第6話:ある日の部活にて。
千春との初デートから数日が過ぎた平日の授業終わりの放課後。
飛鳥と真琴の2人は、音楽室でクラリネットの自主練習をしていた。
2人の他にも、新入部員で女の子の1年生が6~7人、練習していた。
「なぁ、飛鳥?」
「なにー?まこちゃん?」
「あれから、千春先輩とは連絡したり話ししたりしてんの?」
「そんなん…そんなん
「そっか…あんたらやったら上手く行くおもたのにな。」
「ゴメンな、せっかくみんな私の為に合コン開いてくれたのに。」
「ええよええよ。響香にも言われたんやろ?まだまだ時間はあるんやから、って。」
「うん。」
「ならそれでええ。」
「ありがとうな。」
「ええってええって。」
と、そこへ、ガラガラ、と、部室のドアが開いて、元気良い男性の声がした。
「うぉーっす!現役の諸君っ!元気にしとるかね?」
「あ、
「あー、またタバコ吸ってるっ!」
「校内は禁煙ですよ!」
「すまんな。つい、クセでな。お前ら、全員1年か?」
「そうですけど。」
「2年と3年は?」
「ミーティングだそうです。」
「そうなんや、なんやつまらんな。せっかく来たのに。あ、千春はおるか?」
「
「そう言えば最近見てないな?」
「今日のミーティングにも来てないみたいやし。」
「そやな。」
「何かあったんか?あいつ。」
「さぁ、私らはなんにも…。」
「そうか。」
そのやり取りに、飛鳥と、真琴の2人は入れなかった。
「そう言えばそろそろ春の連休やな。」
「そうですねー。」
「お前ら、家族と旅行行ったりとかすんの?」
「私の家は今はまだ何も。」
「ウチも。」
「私も。」
「そっかそっかー。な、お前ら、旅行は好きか?」
「え?好きですよ?普通に。」
「そうかー。な、連休にな、行ける部員集めて旅行行かへんか?」
「旅行、ですか?」
「どこまでですか?」
「んー、まだノープランやけどな。今度来る時までに決めとくわ。」
「わー、碧樹先輩との旅行って楽しそうやなー。」
「そやなー。」
「ウチも行きたいわー。」
と、その時、飛鳥が、千春と映画を観た時に、千春が言った言葉を思い出した。
「あぁ、これか。旅行って言うの。」
と、心の中で思っていた。
「なぁ、そこのクラ2人。」
「あ、は、はい。」
「お前らも一緒に旅行せぇへんか?」
「え?私たちも、ですか?」
「そや。楽しいで。」
「それって、他のOBの方々も来られるんですか?」
「いんや?OBは俺と多分、那珂の2人や。」
「そうなんですか。」
「わ、私は…、その…。」
「なんや?はっきりせぇへん子やな。」
「あ、ち、千春先輩も行かれるんですか?」と、真琴。
「鷹梨か。まぁー、あいつおらんかったら絡まれへんからな。」
「とりあえず今、俺と旅行に行きたい1年、手ぇ上げっ!」
「はーい!」
「ひぃ・ふぅ・みぃ・よぉ・いつ…、」
と、碧樹は、手を上げた女子部員の数を数える。
「なんや、クラの2人は行かんのかいな?」
「ウチらまだ家の予定とか分からないんで…。」
「そうか、ほな決まったら教えてぇな。」
「はい。」
「だいたい10人前後か。それとあと2年やな。3年は受験があるから無理矢理は無理やな。」
「上級生がミーティングやったら今日は長引くやろ?」
「そうかもしれないですねー。」
「俺、今日はこれで帰るわ。次来るまでにドコ行くか決めとくさかいに。」
「はーい。」
「ほななー。」
「さよならー。」
で、碧樹が帰ったあとの音楽室では、1年の女子部員たちがきゃいきゃい騒いでいた。
「なぁなぁ、旅行やてー。」
「楽しみやなー。」
「そやなー。」
「ドコ連れてってくれるんやろか。」
「さぁなー。」
「でも、楽しそうやわ。」
「私、行くっ!」
「え?ほ、ほな、ウチも。」
「私も!」
と、7~8人の女子部員が行くことを決めた。
「なぁなぁ、悠生さんらは行かへんの?」
「ウチらは、その、まだ、家の連休の予定が分からんから…。」
「そうなんや。」
「そう言えばさ、あんたら2人、全然私らと関わらへんやんか。」
「え?」
「同じ新入部員やねんからさ、練習終わったあとのお茶くらい付き合ぇーな。」
「う、ウチらの家、お、親が厳しぃて、遅まで遊んでられへんねん。」
「嘘やー。」
「え?」
「悠生さんはおらんかったけど、ウチこの前の日曜、楠木さんの姿、千日前のマクドで見たで?」
「え?そ、そうなん?」
「なんか、3人くらいでおったやろ?」
「一人、カッコええ男の子と一緒に。」
「あー、あの時か。」
「あの2人は中学の時の同級生や。」
「そうなぁーん?」
「そや。」
「あの時の楠木さん、凄い楽しそうやったやん。」
「そら、同級生と久々に会ったからな。」
「ほな、ウチらとも遊べるんちゃうんか?」
「それとも、ウチらより中学の時の友だちの方がええとか?」
「そんなんちゃうちゃう。ただな、今はちょっと、この子のことで難しい問題抱えててな。」
「悠生さんの難しい問題?」
「ちょ、ちょっとまこちゃん!そ、それは今関係無いやんか!」
「そやったな。」
「なんなん?2人だけで内緒話か?」
と、2人に主に激しく口撃して来たのは、同じ1年で新入部員で、トロンボーン担当の生徒、
「そ、そんなんあんたに関係無いやん。何でそこまで言われなアカンの?!」
「ちょ、ちょっとまこちゃん!」
「なに?飛鳥?」
「け、ケンカは…。」
「ケンカなんかしとらん。鈴原さんの言い方に腹が立っただけや。」
「ウチらがいつドコで誰と居て何してようがあんたには関係無いやんか。」
「あぁそう!ほなあんたらは旅行来んといてぇな!
あんたら、いつも悠生さんと一緒やからコッチも気ぃつこてあまり話しかけんかったけど、でも、碧樹先輩がみんなで旅行行かへんか、って言ってくれたから、
せっかく2人とも仲良くなれるきっかけになるとおもたのに、楠木さんがそんなんやったら仲良くなられへんやんか。」
鈴原の怒りの言葉に、部屋全体がシーンと静まり、誰も一言も話し出せないまま、15分ほど暗い雰囲気が続いたその時、
部屋のドアが開き、顧問の岡本毬茂が部屋に入って来た、と、同時に真琴が飛鳥の手を引いて、席を立ち、
「飛鳥っ!帰ろっ!」
「あ、ちょ、ちょ、まこちゃん!」
「2人とも!どこ行くんですか?!もうすぐ全体ミーティングが始まりますよ?!」
「せんせーすいません、今日はウチら、気分悪いんで帰らせてもらいます。さよならっ!」
「えー?!ちょ、ちょっと!」
2人は毬茂の静止を振り切って音楽室から無理矢理出て行った。
真琴たちが出て行ったあとの音楽室は、さらに暗い雰囲気が漂い、無言が続いていた。
「な、何なの?この暗い雰囲気は?何かあったの?ねぇ、誰か、ちゃんと説明しなさい。」
そう毬茂が言うが、唯華も、自分が少し言い過ぎたことに後悔して、言い出せなかった。
音楽室を飛び出した真琴と飛鳥の2人は、音楽準備室に自分の楽器を片付けに行って、そのまま学生鞄を持ち、学校を飛び出した。
そして、いつもの天王寺の駅前まで戻っていた。
「ゴメンな、飛鳥。私のせいでアンタまで巻き込んで。」
「ううん、ええって。ウチもあの子、何か苦手やったもん。それにな?」
「なに?」
「うん、映画の時にな、千春先輩がな、碧樹先輩、旅行好きやから、
今年の連休もきっとどっか行こう、って言ってくるで、って教えてくれてん。」
「そうやったんや。」
「うん。」
「これからどうしよっか。」
「そうやなー。」
「あ、藤坂さんは?」
「藤坂さん?」
「まだ大阪におるんやろか?」
「ちょ、メールしてぇな。」
「何で?」
「や、エリカさんとな、もっと仲良ぅなりたいおもてな。」
「あぁー、妹さんな。」
「うん。」
「でもあれから5日くらい過ぎてるし、2人とももう大阪にはおらんと思うで?」
「そっか。」
「でもまぁ一応LINEしてみるわ。」
「そう言って真琴は藤坂のLINEに通話した。すると、2コールで藤坂が出た。
「やぁ、楠木さん。この間はいろいろありがとう。」
「こ、こんにちは。」
「で、どうしたんだい?」
「えと、お2人ってもう地元戻られてますよね?」
「僕ら?」
「はい。」
「いや、まだ大阪に居るよ?」
「ほ、ホンマですか?」
「そうだよ。」
「い、今はドコに居るんですか?」
「今?今はホテルの部屋でエリカと2人で休んでるよ。」
「そ、そうなんですか。ホテルって確かハルカスの上でしたよね?」
「そう。」
「あ、あの、こないだ一緒に居た私の友だちの飛鳥、覚えてます?」
「そりゃ覚えてるよ。4人で通天閣で写メ撮ったじゃん。」
「は、はい。」
「で、なに?」
「あの、今からお2人の部屋までお邪魔しちゃダメですか?」
「え?ココに来るの?僕は構わないけど、エリカにも一応聞いてみるよ、ちょっと待って。」
そう言って藤坂は少し電話を離れ、エリカと話しをし、エリカも承諾した。
「いいってさ。エリカも、飛鳥ちゃんと話しがしたい、って。」
「そ、そうなんですね。あ、私たち今、天王寺駅のすぐ近くに居るんで、5分ほどでフロントまで行けます。」
「そう、じゃあ僕がフロントの前で待ってるよ。何階か分かる?」
「えと、確か19階でしたっけ?」
「そうだよ。」
「では、のちほど。」
「そうだね、楽しみにしてるよ。」
そう言って2人は電話を切った。
「ど、どうやった?」
「うん、藤坂さんとエリカさん、まだ大阪に居て、今はホテルの部屋で休んでる、って。」
「そうなんや、で、行っていいって?」
「うん。」
「良かったー。これでまたエリカさんと話せるわ。」
「そやな。」
2人はハルカスの地下1階のエレベーターロビーに着き、ドアの開いてたエレベーターに乗り、19階のホテルのフロント近くまで行くと、そこには笑顔で手を振って待ってた藤坂の姿があった。
「やぁ、こんにちは。」
「こ、こんにちは。」
「こないだはありがとうね、いろいろ。」
「い、いえ。」
「エリカも良い買い物が出来た、って喜んでたよ。」
「それは良かったです。」
「2人とも制服姿だけど、今学校の帰り?」
「はい。」
「そっか、嬉しかったよ、君たちから電話あって。」
「そうですか?ありがとうございます。」
「さ、どうぞ。エリカも待ってるから。」
「はい。お部屋は何階なんですか?」
「かなり上の方だよ。」
そう言って藤坂は2人を高層階へ向かうエレベーターに案内し、フロアに着いたら部屋の前まで連れて行き、ドアを開けた。
「エリカ、ただいま。2人を連れて来たよ。」
「わぁ、ありがとう。飛鳥ちゃん!真琴ちゃん!こないだぶり!」
「ど、どうも。」
「そんなに緊張しなくていいよ、ささ、くつろいで。」
「うわー、広い部屋ですねー。ココって、スイートですか?」と、飛鳥。
「そうだよ。」
「さすが藤坂さん。お金持ちですねー。」と、真琴。
「なな、まこちゃん、見てみて?これ!おっきなダブルベッドっ!」
「ホンマやっ!デカっ!って、え?ひょっとしてお2人、同じベッドで寝てるんですか?」
「そうだよ?それがどうかしたかい?」
「お2人ってご兄妹ですよね?」
「そうだけど。」
「兄妹で一緒のベッドで寝るんですね。私、一人っ子だから、その辺良く分からなくて…。」
「あ、そうか、まこちゃん一人っ子やもんな。ウチもたまに今でも直兄(なおにい)と2人で私のベッドで一緒に寝るで?」
「そ、そうなん?兄妹ってそんなもんなん?羨ましいなぁ。」
「2人とも、何かドリンク飲むかい?」
「あ、はい、何でもいいです。」
「軽めのお酒、少しだけ飲んでみるかい?」
「お、お酒、ですか?」
「ウチらまだ未成年ですよ?」
「大丈夫大丈夫。エリカだってこの部屋で初めて少しだけ飲んだんだから。ね、エリカ。」
「うん。」
「そうだなー、初めてだったらほろよい加減が出来るヤツ辺りがいいかなー?」
そう言って藤坂は冷蔵庫から4人分の軽いカクテルを用意し、大きめのソファーの前の広いテーブルに置いた。
藤坂は既に一人でお酒を飲んでいたようで、かなり上機嫌だった。
「ささ、缶開けてググっと行ってみて。」
「で、でも…。」
「大丈夫、酔って帰れなくなったらこの部屋に泊まっていいから。」
「で、でも、ベッドは一つですよ?」
「だーいじょうぶ、君たちの身体のサイズなら4人一緒に寝れるから。」
「それって、藤坂さんと一緒に寝る、ってことですよね?」
「そうだね。」
「わ、私、男の人と寝たこと無いどころか、彼氏も作ったこと無いんですが。」
「そうなんだー。」
「ってか藤坂さん、なんでそんなにテンション高いんですか?」
「だってお兄ちゃん、2人が来るまで既に飲んでたから、一人で。」
「そうなんですね。」
「うん。」
「だからこんなにテンションが高いんだ。」
「そう。あ、そうそう、この部屋ね、これだけ高いから、夜景とかもすんごく素敵なんだよ?」
「そらそうやろうなー…。泊まって行きたいわー。」
「泊まればいいじゃん!ね、泊まって行って?」
「で、でも、私はともかく、飛鳥の家は親が凄く厳しいから…。」
「どうする?飛鳥?」
「ま、まこちゃんがええんやったら私、明日、親に怒られる覚悟で今夜はココに泊まってもええで?」
「ええんか?」
「うん。だってこんな機会、そうそう無いもん。」
「そやんなー。藤坂さん!」
「はい?」
「ウチら、今日はココに泊めさせてもらいます!」
「おー!泊まれ泊まれっ!わはは、あはははは。」
「どうしたの?」
「藤坂さん、完全に酔ってるな、って。」
「でしょ?あ、ねぇ、2人ともこっち来て?」
「え?あ、はい。」
「ここ、お風呂なの。」
と、エリカがドアを開けると、
バスタブの向こうはガラス張りになっていて、大阪市内が一望出来た。
「すごーい!きれーい!」
2人は声を揃えて驚いた。
「ね、暗くなったらさ、夜景がキレイだから、3人で一緒に入りましょ?」
「あ、それ、いいですね!楽しみ~!」
「お2人の学校の制服、可愛いね。」
「そうですか?ありがとうございます。」
「私も、一応制服持って来てるの。見る?」
「あ、見たいですっ!」
「じゃあコッチ来て?」
「はい!」
3人はリビングに戻るとエリカがデパートの買い物袋をがさごそとすると、
中から、2人の地元・静岡県掛川市から直接大阪に来た時に着ていた制服が出て来て、それを2人に見せた。
「うわー、可愛い!」
「ウチらの制服なんかより断然可愛いっ!」
「ホント?ありがとう。」
「あれ?」
「どしたん?飛鳥?」
「この制服…。私、見たことあるで?」
「見たことあるて、ドコで?」
「んー…。」
「飛鳥ちゃん、うちの地元に来た事あるの?」
「い、いえ。無いですけど、えと、確か1週間くらい前に、御堂筋線のさっきの天王寺駅の地下街で見たで?」
「あぁー…、それきっと私ですー。」
「えぇ?!そ、そうだったんですか?」
「うん。」
「それ、多分、大阪に来た初日です。」
「そうだったんですねー。見慣れない制服だったから良く覚えてたんですよ。」
「そっかー。」
「ね、3人で制服着て街へ出ない?」
「え?藤坂さんは?」
「いいのいいの。お兄ちゃん、酔っ払って寝てるし。書き置きして出て行けば。」
「そ、そうですか?エリカさんがいいなら。」
「お2人、大阪の子だから、こないだよりもっと面白いトコ、知ってるでしょ?」
「は、はい。」
「そこ、連れて行ってくださいましな。」
「分かりました。」
「じゃあ、行きましょうか。」
「はーい。」
エリカは制服に着替え、ルームキーも持って、3人で部屋から出て行って、街へ繰り出した。
そして、地上に出た3人は、先日も通った、てんしばへと向かった。
「エリカさん、こないだココ通ったの、覚えてます?」
「うん、覚えてるよー。」
「ちょっとここでお話ししません?」
「いいよ。」
「じゃあそこのカフェでお茶でも買ってテラス席でお茶しましょか。」
「そうしましょう。」
そう言って3人はそれぞれにドリンクを買い、席に着いた。
「エリカさんは学校では部活、何やってるんですか?」
「私?私は吹奏楽部だよ?」
「えー?!」
「どうしたの?」
「わ、私たちも2人とも吹奏楽部なんです!」
「そうなんだ!すごーい!ぐうぜーん!」
「で、エリカさんの担当は?」
「フルートだよ?」
「へぇー…。」
「あなたたちは?」
「ウチらは2人とも中学の時からクラで、今もクラです。」
「そっかー。じゃあお話し合いそうだね。」
「そうですねー。そう言えば今日は部活無いの?こんな早い時間にココに居るってことは。」
「え?あ、は、はい、その…。」
「部活で何かあったのね?」
「は、はい。」
「じ、じつは、まこちゃんが、トロンボーン担当の同じ学年の新入部員の子と言い合いをしまして…。」
「そんなことがあったんだ。」
「それで、私の手を引いて、まこちゃん、部室から飛び出しちゃったんです。」
「そっかー、大変だったね。」
「で、天王寺駅の辺りで、私が、藤坂さんたち、まだ大阪に居(お)るかな?って言って、で、まこちゃんにLINEしてもらったんです。私ももっとエリカさんとお話し、したかったから。」
「そっかそっかー、ありがとうね。」
「いえ、そんな。」
「ねぇ、じゃあさ、今からさ、グリコの看板のあるトコ、連れてってよ。」
「え?ひっかけ橋、ですか?」
「ひっかけ橋って言うんだ?」
「まぁ、正式名称は"
「そうなんだ、やっぱ大阪って面白いね。」
「そうですか?」
「じゃあ行きましょう?どうやって行ったらいいの?」
「御堂筋線で難波駅まで行けばすぐですよ。」
「そうなんだ、じゃあ駅まで行きましょう。」
「はい。」
そして飛鳥たち3人は、御堂筋線の千里中央方面行きのホームに立ち、電車が来るのを待っていた。
すると、先ほど部室で言い合いをした鈴原唯華ともう一人、
トランペット担当の1年、
「あー!楠木さんやんかっ!」
「あ、す、鈴原さん。」
「何で今頃こんなトコにおるん?帰ったんちゃうん?」
「何でて、あんたには関係無いやん。」
いきなりのことに驚いたエリカは飛鳥に耳元でぼそぼそとこう言った。
「ね、ねぇ、誰なの?」
「えと、同じ部活の同じ学年の子たちです。」
「あぁー、さっき真琴ちゃんが言い合いした、って言う?」
「はい。」
「なぁ、あんたなんで出てったん?あのあとウチら、せんせに問い詰められて大変やったんやで?」
「ご、ごめんなさい。」
「で、そちらは?見慣れない制服の子だけど。」
「あ、あなたには関係…無い。この人まで巻き込まんといて。」
「そう。ほな連休の旅行には来んといてよねっ!」
「そやそや。あんたらみたいなんがおると場が明るくならんわ。」
「わ、悪かったな!」
「そんなんやから未だに先輩たちとかとも打ち解けられへんねんで!」
「ほ、ほっといて!」
「いっそのこと、部活も辞めたらええねんっ!」
「そ、そんなん、あんたに関係無いやんか!」
「ま、まぁ、2人とも、今日はそのくらいで…。」
「悠生さん、楠木さんのこと、かばい過ぎやで。」
「だ、だって親友やもん。そらそうやん!ってか今日はもうどっか行ってぇな!」
「あーはいはい、わっかりましたー。邪魔者は消えます~!ほなさいなら!」
そうイヤミを言うと、鈴原たちはホームの後ろの方に移動した。
「す、すいませんでした、エリカさん。イヤな思いさせて。」
「いえいえ、私は何とも。それより凄いね。大阪弁同士のケンカって。」
「そう、ですか?」
「テレビでしか見たこと無かったから、実際聞くと凄いよ。」
「ウチらは言い合いになったらいつもあんな感じですよ?」
「そうなんだー。」
「あ、ちょっとホームから出ましょう。」
「え?何で?」
「さっきの子らに後でも付けられたらイヤですから。」
「そっか。私はいいけど、真琴ちゃんがそう言うなら。」
「ありがとうございます。」
そう言って3人は一度ホームから改札に上がり、10分ほど経ってから再びホームに戻り、
鈴原たちが居ないことを確認してから次に到着した電車に乗り込んで、難波まで向かった。
そして、難波に着いた3人は、改札を出て戎橋方面へと向かって歩いて行った。
空も少しずつ暗くなって来ていたので、
ミナミの街のネオンにも電気が付き、LEDの電飾がキレイに輝いていた。
「エリカさん、ここが戎橋です。」
「うわー、すごーい。」
「後ろを見てください。」
「何なに?」
と、エリカが振り向くと、とてつもなく巨大なスクリーンがあった。
「このスクリーン、何でも日本一の大きさを誇るスクリーンらしいんです。」
「へぇー、凄い迫力あるね。」
「でしょ?」
「じゃ、グリコが見えるトコまで行きましょう。」
3人は、戎橋筋商店街側から、心斎橋筋商店街側まで橋の上を歩いた。
「エリカさん、後ろ、向いて下さい。」
「あっ!すごーい!テレビで見たのと同じだー!」
「そうでしょう?」
ちょうどそこに、警ら中だった若い婦警さんが居たので、3人で一緒に写メを撮ってもらえるよう、真琴がお願いし、その婦警にスマホを渡すと、婦警は快く引き受けてくれ、3人は一緒にグリコのポーズを取って、
写真を撮ってもらい、婦警にお礼を言い、スマホを返してもらった。
そして、真琴が、LINEメールで2人にその写メを同時送信した。
するとエリカはとても喜んで、
今まで2人が見たことも無い、エリカの楽しそうな笑顔を見て、真琴たちも嬉しくなった。
そこで、真琴がスマホの時計を見ると、もう7時を回っていた。
「エリカさん?」
「あ、はい。」
「あの、飛鳥の親って、会社の社長をしていて、凄く厳格で厳しい方なんです。」
「そうだったんだ。」
「だからやっぱり今夜はホテルに一緒には泊まれません。」
「うん、いいよいいよ。そうだろうな、って思って、あのまま部屋に居たらお兄ちゃん絶対2人のこと返さないと思ったから私、外に出たい、って思って連れて来てもらったの。だから、ホテルまで送ってもらえたらあとは自分で帰れるから、大丈夫大丈夫。」
「ありがとうございます。」
「で、結局お2人はあと何日くらい大阪に居るんですか?」
「分かんないよ。私が大丈夫になるまで、かな。」
「エリカさん、どこかご病気でも?」
「そんなんじゃないって。私もね、学校でいろいろあってね。」
「そうだったんですか。」
「じゃあ滞在中、時間あったらいつでも私たちを呼び出して下さいね。」
「放課後ならいつでも時間作りますから。」
「ありがとう。」
「あ、そうや。」
「はい?」
「えと、大阪から地元に帰る前の日、ウチか飛鳥にメールか電話もらえませんか?」
「どうかした?」
「んと、私たち2人で新大阪駅のホームまで見送りに行きますから。」
「ありがとう、嬉しいわ。」
そう言って3人は再び御堂筋線に乗り、天王寺まで戻り、エリカをホテルのフロントまで送り、見送ったあと、2人も上町線に乗って家路に着いた。
その車内…。
「はぁ…。」
「どしたん?まこちゃん。」
「うん、鈴原さんのこと。」
「あぁ。」
「明日、部活行ったらウチ、ちゃんと謝るわ。」
「うん、そうしぃそうしぃ。それがええわ。ウチら、ちょっと他の人たちと話ししなさ過ぎやったからな。」
「うん。あんなん言われてもしゃあないわ。」
「そやな。」
と、そこに、車内アナウンス。
「次は、姫松、姫松。」
「あ、着くで。」
「そやな。」
姫松駅に着いた電車から降りた2人は、「ほなまた明日なー。」と言って手を振り、お互いの家の方向へと歩いて行った。
飛鳥が高校に入学してから、合コンやデート、そして藤坂たちと出会ったり、
この短期間で様々な出来事があったので最近少し疲れていた。
そして今日もいろいろあった一日が終わった。
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