第2話 開幕〜依頼〜
都会にほど近いところに存在する都会と田舎を溶け込ませたような
ちなみに公立の高校もちゃんとある。
入学し、桜が散り青葉が目立ちはじめ、新たな学校生活にも慣れ始めた頃。
朔乃浦高等学校の一年三組には一つ、未だに誰かわからない席が置いてある。
そこに座るべき生徒がいるので机も椅子もあるらしいのだが、いかせん一ヶ月も経ったにも関わらず登校してこないのだ。いないと言われたほうがしっくり来る。というか、いるということすら覚えている生徒が何人いるのか怪しいほどだ。
秀清はクラスを観察しながらこれからの行動を考えあぐねていた。彼は特段勉強に秀でている訳ではないが、授業を聞かずとも自習でなんとかなる程度には頭がいいのだ。そんなこんなで彼は優先順位的にこれからの行動に頭を悩ませていた。
話は遡ること数日前いや、この学園に来た日のことだ。
秀清は以前住んでいた所の学校ではなく、この地の学校に来たのには理由があった。選択肢は他にもあった中でここを選んだというのが重要だ。ひとまず、この地に来る前に貰った手紙の用事を果たすために彼は入学前にも関わらず、休日の朔乃浦学園の理事長室に来ていた。正確には理事長室と書かれたプレートのある扉の前で立ち尽くしていた。
ここに来るまでに人は誰もいなかったから手紙に関係のある人物しかこの建物にはいないんだろう。しかし、呼び出すだけでここまでの人払とは、何かあるのだろうか。まあ、今考えても仕方ないだろう。彼は緊張をほぐすように首を回すと、はやく用事を済ませるためにも意を決して扉をノックした。
コンコンッとならせばすぐに中から許可の声が聞こえた。
「失礼します。えっ」
少し重めの扉を開いた先には異様な空間が広がっていた。扉から目の前のところにある大きな机は書類で山盛りになり、それらから目をそらすように左右を見れば本棚に入り切らない本が縦に乱雑に重ねられ、応接用のテーブルとソファには寝泊まりでもしているのだろうかブランケットやら、カップ麺やら、ペットボトル、空き缶などが散らかされ、床にまで落ちていた。
簡潔に言おう。汚い。とてもではないが理事長室とは思えないほどの酷さだった。
あまりにも長く絶句していたのだろうか。書類で埋もれ、誰が座ってるのかもわからない机のほうから手だけが見え、声が聞こえた。
「すまない。片付ける暇がないんだ。とりあえず、荷物を片したそこの椅子にでも座ってくれ」
声からして女性だろうか。やはり、女性の管理する部屋だとはとても思いたくない。嫌な考えを振り払うようにそこ、指示された場所を見た。確かにその椅子だけ荷物が乗っていなかった。代わりに隣の床は酷いことになっていたが。その椅子は木目調の猫脚の高級感あるもので恐る恐る腰をかければ、ゆったりとした広さがあり、意外と座り心地がよかった。椅子の感触を試していると、秀清が座っている椅子と同じようなソファの上に物が山積みのをなれた手付きで座るスペースを作り、スーツを着崩した女性が座っていた。
女性は足を組んだ上に手をおくと、こちらを向いて話し始めた。
「いやはや、はじめましてがこれでは格好がつかないが、自己紹介をさせてもらおうか。この地を長年担当し、現在理事長を努めている
そういった幽々浦さんはショートカットの黒髪を片手でかき、ため息をつきながら話を続けた。どうやら、暇がないのは本当らしい。目の下に大きな隈が居座っていた。
というか、いつの間にかテーブルにお茶が置かれていた。ペットボトルのだったのが逆にありがたい。
「そうだな。まず、この地域が君たち陰陽師の試験範囲になったのは今年が初めてというのは知っているか」
「はい。理由は知りませんが」
彼、秀清はいきなりの質問に戸惑いつつも答えた。
そう、後程詳しく説明するが彼らは陰陽師である。陰陽師とは簡潔に言えば警察が対処できない妖怪や化け物を退治、祓って人々を護る者たちのこと。公には知られていないが、知っている人は知っている噂程度の認知度だ。
「まぁ。理由はさておき、朝霧くんにはこの試験を改めて説明するとしよう。特にこの地域特有のルールも踏まえてな。
まず、この試験は次代の陰陽の頭を決めるものだ。しかし、そのために陰陽師たちを一ヶ所に集めて仕事を放棄するわけにはいかない。試験は長い上、やつらは待ってくれないし、陰陽師たちは昔に比べて減ったからな。
なので、試験を受けられる資格を持つ者を数人ずつ希望に合わせて地域に派遣。そこでの行動や仕事内容を甘味して現在の陰陽の頭が決める訳だ」
ここまではいいな?との確認に秀清は黙ってただ、頷いた。
「この地域に来た陰陽師は二人、朝霧くんともう一人だ。顔合わせは任務中に必然と会うだろう。
ここからが重要だ。この土地は正確には我々が管理している訳ではない。私がいることによって勘違いしている者もいるようだが、実際は違う。私は不用意にこの地を荒らされないための妥協点だ。私以外に勤めたことのある者はいないから上以外は知らないだろうがな」
「えっ?それはどういう」
秀清は意味を問おうとするも、理事長はまぁ、焦るなとばかりにペットボトルの水を飲んでいた。
「長くなるので色々と省くが、この佳宵市は大昔からとある一族が守護している。それも陰陽連という組織ができる前からだ。彼ら一族はこの地を他に邪魔されたくない。しかし、陰陽連はこの地の魑魅魍魎の退治関連を我々がすべきだと主張している。あまりにも陰陽連側が煩いので権利を主張しない程度に派遣を数人認めているのが今の状態だ」
「はぁ、なるほど。今、陰陽師は何人いるんですか?」
普通、陰陽師はその担当地域を守るために最低でも10人はいるが、数人となるとどれくらいなのだろうか。とりあえず、自分に関係のあることだけを秀清は聞くことにした。
「私を含めて三人。朝霧くんたちを含めて五人だ」
「えっ」
それはだいぶ少ない。
交代も考えるとまったく足りていない。そんな不安が伝わったのか、幽々浦さんは大丈夫と続けた。
「この土地は大昔から守護されている。倒すべきなのは他所から入ってくる輩だけだ。そんなのも少ないしな。任務はスマホに送るから、そうだな。毎日だいたい夕方くらいに確認してくれるとありがたい。
話が長くてすまないな。任務も大事だが是非ともこの学園での生活を謳歌してくれ」
思い出したら別にあれが原因ではなかったな。
まあ、それからは一応メールの確認はしていたが、昨日始めて任務が知らされた。
内容はこういうものだった。
『件名 任務内容
学校も始まってそろそろなれた頃だろう。
楽しめているだろうか。私も理事長を務めている分、不満など困ったことがあれば相談してほしい。
では、本題を伝えよう。
最近、我が学園で原因不明の負傷者が連続で出ている。
これは陰陽師としてでなく学園の責任者としても大変許しがたいものだ。
しかし、私はご存知の通り忙しい。退治だけ、保護だけならまだしも元凶捜索などはできない。そこで君たちにこの事件の原因究明、もとい元凶を退治することを任務とする。
捜査資料として、最近、襲われた生徒の名前と日時が書いてある名簿を添付しておく。ちなみに怪我の状況は回数を増すごとに悪化していることも明記しておく。
人手が必要になった場合は遠慮せず頼ってくれ。
これは試験だが、一番優先されるのは人の命だ。そのことをくれぐれも忘れないようにしてくれ。』
どうやら、このメールは一斉送信のようだ。
添付資料にはこの学園の生徒が十名ほど記載されていた。
にしても女子生徒がほとんどだな。初めての被害者は1ヶ月前からで一番最近には三日前の人もいる。間隔はまちまちだが狭まっていることは確かなようだ。これは早くしなければさらに被害者が増えてしまう。なにか、関連性はないだろうか。
「これからHRを始めるぞー」
っと、考え事をしていたらいつのまにか先生が来ていた。
この学園は他はどうかわからないが以前の中学校と比べ、比較的ゆるい学校だ。
それは先生にも表れていて、うちの担任は国語科の教師なのだがぐしゃぐしゃの髪にかけてる意味があるのかわからない黒縁のメガネ、サンダル、ヨレヨレの白衣と色々とおかしい。
それでも生徒には慕われているようでよく冗談をいいあっているのを目撃する。
「今まで休んでいた生徒が今日復帰したんで転校生感覚で紹介するぞー」
そんなうちの担任は今日もけだるげにいつもの調子で言ったので気が抜けていた。
入ってこいと先生に言われて教室に入って来たのは白菫色のような肩下まである髪、本紫色に近いタレ目の細身な青年。なんと例えたら良いだろうか、耽美という言葉が彼のためにあるのではと思えるほどだった。
この学校指定のブレザーの制服もへんに着崩しているわけでもないのに彼のために作られたかのように似合っていた。
正直、秀清は思った。こんな見た目のいい同級生がいるか、と。
転校生、ではないが今日まで休んでいた彼は教壇の前に立つと礼をしてから話しだした。
「はじめまして。体調が悪く昨日まで休んでいた
彼はお辞儀をまたすると、顔をあげた瞬間目があったような気がした。しかも、こちらを向いて微笑んでいたように見えた。
どっかで見たことがあるような気がし、秀清は彼の顔を凝視するように見ていたが、彼、十六夜が首を傾げたのであわてて目をそらした。
いいところのお坊ちゃんなのだろうか。所々の動きにも何か違う雰囲気があった。すでにクラスの何人かは落ちているのではないだろうか。
秀清も同じ?男としてこの時ばかりは神様へ理不尽を訴えたくなった。
「じゃあ、十六夜の席はそうだな。朝霧、手ェ上げろ。十六夜、今手ェ上げてるところの隣にいけ」
このクラスは人数比が男子のほうが多く、最近席替えしたばかりなので秀清は特に不満を持つこともなく、十六夜の席はあっさりと決まった。
秀清は窓側から二番目の一番後ろの席だったので十六夜の席は一番窓側の一番うしろになった。
背も小さいわけではないし、目も悪いようではないので十六夜は席に座るとすぐに挨拶をした。
「お隣、失礼。宜しくおねがいします」
そう言って、十六夜は右手を出した。
「・・・ああ、こっちこそ。俺は朝霧秀清だ。よろしく」
一瞬戸惑ったがすぐに理解し握手をしながら秀清も挨拶をした。
自己紹介に握手なんてするやついるんだなと思いながら彼を見ればやはり、彼はどこか俺を知っているような、まるで懐かしいとでも言うような表情をしていた。
それから、彼は休み時間になると、他の生徒たちに質問責めされていた。まったく短い次の授業の準備時間によくやるものだ。放課後とまで言わずとも昼休みまで待てばいいのに。秀清は隣の席が人で囲まれるのをうざったらしく感じながらも席を退くのは気が引けるので本を読みながら時間を潰すことにした。
あー、うるさい。
「そういえば雨、降られなくてよかったでしょう」
「はっ?」
彼は他の生徒たちに質問責めされていたはずなのだが、いつの間に終わっていたのだろうか。チラリと黒板の方を見れば担任が立っており、授業が始まっていた。
「前に会ったときに」
憶えてない?と十六夜は皆に向けたような敬語ではない軽い口調で小さく続けた。唐突な言葉に驚き、何のことかと言い返そうとしたが、何処か見覚え、いや謎の違和感にようやく納得した。
「ああ、あの時の変なやつ。にしても俺のこと見てたのか?」
「そんな風に思われてたのかぁ。失敗した。でも忘れるなんて酷いなぁ」
十六夜は質問を華麗にスルーすると、冗談を言いつつ教師にバレない程度にクスッと笑った。
これは食えないやつだ。今度は自分が気まずくなったので十六夜から目を話して授業に集中するポーズを秀清は取るしかなかった。
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