124話 形態変化

 --おめえらはこの星からはぜってえ逃がさねえ--。


 自らをチェルノボーグと名乗った黒の機械生命体はそう言った。


 いったい俺がお前達に何をしたって言うんだ。

 それに、前に襲ってきたやつは俺のことをこの星に呼び寄せたって言ってたぞ!

 呼んどいて逃がさねえって、よくよく考えたら理不尽過ぎるだろ!



(「レイ、敵個体Aの新たな情報です。体内に取り込んだ黒色の金属を用い、欠損部及び体外にも物体を生成する能力がある模様。無くなった片腕に加え、背部にアームが4本出現」)



 チェルノボーグの言葉に戸惑う心中を置き去りにし、戦場の激化が加速する。

 変化したチェルノボーグの状態に対し、セシリアが解析結果と次なるプランを脳内に並べていく。


(「やつはN2と同じフォルムに体を作り変えた……。ん、アーム一本一本の造りが微妙に違うのか?」)


(「ええ。意図はまだ分かりませんが、おそらく考えあってのことでしょう。アームの出現に伴い、敵個体A、チェルノボーグの内包エネルギー値が半減しました」)


(「アームにエネルギーを込めたってことか……。でもなんでそんなことを?」)



 チェルノボーグの体が完成し、再びつかみ合うN2達。

 時間にしてはものの数秒だが、相変わらずN2はダメージを受けている様子はない。


 けど、どこか引っかかる。

 チェルノボーグはさっきまで、N2に対してほぼ防戦一方だった。

 やつの行動パターンはN2のアームに掴まれないように回避し、隙を見て攻撃していた。

 不意打ちのような攻撃もN2にはノーダメージ。


 それが、今はどうだ。

 サイコロ状の金属を食ってからはN2のアームに掴まれることを恐れずに掴み返している。


(「さきほどまでは、N2の状態変化がチェルノボーグ達の攻撃を寄せ付けなかったのかもしれません。現に、以前彼らの仲間と思わしき敵の攻撃は、変化前のN2に効いていたはずです。チェルノボーグが黒色の金属を取り込んだ後、積極的な攻撃に転じたところを見ると、チェルノボーグのアームはN2に対して有効な攻撃が出来るモノとみてよいかと」)


 なるほど……確かに言われてみればそんな気がしないでもない。

 ということは、単純なエネルギー値の差で戦闘の優劣は決まらないのか……?


 N2の保有エネルギーが現在13500に対し、アーム生成後のチェルノボーグは10060。

 エネルギー値ではN2とチェルノボーグの状況は逆転。

 消耗戦にもちこめば、このままやつを倒せる……?



 火花を散らし、地を抉り、互いに激しくぶつかり合うN2達。

 しかし、徐々にアーム同士の衝突音に変化が現れる。

 柔らかい金属を叩いた時のような鈍い音から、ガラスが弾ける様な甲高い音が周囲に響き始める。


 セシリアの活動限界が残り5分に差し迫った頃、一際甲高い金属音が鼓膜を震わせた。



 N2の頬に小さな傷を付けたチェルノボーグが、


「ビンゴ……!」


 と不敵な笑みを浮かべて呟いた。

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