第21話 合コン対策


 自分の呼び名が無いと面倒なので、これからは“シッダールタ”を自称する。

 シッダールタは恋がわからぬ。


 どうも、極上のネタを仕入れて参りました。私、今週の金曜日に、合コンに行きます。

 俺は知略型の武将なので、理屈で合コンに挑もうと思います。


 まず、合コンの目的から。

 2週間前に初めて合コンに行った職場の大学生や、金曜日の合コンに誘ってくれた職場の先輩からの話を総合すると、どうやら合コンとは、参加者のラインを入手するための場らしい。だから、合コンの場で、男女のあれやこれやのやり取りをするわけじゃなく、合コンを踏まえた上で、後はあなた次第ですよって会らしい。もちろん合コンを盛り上げれば、後の勝率が上がり、逆も然りである。合コンとは、コミュニケーションの始まりなのだ。

 女の子だけじゃなく、男のラインにも価値があって、合コンは基本的に、友達の友達くらいの間柄の人間が集まるらしく、実際俺は職場の先輩のことまだ全然知らないし、その先輩も今回の幹事と1回くらいしか会ったことないらしいし、なんか皆繋がりが薄いのだ。その薄い繋がりを広げて行くのも合コンの目的の一つである。実際に俺は10年ぶりに会った友人のコネで今の仕事をやっているし、ラインを知らなかった友人を、別の友人経由で合コンに誘ったりもした(これは重要な話なので後述)。薄い繋がりはいくらあっても困らない。なんか嫌な言い方だけど、正しく扱えば、うまい汁だけを取り出すことが出来る。これは友人のことを言ってるんじゃなくて、今回の幹事みたいな、もっと薄い関係性の事ね。

 後、目的としては、単純に楽しいらしい。全員で楽しみましょうって集まりだから、あんまり面白くないこと言っても、ちゃんと笑ってくれるし、だから空間から外れた笑いは難しいんだけど、ある程度攻めても許される、温かい空間を皆で作り上げるのだ。大抵のことは、とりあえず笑っとこうって空気感。つまり重要なのは空気を読む力であり、空気を読んだ上で、どこまで外せるかが、その人の面白さになるのだろう。俺の得意分野ではないか。オタッキーの君たちが思う、王様ゲームがどうのこうのって話ではないのだ。


 ここまでが一般的な合コンの目的だと思うのだが、俺には一つ裏の目的がある。

 この合コンで、俺は、職場での地位(位置)を確立する。キショおもしろいを目指すのだ。

 はっきり言って、俺は職場で愛想が悪い。打ち解けていない。壁を作っている。いや、まあ言葉で言うほどではないんだけど、ただ打ち解けていないのは確かである。だが、俺の職場はヤカラが多いので、合コンの話を上手く転がして話せば、間違いなくキショおもしろいの地位を確立できる。その確信がある。

 俺は今もじわじわとキショおもしろいに向けて動いており、無職時代の話と、こじらせ童貞感(彼らの間では天気の話よりも、恋愛の話の方が鉄板なのだ)を2本の柱としてコミュニケーションを行っていて、じわじわ、着実に、キショおもしろいへと向かっているのだが、今回の合コンによって、一気に完成するだろう。

 まず、俺は合コンに全然乗り気じゃなかったのに、こうして行くことになった。ここでやるべきは、「いやいや、俺は全然行きたくないっすよ。でも、○○さんの顔を潰すわけにはいかないっすから!(実は行きたかったふうに)」これで確定で一笑い頂け、キショおもしろいへ近づく。

 そんで、合コンの次の出勤で絶対合コンの話を聞かれるから、聞かれた際に「いや、合コン行かないのは流石にないっすよ。人生の半分損してますね」みたいな感じのアレを適当に転がしてれば、俺はもうキショおもしろいである。

 もっと言うと、おそらく大学生達が、合コンの女の子達にライン送れとか言ってくるだろうから、「いや、俺の合コンはもう終わったから。1対1でライン送るのは俺の24年の人生に反する」とか転がしておけば、こじらせ童貞として最上の評価が得られるだろう。俺はここまで想像できてしまうのだ。先が見えすぎている。

 キショおもしろいがピンとこないかもしれないが、まず“キショ”にはボケとツッコミが含まれていて(キショいツッコミは確かに存在する)、“おもしろい”にもボケとツッコミが含まれている。要するに、バランスが良いのだ。ほどよくイジられ、ほどよくイジれるのがキショおもしろいの良さなのだ。


 てな感じで、俺の今回の合コンの目的は、ずばり「職場の人達と良好な関係を築く」というところにあり、女の子と仲良くなるのはあくまでおまけなのである! この合コンは、実は農業王への道に繋がっているのだ。

 約束された勝利。俺はこの世界を支配してしまったのかもしれない。



 とはいえ、合コンに行くからには、やはり女の子と仲良くなりたいものである。あくまでおまけなのだが、このおまけのために、俺はリスクを冒した。

 足りてない一人を、俺が呼ぶというリスクである。

 人が足りていないのは、はっきり言って幹事の責任だが、その責任を俺が引き受ける形になったので、もし俺が人を呼べなかったら、どやされるのは俺になることだろう。現在一人友人を誘っているのだが、この友人は、当日仕事なんだけど、なんとか変わってもらうなりできたら来てくれる事になっていて、まだ確定しているわけではない。

 だから、この友人が無理になったら、俺も一応何人か当たってみるが、多分誰も来ないし、相当どやされることになるだろう。なんなら、合コンが中止になるかもしれない。平時の俺なら絶対に負わない、重めのリスクを負ってしまったのだ。


 だが、このリスク、負う価値があるのだ。

 前述したように、皆、ほとんど他人みたいな関係性で合コンが行われる。謂わば味方が居ない状況なわけで、この環境で攻めた笑いをやるのは難しい。だから、外さない無難な笑いしか出来ないだろう。だがしかし、俺の横に友人を置くことが出来れば、俺は攻めることが出来るようになる。なぜなら、少なくとも友人は笑うから。しかもこの友人は、彼女持ちの笑いを分かっている奴で、来るとなったら俺を笑いに来るわけだから、アシストとしては完璧である。この友人が居れば、俺はドン勝つできる。この友人を呼ぶために、どやされ、台無しにしてしまうかもしれないリスクを負う価値は、十分にあるのだ。



 人生で最も重要なのは想像力である。俺は今、想像している。来たるべき合コンを。

 俺の想像によると、全てが上手くいく。ここまで完璧に想像が仕上がっていると、後は落ちるだけなのが悲しいところである。それでも、俺の想像力はどんなもんなのか、楽しみでもある。


 次回「シッダールタ死す」

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