109話 いい、アタシがやる

 ピノが昨晩作ってくれていたくらのおかげで、グレの乗り心地が格段に向上した。

 それだけでなく移動速度も速くなり、予定していた水源までの到着予想の5日より早く着くらしい。


 助かったよ、ありがとうとピノに感謝を述べるが、グレの頭上に搭乗しているN2とカブト虫が気になって、それどころではない様子だった。

 突然雑木林から連行され、普通なら逃げてもおかしくないと思うが、この星のカブト虫は俺が知っているそれとはまた違ったものだという認識でいた方がいいだろう。


 適度に休憩を挟みつつ進み、これといったハプニングもなく日が傾き始めたころ、何かの気配を察したのか、ラズがぴくぴくと反応し、立ち止まった。


「向こうの方から何かがこっちに真直ぐ向かって来てる……!」


 ラズが指をさしたのは、背の高い草が生えた草原の方角。

 遠くてはっきりとは分からないが、その方向から草をかき分けながら何かが俺達目掛けて突き進んできている。


 今まで遭遇しなかった好戦的な動物が遂に現れたのか。

 あるいは、ここ数日動きが無かった黒の機械達が遂に動き出したのだろうか。


「やつらか!?」


「いや……あそこまで嫌な感じはしねぇ……けど、まるっきり動物ってわけでもなさそうだっ」


 黒の機械でもなく、動物でもないもの……。

 何が目的かはわからんが、ラズが警戒するってことはこちらへの敵意があるって事だ。



「私が一発放って追い払おうか!?」


 珍しい物好きなN2が、珍しく牽制の色を見せる。

 いつものN2なら喜んで向かっていくところだが、カブト虫との出会いで心境の変化があったのかもしれない。



「いい、アタシがやる」


 ラズが体を向かってくる何かに向き直し、バチバチと体に電撃をまとわせ臨戦態勢に入る。



 数秒後、物凄い勢いで草陰から飛び出したのは、オオカミのシルエットをした何かだった。

 姿が見えても存在をイヌ科の動物だと断定できなかったのは、やつの体が銀色の金属で出来ていたからだ。

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