第7話 正体

「うっ、いててて」

 目が覚めると見慣れた天井だった

 「ここは…控え室か」

 なんでここに居るんだ?

 たしか俺はおっさんに刺されて…あの後はどうなったんだ?

 取り敢えずここから出よう

 「よいしょ、痛た!」

 何これメチャクチャ痛いんだけど!!

 とてもじゃないけど歩けない、なら

 「うっ、よしこれなら行ける」

 這うように行けば大丈夫だ

 「博人起きたの!!って、何してるよ!?」

 ユノが控え室のドアから入ってきた

 「いやエラに会いに行かなきゃって」

 「エラなら大丈夫よ、貴方の隣の部屋に居るから」

 「なら安心だ」

 よかった…これであのおっさんに追われることは無い

 ん?それだとエラ死んでね?

 「エラは生きてるんだよな?」

 「…ええ、生きてるわよ」

 やだすっごい貼って付けたような笑顔、博人くんびっくり

 「本当は?」

 「止めたのよ?」

 え?本当に死んでるの?案内人の前で死んだの?

 「貴方、刺されたの知ってる?」

 「う、うんしってる」

 「あのあと私があのおじさんを撃退したのは?」

 「あの時居たのか!?」

 「いや、偶然よ偶然」

 「てか降りてきてたのか?いいのそれ」

 「で、でもそのお陰で貴方は助かったんだからいいじゃないそんな事は」

 こいつ誤魔化してるな

 「それに死んだと思っているの?」

 そうだよな、あのおっさんが逃げたなら流石に死因は見つけ出せないし

 「まあ、本当は死んだんだけどね」

 え?

 「なんで!」

 俺は起き上がりベットの隣に座っているユノの両肩に手を置く

 激痛が走るがそんなのはどうでもよくなっている

 「なんで止めなかった!!」

 「私は止めたって行ってるでしょ…でもあれは無理よ」

 ユノは下を向いて俯いている

 「だってユノは…」

 ユノは俺を助けてくれたんだ、ユノを責めるのは違う、俺が、俺がいけなかったんだ

 「ユノはこれから幸せな未来があるかもしれなかったんだ、それにまだ若かったんだ!それをなんがなんで死ななくちゃならないんだよ…しかもそれが事故死じゃなくて人に殺されるなんて!!もっとやりようがあったはずなんだ、俺がもっと上手くやってれば-クソっ!!」

 結局俺はエラを守れなかったのか…

 悔しさのあまり布団を握り締める

「いや…そのね、彼女の死因はね」

 「――頭を石に強く打ったことによる打撲?なの」

 くそっ、あのおっさ…え?

 「え?どゆこと?」

 え?何あいつ転んで死んだの?

 ユノをもう一度みると何とも言えないような微妙な表情をしている

 気まずそうだ

 「実はね、あのおじさんを撃退したあとすぐにエラは貴方の元に走って来たの」

 ユノが頭を抱え始める

 「彼女恐らくあんな事があった後だから色んなところに頭がまわらなかったのよ、足元が覚束なかったから今は来ないでって私は言ったのよ?」

 うんうんと頷いている

 「その時自分の足に躓いて転んでしまったの」

 「それで死んだの?」

 「ええ、具体的には転んだ処に落ちてた石が頭部に刺さって死んだのよ…」

 「え?何それ、俺あんなに頑張ったのにそんなヘンテコな死にかたしたの?」

 斬られたの関係ないじゃん…しかも死んじゃったし、俺始めてあんなに体張ったのにそいつが死んだ理由が転倒したときに頭に石が刺さって死亡ってええ…うそやん

 「マジか…うそやん」

 ユノは苦笑いしている

 さっきの緊迫した雰囲気は何処かへ飛んでいってしまいました

 「まあ私はちょっと案内の仕事しなくちゃいけないからそろそろ行くわよ?」

 「あ、ああすまん、手当てありがとうな」

 「どうってことないわよこれぐらい」

 「何日寝てた?」

 「二日かしら」

 「本当にありがとうな、助かった。来てくれなかったら俺もエラも危なかったよ、それに手当てまでしてくれて」

 「い、いいって言ってるでしょ!?-生きてて良かった…」

 最後の方なに言ってるか聞こえなくてゴニョゴニョしてる、まぁいいかな

そのままユノは控え室から出ていった

 「寝るか…」

 俺はもう一度ベットに寝転がって寝ることにした

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 「と!!――ろと!!」

 誰が呼んでいる

 目を開くと目の前にはエラが居た

 「博人!!」

 エラが笑い泣きの表情でこちらを覗いている

 「エラ…」

 多分感動しなきゃいけないところなのかもしれないけどあいにくエラの死因がアレだったので素直に喜べない自分がいる

 「死因は聞いたぞ」

 エラはうっと言いいながら目線を反らす

 「あそこに石があるのが気づかなかった。」

 気まずそうな表情してる

 ちょっと可愛い

 「まあ、ある意味事故死だしどうしようも無かったのかな」

 「うん、仕方なかった」

 あのあと生き残っても何して良いかわからなかったのも確かだ、さっきはあんなこと言ってたけど実際考えてみると家に帰れない時点でエラには逃げ場は無かったのかも知れない

 それにエラがこうして目の前で笑ってる所を見るとこれでいっかとなるのは楽天的すぎなのかな

 「エラは、エラは良かったのか?」

 「何が?」

 可愛らしく小首を傾げる

 その動作止めなさいかわいくて話が進まなそうです

 「いやだって死んじゃったしそれで良いのかって」

 「体を張ってくれた博人には悪いかもしれないけど、私はこれで良かったって思ってる」

 「でも…」

 俺が口を挟もうとすると

 「だって私はあのあと結局はおじさんに捕まってただろうし、家では三人にこき使われちゃうから」

 それにとエラは続ける

 「こっちには博人がいる、これだけでも私は十分良かったと思ってるし―幸せなの、だってこれからは博人と一緒に居られるから」

 かつての無表情だった灰色の少女の面影は無く、そこには対照的に満面な笑みを咲かせた少女がそこにいた

 これだけでも俺は体を張った意味はあっただろう、終わりよければ全て良し

 こうしてエラが笑ってるならいいや

 ん?今一緒に居られるとか言って無かった?

 「博人と一緒に居られる、これだけで凄く嬉しい」

 すんごいニパニパしてる可愛い

 これはいかがなものか、可愛い少女が自分と一緒に居られて嬉しいと言ってくれている

 これはあれか、もしかして俺の事が好きとか!!いやー俺にも青い春がきてますね!!前世?では義妹以外女の子との接触殆ど無かったし

 …でもエラが人の温もりを知っているのだろうか?お母さん以外からまともに接してもらえなかっただろう

 そう考えるとさっきまでのウキウキは消えた

 だから俺と一緒に居たいのは別に恋愛とかそんな甘酸っぱいものじゃなくてもっと素朴なものだろう

 これを悪用しちゃいけないな…

 なら俺がこの灰色だったシンデレラを王子さまに会わせてやろう、俺みたいな無力な人じゃなくてしっかりとエラを守れる力を持った人がエラを支えるべきだろう

 「エラにそう言ってくれると嬉しいな、ちょっとユノを呼んでくれないか?」

 「う、うん」

 「それとちょっとエラは席を外してくれないか?」

 「なんで?私に聞かれたくない話をするの?」

 ちょっと言い方怖いですよエラさんあと、頬っぺた膨らましても怖くありません可愛いだけです

 「いや、俺の仕事の話だよ」

 ムスッとした表情のままエラはユノを呼びに行った

 「どうしたのよ…」

 なんでまたこいつは顔が赤いんだよ何言ったエラの奴ちょっと言い方

 伏し目だし

 「エラの話なんだけど」

 「エラがどうかしたの?、てまさかエラに手を出そうとかしてないでしょうね!?」

 「なんでだよ!?手ぇ出さねーよ出しちゃ駄目だろ!」

 何言ってんのこの人!

 「もしかして…あた「それもない」…はい」

 いやだってユノに手を出すのは絶対に駄目だろ俺は転生するんだし

 「そっちじゃなくて」

 「じゃあどっち?」

 「仕事だよ!?それ以外に何があるの!?」

 「それを私の口から言わせるの!?変態!!」

 「変態はお前だろ!」

 どうしたのこの子本当にポンコツ化が止まらない

 「そろそろ本題を話させてくれ」

 脱線を修正しよう

 「俺の依頼ってエラを舞踏会に運ぶって奴だろ?」

 「そうね」

 「ユノ、お前は『シンデレラ』を知ってるか?」

 「シンデレラは知ってるわよ?嫌がらせさせられてる娘を魔法使いが魔法を使って舞踏会に行って王子様と結婚して玉の輿でしょ」

 「ま、まああってるけど最後の玉の輿は余計かな?そんな生々しい話じゃないよねシンデレラ」

 「――いいじゃない、実際そんな感じでしょ」

 何夢のないこと言ってんのこの案内人

 「大体ねあの話どちらも顔なのよ顔!!だってそうでしょ?別つき合ってる訳でもないのに即結婚とか凄すぎない?私は嫌よそんな結婚」

 「いや確かにそうだけども運命とか信じないの?信じさせろよ!」

 「昔は信じてたけどね!今は信じてないわ!」

 「清々しいな!?ってそうじゃ無くて本当はエラがシンデレラなんじゃないのか?」

 「…いつから気づいたの?」

 ユノは神妙な表情で聞いてきた

 「そうだな…最初はなんとなくだった」

 

 

 

  

 

 

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