第3話 先輩




それから昼休み、俺は早速得た情報を元に調査に当たることにした。放課後のほうが自由に動けるかもしれないが善は急げというし、時間は有効利用するべきだ。

事件はあやかしの活動時間である逢魔が時か深夜かと考えたが、どうやらこの土地ではそんなもの関係がないらしい。というか、幽々浦さんが言うにはこの地域に限ってかもしれないが、強い妖怪は時間なんて関係なく、環境や時間に左右されるのは弱く、外から侵入した妖怪だけらしい。


まずは、あの名簿から今回の事件に関係のある人物の絞り込みからだろう。

学園では教師からそんな話題も出ない、というか学園の評判に関わるから意図的に隠されているのか。それとも警察すらも実態をつかめていないからか。被害にあった生徒すら沈黙を貫いているのは珍しい。まあ、ここらへんを考えるのは理事長だろう。俺にはどうにもできないしな。

そういえば被害者が襲われた日は分かるが、どんな場所、どのタイミングで襲われたのかも気になる。


とりあえず、名簿に数少ない男子を調べるか。と考え改めて名簿を見るがいや、本当に少ない。名簿には二人しかいないし、事件には関係ない可能性が高いが決定的な情報もない、というかこれも試験のため意図的に伝えられていない気がする。メールの文章がそもそも怪しすぎる。本当ならこういう考え方はよくないんだが、男子は逆に後回しでいいか。

あやかし関連で事件の原因、またそれら事件の関連性を思いつくのは誰かの強い感情だろう。基本、あやかしは縄張りの近くで襲うか、逆に縄張りがバレないように遠くで襲う。どっちにしろ一定の区域で行動している。例外もあるが今回は学園の生徒に限られていると見ていいだろう。何故か?俺にあるのは学生という身分だけであり、陰陽師という身分はこの地では個人情報を得るにあたって全く役に立たない。多分他のあやかし関連は祓うことがメインとなるはずだし、現在は今まで通り幽々浦さんたちがやっているのだろう。今回試されているのは未知のあやかしの見つけ方、祓い方だろう。

と、路線が変わった。今は状況の整理だ。ひとまず学園関連だとわかる。ではなぜ学園、しかも高校だけなのか。

一、あやかしの棲家、もしくは依代がその敷地にあるから。

二、特定の狩場にしているから。

三、それ以外。


一、二もしくは三、どれにおいても説明のつかないことがある。何故、襲うのか。何故、女子のみなのか。

あやかしは人を襲うが目的は明確だ。存在するためか、生きるためか、悦楽のためかだ。弱いあやかしは存在が不安定だから、人の恐怖心で固定させる。そのあやかしのもとが生き物なら生きるための糧を得るために。だいたいは魂やら、肉体やら、寿命なんてものも。あやかしによってそれぞれだが必要とする場合は人だ。そして、意味もなにもない、ただ単純にまるで趣味のために襲うものもいる。

では、女子のみを襲うのは何故だろうか。恐怖心は正直当てにならない。なぜなら、別に女子に絞らなくてもいいからだ。まあ、物好きもいるかもしれないけど。なら生きるためか。これも正直納得行かない。確信はないが、怪我に差があること省みるに襲っているだけで糧を得ているわけではないようだし、頻度も高い。もし、本当に糧として襲っているなら特定の年齢層の女子だけとはどんだけグルメなんだ。

と、うだうだと考えていたがすべて違うだろう。正直まだ情報が少ないが、襲われた場所は学園外、学園周辺だろう。


とりあえず、秀清は情報収集のために被害にあった学生に聞き込みすることに。

最初に襲われたのはどうやら二年生の上野澄香さんという人らしい。先月の初め、始業式が終わって間もない頃だ。

そうと決めたら今日学校を休んでなければ教室にいるだろうし、俺は上野先輩を探すことにした。


二年の教室は校舎がそもそも違うので行くと目立つという理由で敬遠していたのだが、行く理由もできてしまったことだし、なるべく目立たないように、できるだけ短時間で終わらせられるようにしよう。


そう、考えながらも二年の校舎に入った頃には丁度いいところにいた声をかけやすそうな先輩に聞いた所、クラスの場所だけでなく、上野先輩のところにまで連れて行ってくれることになった。


まず、この学校は一年の校舎と二年の校舎、三年の校舎に分かれている。それらの校舎は渡り廊下で繋がっており、土足でなくても行き来ができるようになっている。ちなみに、すべての校舎において、三階が教室、二階が特別教室、一階が職員室、保健室、応接室などなど。職員室は学年ごとにあるが、他の特別教室、保健室などは別の校舎に行かないと行けないなど少し不便な点はある。

つまり、人に聞かなくても、よっぽどの方向音痴でなければたどり着けるのだが、今回重要なのは特定の教室に行くことではなくて、上野先輩が今いる場所に向かいたいので誰かに聞くほうが手っ取り早いというわけだ。

案内された教室はどうやら上野先輩の教室のようで昼休みに移動するような先輩ではないようだ。

教室内にはたくさんの生徒がおり、皆わいわいと楽しそうで事件なんて本当はないのではないかと錯覚させるほど平和な空間がそこにはあった。

教室のどこにいるのかまで教えてくれた先輩の指差す方を見ると、いかにも真面目を表したかのようなおさげの人が本を読んでいるところだった。

案内してくれた親切な先輩に礼を述べると同時に、昼休みが終わる前に話を聞くために呼び止める親切な先輩を振り切る。長話をしないポイントは自分が言い切った瞬間には方向転換すること。いかにも急いでますよ感を出すことが大事だ。相手に嫌悪感を抱かせるような真似だけは駄目だ。


「上野先輩すみません、お話があるんですけど」

声をかけると本に集中していたのだろうか、肩を震わせ、オドオドとゆっくり、まるで何かに気づきたくない、間違いであってほしいと言わんばかりの確認をするかのように顔を上げこちらを向いた。たかだか数秒で上野先輩のことがわかってしまった気がする。

「上野先輩ですよね」

こちらを見たまま固まってしまった上野先輩にもう一度確認を取れば今度こそ遅れて小さな返事が聞こえた。

「えっと、その一年生のようですけど、あの」

上野先輩は目線を少し明後日の方向にそらしながら遠慮がちに、しかしそれでも怪訝そうに聞いてきた。それによって秀清は自身が動揺していたことを自覚した。

「あ、すみません一年三組の朝霧秀清です。じつは先輩に聞きたいことが」

秀清が言い切る前に彼女は席を立つと秀清に向かって場所を変えるように言い、先に教室をでていってしまった。秀清はいきなりの行動に驚くも話をしないわけではないことを考え、彼女の後を追った。

彼女が立ち止まったのは教室から少し離れた階段の裏側、人気のない場所だった。

「話を遮ってごめんね。ほら、あそこで話したら目立っちゃうし、ここは人があんまり来ないから」

彼女は髪を指でいじりながらそう、小声で言った。

「大丈夫です。逆に急に来てすみません」

「う、ううん。それで私に用事ってな、何かしら?」

彼女から許可も得れたので秀清はさっそく質問をすることにした。

「俺、今回の傷害事件を調べてるんです。学園ではこの話題は出てないんですけど最初の被害者が上野先輩だと聞いたので、思い出すのは辛いと思うんですけどこれ以上被害を増やさないためにも、解決のためになにか情報はないか聞きに来たんです。なにかおかしなこととかはありませんでしたか?」

そう聞くと、一拍おいて彼女の表情がみるみる青くなっていきました。先程までの照れや恥ずかしさから来るようなものではないことは一目瞭然である。

「あ、あれは____お、覚えてないわ。ええ、襲われた原因すら全く思いつかないもの。知らない、誰も分かるはずないわ。ごめんなさいね、力になれなくて。話はそれだけ?じゃあ、時間もあまりないし私は教室に戻るわ」

彼女はそれだけをまくしたてるように言い切ると秀清をおいてさっさと戻ってしまった。

「えっ」

その後まもなく予鈴がなり、秀清は上野先輩のことが気になるも教室に戻ることとなった。なお、例の音は予鈴なんてものではなく本鈴で秀清は授業に間に合わない事を先に予言しておく。残念、秀清の教室は上野先輩の教室から一番遠かったのだ。仕方ない。たとえ理事長からの任務が原因だとしても教師からの慈悲はない。南無三。



午後の授業を受けながら秀清は先程の上野先輩の反応のことを考えながら、放課後に病院に軽症ながら入院している生徒を訪ねに行くことを決めていた。

にしても、上野先輩は明らかに怪しいのだが、そう、まるで何かに怯えているような表情はこの学園において不自然に浮いているようだった。

「朝霧くん、もうすぐ名指しされるから次の頁を開いていた方がいいよ」

「えっ?」

授業中にも関わらず声をかけられ、そちらを見ればまるで困ったかのように眉を下げて微笑う十六夜がいた。そういえば、今日からひとりじゃなかったと思いながらも何故そんなことをいうのだろうかと、秀清は声出さずとも表情に出していたのだろう。十六夜は苦笑いしてから言った。

「珍しく授業に集中してないようだし、もうすぐ当たりそうだからね。おせっかいだったらすまない。あ、ちなみに当たるのは127頁の3行目からだよ」

先に読んどいたほうがいいんじゃないかい?といいきると十六夜は前に向き直ってしまった。まったく、自分の言いたいことだけ言いやがってと思いながらも先程言われた場所に目を通していると、まさかの出来事が起こった。これはもう偶然では片付けられないかもしれない。

「んじゃ、次行くぞ。p127の3行目から」

先生が先程十六夜が言ったところを言いながらあたりを見回してから、こちらを見て一言。

「朝霧、お前読め」

「は、はい」

秀清は教科書を読みながらも動揺が隠せなかった。ページ指定ならまだ分かる。段落もだ。指名も方向性のある人ならわかる。授業を聞いてれば予測なんて誰にでも立てられる。わざわざ言われたのはムカつくが、それどころじゃない。まだ学校に来て間もないのから先生の癖がわかるわけでもない。しかも担任の先生は人を指すのにルールとか法則はない。これは今まで授業を受けてきたから断言できる。なら、今日が初めてのはずの十六夜がどうしてここまで的確にあてられたんだろうか。もはやこれは能力者の域、もしくはそれ以上だ。

秀清は読み終わってからも十六夜のことが頭から離れなかった。十六夜は能力者で間違いないだろう。では、どうして態としかも間接的に、まるでこちらがそう思えるように教えたのだろうか。

今日はまわり、いや他人に振り回されてばかりで一段と疲れた。

しかし、時間は待ってはくれない。先程、幽々浦さんにメールで被害者のいる病院の住所、入院している生徒の詳細も聞くことができた。怪我の調子はよくとも精神状態はわからないので慎重にと小言付きだったが。切り換えるためにも秀清は残りの授業で病院での行動、質問など大まかなことを決めるとあとはすべての時間で脳を休めることにした。


病院は学校が終わったらすぐに行かなければ受付に間に合わなくなってしまいそうだ。初めて行くので迷う可能性もある。余裕を持つためにも秀清は直接向かうために号令のあとすぐに飛び出していった。





















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妖陽暗転 晞栂 @8901sakuya

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