146話 見せもんちゃうぞ

 待て、とラズに声をかける間もなく、焚火に放り込まれたカプセルは、瞬時に煙と黒い金属をずもずもと吐き出した。


 スヴァローグの忘れもの……あれは……。


「モノリス……!」


 黒いカプセル、黒い金属。

 焚火に放り込んだ後のモーションが、スヴァローグが出現させたカラス型のそれと同じだ。

 きっとこれも……。


 あれよあれよと言う間に、黒いカプセルからは次々と黒い金属が這い出し、徐々にラズの方へと近付いていく。


「うぉぉ!? やっぱり罠じゃねえか!!」


 スヴァローグが意図的に置いてったならそう確信が持てる……。

 けど、そうでなくて、しかもそれが自我を持つモノリスとなるとどうだ……?

 分からんがとりあえず……。


「ラズ、何してんだ!? 早く離れろ!」

「さっきから力が入らねえって言ってんだろ……! 見てないで早く助けろよ! って、うわぁああ!」


 俺が助ける間もなく、ラズの足元にモノリスが集まりだし、そしてそれらは見覚えのあるシルエットに形作られ、仰向けに横たわるラズを頭の上に乗せながら、「ワフッ」っと一吠え鳴いた。


 予想外の状況に固まる俺とラズ。

 ラズに至っては、未知のカプセルから這い出た得体のしれない鳴き声を発するモノの頭上にいる状況。

 なおかつ自分からはそれを視認できていない。


 一方俺は、カプセルから出てきたモノに対して、スヴァローグがあえて忘れていったものなのだと推察した。

 いつも態度のでかいラズが、体を強張らせ、何かに怯える様は見ていて少し気分がいい。

 このまま放っておいて、困っているラズを眺めるのも手だが、流石にそれは可哀想か。


「大丈夫だラズ。お前が今乗っかってるのは大人しい種類の犬だよ」

「い、イヌ?」


 犬種は確かパグ。

 顔面に特徴的な皴がある小型犬だ。

 現に、目の前のこいつの大きさも膝丈程しかない。


「大丈夫つってもよ……お前、ものすっごい罵倒されてるぞ……?」

「あ、あれ……? 見た目に反して……というかラズ、こいつの言葉が分かるのか?」

「ひどくなまっちゃいるが、大体は……。『見せもんちゃうぞクソガキコラァ、嚙み殺したろうかぁ?』って……」


 え、えぇ……言葉遣いエグ……。

 それよりも、ラズの翻訳(?)が本当だとしたら、パグの頭に乗ってるラズが危険なんじゃないか?


「あとこうも言ってる。『姉御、見とってくんさい。このガキにワシの牙の味、たっぷりと教え込んでやりますけえのう』って。……姉御ってアタシのことか?」


 このパグ、いつの間にラズの舎弟に!?

 スヴァローグめ……なんつー置き土産をしていきやがったんだ、アイツ……。

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