第7話 俺がバイトの面接に受かる道筋想像編

 顔の傷が治らないので髭を剃ることができず、中々動き出せない俺だが、時間を無駄にしてはいけない。よって、俺がバイトの面接に受かるまでの道筋を想像しておく。もちろんバイトの面接なんて、応募した時点でほぼほぼ合否は決まっているようなもので、俺がどうにかできることは少ないが、俺はどちらかと言えばマイナス寄りの人間だという自覚をしっかり持ち、少しでも合格確率を上げることは無駄ではない。いや、俺はがっつりマイナス寄りだ。気を抜けない立場なのだ。想像が必須の段階にいる。


 まずは求人に応募する。

 フロムエーで良い感じの求人を見つけた。週3程度の夜間警備員だ。もう俺は受かること前提でいるので、他の求人は探していない。なので絶対に落ちてはいけない。

 俺は半年前あたりに「まあ働いてやってもいいかな」という気分になり、こっそりバイトの面接を受けて、落ちた。あの悲しみを繰り返してはならない。

 求人の応募についてだが、「電話して下さい」と書かれているが、俺は敢えて電話せずに、フロムエーの応募システムで応募する。相手に電話をかけさせるのだ。

 俺の肝っ玉は伊藤ちなみの乳首よりも小さいので、いきなり電話をかけて、採用担当かどうかも分からない人に第一声でなんと言えば良いのか分からないし、お疲れ様ですと言うべきなのかも分からないし、そもそもどんな状況であろうと、自分からかけた電話の第一声なんて分からないので、向こうからかけて貰う必要がある。でも実際、そっちの方が効率は良いだろ。俺の年齢やら住所やらを先に知って貰った方が話は早いはずだ。「電話して下さい」なんて書かないでくれ。

 というわけで、できれば次の月曜日の14時頃に応募して、電話を待とうと思う。時間帯はこのくらいがちょうど良いはずだ。でも次の月曜は4月1日なので、新入社員の対応やらで忙しいかもしれないから、早くも応募する気が失せてきた。しかも顔の傷が中々治らないし。もうちょっと後でも良いかも。


 無事応募を完了した場合、俺の経験上、応募してから大体1時間ほどで電話がかかってくるはずだ。その電話を取る際、俺は全然意識してなかったフリをする。「こちら××ですが、○○さんでしょうか」と来るはずなので「ん? あ~はい○○です」と答える。ああ、そういえば応募しましたねという感じで。俺は別にこの求人に賭けてるわけじゃないんだぜとアピールせずにはいられない男なのだ。

 おそらく50代60代が多い職場なので、その辺大丈夫か聞かれるだろう。その際は「あ~こっちは全然気にしないんで、そちらで問題なければ」と答える。俺は「御社」みたいなキショキショワードは使わない。誰にも媚びない男なのだ。

 俺の経験上100%「現在無職ということでよろしかったですか」と確認される。応募する際に職業欄を無職にしていると必ず聞かれるのだ。その際、絶対にキョドってはいけない。世間には無職に対して意味不明にマウントを取ってくる人間が少なからずいる。相手がそのテの人間だった場合、ナメられてしまう。なので「ああ、そっすね」と、不遜な感じを出しつつ、堂々と答える。そこには「ん? まさかマウント取れると思っちゃった?」というニュアンスを込めねばならない。不遜な男を演じるのだ。

 ここまで来ると、後は面接の日を決めることになる。俺は毎日いつでもOKなので、相手に決めさせる。ここで俺は毎回、全然意識してなかったフリをしてたくせに、きっちりメモは用意しているという矛盾を抱えることになるのだが、これは誠実さの表れなので良しとしよう。


 ここまでの内容ははっきり言ってどうでも良い。合否には影響しないだろう。ここからが本番だ。


 面接について考えていく。

 まずは服装だ。俺は襟付きのシャツなんて着ない。ユニクロのパーカーで勝負する。社会に反抗せずにはいられない性分なので、譲れないポイントだ。俺は属さずに、属しに行くのだ。まだ属しちゃあいないというこの感じ分かりまっか?

 何分前に付くかだが、これは5分前に着く電車より1本早い電車に乗ろう。俺は5分前に着く電車に乗ろうとして、当然乗り遅れ、走って会場に向かうことがよくあるので、早めに着く事を意識しなければならない。早く着いて、向こうで立ち読みでもしてれば良いわけなのだから、早めに家を出よう。絶対早めに出ろよ俺!

 今思い出したのだが、俺は裏が捲れてるスニーカーしか持ってない。スニーカーの裏を絶対に見せるなよ俺!


 いよいよ面接だ。俺は丁寧に話そうとすると、或いは緊張で、声が高く、小さくなるので、平常心と、少し砕けた言葉遣いを意識する。奴らに丁寧に話してやる必要なんて無い。もちろん敬語は使うが、「そうっすねー」で十分だ。砕けた敬語と、気持ち大きめの声量で挑む。

 志望動機は、週3で働ける場所を探していたからと、通いやすい場所だからだ。結局、偽らざる回答が一番楽なのだ。色々と飾っていた事もあったが、嘘をつくと、その言葉の補足解説はやはり嘘であり、よっぽど作り込んでないと自信の無い言葉になる。それならば真実を堂々と語った方が、楽だし、プラスに働く気がする。

 俺は大学を中退しているので、その事を必ず聞かれるのだが、「特に目的も無く大学に入って、バイトばかりでほとんど勉強してないし、性格的に就活もしないだろうから、それなら大学を卒業するメリットが薄いなと思って、早めに辞めた」と、やはり偽らずに答える。ここで色々こねくり回し、しどろもどろになるという経験をしているので、経験から学ぶのだ。学ぶ男である。

 何故前職を辞めたのかも必ず聞かれる。その際の回答は「お金がある程度貯まったから」である。これもやはり、偽らざる。でもこの回答はおそらく補足を求められ、求められなくても自分から話し出さなければならないところなので、「前の仕事は労働時間が長くて、まあその分給料も良かったのですが、今回は、まあ少ないと言ったら何ですけど、生活に必要な分の給料が稼げたら良いかなと思い、応募しました」と答える。採用! コイツを落とす人事はクビでしょ。

 言い忘れていたが、俺は椅子に浅く座る。だが待て! 焦るな良く聞け! 俺は貧乏揺すりはしない。椅子には浅く座るが、貧乏揺すりをしないのだ! 当然ペン回しもしない! この機微! 機微を大切にしていけ! 聞いてるか面接官!


 いかがでしたか。皆さんに吉報を伝えられるように頑張ります。でも顔の傷が治るまでは動きません。髭が剃れないからね。

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