119話 圧倒的戦力差

 力を貸してくれと心で唱えると、もう一人の相棒が静かに、承知しました、と答えた。


(「承知しました。……しかし、先程から敵方の解析を図っているのですが……現状、こちら側と敵勢の戦力差がかなりあります。ラスボスも倒していないのに、裏ボスが目の前に2体出てきちゃった、みたいな感じです」)


(「いやいや、出てきちゃったとか可愛く言われても……。相当ヤバいのは言われる前から分かってたが……そんなになのか?」)


(「そんなに、です。ではこうしましょう。レイ、左目を閉じてください」)


 セシリアに言われるまま瞼を閉じると、右目には普段と違う景色が広がっていた。

 生き物、草木、地面、目に見えるものすべてが、きめの細かいポリゴンで出来ているような、そんな景色。

 前方でぶつかり合うN2と黒い機械達も同様に。

 けれど彼らの頭上には変動する数値が表記されている。


(「見えましたか? レイ一人分が出せるエネルギーを『1』として各個体の保有エネルギーをおおよそですが算出してみました」)


 ピノが6000と少し、ラズがその上の9000弱、暴走状態にあるN2はさらに上の15000強。


(「黒い機械の数値に……間違いはないんだよな……」)


(「ありません。手前のN2と相対している個体が32850。その奥で様子見している個体が46780です」)



 どうしようもなく、圧倒的だった。

 全員を足しても黒い機械1体の力にすら及ばない。

 N2が食い止めてくれていたのではなく、やつらはまだ本気を出していないだけだったんだ。


 でも、どうしてだ?

 これだけの戦力差がありながら、やつらがN2に決定打を与えてきていない。

 ここにいる2体と同個体かは不明だが、以前湿地帯で襲ってきたやつはなにやらN2達の攻撃手段を知っている風だった。

 やつらが共闘しているところをみると、おそらく組織的な何かがあるとみていい。

 つまり、この2体にもN2達の能力は知れていると考えて間違いないだろう。


 となると、決定打を与えてこないのではなく、与えられない状況にある……?

 そもそもなんでこんな状況になってるんだっけ……。

 何か忘れてる気が……。


 ふと周囲に目をやると、見覚えのある小さな人型の黒い機械が片腕を失った状態で横たわっていた。


 スヴァローグ。

 こいつは前にN2とピノをめちゃめちゃにしやがったやつだ。

 だんだんと思いだしてきた。

 そうだ、こいつが別の黒い機械達に襲われてるところに俺達が出くわしたんだ。


 力尽きてるのか、泥水に浸った状態で動こうとしない。

 あれだけのことを俺達はされたんだ。

 悪いが、少しも気の毒だなんて思えやしない。


 冷たく睨みつけるような目線をスヴァローグに送っていると、ピノがそれに気付きふと言葉を零す。


「レイ様が倒れた後、救う指示を出してきたのはスヴァローグでした。もしレイ様が死んでしまったら全員ここでやられる、と。ピノ達に指示を出した後、糸が切れたかのように崩れてからずっとあのままです」


 やつが俺を助けた……?

 前と行動が真逆じゃねえか。


 生死確認のためにもう一度右目だけでやつを覗くと、頭上には400程の数値が表示されていた。

 片腕は痛々しくもがれ、ひどくボロボロの状態であっても俺400人分の力をまだ残していると考えると何だか悲しくもあるが……。

 

 やつが本来どのくらいのエネルギーを保有していたのかは分からない。

 だがまた悪事を働こうとしたとしても、この数値ではピノ達がそばにいる限り、やつ一人ではどうすることもできないだろう。


 自分が助かりたい一心でやつが元々加わっていた組織を裏切ったってのも考えられるが……。

 いまこいつの存在は頭の隅に置いておくだけにしておこう。


 再び目線をN2達に戻すと、さっきまで15000より多かったN2の数値が徐々に減り、14000代にまで落ち込もうとしていた。

 

(「N2のエネルギー量も減少傾向にあります。このまま真正面からやり合えば勝ち目は恐らくありません。ですので、まずは敵勢の戦力を削ぎましょう」)


 機械生命体達は通常、何か動作をするごとにエネルギーを消費していくらしい。

 そのへんは俺の知る宇宙船や電子機器と原理は同じだ。

 みたところ、N2が背中の触手を激しく動かすとエネルギー消費も同様に著しく減っている。

 けれど、黒い機械達と比べN2のエネルギー消費が激しいのは、動きの差だけではないような気もする。

 

 どちらにせよ、黙って見ている暇はなさそうだ。


(「セシリアが解析した情報を俺にも回せるか? ちょっと試したい事があるんだ」)

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