114話 アタシが勝ったら群れから1羽貸してくれってな
俺達の水源へ進む旅は続き、移りゆく景色はやがて草が生い茂る緑色から、枯れ草が広がる薄茶色へと姿を変えていった。
場所によって住む生物も多少変わってくるようで、より生存競争に特化した特徴を持つ動物達が増えた気がする。
土地が豊かな場所と違い、ここら一帯の草木は全体的に背が低いように思う。
しかしそれらに適応するように、体を保護色に変え獲物を狩る動物や、反対に危険を察知しやすいように眼球を肥大化させた動物、首が異様に長い動物達が見え始めた。
なぜそこまでしてこの住みにくそうな土地で暮らすのかは謎だが、まぁ彼らにも理由があるのだろう。
そんな殺伐とした中、周囲の動物達に目もくれずに大地を踏みしめ突き進む、数十羽の集団がいた。
N2が命名したグラウンドバードという鳥は、多い時は一日200キロメートルも群れで移動する非常に強靭な足を持つ鳥だ。
そう、俺達を運んでくれているグレがその種の鳥に該当する。
普段見慣れている鳥でも、あれだけ集まって爆走する様はまさに圧巻だ。
集団を遠目に見ながら、おうおう、やってんねえ、とラズ。
幸か不幸か、今目にしている群れはグレが所属していた群れとは別のものらしい。
そういえば、初めてグレを紹介されたとき、ラズはスカウトしたって言ってたっけ?
「なぁラズ。お前、どうやってグレを連れてきたんだ?」
そう俺が問うと、ラズはすくっと立ち上がり、よくぞ聞いてくれたとでも言うように咳払いをしながら話し始めた。
「アタシがこいつの群れに決闘を申し込んだのさ。42.195キロの徒競走、アタシが勝ったら群れから1羽貸してくれってな」
「途方もねえなおい、そんなんじゃねえだろフルマラソンって。まあ、ラズなら余裕で勝ったんだろうけど、それで、はい分かりましたって付いて来るもんなのか?」
「ここにいるよりもっとおもしれえもん見せてやるよ、って言ったら二つ返事でOKくれたぜ。しかも5羽」
「増えてるしッ! 好奇心旺盛かッ! じゃあ残りの4羽は群れに戻ったのか? さぞ居心地悪いだろうな……」
「いや、全部断った。もっと足腰がいいのが他にいたからな」
「鬼かお前はッ!! そんな軽い冗談みたいなノリで群れを乱してんじゃねえよ!」
「まったく、厳しい世の中になっちまったぜ……」
俺はお前の行動に言ってんだ!!
じゃあなんだ、グレは結局無理矢理連れてこられたのか……。
別に乗せてもらって当たり前なんて思っちゃいないが、グレに対し途端に申し訳なくなってきた。
「ラズ……今度から俺もグレの羽繕い手伝っていいか?」
「おう! 喜ぶと思うぜ!」
そんなやり取りを横目に、N2がカブト虫を見ながら呟く。
「羽繕い……クヌギもして欲しいのかな? ……そんな気がする、そんな気がしてきたっ」
そう言うと、荷物からガサゴソと小さな布切れを出し、カブト虫を丁寧に拭き始める。
布の柄からして俺の服の切れ端のような気がしてきたが……まぁ、いいか。
俺が知らない皆の一面が少しずつ見えたような、そんな一日だった。
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