第20話 モブ


 どうも、モブです。

 働き始めてからというもの、俺の人生は至って普通で、特筆すべき点が一切無いので更新できませんでした。社会に組み込まれるとはこういうことなのです。あまりにも普通すぎて逆に普通ではないのでは!?という細い可能性に縋って書いていきます。


 まず、時間の流れが速すぎるね。5月1日になって、新元号“令和”にまつわるアレコレを小馬鹿にした記事を書こうと思ってたんだけど、もう5日だから。社会人特有の「ああ、俺はこのまま死んでいくんだな」って感じがもう来てるよね。早すぎる。気張っていかないと、時間の波に、社会の波に呑み込まれちまうよ。

 とりあえず仕事を頑張ろうと思ってて、一応毎日予習復習をしてるんだけど、でも今のところ大して何もやってないからその内容も薄くてすぐ終わり、特筆すべき点はないし、ゴールデンウィークは図書館開いてないし、借りてきた『ティファニーで朝食を』も何となく読む気しないし、基本的には家でダラダラしてて、この感じ懐かしいなって思う。モブへの回帰である。


 仕事でも俺は全くのモブで、コミュニケーションはサボっては無いんだけど、とにかく無難で、我ながら面白味が無い。勤務態度も、めちゃくちゃ張り切るわけでは無く、かといってサボるわけでも無く、モブなのだ。

 その事を自覚しているので、仕事中はなんとかモブを脱せないかと常に頭を悩ませているのだが、何も思い付かない。いや、「今脱糞したら面白いかな」とかは思い付くけど、実現可能な範囲の面白味のある行動が全く思い付かない。完全に居ても居なくてもいい人だなって思う。それを上手くやっていると捉えるか、しょーもない人生だなって捉えるかは、一人で心を育て続けてきた俺には完全に後者であり、出勤のたびに、何かしなきゃって焦っている。でも俺は自分に課している倫理が相当重いので、結局無難になる。モブになる。


 多分直近辺りの記事で、努力は見せなきゃ意味が無いみたいなことを書いてたと思うんだけど、そうなんだよね~、でもさ~って感じだ。俺の背負っている倫理は、おそらくほとんどの人にとって価値の無い物で、特に俺の職場の人達には全く価値の無い物だと思うんだけど、でも、そこがブレたら俺じゃなくないか? ワタァシイガァイワタァィジャナイノーじゃないか?


 最近、変わる変わる詐欺をやってたと思うけど、やっぱり俺は変われません。多分俺はそういう理屈が出来上がってるんだと思う。変わることで得られる量と、変わらないことで楽できる量を天秤にかけて、変わらない方が勝つということを知ってしまっているのだと思う。根っこから向上心が無いのだ。

 俺は強い向上心を持って実家に帰ってきたはずなのに、今日やったことは、フリーのエロゲをスマホで出来るように環境を構築することだからね。もうブースト切れて、普段の俺に戻っちゃったよ。まだ一週間しか働いてないのに。結局このまま何者にもなれず死んでいくんだ。



「ちょっとまてぃ!」

「何奴!?」

「おもしろきこともなき世をおもしろく」

「ま……まさか…………」

「どうやら、幕府の連中はくたばったらしいなぁ」

「高杉……晋作!?」

「言ったろ? 令和に迎えに行くってよお」

「晋さん……グフゥお待ちしておりました…………グフゥ」

「さぁて、まずは晋三をぶっ飛ばすぞ。奇兵隊復活だ!」

「応!」


 やはり、俺は変わらなければ。向上心を持たねば。何のために生きるのだ、俺! 考えろ!

 俺は、楽に生きたい。ならば楽とは。

 努力しないことだろうか。それはある。大いにある。

 しかし同時に、人の上に立ちたい。舐められたくない。強者でありたい。

 矛盾する。現状俺は弱者に位置しているから、強者になるには努力する必要がある。

 全ては選べない。俺は選択する。選択こそが人生だ。

 俺はその選択の意志が弱いから、今のままだと、俺に出来る範囲での楽をして生きていくことを選ぶだろう。選ぶ自覚すら無いまま。

 こういうときの解としてよくあるのは“自分らしさ”だが、自分らしさって何だ?

 人とは違うで差をつけろ コンビニの雑誌コーナーか?

 変えられない大切があるから変わりゆく生活は正しいのか?

 変わりゆく生活が正しいのは間違いないだろう。変化していかねば、人は止まる。

 変えられない大切が、今、俺を止めている。理解されない宝物は、今でも宝物なのだろうか。


 一つ言えるのは、現状の俺はモブだ。これは誰が何と言おうと覆らない。俺はモブだ。

 モブを良しとするのか。個性を出すという流行の無個性に乗っかるのか。

 俺の問題は成功体験が少なすぎることで、努力をして何かを成したことがないから、努力の価値が低い。成功するイメージが湧かない。反面、我慢の経験は豊富なので、生活水準が低くても耐えられる。ある程度見通しが立つ。


 自分らしさに甘んじると、俺はモブだ。変わる努力をすると、可能性は無限だが、俺の定義する効率は悪い。

 考えるべきは、モブは幸せかどうか。いや、でも不幸せの中にもランクはある。

 幸せとは。

 やはり、心の問題は美少女が降ってきたら解決する。だから降ってくる。

 結局愛は全てを解決する。


 空美町に住む桜井智樹は、「平和が一番」をモットーにするエッチな中学生。ただ一つ普通じゃないことといえば、顔さえ思い出せない女の子が現れる夢をよく見ること。そんなある日、守形英四郎のいる新大陸発見部へ入部することとなり、ある日の夜、新大陸が空美町上空に来ているとして新大陸直下へ向かう。すると、空から自称「愛玩用エンジェロイド」である天使の少女イカロスが降ってきた。イカロスと出会い、鎖で結ばれることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る