118話 暴走

「レイ様!!」


 ピノの声と、腕を強く抱かれる感触で、徐々に意識がはっきりとしていく。


「ピノ……ありがとう、おかげで戻ってこれたよ」


 声をかけても相変わらず腕に顔を埋めるピノを優しく撫でる。

 俺がいったい何をされてセシリアが目覚めたのかは不明だが、ラズとピノがいなければ死んでいたと彼女は言っていた。


「ラズも、グレもありがとな」


 俺が意識を失っている間、グレが羽を広げて降り注ぐ雨を凌いでいてくれた。

 多分、ラズの指示に違いない。



「あの傷が数分で治りやがった……。お前から聞こえてくる”音”も増えてやがるし……さてはお前、ただの人間じゃねえな?」


 少し離れた場所から、ラズがいぶかしげに問う。

 ラズの言う傷がどの程度のものだったのかは分からないが、この星に来てからの傷の治りや、疲労回復が早かったのはセシリアのおかげだったのかと今更気付く。

 ”音”ってのも、多分セシリアのことだろう。


 けれど、今説明している暇はない。

 なんせセシリアの活動可能時間は10分しかないのだから。



 グレに今一度感謝をして、激しい雨の中、姿の見えない相棒の下へ向かう。

 

 何かが壮絶にぶつかり合うような音に耳を塞ぎたくなる。

 これが俺が良く知っているやつの元から聞こえてくる音だとすると尚更だ……。



 地形が変わるほどの戦闘がそこでは行われていて、中心には変わり果てた姿の相棒がいた。

 体が黒く濁り、獣のように両手足を地につけて暴れまわっている。

 背中からは触手のようなものが何本か伸びていて、銃や剣を一切使わずに黒い機械2体と対峙していた。



「N2……N2!!」


「ピノたちも何度か呼びかけましたが、ピクリとも応じません……。ただひたすらに彼らを攻撃しようとしています。加勢しようとしたラズもN2に弾かれてしまいました」


「N2が暴れ出したのはお前がぶっ倒れてからだ。アタシはお前が声をかければ、正気を取り戻すと思ってたんだが……」



 あいつは今、自我を失くしてるのか……。

 N2の目にはきっと、俺が殺されたように映ったんだろう。



 ちゃんと生きてるぞって。

 そう伝えたくても、N2に声は届かない。

 今も目の前で暴走する元凶となった敵と戦い続けている。

 しだいに動きが鈍り弱っていくN2がやつらに倒されてしまえば、その矛先はやがて俺達に向いて来るだろう。

 

 怒ろうが悲しもうが、現状は変わらない。

 迷う事は無い。

 やることはひとつだ。



(「セシリア、いるか。N2を助けたい。力を貸してくれ」)


 心の中で強く念じると、先程精神世界の中で聞いた優しい声が脳内で応答した。

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