第8話 シンデレラ

「彼女に継母が居てその娘が二人いる事とその三人が妹であるエラに強く当たっている時点で現実味を帯びてきた」

 ユノは真剣に聞いている。

 「そして名前でもな」

 俺はペンと紙を取り出して文字を書く。

 「シンデレラっていう人物は居ない、これは当たり前だ」

 「シンデレラっていうのは『灰かぶりのエラ』から来てる。フランス語で灰は『Cinders』にエラで『Ella』、この二つを会わせると

 『Cenderella』になるんだ」

 「成る程ね、お見事だわ」

 ユノは上品に笑う。

 「それと同時に取り返しの付かないことを俺はした、死ぬ筈のない主人公が死んでしまっている、でもエラをもう一度あっちに送って王子様と踊らせれば一様大丈夫、かな?」

 「お、王子さまは居なくなったというかその…」

 「ん?煮え切らないなぁ、ハッキリ言おうぜ?もうどうするもこうするも後の祭りだ」

 「お、王子様は私が倒した。というより腕を切り落としました…」

 ん゛?殴ったのでは無くて押し倒した訳でもなくて切り落とした?

 「何してくれとんねん」

 「ごめんなさい…ついカッとなってやっちゃった」

 ユノがキレるなんて中々だぞ?

 「あっえーと、そういうこと?」

 「あーそう言うことよ」

 何だろこの複雑な気持ちは。

 これが真実ならこのままあの世界にエラは返さないほうが良いわこれ。

 「あのおっさんが王子様だったのか」

 「え、ええそうよあのおじさんがあの世界の『シンデレラ』に出てくる王子様なのよ」

 あんなのが王子様とか色々終わってんなあそこ。

 「あの王子様、結構やってることゲスいわよ」

 「知ってる、態度見ればなんとなくわかる」

 ふてぶてしくて直ぐに金を使って誘惑する。

 恐らく本来舞踏会に王子様…あのおっさんとエラが踊るのは俺が刺された日だな。

 姿を見ておきたかったのだろうが俺が居たので話が変わったんだ……。

 俺も動いちゃったし。

 「どうしよっ!!これだとエラを舞踏会に運んでも王子様と踊れないぞ?」

 まああんな奴にウチの可愛いエラは渡さん。

 そんな事は許しませんよ!?

 「…方法ならあるわよ」

 王子様は復活しないぞ?

 「あ、貴方が王子様になればいいんじゃ無いかしら?」

 なに言ってるのこのポンコツ案内人。

 「はぁ、君には絶望したよユノ 」

 「これしかないの!大丈夫、私が踊り教えるから!それに嗜む程度で良いから!」

 嗜むって言葉には闇が深いのだ。

 良くいる「私は~~を嗜んでます」 何て言うけどあれは嘘だ。

 嗜むとか言っといて奴らはガッリツやっている。

 騙されてはいけない。

 もっと言うならテストの時の「俺今回全然勉強してない」言ってる奴ぐらい信用度ない。

 ついでに言うと俺はいつも被害者である。

「大丈夫よ、私が教えるんだもの少しは踊れるぐらいまで教えてあげるわ!」

 …てかこれだとオリジナルなシンデレラじゃね?

 「もう間に合わなくないか?刺された日に舞踏会に出てないんだから」

 するとユノはチッチッチと指を降りながらドヤ顔をしてきた。

 ムカつく。

 「なんと言えば良いのかしら、そこから進展してないのよ」

 「ん?何そのゲームみたいな現象」

 「仕方ないでしょ?エラが舞踏会に行かなきゃ始まらないのよ!あれ?でもドレスとかはもう良いのねこれ」

 ん?と首を傾げる。

 「まぁ出来てるならそれに越したことはないし良いかな」

 ユノがこちらを見つめる。

 「そうと決まれば踊りの練習をやりましょう!」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 地獄だった……。

 もうなんの踊りしてるかわからん。

 足なんて最後の方小鹿見たいになったぞ?

 なのにユノは終始ニコニコしてるし。

 ユノ曰く「もうバッチリよ!少なくても恥ずかしくはないわ!」と言っていたので大丈夫だと思う。

 「だから安心して良いらしいぞ?エラ」

 一緒に歩いてるエラに話しかけた。

 「へぇーそーなんだー」

 拗ねたようにそっぽを向く。

 さっきからずっとこの調子だ。

 「ごめんっていや本当に」

 「嫌だ、許さない」

 実はユノを呼んでと頼んだ時からずっと俺の事を待っていたらしい。

 どうしよこれ踊るとかそんな雰囲気じゃないよ。

 「どうしたら許してくれる?」

 「………」

 いやきつい!

 ちょっと前まで仲良かったじゃん。

 なら強烈なカードをくれてやる!

 「 何でも行くこと聞くから許して下さいお願いします!!」

 これならいかに強くても勝てるであろう。

 「本当に?その言葉に二言はない?」

 「も、勿論だ男に二言はない!」

 嘘ですもうこの言葉取り消したいんだけど。

 何企んでるの?

 今の君怖いよ特に目が相変わらず怖い。

 「わかった、許してあげる」

 「ありがたきお言葉」

 彼女は微笑みながら言ってきた。

「着いた…てかみんな凄いなドレス派手すぎだろ」

 エラは俺が買ってあげた服を着ている。

 でもやることは一つだ。

 このまま踊れば良い。

 あと、一つだけ注意が必要。

 「エラ良いか、君は今限定的にこっちに来来ることが出来てる、十二時になる前にここから出ないと行きなりあっちに送り返されるからな?」

 まるで魔法使いの魔法だなこれ。

 エラは頷く。

 「大丈夫、わかってる」

 「よし、なら行こうか」

 俺達はホールの中で周りと混じりダンスを始めた。

 足が少しおぼつかなかったりしたが最初の時よりもだいぶマシになったと思う。

 エラは特にそういった所は無くてスムーズに動いていた。

 舞踏会は特に何も起きることなく時間が過ぎていった。

 音楽に合わせて体を動かす。

 少し休憩していると時計が目に入った。

 時計を見ると長い針がⅩⅠを指している。

 「不味いぞエラ、時間がない!もうすぐ十二時だ」

 エラはこちらを一瞥する。

 「大丈夫、私は消えない」

 ん?どういうことだ?

 「だってそんな魔法よりももっと強い魔法に私はかかっているから」

 微笑みながらこちらに距離を詰めてくる 。

 ああ、――そうか大丈夫なのか。

 エラは十二時には消えない。

 「お姫様、どうか私と踊ってください」

 俺は目の前にいる女性に片膝をつき手を前に出す。

 「こちらこそ、どうか私と踊ってください」

 彼女はそれに答え俺の手に自分の手を重ねる。

 「では踊りましょう」

 ここからダンスの延長戦が始まった。

 正直にいうとあんなに気取んなくて良かったなこれ。

 雰囲気に呑まれた気がする。


でもエラが喜んでくれてるからどうでもいいか。

 俺は顔を隠すように下を向く。

 ダンスは夜遅くまで続いた。

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「そろそろ帰るか、エラ」

 「うん、そうだね博人」

 お互いに目を瞑る。

 少しして目を開けると目の前には見慣れた風景が見える。

 「お帰りなさい、そしてお疲れ様博人」

 ユノが出迎えてくれた。

 「ありがとうユノ、助かった」

 「ただいま、ユノさん」

 「ええ、お帰りなさい、エラ」

 「そうそう、聞きたかった事があるのよ」

 ユノがこちらに向かってくる。

 「どうして十二時を過ぎてもエラはこっちに来なかったの?」

 「それは…エラの転生先が俺の隣にしたから、らしい」

 あとからエラに聞いた。

 自分でも成る程となったてかこれセーフなの?

 でも確かに男女の兄弟は前世恋人だったって話をどっかで聞いたことある。

 けどこれと近しいことなのか?

 「てか転生先ってユノに言わなきゃいけないんじゃないの?」

 「自分勝手に決めてはいけない事はないけど、まあ報告は必要ね。聞いてから転生していくから、このケースは希よ」

 ユノがエラを見る。

 「この子はここに来てからずっと転生先を決めてそこを強く願ってたことになるの」

 「転生先を認識させるための案内人だから、別に『自分でここが良い!!』って所がない限りは案内するけどね。あくまで案内人だから、私は」

 何か一人で納得してるんだが。

 俺また置いてかれてる。

 「だから大丈夫だったのね、確かに転生してるんだからこっちには来ないわ」

 そもそも案内人が居なくても転生先は決める事が出来てそれを決めやくするために案内人がいるのか。

 まあ確かにここにいきたいって決めててもそこが自分とは合ってなかったりしたキツいからなぁ。

 次はこっちを見てきた。

 「でもそれで良いの?貴方」

 ん?どういう事?

 「ある意味プライベートがこれで皆無になったのよ?」

 は?

 「どゆこと?」

 「だってエラの転生先が貴方の隣ならずっとついて来るのよ?」

 そうなのこれ?そう言うことなの?

 「いやいや、転生だから転生したあとは関係無いでしょ」

 「ならなんで一緒に帰ってこれるのよ。エラはこちらに自動転送されるのよ?別に依頼で行ってた訳でもないし」

 あらほんと、左に振り向くとエラはこちらを見ながらニコニコしてる。

 可愛い…じゃなくて。

 「今一ぴんとこない」

 ユノの方に視線をもどす。

 「分かりやすく言うなら運命共同体よ」

 だから俺のいるところに来れるのか?

 「まあ隣で支えたいとか隣で一緒に居たいとかだから、もしかしたらプライベートの時間があまり無いかもね、多分場所単位で付いてくるわ」

 うーん、マジか。

 唸っていると服の裾を軽く引っ張られる。

 振り替えるとエラが上目遣いでこちらを覗いている。

 「これからよろしく、博人」

 このお姫様は付いて来る気満々である証拠に、いの一番の笑顔をこちらに向ける。

 …あれ?逃げ場無くね俺。

 これあれでしょ?もし転生したらこのシンデレラ付いて来るんでしょ?

 「ええ、そうね」

 次はユノが頷く。

 「いやなんで考えてること分かるの?」

 怖いよ。

 「貴方自分の顔見なさい?そのまま書いてあるわよ?」

 そんなに表情で分かるの?

 試しにエラを見ると眩しい程の笑顔でこちらを見ている。

 うーん可愛い。

 じゃなくて嬉しそうなのはわかった。

 まあいっかな何かもう疲れた。

 今は何も考えたくないや。

 でもまあ取り敢えず。

 「ユナ、ただいま!」

 すると一瞬キョトンした表情をした後。

 「お帰りなさい、博人」

 こうして俺の、エラもといシンデレラを舞踏会へ送るという初依頼は途中アクシデントがありながらも達成することができた。

 「今日はもう寝ましょうか」

 ユノが欠伸をしている。

 「そうだな、俺も寝よう」

 終わったと思うと一気に疲れが出出来た。

 そして俺は控え室のドアノブを回した。

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

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