152話 希望的観測

 ヨロイグサを後にし、再びパグの誘導に従って歩みを進める。


 ラズとの話し合いの末、水源までの道程の途中で接触出来そうなモノリスには、積極的に関わっていこうということになった。

 置き去りは可哀想派のラズと、単純な情報収集派の俺とで魂胆は分かれているが、そこはひとまず目を瞑ろう。


 依然としてこの状況下では、俺達は弱者に変わりがない。

 次なるモノリスは動物型なのか、はたまた植物型なのか。

 そんな俺達を裏切るようにして現れたのは、ギラギラと光沢のある甲殻を持つ、カナブンのような昆虫型のモノリスだった。


 先程のヨロイグサとは違い、こいつの発見にそう時間がかからなかったのは、近くを通りかかった際にモノリス自らが発光してみせたからだ。


「ぉわ、なんでアタシにだけ!? 狙うなら一番体がでけぇ人間の方だろ!」


 パグの頭に寝転がったラズ目掛け、カナブンからスポットライトのような光が照射される。

 内側に凹んだ後ろ羽をミラーのようにして周囲の光を集め、天敵と認識した相手に向かって放っているのか。

 なるほど、発光というより反射に近い。


 カナブンは、光を当てられたラズが目を擦っている間に、パチっという音ともに遠くへ飛び去ってしまった。

 いや、音からして飛び跳ねていったが正しいかもしれない。

 おそらく、羽か脚を勢いよく動かし、躍動によって逃走を図ったのだろう。


 パグによると、こいつも防御型のモノリスだが、ヨロイグサのような物理的な防御と違って、逃げる隙を作りやすい性質を備えている。

 さしずめ、防御型の逃走タイプといったところか。


 このカナブンのようなモノリスのモデルにも心当たりがあった。

 名前こそ付けはしなかったが、後羽に燃えているような模様を映し、天敵から身を守っていた甲虫を以前見かけている。

 おそらく、そいつの亜種か何かだろう。



 その後、幾度か別のモノリスに遭遇したが、ハエトリソウや、ゾウムシ、ブルーベリーに似た果実を付けた植物型等、宇宙船の近くに生息していた生物をモデルにしたモノリスがほとんどだった。


 一体、また一体と、違う個体のモノリスと遭遇する度、俺の中の予想は確信へと変わっていった。



「ってことはつまり、ほとんどのモノリスが、お前達がいた拠点の近くに生息してた生物をモデルにしてるって事か?」


「あぁ。パグやカラスは特例として、さっき見つけたモノリス達は、どれも見覚えがあるような生物ばかりだった。散らばったモノリス全部がそうってわけでもないと思うが、少なくとも俺達の周辺にいるモノリスはそういう傾向らしい」


「ふーん。通りで攻撃してくるやつがいないのか。なら、しばらくはいちいち見に行かなくても良さそうだな」


「いや、逆なんだ。前にN2とピノが壊されたとき、修理に貢献してくれた虫や植物がいたって話したろ? この状況から察するに、その生物達をモデルにしたモノリスがいてもおかしくないと思うんだ」


「……んなるほど、そいつらを探して、手を借りようって話か。確かに、N2達はこのまま放っといても起きそうにないしな」



 ラズの言う通り、今のところN2達に回復の兆しは見えていない。

 スヴァローグは特に言及してはいなかったが、二人が悪化している可能性だってある。

 あいつの言い方からして、水源へ着けば何かしら解決策があるのかもしれないが、寝たきりの二人を黙って見ているだけなのは正直歯がゆい。


 N2達を助けた生物をモデルにしたモノリスがいて、なおかつそいつらが協力的であることが前提になるが、果たしてうまくいくだろうか……。

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