第12話 小粒①
俺は小粒だ。小粒な人間に相応しく、小粒な話をいくつか書く。
求人の話。
毎回登場する求人の話だ。
前回応募した求人元からの連絡が一向に来ない。ムカついたので様々な求人サイトから同じ求人に応募してやったが、それでも連絡が来ない。何故俺を弾く?
俺と求人元との電話代を賭けた仁義なき戦いが始まっている。やはり俺は意地になっているので自分から電話する気は無い。
何故電話してこないのだろうか。貴方たちは人を求めているから広告を出しているのでは? ピッチピチの24歳が応募してるというのに、これ以上何を求めてるんだ。
もしかして求めてるのは労働者ではなく愛人なのでは?
俺が応募したサイトは求人サイトの皮を被った女専門の援交サイトで、男の俺はその時点で弾かれている。プロフィールの生年月日の欄は、おそらく時間と金額の提示だ。相場は30分4万で、4月30日生まれに設定している女にのみ、連絡が行くのだ。ちょっと高級なサイトなんだ。下品な連中め! 何も知らずに4月30日生まれの女の子が、たまたま応募したらどうする気だ。鼻息荒くしやがって!
ここ最近の俺は忙しい。
まず来週の月曜日までに部屋を掃除しなければならない。隣人に敗れ、修理業者の対応をしなければならないから。
次に、ドコモに電話して、ネットワーク暗証番号のロックを解除してもらわねばならない。もう4年くらいロックされているこの番号が使えたら、ネットでMNPの手続きが出来るっぽい。俺はほとんどスマホを使わないから格安simで問題ないんだけど、金を払ってるのは俺じゃないから、大損コイてるのを知っていながら放置していた。学生の頃から使っているので、名義が親になっていて、今もこっそり払ってもらっているのだ。君たちもドキリとしたことだろう。だが俺は君たちとは違うので、また働き出すタイミングで、自分で払い始めようと思い、着々と準備を行っているのだ。息子の鏡である。
もちろん今までも自分で払う意思はあったんだけど、名義が親ってのがややこしくて今まで何度も解約しようと言いながら実現してこなかった。この名義の問題をすっ飛ばしてくれそうなネットワーク暗証番号なんだけど、これが俺もうろ覚えで、候補はあるんだけど、外すかもしれない。外してしまったら死ぬほど面倒になるので絶対に当てる必要があり、その決戦の電話をしなければならない。今ちょうど違約金が発生しない期間なのだ。
乗り換えの計画を進めているのでamazonで2万円のsimフリーのスマホを注文したんだけど、振り込みのために通帳見たら、残高が14万円しか無かった。震えたね。今月と来月を7万円で乗り切る必要がある。買ってしまったら6万円だ。恐ろしくなってスマホはキャンセルした。不慮の事態があればもう終わりだから。
分かってくれただろうか。俺は今月中に絶対働き始めねばならないのだ。なのに俺に電話してくれないんだ。なんで電話しないんだよ!
完全に昼夜逆転してるのに、電話に出られるように頑張って昼間起きて、ちょっと意識を失ってしまったら慌ててスマホをチェックしてるのに、電話しやがらない。おんどりゃ悪魔か?
流石の俺も焦って、別の求人を探し始めた。んで、俺の眼鏡にかなう求人を一つ見つけて、早速応募した。
この求人は、月10日、24時間勤務の警備員で、俺は夜勤のみ希望だったからちょっと違うんだけど、背に腹は代えられない。奴らが電話してこないから、俺も現実と擦り合わせていかねばなるまい。
ここの求人は非常に好感が持てる。「私たちは貴方を求めています!」という気持ちが文面から伝わってくるのだ。応募方法も10行にわたって仔細に綴られており、
「24時間いつでも受付中です! 連絡希望時間帯を御記載ください。改めてご連絡させて頂きます」とのことだ。この求人は絶対今日電話してくるだろう。
俺が前に応募した求人は、
「TELして下さい」1行で終わりである。
なんだTELって。電話のことをTELなんて言う奴がまともな人間なわけが無い。しかもフリーダイヤルじゃないからしっかり金かかるし。こちとら勤務場所の雰囲気も見ていただくことが可能なんやぞ。もう頼まれたってお前んとこでは働いてやらんからなばーーーーーか!!!!!
しかし、新しく応募したとこにも落ちたら、いよいよもって俺は終わりである。今回求人を探していて、俺の求める仕事が全く見つからなかった。他に候補は無い。ここの面接も絶対に負けられない戦いだ。
隣人に大敗を喫した俺が、修理業者、ドコモ、面接といった名だたる敵に勝利できるのだろうか。乞うご期待!
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