153話 攻撃型
「んぁ?」
と、間の抜けた声をラズが発した。
度々起きる、パグのコミュニケーションにラズが応答するときのアクションである。
俺もパグも、これといった音声は発していないが、どうやらラズは動物達が出す微妙な変化を、ずば抜けた洞察力で捉えているらしいのだ。
以前ラズに、どうやって動物と対話しているのかを聞いたことがある。
「んなもん、目を見て、息遣いを聞いて、体毛の変化とか尻尾をどうやって振ってるかとかで、なんとなく分かんだろうが!」
そう言うので、俺も無言のコミュニケーションを図ってみたが、どうやら俺は
とまぁ、そんなことはさておき。
重要そうな話は、ラズが気を遣って声を出しながら話してくれるが、基本的には相槌をうつくらいで、大抵はラズとパグの無言のやり取りを眺めているしかない。
が、今回はどうやらその、重要そうな話題が上がったらしい。
「なぁ、もうすぐ解除出来そうな実績があるらしいんだが、どうする? ちょっとばかし危険が伴うかもだが……」
「内容は?」
「
おぉ、ついにきたか。
近くに反応がある、つまり、近くにいる。
されど、対象はまだ見えていない。
見渡しが良いこの場所で近くにいるってことは、少なくとも大型の動物ではないらしい。
となると、一般的なサイズの昆虫型か植物型か……。
攻撃型の昆虫がモデルなら蜂とかで、植物がモデルならハエトリソウとは違う種類の食虫植物……か?
そんなことを考えていると、俺たちの前に横歩きをして接近してくる、こぶし程の小さな生物が現れた。
現れたと同時に正面へと向き直り、両手の鋏をもたげて威嚇のようなポーズをとった。
そう、カニである。
「な、なんだぁこいつは!?」
攻撃型と聞いていた手前、拍子抜けしてしまった俺とは反対に、動揺の中に若干の怒気を織り交ぜたようなリアクションをラズが取る。
本能的に煽られてるのが分かるのだろうか。
「お前の船の近くには、こんなやつまでいたのか?」
パグの頭の上で座り直したラズは、カニの鋏の動きに合わせるように、ぴくぴくと体を引きながら問う。
「いや、この星では見かけなかったな。それに、俺の故郷の星じゃそんなに珍しい生き物でもない。けど……」
「ん?」
「普通は水辺にいるんだよ。いくら水源に向かってるっていっても、まだ相当距離があるし……」
そりゃあ、陸に生息するカニもいたっておかしくはないけれど。
むしろこの星の場合、そっちの方が普通なのかもしれないけれど。
それにしたって、多少の水場は必要なはずだ。
でも、周囲には水溜りすら見当たらない。
よく見てみようと思い、数歩近付く。
と、カニは横歩きで逃げだし、少し離れたところで地面をガリガリと掘り始めた。
そして一瞬で地中に身を隠してしまった。
一定の大きさを越えた外敵に接近されたから逃走したのか?
いや、気にすべきはそんなところじゃない。
あいつは一瞬で硬い地面を掘ったんだ。
まるで、海辺の砂浜に潜るかのように、一瞬で。
見覚えのある動作を、この硬い土でやってのけた。
俺があのカニと同じ大きさの穴を掘ろうとしても、数十秒はかかる。
モデル元のオリジナルのカニにだって、そんな芸当はこの地面では出来ない。
モノリス達は、環境を選べないんじゃない。
選ばなくても、自分の適した環境に変換して、無理矢理活動しているんだ。
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