第6話 雨の降る日に

「お、おはよう…エラ」

 「おはよう、ずっと会いたかった。もう来てくれないかと思ってたから」

 少しニコニコしながらこちらに向かってくる

 エラさん?あなたこんなに表情豊かでしたっけ?

 「よし、じゃあ行こうか」

 「うん、行こう!」

 そういうとエラは手を引っ張ってくる

 ――そう、引っ張ってはいるがこれは手を繋いでいるのではないか?

 本当にこの頃俺どうしたの?なんでこんなに女の子といる時間多い?明日死ぬの俺、いや俺もう死んでんじゃん

 できればこれを生前に経験したかったな

 「ただの買い物だろ?そんなにはしゃがなくたっていいだろ?」

 最初の時には無表情だったエラが今では目の前で微笑みながら手を引いているのを見ると何処と無く顔に笑みが出てくるのは仕方がないと思う

 「博人と一緒だと楽しいからつい…迷惑だった?」

 いいえ全然迷惑じゃないですむしろご褒美です

 「そんなことないよ、ただ、もう少しゆっくり行こうか」

 「うん、わかった」

 今日はなんだかんだ雨が降りそうだな

 曇り始めている空を見てそう思った

 「今日も来てくれたんだ、その服」

 「うん、博人が似合うって買ってくれた服だからできるだけ着たいんだ。三人の前だと着れないけどね」

 相変わらずこちらに笑みを飛ばしてくるエラさんは滅茶苦茶可愛い、凄い攻撃力だから俺がノックアウトされても仕方ないと思う

 「お前ってやつは本当に可愛いし良い子だなぁ」

 頭を撫でるとくすぐったそうにしながら目を細めた、天使である

――――――――――――――――

ユノは一通り転生先の案内を終わらせて休憩している

「博人、上手くやっているかしら」

 と言うか彼はなんでエラと離れないといけないかわかっているのだろうか

 「大丈夫かなぁ」

 いけないと分かっているけど

 「まぁ、仕事も終わったし…良いわよね 」

 目を開けると中世のような街並みが並ぶ

 「ちょっとだけ、ちょっとだけ」

 博人は何してるかな~

 「博人を少し見てみましょ」

 ――――――――――――――

 「買い物終わったよ」

 「よし、じゃあ俺はそろそろ帰るな」

 「うん、今日はありがとう」

 「明日も手伝うよ」

 「良いの?忙しいんじゃ」

 驚き半分嬉しさ半分なのか一瞬笑顔になるが直ぐにショボくれてしまった

 「手伝う時間がないほどではないよ」

 「良いの?」

 「大丈夫だって、何だったら今日は少し散歩でもするか?」

 「うん!」

 満面の笑みまではいかないが喜んでいるのがわかるぐらいに笑っている

 …やっぱり笑ってる方が可愛いや

 「じゃあ何処行こうか」

 ニコニコしてるエラに尋ねる

 「今日は適当に街を歩いてもいいかな?」

 「全然大丈夫、じゃあぶらぶらしますか」

 ポツンと頬に何かが当たる

 「雨か、降るとおもったんだけどなあ」

 そのまま特に目的もなく街を歩いていると通りかかったおっさんが話しかけてきた

 結構太ってて豚を連想させる体型だ

 それに見た目はいっちょまえで貴族を連想させるような服装でしかも剣を腰にさしてるし

 「お前は確かエラだっな!」

 おっさんはエラを指差す

 「実はお前の親からお前の事を好き勝手にして良いっていわれたんだよ」

 ニヤニヤと口を歪まして目を細めている

 

 「表情が死んでいるとは聞いていたがそんなことないじゃないか」

 エラを舐めるように下から上に見ていく

 「胸は大きく無いが脚は綺麗だな、うひひ」

 正直に気持ち悪い、それ以前にこの状況をどうにかしないと

 「それにお前には拒否権はないぞ?」

 「そんな…いや、行きたくない」

 エラは顔を横に下がりながら俺の背中に隠れてくる

 「いやがってるだろ、止めてやれよ」

 「言ってるだろ?こいつには拒否権はないんだって」

 「だからなんだよ、嫌がってる子に対して無理やり強いるのは人として、いや男として最低の行為だぞ」

 「わからないのか?」

 ニヤついた口が開く

 「嫌がってる人を無理やりヤるのが良いんだろうが」

 この野郎、とんだゲスじゃねえか

 といってもこいつをどうこうする程の力とか俺には無いし

 後ろを振り向くとエラは背中で顔を隠している

 耳を澄ますと「いや…いや…」と言っている

 …何も出来ないわけでは無いか

 「エラ…聞いてくれ、俺があのおっさんを体当たりして倒すからその隙に逃げるぞ」

 「に、逃げるって何処に?」

 「わからない、でも家は駄目だな」

 エラの表情が絶望に染まる

 「それじゃ」

 「だから、出来るだけ遠くに逃げよう」

 「でも…」

 やはり不安なのだろう、当たり前だ。こんなこと俺もしたことがないし堪らなく怖い

 でも、捕まったらエラは辱しめにあうのは確実だ

 「大丈夫、一人じゃないし俺も付いてる」

 やるしかない、最悪俺を囮にしてエラだけでも逃がす

 「…わかった」

 「行くぞ」

 心臓の鼓動が物凄く早い、口から出てきそうだ

 「うおおーっ!!」

 姿勢を少し低くして前に走りだす

 そして肩を前にだして体当たりした

 「貴様!!」

 おっさんは驚いた表情でこちらを見ている

 「今だ!!逃げるぞ!!」

 俺はそのまま振り返りエラの後ろを追いかけようとした

 その時だった

 背中が熱い、それと同時に体が前に倒れそうになるが力がうまく入らない

 壁に手を突けて倒れるのを防いだら次は腹部が暑くなった

 「え?」

 下を見てみると

 腹から剣先が出てきている

 「クソ、駄目か…」

 倒れてしまった、これではエラを追うことは無理だろう

「ごめん、エラ…」

 意識が霞むなか前を向くと少し進んだ曲がり角のところでエラがいた

 頼む、逃げてくれ!お願いだ!!

 だがそれとは裏腹に放心しているのかエラはビクともしないでこちらん見つめている

 「貴様!!よくも私の邪魔をしたな!!」

 後ろから声が聞こえる

 「よくもよくもよくも!!」

 「うっ!!」

 腹を蹴られているが刺された傷も相まって激痛で意識が飛びそうになる

 「死ね!死んで償え!この「何をしているの?」?」

 こえがきこえた、聞いたことある声だ

 もう頭は動かないし手足の感覚も殆どない

 「貴方は何をしているって聞いてるの」

 「私はこいつに制裁を加えているだ!!こいつは私を押し倒したのだ!!死んで償わなければ許さん!!…?貴様良く見ると凄く美しい体をしているな?顔も良い、何が欲しい?金ならいくらでもあるぞ?その体を少し触らせてくれればそれで「うるさい」…え?」

 「うるさいって言ったの、早く私の前から消えて」

 「小娘の分際で!私に逆らうのか!!こうなれば意地でもお前を私の物にしてやる」

 「汚い、触らないで」

 ポトンと何かが落ちた音がした

 「うあああっ!!私の!!私の右腕が!!…止めろ!な、何を」

 「早く私の前からすぐ消えて、消えないなら貴方を殺すから」

 「ひっうあああっ!!」

 誰かが走っていく足音がした

 「ろと!!ひ―!!し―て!し――」

 そこで俺の意識が途切れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る