112話 あぁ……レイになんて説明しよう……

 夜中に肌寒さで目が覚めた。

 昨夜はそんなこともなかったのだが、どうやらこの星は場所によってはかなり冷え込むらしい。


 寝返りをうとうとした際に、隣にピノがいる事に気が付いた。


 いつの間に俺のテントに……。

 まぁ、いんだけど。


 テントの入り口からは、ゆらゆらと外の焚火の灯りがうかがえる。

 それと、かすかに聞こえる話し声。

 N2とラズは、あの傷付いた狼を付きっきりで看病しているようだ。



「あ、見て、ラズ座。相変わらず言いにくい」


「まだ覚えてんのかよそれ。お前の星座に踏まれてる自分の星座なんか、アタシは認めねえぞ」


「今はぐっすり眠っているし、この隙にレイ座も作ってしまおうか」


「手伝わねえぞー、アタシは」




「む、今日は星が少ないな。これではやっぱり関節が少ないレイ座になってしまう」



 そりゃ火を焚いていれば明るくて見えんだろう。



「やっぱりレイ座は後回しにして、N2座二号を作ろうっ」


「はぁ、元気だなあ……。お前も眠れれば良かったのにな」


「ん? あぁ、ほんとになー」



 あいつ、ラズの皮肉に気付いてない……。



 少しして、N2の不思議な鼻歌が聞こえてくる。

 姿は見えないが、夜空に星座を描くN2が目に浮かぶ。



「ラズはさぁ、この生命体、どう思う? やっぱり誰かに作られたものだと思う?」


「アタシにはそういうめんどくせえ事はよく分からねえが、体が金属って時点で普通じゃあねえよな。つまりは、そういうことだろ」


「そっかぁ」


「人間も気に障ってたみてえだが、誰かが作ったかなんて、そんなに気にすることなのか? こいつは今自由で、自分の意志で生きている。その点に関しちゃ、お前も、アタシも、人間も、同じだろうが」


「む……そうだけど……」


「そもそもアタシらアーティファクトは結局、誰かに作られてんのさ。それに対してお前は恨みがあんのか? 少なくともアタシには、ずいぶんと楽しそうに見えるんだが」


「ううん、ないよ。レイにも出会えたし、とても幸せだよ」


「そういうこった。こいつにもアタシらとは違った価値観があって、だからこうしてボロボロになっても、何かのために生きてんだ。こいつが不遇なのは認めるが、存在に同情するのは違えんじゃねえかと、アタシは思う」


「そうだね……ごめん」


「別に……謝る必要はねえけど……」







「ねぇ……ラズはさ、って聞いたら、何を思い浮かべる?」


「ドクター? 医者とか、博士とかそんなのだろ?」


「そうなんだけど……そっか」


「なんだよ突然! 煮え切らねえな!」


「時々ね、考え事をしたりすると、その言葉が浮かぶんだ」


「ドクターねぇ……。ま、でも、アタシもそういうのあるぜ。前にも話さなかったか? この星じゃない景色が、頭の中をよぎる事があるって」


「んぬぅー、そういうのとは違くて~」


「なんなんだよ、ったく。……っておい、N2、みろ!」


「あ、まだ起き上がっちゃダメだよ! ラズ、どうしよう!」


「まぁ、動けるようになったんなら、放っておいていいんじゃないか?」


「え~! まだ修理おわってないのに! あぁ、行ってしまう!」





「お~い、もう無茶すんじゃねえぞ~! それと、お前の電撃、なかなかイカしてたぜ~!」


「あぁ……レイになんて説明しよう……。寝てる間にレイが食べちゃったことにしようか!」


「そりゃお前……無茶があんだろ」



「あの生命体、去り際に何か言ってた?」


「世話になった、だとよ。さて、アタシは散歩にでも行ってくるかなっと」


「そっか。また会えるかな?」


「会えるだろうさ、多分な」

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