147話 パグと肉球
スヴァローグの置土産。
それは、酷く言葉が訛った、犬型のモノリスだった。
カラス型のモノリスと同様、犬に光沢のある黒い液体をかけたような見た目をしている。
そしてラズも俺も、この未知のとんでも生物の前で動けずにいるのだった。
「……なぁ、人間。どういう状況なんだこれは。どうしてアタシはこいつに慕われてて、お前はなじられてんだ?」
「それは俺が聞きたいよ、ラズ。……念の為だ、このパグが今喋ってることをもう一回翻訳してみてくれないか?」
「『おいコラ、ガキぃ』」
「よし、もういい、よくわかった」
ラズのドスの効いた声からして、どうやら俺はこのパグに相当警戒されているらしい。
だがしかし、どうだろう。
その激しい言葉遣い以外は、俺の知るパグという犬種のイヌにしか見えない。
低く唸るでもなく、激しく吠えるでもなく、いわゆる「おすわり」のポーズを決め込んでいるだけなのである。
動物がどんな言葉で話し掛けて来ているかなんてあまり考えたことはなかったが、もしかしたら従順なように見えていただけで、実際はものすごく悪態をついていたのかもしれない。
となるとだ。
多少危険ではあるが、アレを試さずにはいられない。
これ以上警戒されないように、体を屈めながらゆっくりとパグに近付いていき……。
「お手っ」
パグは一瞬たじろぎ、座ったままの状態で四足を小さく動かし、少し後ずさりする動作を取ったが、やがてゆっくりと前足を差し出して、俺の手のひらにのっそりと乗せてきたのであった。
教え込まなくても、お手のような芸紛いの動作をする犬も少なからずいるらしいが、こいつの場合どうなのだろう。
スヴァローグは生物模倣とか言ってたっけ。
あいつがもともと芸が出来る犬をモノリスにコピーさせたのか、あるいはコピー後に芸を覚えさせたのか。
まぁどちらにせよ、俺の行動に対してこのパグ型のモノリスは行動で返した。
つまりは、このパグにはある程度のコミュニケーション能力がある、ということである。
それになりより、この肉球の感触。
硬めのグミのような低反発感に加え、濡れているわけでもないのにしっとりとした感触……。
本物以外の何物でもないじゃないか。
他の部分もそうだ。
口元のダルついた皮膚や、くりんと丸まった尻尾、毛の一本一本まで。
カラス型のモノリスを見たときは全体を詳しく見る余裕はなかったが、ここまでの代物だったとは……。
最早これは生物を模倣したモノではなく、生物そのものといっても過言ではないんじゃなかろうか……。
そんなことを考えていると、またもやパグがわふっとひと吠え。
ラズの翻訳を聞くまでもない。
噛みつかれる前にそろそろ手を離しておくことにしよう。
俺には敵意剥き出しだが、どうやらラズとは友好的な関係にあるらしい。
何故そうなのかは後々ラズにでも聞いてもらうとして、ひとまずはこのパグも仲間ってことでいいのかな……。
パグの頭からラズをおろし、そんな事を考えていると、パグとしばし見つめ合ったラズが困ったように呟いた。
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