111話 そんなにいけないことなのでしょうか
突然襲ってきた銀色の狼。
こいつは骨格以外に機械の体を持つ生命体だ、とN2は言った。
動物でもなく、機械でもない。
これまでこの星で遭遇した生物にはなかった特徴だ。
「なるほど、だからアタシはこいつの声が聞こえたのか」
特にいぶかしむ様子もなくラズは納得する。
星の生物が進化した結果だ、と片付けるのは容易いが……どうにも腑に落ちない。
この生命体の“造り”には何かが引っかかる。
こいつが黒い機械生命体達の仲間という可能性はあるだろうか。
いや、多分ないだろう。
これまでのN2達を破壊するという目的ではなく、俺達から何かを取り返しに来ていたという点で、やつらの仲間の線は薄い。
攻撃手段も放電と噛みつきじゃN2達は倒せないし、破壊する目的があるとするなら不十分過ぎる。
今まであった星の生物は、何かを克服するために進化をしていた。
しかしこの狼の放電はどうだ?
何かへの対抗手段だとしても大袈裟だ。
そしてなにより、何故こんなにも傷だらけの姿をしているのか。
俺達に会う前に何と戦っていたんだろうか……。
N2も俺と同様に、この異様な生命体に対し懐疑的な目で見ながらも、治療という修理を進めていく。
狼の体の金属と材質は異なるが、周囲に落ちていた金属片で応急処置を施し、体中の傷を塞いでいった。
頭部、腹部と治療を行い、最後の左足に差し掛かったところでN2の手が止まった。
「……大きさが違う……レイ、この生命体、左右の足の骨の大きさが違うんだ」
以前怪我をしたとか、成長度合いが違うとか、そういうものではなく、まるで別の個体の骨のようだ、と。
「それって……どういうことですか?」
不穏な雰囲気をまとうN2を、ピノが心配するように伺う。
「私の……ただの予想ではあるけれど……この生命体は、誰かに造られたものかもしれない」
造られたもの。
ラズとのやりとりから察するに、この狼は自ら考え行動し、意志を持っていた。
そんな狼が、誰かに造られた可能性があるのだと、N2はそう言った。
俺が感じていた違和感は、恐らくこれだろう。
この狼は星の生物達と比較してもズレているし、黒い機械生命体と比較しても矛盾した点が多い。
魂自体はあれど、入れ物がそれを満たしていない。
そんな、どこかちぐはぐな感じ。
N2が見て、そう思ったのなら、多分きっとそうなのだと思う。
この狼を造り、命をもてあそぶ真似をするような奴が、この星にいる。
まぁ、ほぼ見当はついているが……。
「”作る”のは、そんなにいけないことなのでしょうか……」
夕食に使うために急激に成長させた野菜の実を撫でながら、ピノが寂しそうに呟いた。
「ピノのそれは”育てる”だよ。N2にも、ラズにも出来ない、素晴らしいことさ」
俺の言葉にピノは、そうですかっ、照れながら嬉しそうに返す。
今回の件に奴らが絡んでいるとすると、造られたのはこの狼だけという可能性は低い。
何か対策を打たねばと思いつつも、いつもより少し甘い野菜に舌鼓を打ち、その日は眠りについたのだった。
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