110話 お前、アタシらを誰かと勘違いしてるんじゃねえか?
銀色に輝くたてがみ、血走ったような紅い眼光。
体長は俺とほぼ同等。
可愛さなんて微塵も感じない銀色の機工狼が、敵意むき出しでラズと対峙する。
「
ラズの動物と話せる能力は、この機械の体をした狼にも通じるらしい。
狼が何を話しているのかは俺には不明だが、どうやらこいつは何か目的があって俺達に近付いてきたようだ。
「知らねえよそんなやつ! 見たことも、聞いたことも、ましてや連れ去ってもいねえ! お前、アタシらを誰かと勘違いしてるんじゃねえか?」
ラズが狼にそう言い終えた直後、やつは俺達の方へ標的を移し、鋭い牙をギラつかせながら突進の姿勢を見せた。
この星では既に様々な生物を見てきたが、ここまで好戦的な生物は黒い機械を除いてこいつが初めてだ。
動物相手ならラズが何とかしてくれるだろうという慢心が、俺含めN2やピノにもあったと思う。
まさかラズを無視してこちらへ向かってくる動物がいるとは……。
機工狼が無防備な俺達へ飛び掛かろうとした刹那、やつが突然後方に引っ張られた。
「シカトしてんじゃねえぞコラ!!」
間一髪のところで、ラズがやつのワイヤーを何本も束ねたような尾を掴んで跳躍を阻止。
そのままズルズルと俺達から遠ざけるように引っ張っていく。
が、しかし、奴は体をこわばらせたかと思うと、周囲が焼け焦げる程の電撃を放った。
放電を浴びた地面や草木がぷすぷすとくすぶり、遅れて、焦げた香りが鼻を刺す。
この攻撃に、尾を掴んだ手を思わず放してしまうラズ。
制止を解かれたやつが再び跳躍の体勢を整え、焼け焦げた地面を蹴った。
「いくら動物さんでも、レイ様に危害を加えようというのなら容赦はしませんよっ」
ピノを中心に、俺達の周囲から植物の
何本もの
そして数秒もがいた後、やつはそのまま動かなくなってしまった。
ピノもさすがに死んでしまうとは思ってなかったようで、あわあわと狼を見上げては手をパタパタさせて動揺する。
よくみると、こいつ、所々にキズがある。
そこまで激しい戦闘はしていない事を考えると、俺達に会う前からすでにボロボロだったのか?
さてどうしたもんかと悩んでいると、いつの間にかカブト虫を木陰に隠してきていたN2が戻ってきた。
「ピノ……君がやったのか?」
「そうですけど、そうじゃありません! ピノは拘束しようとしただけなのですが、まさか死んでしまうなんて……」
「大丈夫。かなり弱ってるけど、まだ生きているよ」
ピノはそれを聞いて、とても安心したように胸をなでおろした。
締め上げていた蔓を緩め、そっと地面に下ろす。
そこへ、先程と変わって、落ち着きを取り戻したラズがゆっくりと近付いていった。
「こいつ、誰かを探してた。きっと、ひとりで、ボロボロになりながら。 ……このまま放っておくのは、ちょっと可哀想かな……なんてな、はは」
ラズがぽつりと呟く。
以前ラズは、弱肉強食も動物界の性だといって、襲われる方、襲う方、どちらか一方を助けるような干渉はこれまでしてこなかった。
故に、ラズがそういった感情を漏らすのは珍しい。
いや、むしろ初めてかもしれない。
「レイ、今日はこれ以上あまり進めそうにもないし、ここで夜を明かすのはどうだろうか。機械の体という事ならば、もしかしたら私に直せるかもしれないよ」
「なるほど……。ラズもそれでいいか?」
「お、おう……アタシは、別に……。N2、必要なもんがあれば言ってくれ、すぐに取ってくるからっ」
N2の粋な計らいもあって、俺達はここで野宿することにした。
まぁ、直った後の狼がまた襲ってくるんじゃないかという疑念は払拭できないが……。
とにかく、皆に怪我がなくてよかったという事にしておこう。
狼の治療をN2に任せ、各々が準備を進めていると、N2が驚いた様子で呼びかけてきた。
「レイ、これを見てくれ! なんとこの生命体、外殻は金属なのに、骨格そのものはセキツイ動物のそれ、つまり『骨』で出来ているんだ!」
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