140話 隠サレタ真実

「少し間違えば、世界を再び恐怖に陥れるかもしれない。その引き金を引く覚悟が、君にはあるかい?」


 体表に炎をくゆらす隻腕のそいつは、より一層神妙な面持ちで俺に問いかける。


 反射的に口から出そうになった、『そんなの、あるわけねぇだろ!!』を押し殺し、少し冷静に考えてみる。


 何故このタイミングで、スヴァローグがこんな事を言ってくるのか。

 その真意はいったい何なのか……。


 こいつにまだ企みがあって、その誘導のため……ってのはどうだろうか。


 ……ないな。

 情報の開示は敵対側が不利になるだけで、スヴァローグに利点がない。

 第一そんな回りくどいことをするようなやつではないのは、この短時間話しただけでも分かる。


 なら、今まで守ってきた世界が危ぶまれている事を心配している……?


 ……それもないだろうな。

 仮に少しでもスヴァローグがそう思っていたのなら、俺達はとっくに殺されてたはずだ。


 単純に『覚悟』の有無を聞いているだけ、ってのは……一番ありそうで困る。

 なら、俺も正直にそれに答えようと思う。


「戦争を起こす覚悟があるかって聞かれたら、そりゃないよ……これっぽっちもない。何かを戦いで解決しようなんて古い文化は、くだらないって思ってるくらいだよ。……でも例えば、何か大きな理不尽に対する手段として、それが必要だったなら……それ以外に手がないのなら、俺は迷わずそっちを取ると思う。大切な何かを守るためなら、多分なんだってする。……これが答えになってるかは分からないけども……」

「ふふ、少年らしい回答だな。それが聞けて安心したよ。流石は私の惚れた男だ!」


「……なんなんだよ、お前は何が言いたかったんだ?」

「いやなに、君がもし腑抜けた事を言っていたら、根性を叩き直してやろうと思っていただけさ」

「そんな……ことはないけど……」

「まぁそう悲観的になるな、少年。かつての人間達が残した資料について、あえて詳細は伏せたが、客観的に見るとアーティファクト達はそこまで悪い存在ではなかったと、私は思うのだよ」


「……?」

「彼らが携わった戦闘は、破壊された機体数こそ多いが、他の同規模の戦闘と比べて被害者数が圧倒的に少ないのだ。この結果をどう見る?」

「……敵の機械部隊ばかりを狙ってた?」

「それも考えられるが、むしろ人間達を積極的に守りながら戦わないと、被害をこれだけに抑えるのは難しいと思う」


「それって……!」

「あぁ、かつての彼らも、君と似たような理由で戦っていたのかもな。大切な何かを守るために。あるいは、自分の信念のために……って、どうした? そんなに嬉しそうな顔をして」

「いや、やっぱりなって思ってさ。皆の記憶があってもなくても、根本的なとこはきっと変わんないんだなって」

「ふふ、だといいな、少年。……おっと、少し話が逸れてしまった。これでようやく本題に入れるよ」

「そっか……そう言えば、俺がスヴァローグについて誤解をしてるとか、そんな話だったっけ」



「さよう。それは数日前に君の処分が決まった日のこと。それから私とそっくりに作った、ある機械生命体についての話をしよう」

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