小さな町工場を経営してます。」
「そっか。」
「はい。」
「青島貿易やユーキコーポレーションみたいな大企業じゃないですし、ホンマ、ちっちゃい町工場です。」
「でも、まこちゃんは、私と違って一人っ子やし、ホンマのご令嬢やん。」
「まぁ、一応ね。」
話しがまとまったところで、藤坂が一息付き、席を立った。
「話し疲れたね、オレンジジュースでも入れようか。」
「あ、ありがとうございます。」
そう言って藤坂は冷蔵庫に行って、ドアを開け、オレンジジュースの缶を3つ持って来て、再びソファに座った。
「エリカの状態も昨日から比べたらかなり安定して来たし、今はすやすや眠ってるし、君たちも疲れただろうから、今日もまた遅い時間だし、今夜は一度お家へお帰り。」
「え、でも…。」
「大丈夫。僕らの本当のこと、2人にちゃんと話したら、僕もすっきりしたし、だいぶ落ち着いたから。」
「また何か分からないことがあればメールか電話させてもらうかも、だけど。」
「分かりました。」
そして飛鳥は、再びベッドのエリカの元へ戻り、眠っているエリカの手をそっと握り、「ゆっくり休んでくださいね、また来ますね。」と、
心の中で呟いて、最後にエリカの寝顔を見てから、2人の元へ戻って来て、真琴に向かってこう言った。
「じゃ、まこちゃん、帰ろっか。」
「そやな。」
「ほな藤坂さん、エリカさんのこと、頼みましたからね。」
「うん、肝に銘じて。」
「何かあれば私、すぐに駆けつけますから。」
「ありがとう。」
「あ、今日はここでだいじょぶです。エリカさんの傍に居てあげて下さい。」
「分かったよ。君たちも気を付けてね。」
「はぁい。」
「それじゃまた!」
そう言って、飛鳥と真琴の2人は笑顔で藤坂に手を振って、そっと部屋から出て行った。
そのフロントに下りるエレベーターの中で、飛鳥が真琴に。
「いや、ホンマもう最近私、色んなことあり過ぎて驚きだらけでマジ疲れてるんや…。
ほんで今日のさっきの藤坂さんのカミングアウトで、私はもうヘナヘナや…。」
「まぁ、あんたの気持ちは分かるわ。ウチも今日はビックリしてアンタ風に言えばヘナヘナや…。」
そしてエレベーターがフロントフロアに着いたので、2人はロビーを通り、
阪堺線や地下鉄の改札がある地下1階までのエレベーターに乗り換え、
帰宅ラッシュの中、阪堺線の天王寺駅前まで人波の中を歩いて行って、
いつもの路面電車に乗り、家路へと着き、それぞれの長い長い一日が終わったのであった。
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