第2話:とある放課後のカフェにて。

飛鳥と真琴が吹奏楽部に入部希望を出した次の日の放課後。

季子も加え、3人で天王寺MIO(てんのうじ・ミオ)にあるカフェでお茶をしていた。


「なぁなぁ、季子ちゃん?」

「んー?何?真琴ちゃん?」

「ハンドボール部、どんな雰囲気やった?」

「あぁ、なかなか良さそうやったよ?男子部にはイケメンな先輩もおったしな。」

「そうなんや。ってか季子ちゃん彼氏おるやん。」

「んー…正直飽きて来てんねん。最近は会ったらほぼ毎回エッチ求めて来るしな。」


2人の会話が激し過ぎて、飛鳥は蚊帳の外だった。


「なぁ。」

「あ、飛鳥、ゴメン。何?」

「2人とも凄いなー。」



「なぁ。」

「んー?」

「私、そろそろ帰るわ。もう6時回ってるし。」

「そっか、飛鳥の親、厳しいもんな。」

「ゴメンな、今日は。飛鳥の入れる話題せんと。」

「ええよええよ。2人の話し聞いてたら勉強にもなるし。ほなまた明日学校でな。」

「うん。またなー。」

「バイバーイ。」


そう言って飛鳥はカフェを出てエレベーターで1階まで降りて、路面電車乗り場まで向かった。

飛鳥の家は、大阪市内一の高級住宅地・帝塚山てづかやまの中にあり、洋風の洒落た概観が特徴の、かなりの豪邸であり、

父親は従業員5万人ほどを抱えるIT関連企業の社長をしていて、

飛鳥はそこのご令嬢である。

兄妹は、10才離れた兄が、父の会社の東京支店で支店長として働いており、

もう一人、5才離れた大学生の兄の2人が居る、3人兄妹の末っ子である。

長男と会えるのは、

お盆や正月など、長期休暇や大阪本社への出張などの時に、たまに帰って来る程度である。


飛鳥は、路面電車の駅に着くまでの間、先ほどの2人の話しを思い出し、心の中でいろいろ思っていた。


「はぁ…。男の子とエッチ、かぁ。私になんか無理やんなー、どう考えても。でも、興味はあるんやけどな…。」


などといろいろエッチな妄想などをしながらボーっとして天王寺の地下街、

"エキモ"の通路を歩いていると、帰宅ラッシュで人が多い為、サラリーマンとぶつかった。


「あ、す、すいません。」


と、平謝りをし、逃げるように走り去って上町線ホームへと向かった。。


そして路面電車・上町線うえまちせんのホームに着いた飛鳥は、電車を待つ帰宅する人たちの行列に並ぶこと約2分。

浜寺公園行はまでらこうえんいきの電車が到着し、乗っていた乗客を先に降ろした運転手が折り返しの準備をする為、反対側の運転席に向かい、発車準備が整ったら、乗車側のドアを開ける。

ドアが開くと同時に、列に並んでいた帰宅する人たちが一気に車内へと入って行き、

飛鳥も適当に空いている席を見つけ、そこに座る。


待つこと約1分。

構内にアナウンスが流れ、電車はゆっくりと車道との併用軌道上をゆっくり走り出した。


天王寺駅前を出て次の駅・阿倍野あべのから乗って来た乗客の中に、知った顔を見かけた飛鳥は、その女の子に声をかけた。


響香きょうかちゃん!」

「あ、飛鳥っ!」

「おひさしー!」

「久しぶりやん!どう?高校生活。」

「うん、やっと慣れたわ。」

「そうなんやー。な、一緒に帰ろ?」

「ええよー。」

飛鳥が、響香と呼んだその女子高生は、中学まで飛鳥や真琴と同じ学校だった同級生の、

藍原響香あいはらきょうかで、

今は飛鳥たちとは違う高等学校に通っている、小学1年からの幼馴染。


「その後、どうなん?」

「んー?何が?」

「いろいろ、な。」

「まぁ、新しい友だちも出来たし、学校もキレイやし、ウチは楽しいで?」

「そっか、良かった。」

「あんたは?真琴と同じ学校なんやろ?」

「うん。」

「また吹奏楽入ったん?」

「え?あ、うん、入ったよ。」

「そうなんや。」


2人は、家も近く、同じ帝塚山にあり、同じ停留所・姫松駅ひめまつえきで降りるので、

天王寺駅から姫松駅までは、

だいたい12~3分なので、ちょっと話し込んでいたらすぐに到着する。

そこへ、車内には自動アナウンスが流れる。


「次は、姫松、姫松。」


「あ、着くで。」

「そうやな。」


そして電車はゆっくりと姫松駅の停留所に着き、飛鳥たちを含め、

何人かの乗客を降ろしたあと、再び出発して行った。


「なぁなぁ。」

「なにー?」

「ちょっとうち、寄ってけへん?」

「え?」

「何か用事あるん?」

「別に無いでー?」

「じゃあおいでぇや。」

「うん、ほなお邪魔するわ。」


そう言って2人は姫松の停留所から住宅街を歩き、飛鳥の家に着いた。

家に着いた飛鳥は、大きな門を開け、響香を連れ、家に入って行った。


「ただいまー。」

「あ、お嬢様。お帰りなさいませ。これは、響香様。ご無沙汰しております。」

「お久しぶり、翠さん。」


2人に話しかけて来たのは、悠生家のお抱えのメイド、

芳川翠よしかわみどりだった。


「あ、翠さん。」

「はい、お嬢様。」

「晩ご飯、私の部屋で響香ちゃんと一緒に食べるから。」

「あ、いいよいいよ、そんなん。」

「いいっていいって。久々やろ?翠さんのご飯。」

「まぁー…。じゃあ、お言葉に甘えまして。」


そう言って2人は広い家の中を歩いて大きな階段をあがって、飛鳥の部屋に入った。


「ささ、くつろいでくつろいで。」

「ありがとう。久々やなー、この部屋に来るん。」

「そやろー?あ、音楽かけるわな。」

「音楽って、またアジアのバンドのヤツ?」

「アカン?」

「別にキライじゃないけど、何言ってるか未だに分からんからなー。」



そう言ってる間にも飛鳥はパソコンのメディアプレイヤーに自分で、

お気に入りのナンバーを編集したナンバーばかりを集めた再生リストの、

そのバンドにカーソルを合わせ、

少し小さめの音でアップテンポなナンバーから始まる楽曲を流し始めた。


そこへ、ドアをノックする音が聞こえる。


「はぁい、どうぞ。」

「お嬢様、お紅茶とクッキーをお持ちしました。」

「あ、ありがとー。テーブルの上に置いといて。晩ご飯は1時間くらいしてからでいいから。」

「かしこまりました。」


そう言って芳川は部屋から出て行く。

その合間に響香は、母親に、飛鳥の家に寄るから少し遅くなり、晩ご飯は要らない。

と、LINEで連絡した。


「オカンに遅くなる、って言っといたわ。」

「ごめんな。」

「ええよええよ、で、何か相談でもあるんやろ?」

「え・何で分かったん?」

「何年付き合ってんよ、ウチら。」

「まぁ、そうやけど…。」

「何かあったんか?」

「うん、あったと言えばあった、かな。」

「真琴とケンカでもしたとか?」

「そんなんちゃうちゃう。」

「じゃあなんなん?」

「んー…どう話したらええんやろか?」

「もったいぶるなー。」

「ええいっ!もういい!なぁ、響香ちゃん!」

「は、はいっ?!!」

「響香ちゃんって彼氏出来た?」

「な、なんなん?唐突に。」

「どっちなん?」

「で、出来たで?」

「そっか…、えぇなぁー。」

「何や?オトコの相談か?」

「まぁ、そういやそうなんやけどな。」

「はっきりせぇへんなー。どうしたんや?」

「響香ちゃんは、その彼とエッチしたん?」

「エッチ?」

「うん。」

「したで。ってかようしてるわ。なんなん急にエッチの話題持ちかけて。」

「い、いや、学校でな、同じクラスで仲良くなった女の子がな、ようそうゆう話しすんねん。

まこちゃんとな。」

「そうなんや。」

「ウチな、まだ処女やんか?で、付き合った経験も無いやん?せやからな、その2人の話しに付いてけへんねん。」

「そうやったんや。ほならあんたも彼氏作ってエッチしたらええやん?」

「そう簡単に言わんといてぇな。あんたも私のお父様知ってるやろ?」

「知ってるに決まってるやん。」

「あんなお父様やから、彼氏出来て、エッチした、なんか言うたら私、勘当されそうやわ。」

「まぁー…、確かにそうやわなー。難しいなぁ。で、どうなん?あんたは彼氏作りたいん?」

「そら作りたいわ。なんたって今、華のJKやねんで、私ら?」

「そやけどなー…、うーん。」

「なぁ、どうしたらいい?」

「どうしたら、って言われても、今はガッコ違うしなー…。あんたの学校かクラスに気になるオトコはおらんのかいな?」

「よう分からんもん、そうゆうん。」

「はぁ…。じゃあこうしよか?今度合コンせぇへんか?どうせあんた、合コンも初めてやろ?」

「え?ご、合コン?で、でも…。」

「でもちゃうっ!そうでもせんとあんた、一生処女のままで結婚とかも親のいいなりやで?」

「そ、それはいややっ!」


と、そこへドアをノックする音がした。


「はぁい。」


「お嬢様、晩ご飯をお持ちしましたが。」

「あ、ありがとう。ちょっと待って。」



そう言って飛鳥は部屋のドアを開け、翠が2人分の夕食を持って部屋に入って来て、

紅茶セットを小さめのターンテーブルに置き、

2人が囲んでいるテーブルの上に晩ご飯を並べて行った。


「今夜はお嬢様の大好きなマカロニグラタンでございます。」

「わー、ありがとう。さ、響香ちゃんも遠慮無く食べて食べて。」

「いただきまーす。」

「では私は失礼します。」

「ありがとう、翠さん。」


そう言って、翠が部屋を出て行ったあと、先ほどの会話に戻った。


「で、どうするん?合コンするんやったらウチがセッティングしてあげるけど。」

「うーん。」

2人は晩ご飯を食べながら話し合っていた。


「そんなすぐ返事出けへんわ。しばらく考えさせて?」

「ええよ、考え決まったらいつでもええからLINEしてな。セッティングはウチがするから。」

「ありがとう。ええ人と知り合えたらえぇなぁ。でも、合コンって何するん?」

「そっからかいっ!」

「だってしたこと無いんやもん…。」

「せやな、まずはカフェとかでお茶してお互い挨拶したりして、自己紹介とか趣味のこと話したりして、

そのあとカラオケ行ったり、とか、かな。で、気が合えばその場でお持ち帰りされる場合もあるで。」

「お・お持ち帰りって、なんなん?」

「まぁ、連れて帰る、ってことやな。」

「そ、そんなん…。」

「あんた、可愛いから絶対お持ち帰り決定やわ。」

「そんなん怖いわ。そんなんやったら合コンイヤやわ。」

「何言うてんねん!そんなこと言ってたらいつまで経っても彼氏でけへん、ってさっきから言ってるやろ?!

ウチかて最初は初めてやってん!怖かってん!多分真琴もやっ!女の子は誰でもそうやっ!

あんただけが怖いんちゃうでっ!」

「そ、そっか…、分かった。じゃあ、心が固まったらメールするわ。」

「それでよろしい。」


そんな話しをして2人は笑い合った。

そして、夜も遅くなったので響香が、そろそろ帰る。と言ったので、

飛鳥は響香を門まで送って行き、

部屋に戻って宿題をし、パジャマに着替えてベッドに入って、いろいろ考えながら眠りに着いた。

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