115話 これだから私はレイが好きなんだ
「こりゃひと雨来そうだな」
遠くの方の黒くなった空を見ながらラズが呟く。
この星の雨は、スコールのような短時間に多量の雨を局所的に降らせるものがほとんどだ。
だからいつも、移動中に降ったときは雨をしのげる場所を探してやり過ごす。
大きな木の下を借りる事もあるが、落雷の危険性を考え、より安全な場所を選ぶようにしている。
今回は近くにあった、浅い洞窟のような岩の隙間に身をひそめる事にした。
雨が降る度に、自身が濡れてまではしゃぎだすN2とピノ。
二人とは反対に、ラズが濡れているところは見たことがない。
そこまで激しくないならば、多少雨にさらされようがそのまま目的地へ向かっても問題なさそうなのだが、滑って転んだら危ないだとか、視界が悪くて敵の接近に気づきにくいとか、雨が降ったらとにかく避難をするというラズの決意はとても堅かった。
岩陰に避難し終えた数分後に、大粒の雨が降り始める。
地面に打ちつける雨雫の音と空の暗さからして、いつもより勢いが強い。
真昼間だというのに、まるで日が落ちた後のように暗い。
流石に危険だと感じたのか、雨ざらしだった二人も岩の隙間に避難してきた。
「すごいあめだね」
「そうだな」
ずぶ濡れの二人に、ラズは恐ろしいものでも見るかのような口ぶりで、ぶっ倒れても面倒見ねえからなっ、と言葉をこぼす。
体をぷるぷると震わせて雨粒を振り払う二人。
その雫が少しでも身に降りかかろうものなら、すぐに殴り掛かりそうなラズをなだめ、服の裾で二人を拭いてやる。
「レイ、なにをするーッ」
「うるせえ、じっとしてろ」
じたばたと身をよじり抵抗するN2。
ピノは大人しくしていたと思ったら、拭き終えた後にまた外の方へと走り出してしまった。
「味をしめるな、味を。じっとしてなさい」
拭いたばかりの体を鷲掴みにし、もう濡れないようにと促す。
ピノは最近N2の悪いところが似てきたな……。
出逢った当初の、しおらしい感じが今となっては懐かしい。
そんな思い出にふけっていた刹那、視界の隅で何かがはじけたような気がした。
ラズも何かに気付いたのか、洞窟の内部から入り口の方を厳しい表情で見つめる。
すると再び、ぱぱぱ、と遠くで何かがはじけた。
地平線ギリギリのライン。
今度は確実に目で捉えた。
色、光り方からして、雷ではない。
次第に大きくなっていく閃光。
爆発のような不思議な光は、周囲の岩や木が吹き飛ばしながら徐々にこちらへ向かってくる。
「何かが……戦ってる……?」
「というより、一方的に襲われてるな。2体1……か? くそ、よく見えねえ! これだから雨は気に食わねえんだ!」
ラズの視力でも、対象を確認できない距離。
逃げ出すならまだ猶予がある。
今に始まったことじゃないが、どうしてこうも厄介事が次から次へと……。
「ねぇレイ、今遠くで崩れた岩……ここのより大きくない……?」
そう言われてみると、確かにN2の言う通りだ。
爆発の規模がおかしい。
あんなのに巻き込まれたらたまったもんじゃない。
「すぐに発とう。ラズ、頼めるな」
俺の問いかけに、とても嫌そうに首を縦に振るラズ。
こんな豪雨の中移動すれば荷物も体もずぶ濡れになるだろうが、この際仕方がない。
グレにまたがると、次いでピノが
けれど、いつもならグレの頭部に飛び乗ってくるN2が洞窟内で立ちすくんだままだ。
「どうしたN2?」
少し間をおいてN2が答える。
「このまま、逃げてしまっていいのだろうか……。向こうで追われている者は、明らかに弱肉強食の世界の外にいる者だよ、レイ。君と出会う以前の私と同じ、無益な暴力を受けている者かもしれないんだ」
暗に助けに行かなくてもいいのか、という事だろう。
N2はかつての自分と襲われている何者かを重ねる。
そうか、お前はそういうやつだった。
困ってるなら動物も植物も、得体の知れない生物だって助けようと思ってしまう、そんな性格の持ち主だったんだ。
はぁ……仕方ない……。
全細胞が救出には向かうなとアラートを上げている気がするが、N2に言われてしまった以上、もしここで逃げたら後味が悪いだろうな。
俺にも、N2にも。
「手に負えないと思ったら即離脱だからな」
そう言うと、N2の表情が一瞬ぱぁっと明るくなる。
「これだから私はレイが好きなんだ」
閃光が炸裂している場所までは5分もかからない。
俺達は細心の注意を払いながら、救出に向かうのだった。
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