第6話 鼻糞喰らいのなり損ない

 前回「これからは全て物語形式で書く」などとほざいてしまったが、撤回します。すぐ0か100かで物事を考えるのいい加減止めろ俺!


 今回は俺の気付きについて。何処までも成長が止まらない男である。

 昨日今日と、俺は一つの物語に挑んでいたわけだが、どうも上手くいかない。今まではかなり俺の実体験に寄った話を書いてきたわけだが、今回、どちらかというと想像に寄った物語を書いていた。そこで気付いた話。

 今まで書いてきた話はリアリティを意識する必要がなかった。概ね起こった話であり、この話はリアルだと筆者である俺自身が知っていたので、一々リアリティを確認する必要も、補強する必要も無かったわけだ。誰になんと言われようとリアルなのだと俺自身が自信を持つことが出来た。 

 対して今回取り組んでいた物語は、俺の経験していない要素がある。なので想像上の出来事に一回一回リアルかどうかを確認する必要があった。

 具体的な例を出すと、俺は今回“嫌われ松子の一生を見たがる女子小学生”をどうしても作中に登場させたかった。この女の子が物語の導入に必要だったのだ。しかし俺の経験にこんな女の子はいないので、自信を持って書くことが出来ない。これがリアルですと自信を持ってお出しすることが出来ないのだ。モニョモニョモニョって喋っちゃうのだ。


 なんか凄い面白い気がしてきたからプロットだけ書く。


タイトル 鼻糞喰らい(ブゥガァイーター)

 小学校6年生の僕(鼻糞喰らい)が5年生時の出来事を回想する。

 5年生の夏休み、クラスメイトの佐藤さんに映画に誘われ、見に行くことになる。

 僕は本当はクレヨンしんちゃんが見たかったが、佐藤さんは並々ならぬ意思で嫌われ松子の一生を見たがったので、そうする。

 でも嫌われ松子の一生は年齢制限があって小学生は見ることが出来ない。

 佐藤さんはゴネにゴネたが、結局諦め、渋々海猿を見ることになる。

 僕は特に理由もなく邦画を馬鹿にしているので、加藤あいが画面に映ったときだけ映画に集中する。

 佐藤さんは意外と集中して観ている。

 加藤あいが写っていないので、ふと佐藤さんを見ると、鼻糞を取って座席の裏につけているところを目撃する。

 僕が何故鼻糞を座席の裏につけるのか尋ねると、佐藤さんは怒り、泣き、映画の途中でそのまま帰ってしまう。

 それ以来、僕は人の鼻糞事情に注目するようになる。

 注意して見ていると、皆、机や椅子の裏に鼻糞をつけていることに気付く。

 今まで少人数授業で他人の席に座ったとき、机の裏にやたらと固い何かがついてるなと思い、それを爪で削ったりしていたが、それは鼻糞だったのだと知る。

 僕は、こんな下品な奴らとは違うという思いから、自分の鼻糞を食べて処理するようになる。

 誰にもバレなければ僕の鼻糞はどこにも残らない。

 僕の机と椅子だけは鼻糞がついていない。僕はそれを誇りに生きている。


 13年の時が流れる。

 俺は未だに鼻糞喰らいとして生きている。

 いつの間にか、皆は鼻糞をどこかにつけて処理するのを止め、俺だけが幼い日に取り残された。

 春夏秋冬全てに対応するアレルギーを持っている鼻炎なので、常人より鼻糞が溜まりやすいという言い訳をする。

 寝起きはまず鼻糞を取ることから始まる事を解説。

 寝起きの鼻糞はでかいし、パサパサすぎるから食わないことを解説。

 俺は舞城王太郎が好きなのだが、彼が作中で「鼻糞を食べなくなったら大人」みたいなことを書いていて、彼にしては浅いなと思った過去。

 でもよく考えたら、俺は年齢的には成人しているが、この場合の大人とは間違いなく精神的な意味での大人で、そう考えてみた場合、無職で社会性のない俺は堂々と大人ですと言えないことに気付く。

 これを読んでいる鼻糞喰らいのあなた、俺の代わりに舞城王太郎を論破してくれ!



 という話を俺は書こうとしていたのだ。

 全ては、佐藤さんが並々ならぬ意思で嫌われ松子の一生を見ようとしたことに尽きる。こんな女子小学生が海猿で満足するわけないのだ。

 最初は、映画なんてどうでもよかった。俺が5年生の頃――2006年の映画を調べて、適当な映画を選べばよかったのだ。

 だが、目に入ってしまった。嫌われ松子の一生が。途端に佐藤さんがキャラクター性を帯びた。ただの導入役でしかなかった佐藤さんが、俺にとって魅力的な女性へと変貌を遂げたのだ。だが、調べていくと嫌われ松子の一生には年齢制限が付いていることが分かった。小学生は見ることが出来ないのだ。

 この事実が分かった時点で、この物語は終わった。俺には書けない。海猿を見る佐藤さんなんて……。


 俺はリアリティを無視して、佐藤さんに嫌われ松子の一生を見せることも出来た。いやむしろ、見ることもまたリアルだったかもしれない。年齢制限なんて、おそらくバイトであろう店員のさじ加減でしかないだろうし、当時は今よりもルールに厳格じゃなかったろうから、見れたっておかしくない。

 でも俺は、自信が無かった。何故なら俺の経験していないことだから。映画館の年齢制限がどれほど厳格なのか、経験も知識も無かった。故に書けなかった。


 一つ気付いたのは、面白い人生を送っていれば簡単に小説を書くことが出来るということだ。自分の体験談が主になっていると、事実確認をほとんどしなくて良いので、スラスラ書ける。それが面白いものであれば、ネタを選ぶ必要すら無い。

 ハードSFや歴史小説を書いてる人達は、どんな書き方をしているのだろう。考証していったらキリが無いだろう。俺は何者かの目に追い詰められる人間で、その上サボり気質なので、俺の知ることだけを書きたいが、俺の知識は余りにも浅い。経験していかなければならない。面白いを。

 そういう意味では、俺は面接を受けるのが楽しみだ。何度も言っているように、4月中には働き始めないといけないのだが、良いコンディションで面接を受けられそうだ。俺は絶対に面接を面白可笑しく書ける自信がある。落ちてもネタになるし、ノーダメージだ。ああ、早く面接を受けたい! だが俺はこの前髭を剃った際に剃刀負けしてデキた傷がまだ治ってなくて、髭を剃れないので、その傷が治り次第求人に応募する。言い訳ではないぞ。既に良い求人は見つけたので、後は傷が治るのを待つだけだ。



 創作をする上で、どこまでリアルを追求するかは必ず考えねばならない問題だ。

 はっきり言って俺の経験の弾はもう尽きていて、これからは想像上の要素が多分に含まれた話が多くなっていくだろう。折り合いをつけるという行為が何よりも苦手な俺だが、やっていかねばなるまい。高みへ昇るために。


 

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