第9話 悩める美女へ
怠惰な人間は少しでも油断するとすぐに昼夜逆転してしまう。まさに今の俺のことなのだが、こうなった場合、眠いのを我慢して1日中起きている必要がある。働いているときは仕事がその為の役割を担ってくれるのだが、無職の俺は自分を律さねばならない。今日は起きているために書く。思い付くことをひたすら書き殴る。
我々は身の程を知って生きる。
身の程という言葉は俺の思う“人生”で大きな意味を持つ言葉だ。俺は概ね身の程に沿って生きてきたと思うし、大抵の人間は身の程に沿って生きているのではないかと思う。ネットでは身の程知らずが多いが、所謂リアルというやつでは、割と皆、身の程を意識している気がする。
これは良いとか悪いとかの話ではないが、身の程を知らない奴は学校や職場で浮きがちだ。何も考えず生きていると、そのコミュニティ内での身の程――つまり立ち位置みたいなのが勝手に生まれて、そこに何となく落ち着いてってのが所謂普通の人で、それに(意図的か否かは関係なく)抗ってるのが浮いてる人なのかなって思う。
そういうのって、嫌味が無ければ、今の俺みたいな身の程人間を自覚した者からすると結構ロックでかっこいいんだけど、そのかっこよさって子供には分かり難いから、苛められがちだったりする。
当時の、特に中学生期の俺は、普通というものに固執していて――たぶんネットで中二病というものを知って、それの反対を行きたかったのだと思う――とにかく自分が普通であることを求めていたので、(実際に普通だったかは怪しいが)割りと身の丈に合った立ち回りをしていたように思う。
なので、周りに数人居た、まあ彼らの身の程は俺が決めることじゃないんだけど、やたらと自己評価の高い奴等の気持ちが分からなかった。案の定そいつらは結構弄られていて、まあ正直俺も弄ってて、俺としては仲が良いから他の奴らとは違うと思ってたが、結局こういうのって受け取る側の気持ちだから俺の気持ちでは何も測れておらず、また会える機会があれば俺の弄りは面白かったのか、不快だったのか聞かなければならないのだが、でもどれだけ弄られようと彼らの自己評価は高いままで、実際深いことは考えてなかったと思うけど、ちょっと感心した。この気持ちは後付けかも。
そいつらの影響が有ったのか無かったのか多分無かったけど、その後の俺は中学生期の反動で、やっぱ普通ってダサくねと、俗に言う中二病と高二病(両方好きな言葉ではない)が逆に来ちゃったんだけど、まあそれでも俺は最低限の身の程を常に意識しながら生きてきた。
んで、今も割と自分の身の程に収まっていると思うが、俺の身の程は、どうやら割と低めにあるようだ。それは少し悲しいことのように思えるが、でもやはり俺は身の程を知ったので、その事はもう受け入れており、割と真っ直ぐ身の程へと向かって生きてきたこともあり、今更身の程の低さについて悩むことは無い。俺は自分のことに関しての“差”を受け入れているのだ。
重ねて言うが、これは良いとか悪いとかの話じゃなく、人は身の程を知る。ガキの頃の体験が人格形成に大きく影響を与えるのは間違いないだろう。チヤホヤされて生きてきた者は自分の欲求、要求が概ね満たされる事を知るだろうし、チヤホヤされなかった者は概ね満たされない事を知るだろう。
「特に努力はしないけど、まあモテたら良いよね」という欲求を持ったとして、それが勝手に満たされる者と、満たされない者がいる。前者は身の程のプラス値へ向かう光の道(何となく分かれ)に進みやすくなり、後者は身の程のマイナス値へ向かう闇の道に進みやすくなる。
スポーツとかも同じで、より早い段階で才能を示せば、光の道に進みやすい。
もちろん、進みやすくなるってだけで、人は可能性を秘めているし、本人の努力次第でどんな道にだって進めるだろうが、大抵の人間は努力なんてしないので、大体用意された道を進み、どちらかというと闇の道に寄りがちだ。
俺の話で言うと、口にはしないまでも、何となく自分の立ち位置みたいなのが分かっていて、努力はしないけど何か勝手に俺のこと好きになってくれねえかなと思うも、そんな事は無く、そんな事が無いことも何となく分かってきていて、何となく「まあ俺ってこんぐらいの感じだよね」って立ち位置を確立している。そんでその事にあまり不満を持ってないので、人生における悩みが少ない。大抵のことは、まあ俺ってそんぐらいかなで済ませてしまえる。もちろん低めとはいえ納得いかないこともあるが。
んで、ここからが本題だが、悩み多き人生について考える。
たまに聞く胡散臭い言説として「イケメンにはイケメンの、美女には美女の悩みがある」みたいなのが有るが、もしかしたら俺達――闇の道へ直行した者達よりも、光を示されながら闇に進んだ彼らの方が苦しんでいるのかもしれないって話。我々は何処でも悩みを共有することが出来るが、彼らは理解者を探すのが難しいからね。しょーもない奴らはいっぱい寄ってくるだろうけど、それで満たされないなら一番孤独なのかも。我々はその手の人達と思想は共有できても、そこに行き着くまでの過程が違いすぎるからね。
その逆はなんだかんだ楽しそうにやってるしほっとこう。
イケメンはムカつくので美女を考える。
彼女はべらぼうに可愛かったので、生まれたときからチヤホヤされて育ったのだが、イマイチ自分の美しさを理解できなかった。
小学校2年生の時に、彼女のことを好きになった男の子を好きになった強い女の子に苛められるようになり、その女の子に言われるまま、自分はブスで生きる価値がないのだとすっかり思い込んでしまった。いくら大人達に可愛がられようと、同世代の子の悪口の方が効き目が強かった。
彼女は口元にホクロがあり、(それが彼女の可愛らしさを助長させていたのだが)それがコンプレックスだった。そのホクロをいじめっ子に野糞と言われたのがトドメだった。
暴力を振るわれることは無かったので、なんとか学校にこそ通い続けたものの、誰にも心を開くことは無かった。時々手を差し伸べてくれる子もいたが、これも苛めの一環なのだという疑いを捨てることができず、自ずと孤立した。
そして、時が流れた。
中学受験に成功した彼女は、一人も知り合いの居ない新しい環境を手に入れた。
彼女はただそこに居るだけで人気者になったが、心は小学校に囚われたまま。彼女は嫌われないよう愛想良く振る舞ったが、誰にも心を許すことは無かった。
「ああ、私はこんにゃくよ! 栄養も無く、味も無い、そのくせ臭いし汁っぽい! 何のために存在するっていうのよ! いいえ、私はこんにゃくなんて立派なものでは無いわ。こんにゃくは安っぽいお化け屋敷で大活躍ですもの! ネットを真に受けたお馬鹿な中学生の性処理にだって使われるじゃない! ああ、私はこんにゃくになんて遠く及ばない。精々小学校の通学路に生えているなんか長い雑草よ! 触ったものを傷つけることしか出来ない。そして根本には野糞が乗っかってるんだわ!」
ぼく「そんな悲しいこと言わないで、子猫ちゃん」
「子猫? 何処に子猫がいるって言うの? あら、居たわ、子猫ちゃんが。私の可愛い可愛い子猫ちゃん。貴方の名前は野糞って言うのね。さあ私にお乗りなさい。私は誰よりも野糞が似合う女ですもの!」
ぼく「どうか自分を傷つけるのは止めておくれ。煤けたどら猫なんぞに君の可愛らしい太腿をくれてやるものか。君の太腿を黒で染めるのは僕の罪深い神だけさ」
「近寄らないで! ああ、私は触れるモノ何もかも傷つけてしまう。あなたの立派な黒髪も、私の前では紙切れ同然。さようなら、私の神様」
ぼく「さようなら、僕の神様。どうやら君の白飛びした太腿には、僕の黄色がよく映えそうだ」
「いいえ、朱よ。私の刃は何もかも切り裂く。もう私に近づかないでちょうだい!」
ぼく「僕の名前はアロエ。君と出会うために生まれてきた。君が付けた傷は、僕のキスで癒やそう。もう君は気付いてるはずだ。君は光の道を歩める人だと。闇は僕が引き受けよう。だから、共に」
「そこまで言ってくれたのは貴方が初めて。でも…………私は貴方に何も与えられないわ。人を喜ばせる術を知らずに生きてきたから」
ぼく「君は僕の太陽。君が輝けば、僕は何処までも成長できる」
こんにちは、アロエです。悩める美女からの連絡待ってます。
また、皆さんの知り合いに、トラウマを負い、光の道が見えているにもかかわらず、頑なに闇の道を進み、自分を追い込んでいる美女がいたら、アロエになってあげて下さい。無理に生き方を変えさせなくたって良いんです。ただ寄り添って、傷を癒やしてあげれば。
そして、その子と上手くいった暁には、その子の知り合いの中で一番可愛い子を僕に紹介して下さい。
それが僕の身の程知らずの願いです。
明日こそ求人に応募します。顔の傷が治って髭を剃れるのでね。
次回から下品を封印します。
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