108話 ダメ?
「見よこの姿! 百虫の王とはよく言ったものだよ、まったく!」
木の裏でカブト虫を見付けたN2は、握った拳をぶんぶんと振り回しながら、興奮気味に言葉をまくしたてる。
「この暗闇でも輝く甲殻! 幹を掴んだら離さない6本の脚! 極めつけは何といってもこの立派な角! 見事なんてものじゃないな! 図鑑の百倍はカッコイイな! なぁそうだろうレイ!」
そんなに喜ばれたら、カブト虫もさぞ嬉しかろうよ。
というか、百が好きだなお前。
「堅殻な鎧は銃弾をも弾き飛ばし、屈強な角であらゆる敵をなぎ倒す! あまりのかっこよさに、バンド名や曲名にしてしまう人間がいる程だからな! あぁもう決めたぞレイ! 私は決めてしまったぞ!!」
「なんだ? やっぱりお前もマヨネーズいるか?」
「んやめろぉー! カブト虫は食べ物じゃない!! いいかレイ、そこで目ん玉かっぽじってよく見ておくがいい!」
N2はそう言うと、樹液をすするのに夢中のカブト虫にじりじりと歩み寄っていき、あの、わたくし、N2と申しますが、と自己紹介を始めた。
意気込んで近寄ってった割には小声、かつかなり
「あの、もしよかったら、お友達になりませんか」
果敢に攻めるN2に対し、カブト虫は相変わらずN2の事は眼中にない。
「N2、お前まさか、一緒に連れて行く気じゃないだろうな?」
「ダメ?」
「俺は別に構わんが……。多分無理だと思うぞ……」
「絶対イヤです!!」
ほらやっぱり。
「テントにいないと思ったら勝手に出歩いて、ましてやそんな生き物まで持って帰ってくるなんて!! レイ様もなんとか言ってください!!」
テントの中から顔だけ覗かせながらピノが言う。
夜中の内に黙って姿を消した俺達に対しての心配と相まって、ピノは案の定カブト虫の同行に大反対だった。
知ってたけど、ピノは虫が嫌いだからな~。
「こんなにカッコいいのに……。ピノも触ってごらんよっ」
「やめてください! それ以上近付いたら怒りますよ!?」
もう十分怒ってる気がするけど……。
N2も目で俺に助けを求めるなっ。
連れて行くのなら自分で説得するんだ、俺は助けないぞ。
俺からの助け舟がないと見るや否や、N2はピノに向き直し、ぽつりと語り始めた。
「ピノ……聞いておくれ。実はこのカブト虫……クヌギの母親は、美味しい樹液を求めて旅に出た切り、帰ってこなかったらしいんだ」
「えっ……」
もう名前決めちゃったんだ……。
てか母親て……。
まだ卵だったろそいつ。
ピノも、だまされるなよっ。
「それ以来、美味しい樹液を見付ければ母にまた会えると信じ、クヌギは一人で旅を続けてたんだよ……。だからピノ、クヌギが母に会う手伝いをしてはくれないだろうか……?」
「なんと健気な虫さんなんでしょう……ピノもレイ様に助けられた身。ここでほかの生き物を助けなかったら、罰が当たってしまいますねっ」
健気なのはお前だよ……ピノ。
「話は済んだかー? アタシはそいつを連れていこうと構わないが、旅に連れてくってのは、命を預かるのと同じだぞ。N2、お前にその責任が果たせるのか?」
出発の準備を終えたラズが、若干呆れながらもN2に問う。
動物に対しても特にそうだが、ラズは生命について重んじる性格のようだ。
「任せておけ!」
よかったなークヌギ! とN2。
この星のカブト虫の生態についてよくわかっていないところはあるものの、俺達は新たに仲間を加え、水源へ向けて出発するのだった。
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