150年 モノリスと型

 実績解除によりレベルが上がったパグ。

 ふんす、と鼻を鳴らし、尻尾を振っていて、パグ自身も喜んでいる様子。


 レベルアップしても、体が大きくなるとか、角が生えるとかの変化はないみたいだな。

 唯一変わったのは尻尾の付根近くに小さく刻印された数字くらいか……。

 元々あった『Ⅰ』の文字が『Ⅱ』へと変わっている。

 どこかでついた傷かと思ってたが、これはレベルを表したものだったのか。


 レベルアップにより獲得した追加能力は、索敵した別個体の型判別。

 型は大きく別けて、攻撃型、防御型、支援型、特殊型があるらしい。

 ちなみに索敵タイプは特殊型の中で枝分かれした内のひとつなんだとか。


 パグの話によると、攻撃型のような戦闘に積極性がある個体以外なら、ある程度近付いても危険はないとのこと。

 今までは全てのモノリスに気を使う必要があったが、型判別が可能になったことで、今後は攻撃型のみに注意すればいいわけだ。


 後方から俺達に接近していたモノリスは、攻撃型ではなかったので、特に警戒しなくても良いだろう。

 進行方向がたまたま一緒だったのかもな。


「なぁ、どうだ人間。ここはひとつ別個体のモノリスとやらを見に行ってみねぇか? 多少遠回りになるけどよ、もし話せるヤツだったら違う情報も聞けるかもしれねぇし……」


 念の為の確認、という体での提案をするラズ。

 少し含んだ言い方をしているのは、パグの索敵能力が本物なのかがまだ不明だからだろう。


 周辺の地形に多少の高低差はあるが、背の高い植物はほとんど死滅しているし、障害物となるようなものは人の背丈もないくらいの岩程度。

 そんな視界が開けた状況にもかかわらず、パグ以外のモノリスは確認出来ていない。

 

 ラズも俺と一緒で、近くにモノリスの存在は感じないらしい。

 俺でさえ半信半疑なのだから、今まで周囲を監視していたラズにとっては尚更信じにくいとは思う。


 そんな疑念を払拭するための確認。

 まぁ今後のためにも、実際に目で見ておく必要はあるだろうな。


「俺もラズに賛成だ。ここから最も近い場所にいるモノリスはどの方角かパグに聞いてみてくれるか?」

「わかった。…………ふむふむ、このまま1km程直進したとこにいるヤツが、一番近くて安全そうだってさ」


 安全……そう?

 型判別以外に何か識別要素があるのか……?


 十分に警戒しつつモノリスへと向かって行くが、俺達との距離が残り50メートルになっても何かがいる気配はない。

 やがてパグに教わった場所に到着したが、周辺に草木が多少生えているだけで、目立ったものは発見出来ない。


 俺とラズが漂わせる、あれ、なんもいなくね?の空気の中、パグが茂みに向かって、あそこにいるぞという風に、わふっと吠えてみせた。



「おい、見ろ人間。あの葉っぱ、何か変だぞ?」


 すかさずラズが反応する。

 次いで、俺もパグが吠えた方を注視する。


 茂みの奥に潜む、黒色に染まった、膝丈程の高さの植物がそこにはあった。

 上品な炭のように黒い……が、周囲が焼けた様子はない。

 つまり、これが……。


「この植物がモノリスで間違いなさそうだな」

「あぁ、そうらしい。……まさか動物じゃねぇとはな……通りでアタシにはさっぱり分からなかったわけだ」


 モノリスが動物であるという、勝手な先入観が招いた、誤った憶測。

 そうなると、動物、植物だけでなく、別の生き物の種類もいると考えていいだろう。

 なぁスヴァローグ、お前の慌てようからすると、もしかしてそれだけじゃないのか?


「しかし妙なやつだな、こいつも。蔓で金属片や石を掴んで、身に纏ってやがる」

「……妙だよな、でも多分、俺はこのモノリスのモデルの植物を知ってると思う」

「お前の故郷にも似たようなのがいたのか?」

「いや、この星にしかいない植物だよ。俺達が以前、『ヨロイグサ』って呼んでた植物だ」

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